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魔力酔いと鬼娘の現代ダンジョン攻略記  作者: 氷純
最終章 リーズリウム深緑ダンジョン

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第十七話 死者多数

 階層階段からやってくる魔物の群れをやり過ごした橙香たちは言葉少なに第四階層を歩く。


『――血だまりを踏みしめた人殺しのその足で故郷の地を再び踏むのか?』


 オルの心を読んだだろうサトリの言葉だ。

 この言葉が橙香たちの間に気まずい空気を生んでいるのは間違いなかった。

 そもそも、と橙香は機馬の上で四肢を投げ出している南藤を横目に見る。

 本当に、南藤はサトリの接近を察知していなかったのだろうか。

 階層階段前の戦闘を観察するために毬蜂を利用していたのは確かだが、南藤が自分たちの周囲の安全確保をおろそかにしていたとは思えない。

 付き合いが長く南藤の優先順位や能力を細かく知っている橙香から見ると、サトリが南藤の警戒をくぐってきたのは不自然だった。むしろ、南藤はわざとサトリの接近を許したのではないかと思う。

 だとすれば、その目的は何か。

 南藤が橙香たちに危害を加えるようなことはしない。それだけは断言できる。

 ならば、サトリの接近を許したのはオルの内心を探るためだったのではないか。

 敵対的な行動を一切取っていないとはいえ、殺害予告までされている身では本当に仲間なのかを調査する必要性を感じていたとしてもおかしくはない。

 オルは身の上話をあまりしたがらないため、情報も不足している。サトリを利用して強引にオルの素性を調べようとしたのなら、つじつまは合う。

 そこまで考えて、橙香は内心でため息を吐いた。そうじゃない、と。

 今考えるべきはサトリが暴露したオルの内心についてだ。

 ただし、サトリは本音を暴露するだけでなく嘘もつくという。

 血だまり云々の中に何らかの嘘が含まれている可能性も考えると、やはり情報が少ないような気がしてならなかった。

 しかし、サトリの声を聞いた直後のオルの顔色はあの言葉に真実が含まれていると言っているようなもの。

 どこまでが真実なのか。すべてが真実であるのなら、血だまり、人殺し、といった単語は文字通りの意味なのか。

 そもそも、故郷とは?

 橙香が考え込んでいると、南藤がうめき声をあげた。


「芳紀?」


 橙香とオルに視線を向けられた南藤は道の先に見えてきた階層階段を指差してから、スマホを掲げる。

 先ほどの冒険者たちが戻って来たのかと警戒しつつスマホを見てみれば、その画面には予想外の光景が映し出されていた。

 階層階段に冒険者たちが倒れ伏している。流れ出る夥しい血の量は冒険者たちの遺体を悪趣味に飾り立てるようだった。

 オルが眉を顰めて画面を見つめる。


「さっき階段前を占拠していた冒険者だね。これは一体」

「階層階段で死んでいるって事は、魔物にやられたわけじゃないはずだよね」


 仲間割れか、他の冒険者による犯行だと思われる。


「芳紀、周辺に他の冒険者は?」


 無言で首を横に振る南藤を見て、橙香は階層階段を見る。

 すでに現場から逃亡しているのか、もしくは階段の先にいるのか。

 画面を覗き込んで冒険者たちの死体を観察していたオルが口を開く。


「この殺し方は魔法に見える」

「分かるの?」

「未知の武器を使われたのでなければね。特に、傷口の周辺が炭化していたり、霜が降りていたりと一貫性がないのは少し気になるかな」

「いろんな魔法を使えるって事だよね。確かに、日本側でも傷口に霜が降りるような武器って聞かないかな」


 魔力強化品であれば話は別で、雪女のような生来の能力でこういった傷口を作り出せる者もいるのが気になる所ではある。

 いずれにせよ、このまま階段を上るのは躊躇われる状況だった。

 橙香は階層階段の上を指差す。


「毬蜂で階段の上を先行偵察させてみる? 犯人の顔が分かったらすぐに逃げるとか」

「追いかけてきそうだけど、危険を把握しておく必要はありそうだ」


 オルが同意し、南藤も賛成する代わりに毬蜂をさらに奥へと進ませる。

 犯人に気付かれないよう、照明を使わずに暗視カメラで撮られた映像で階段の先が徐々に露わになっていった。


「……誰もいないね」


 橙香が階段の上の景色を見て呟く。

 周囲に明かりもなく、人の気配はない。


「行くかい?」


 オルに訊ねられて、橙香は少し悩んだ後で頷いた。

 階段に足を踏み入れる。

 半ばまで上ると、靴底が流れ出た血液を踏んで不快な水音を立てた。

 橙香は懐中電灯で階段を照らしてみるが、死体はない。現場はもっと上なのだろう。

 死体の検分もした方がいいだろうと足を早めようとした時、オルの小さな悲鳴が聞こえてきて横を見る。


「南藤さん、しっかり!」

「え? 芳紀、どうしたの!?」


 先ほどまで魔力酔いを起こしていたとはいえドローンの操作も確かにできていたはずの南藤が目を回していた。

 当人にとっても予想外だったらしく、機馬に掴まるのも間に合わずに落ちそうになった所をオルが支えたらしい。


「戻ろう。芳紀はボクが担ぐから」


 橙香は手早く南藤を背負い、機馬のコントローラーを取って階段を駆け下りる。

 オルは階段の上を警戒しながら橙香の後を着いてきた。

 何事もなく第四階層に戻った三人は手近な民家に入る。


「ぬぇぁ……」


 ぴくぴくと痙攣したように指先を動かして、南藤が意識を取り戻したことをアピールする。

 しかし、橙香は構わずに民家の客間に南藤を横たえて濡れタオルなどを準備し始めた。

 民家の中を注意深く調べて回ったオルが客間に戻ってくる。


「中に魔物はいないようだ。戸締りもされている」


 報告をして畳の上に座ったオルは、橙香に介抱されている南藤をみる。


「階層階段を上ってるのに魔力酔いが悪化するなんて……」

「魔法が使われたなら魔力濃度は下がるか、変わらないはずだよね?」

「冒険者たちの遺体が魔力に変換された可能性はあるけれどね」


 階層階段は閉鎖空間であるため、遺体が魔力に変換された場合はその場に溜まってしまう。

 しかし、階段を上っている最中に橙香は血だまりを踏んでいるため、遺体が魔力に変換されきっているとは思えなかった。

 別の原因があるはずだと、毬蜂で撮影した映像をスマホで確認してみても答えは出なかった。


「別の場所で、魔力で作りだした土くれなんかを階段の上で解けば魔力濃度は上がるけれど、冒険者たちの死因を見る限り考えにくいかな」


 そもそも意味がないし、とオルも腕を組んで考え込む。

 考えても埒が明かないと判ってはいても、橙香たちは次々に思いつきを口にしていく。

 階層階段の魔力が吹き散らされるまでの間、気まずい空気を味わうよりは勝手な推論でも並べていた方がましだという判断だった。

 一時間ほど経つと、南藤の操るドローン毬蜂が階層階段を下りてくる冒険者の一団を捉えた。

 毬蜂は南藤が目を回したことで階段の上に落ちていたはずなのだが、冒険者の一団はわざわざ持ってきてくれたらしい。


「あ、藻倉遠足隊だ」

「知り合いかい?」

「前に潜っていたダンジョンで一緒にいた人たちだよ。氾濫の時に武装を壊されて強化をし直していたはずなんだけど」


 魔力強化を終えて活動を再開したのかな、と橙香は首を傾げる。

 階層階段を下りた藻倉遠足隊の面々はきょろきょろと周りを見回している。

 リーダーである古村が毬蜂を持っているのを確認して、橙香たちは民家の外に出る。


「古村さん!」

「お、やっぱりいたね」


 古村より早く、その隣にいた米沖が手を振ってきた。


「見覚えのあるドローンが落ちてたから拾ってきたんだ。でも、なんだってあんな場所に落としたの?」


 米沖が不思議そうな顔で機馬の上の南藤を見る。

 事情を説明すると、途端に難しい顔になった。

 殺人現場の映像をスマホの画面で見た古村が「なるほど」と頷く。


「自分らが通った時にはもう遺体が消えていましたよ。それにしても、自分らはもしかして殺人鬼とすれ違ってたりするんですかね」


 ぞっとするなぁ、と身震いした古村は仲間を振り返る。


「一度戻ろう。南藤さんのドローンに犯人が気付いていたら口封じに来る可能性もある。氾濫の時に助けてもらった借りを返すにはいい機会だ」

「いいんですか?」

「元々、南藤さん達と合流しようと思ってこっちに来たんですよ。それから、クラン『踏破たん』もこっちに来てます」


 乙山ダンジョンで一時期一緒に行動していた踏破たんのメンバーを思いだし、橙香は表情を明るくする。

 何はともあれ、一度外に出ようという事で話はまとまり、全員で外を目指して歩き始めた。



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