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魔力酔いと鬼娘の現代ダンジョン攻略記  作者: 氷純
最終章 リーズリウム深緑ダンジョン

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第二十二話 手配

「これが名簿です」


 南藤が三十五人足す十五人分の名簿を渡すと、杷木(はき)()は記載された名前を見てぼそりと呟いた。


「どこと戦争するつもりですか?」

「たった五十人で攻め落とせる国なんてありませんよ」

「航空戦力の天狗に弾幕を張れる雪女に近接戦で名が売れている大塚さん達に参謀役の南藤さんがいるんですよ?」

「買い被りですよ」

「割と本格的に警戒しているんですけどね。まぁ、大戸峠ダンジョンの先は霊界でしょうから、南藤さんが乗り込むはずもありませんか」


 杷木儀は名簿を受け取ってパソコンに打ち込みながら、一緒に提出された予定表を確認する。


「この人数を集めた理由はやはり、殺害予告の件ですか?」

「そういう事です。可能なら現在の到達階層の第五層からさらに進もうと考えてます」

「大戸峠ダンジョンの最終階層はかつて第六階層でした」

「リーズリウム深緑ダンジョンと繋がる前ですよね?」

「えぇ、とあるサイトで最終階層の予測が立てられていますが、それも第六階層だとされてます」


 藻倉ダンジョンの最終階層を予想するのに橙香が利用していたサイトだろう。

 しばらく薄闇世界にいたためネット環境に接続できなかった南藤たちは知らない情報だ。


「なにか、ダンジョン周りで面白い情報って他にありますか?」

「第五層に生息する七歩蛇に既存の血清が効果を発揮する事が確認されました。魔力強化を行って即効性を高めた物を販売していますよ。ここの受付で手続きをすれば購入が可能です。他には冒険者が中に入る時間を分ける件ですが、薄闇世界側との交渉の結果、保留となりました」

「保留ですか」


 南藤と橙香は揃って苦い顔をする。

 今回、南藤たちは大規模連合パーティーでダンジョンに乗り込むため、かなり目立っている。

 急進派の刺客がやってくる可能性も高いため、同時期にダンジョンに潜る冒険者が巻き込まれてしまう恐れがあった。

 異世界貿易機構にオルの素性や帰還の扉については話していない。連合パーティーの面々は信用できる者で構成されているため情報の共有をしているが、異世界貿易機構のような国家組織に帰還の扉の情報が渡るのは、オルの身の安全を考えると好ましくない事態だ。

 南藤たちの表情を見た杷木儀は「へぇ」と何かに気付いたように小さく呟く。


「……南藤さん達が潜る日に冒険者たちが巻き添えを食わないように通告しておけばいいですか?」


 南藤たちの事情に深く踏み込まずに動いてくれるつもりらしい。


「よろしくお願いします。でも、良いんですか?」

「殺害予告についての話はすでに冒険者の間でもちきりです。藻倉ダンジョンで助けてもらった職員たちも心配していましてね。これぐらいはどうという事はありません」

「ご迷惑をおかけします」

「いえいえ」

「迷惑ついでにもう一つ、魔法使いの犯罪者を拘束する道具とかあれば貸してください」


 キーボードを打つ手を止めて、杷木儀は南藤を見る。


「魔法使いは二種類に分けられると言われています。体外魔力を使用するタイプと体内魔力を使用するタイプです。どちらですか?」

「わかりません」

「あまりおおっぴらに貸し出せる物でもないので、他言無用でお願いしますよ。基本的に特定の冒険者にしか貸し出さないものですから。それと、必ず返してください。破損した場合は破片の回収も忘れずに」


 いくつかの注意事項や使用方法が書かれた紙と貸出申請書を杷木儀からもらった南藤は名前などを記入する。

 こんな申請書が存在するのだから、冒険者が異世界の魔法使いを拘束しなければならない場面が今までにも存在していたのだろう。

 案外、異世界貿易機構は帰還の扉の存在を知っているのかもしれない。

 記入を済ませた申請書を提出した南藤と橙香は拘束具の準備ができるまで三時間ほどかかると言われ、支部の外に出た。


「予想より早く手に入りそうだな」

「そうだね。面倒がなくて助かるよ。あ、オルちゃん、お待たせ!」


 日本の冒険者ではないため外で暇を持て余していたオルは橙香の声に気付いて読んでいた革表紙の本から顔を挙げた。


「どうだったのかな?」

「首尾は上々ってところだ」

「それはよかった」


 拘束具の準備ができるまで周辺をぶらつきがてら、遠征中に使う食料品の類を買っておこうとスーパーへ足を向ける。

 薄闇世界は食料難であるため、可能な限り日本で食料品を買う事にしているのだ。

 大戸峠ダンジョンの近くにあるスーパーは冒険者向けに缶詰などの日持ちがする品のラインナップが充実していた。


「色々あるね」


 物珍しそうに缶詰のパッケージに描かれた食材や料理の写真を眺めているオルだが、その特異な服装もあって人目を引いている。


「ダンジョンで橙香ちゃんがつくる料理はおいしい物が多いけど、こんなものも使うのかい?」

「サバの味噌煮缶? あまり使わないかな。ツナ缶の方が汎用性高いんだよ」

「後は果物系の缶詰だな」


 籠の中に缶詰を入れていく橙香を見ながら、オルが南藤の服を引っ張る。


「あの籠、重そうだけど持ってあげなくていいのかい?」

「橙香の方が力持ちだからな。俺が持とうとすると嫌がるし」

「嫌がる?」

「頭の中に購入品のリストがあるから、手元に籠があった方が早いんだ。帰り道は俺が持つけど」

「南藤君が持つんじゃなく、機馬に積むんでしょう?」

「そうとも言う」


 オルに言葉を返して、レジへ向かう橙香の後を追う。

 サッカー台へ先回りした時、ポケットに入れていたスマホが振動して着信を伝えてきた。


「めーるって奴かな?」

「あぁ、今度の連合パーティーのメンバーだ」


 クラン『藻倉遠足隊』のリーダー古村とクラン『踏破たん』のリーダー荏田井が揃って写っている。

 撮影場所は近くの居酒屋らしい。かなり大きな座敷には見覚えがあった。


「もう始めているのか」

「顔合わせを兼ねた親睦会兼打ち合わせ、だったかしら?」


 南藤の呟きからメールの内容に想像がついたのだろう、オルが正解を口にする。


「参加メンバーが全員出席するなら、五十人も来るって事になるけれど」

「全員じゃないさ。階層スロープの警備をしてもらう傭兵冒険者たちは来ないんだ。誘ったんだけど、忙しいらしい」

「それでも三十五人?」

「この座敷なら入り切るさ」

「――何の話?」


 会計を済ませた橙香が籠を持ってやってくる。軽々と持っているが、缶詰だけで三十個を超えており、その重量は見た目からも明らかだ。

 周囲の買い物客は、女子中学生にしか見えない橙香の大荷物を見て驚き、何故荷物を持ってやらないのかと非難の目を南藤に向けている。

 普段から魔力酔いで橙香に介抱されるのを白い目で見られている南藤は気にも留めず、缶詰や野菜などを袋に詰めていった。

 そんな南藤の横でオルが橙香にメールの内容を説明する。


「みんなもう飲んでるんだ。まだ三時なのに」

「七時まで予約してあるから大丈夫だろう。酔いつぶれても他のメンバーが介抱するだろうし」

「三つ巴の厳しい戦いになる事が確定しているから、いまのうちに騒いでおきたいのかな」


 梅の花を見ながら同じように宴会をした藻倉ダンジョンの連合パーティーも三つ巴で壊滅しかかったんだよな、と南藤は思い出すが、言わないでおいた。



 顔合わせを目的として集まったはずだが、南藤たちが到着する前にすでに飲み会が始まっていた。


「お、ターゲットさんが来たぞー」

「室浦、ペースを落とせ」


 手を振って自分の居場所をアピールしている室浦はすでに酔いが回っているらしく、大塚が手を焼いていた。

 その横ではオリジナルキャラクターがプリントされたでお揃いのTシャツを着こんでいる四人組、クラン『踏破たん』の面々がいた。彼らの前には刺身の盛り合わせが置かれていた。


「先に始めさせてもらってます」


 リーダーの荏田井が軽く会釈をすると、その横にいた紫杉と『踏破たん』の紅一点保篠が日本酒が入っているらしい徳利を掲げた。


「右に同じ!」

「橙香ちゃん、お久だね。元気してた?」

「保篠さん、お久しぶりです。勝屋さん、その後、腕の調子はどうですか」


 橙香は保篠に挨拶しつつ、その隣でヒラメを味わっている勝屋に声を掛ける。乙山ダンジョンで爆弾綿毛の直撃を受け、得物のライオットシールドを破壊されて病院に運ばれた経験のある勝屋は服の袖をめくってすっかり治った腕を見せた。


「この通りだ。ライオットシールドの方も新調して現場復帰してるよ」


 その節は世話になった、と礼を言う勝屋に片手をあげて応じた南藤は、座れる場所を探して座敷を見回す。

 クラン『鞍馬』の天狗衆や『雪華』の雪女たちも到着しており、すでに酒盛りを始めている。

 南藤は『藻倉遠足隊』の近くに空きを見つけ、橙香とオルを連れて向かった。


「にぎやかだね」


 つば広帽子が邪魔になりそうだと、オルは意を決したように帽子を取った。店内照明が壁に作り出すオルの影から頭部が消えてなくなる。

 しかし、誰一人としてそれを気にする者はいなかった。すでにオルの素性については全員に共有されており、影があろうがなかろうが仲間である以上は気にしないのだ。

 肩透かしを食らったような顔をするオルに、橙香がくすくす笑う。


「日本人はあんまり異世界人を気にしないんだよ。霊界も似た感じだけどね」

「それにしたって一言も言及されないとは思わなかった」


 覚悟を決めたのは何だったのかと、オルは肩を落としながら席に座る。


「オルさんだっけ? 刺身をお食べ」


 そう声を掛けたのは『藻倉遠足隊』の米沖だ。この座敷に一番乗りしたらしく、彼女の前には回収されていない徳利が二つ並んでいる。まったく顔色が変わっていないのが怖かった。


「いや、生魚はちょっと」


 差し出されたコチの刺身をオルが押し返すと、米沖はじゃあこっち、と唐揚げを差し出してきた。


「紅ショウガを刻んで衣にまぶしてあるさっぱり風味の唐揚げだ。おいしいぞー」

「じゃあ、一つだけ」

「さぁ、食え。さぁ、食うのだ」


 笑顔で取り皿とフォークを渡す米沖にオルは苦笑する。


「あ、おいしい。ちょっとした酸っぱさがいい感じ」

「ボクも食べるー」

「橙香ちゃんは箸でいいな。さぁ、食え、さぁさぁ。塩モツ煮もあるぞー」


 橙香にも取り皿と箸を渡して、米沖は次々と料理を勧め始める。

 そんな女性三人組を眺めながら、南藤は『藻倉遠足隊』のリーダー古村に訊ねる。


「米沖さん、酔っぱらってません?」

「顔色に出ないから判断が難しいんですよ。潰れたら自分が引きずって帰るのでそこは安心してください」

「そういう古村さんはそれ何杯目?」

「えっと……細かい事は良いじゃないですか」


 こっちも駄目だな、と南藤は早々に見切りをつける。

 ラクロスのラケットを使う後衛二人組はウーロン茶を飲んでいた。古村と米沖を介抱する役目はあの二人に回るのだろう。



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