第十話 同士討ち
大戸峠ダンジョンについて語るスレ2
15:名無し、帰還したってよ
まだ封鎖解かれないんですけど
経立ちゃんに会いたいお
21:名無し、帰還したってよ
ほしゅ
26:名無し、帰還したってよ
ほす
28:名無し、帰還したってよ
大戸峠ダンジョン氾濫開始!
近くの冒険者は協力して
29:名無し、帰還したってよ
攻略済みのダンジョンが氾濫するわけねぇだろ
36:名無し、帰還したってよ
十分前のオレ「大戸峠ダンジョン氾濫とか嘘乙」
今のオレ「マジで氾濫しとる」
未来のオレ「オワタ」
38:名無し、帰還したってよ
オワタとか久しぶりに見た
41:名無し、帰還したってよ
和やかですなぁ
46:名無し、帰還したってよ
ニュース見ろ
本当に氾濫してる
55:名無し、帰還したってよ
政府発表で大戸峠のマスター権限が消失したとさ
霊界側出口が封鎖されていた事といい、何かあったのかね
68:名無し、帰還したってよ
祭りときいて
96:名無し、帰還したってよ
氾濫が起きる直前に地震があったってツイで流れてる
マスター権限消失となんか関係あるのかね
112:名無し、帰還したってよ
現場の冒険者ガンバ
126:名無し、帰還したってよ
数は少ないけど魔法使う魔物大杉
婆になる魔物とかいるしもう何が何やら
同士討ちわろえーぬ
136:名無し、帰還したってよ
>>126
書き込んでないで戦えよ臆病者
159:名無し、帰還したってよ
>>136手の平くらいあるデカい蜂の魔物に襲われて後方に戻った所
医者からもらった虫刺され用塗ポで治った
もう少し安静にしてろって言われたけど、友達が自宅に立てこもってるらしくてお別れメールが来たんで、今から逝ってくる
191:名無し、帰還したってよ
>>159
臆病になれよ
ちゃんと帰ってこい
205:名無し、帰還したってよ
自衛隊は未だ到着せず
町内放送で建物の中で隠れているように流れ始めた
俺はコンビニにいるんだけどどうしたらいいと思う?
215:名無し、帰還したってよ
>>205
コンビニならトイレに引き籠っておけ
鍵もかけろ
226:名無し、帰還したってよ
こわい・゜・(ノД`;)・゜・
258:名無し、帰還したってよ
氾濫が終結
数が少なかったから助かったけど、ダンジョン内には魔物がいる模様
三人で入ったけど、内部は魔物多過ぎで水路みたいな迷路構造
あんまり深く入ると遭難しそうだったから戻ってきた
マッパーが欲しい
268:名無し、帰還したってよ
自衛隊が来てからはすぐだったな
なんで大戸峠ダンジョンが機能復活してんだろ
289:名無し、帰還したってよ
>>159
>>226
……生きてるか?
315:名無し、帰還したってよ
大戸峠ダンジョンが攻略指定された模様
冒険者共、さっさと突っ込んで来い
325:名無し、帰還したってよ
>>315おまえが逝っとけ
336:名無し、帰還したってよ
たった一日で攻略対象に入るとか
霊界との関係もあるから認定を急いだんだろうなぁ
345:名無し、帰還したってよ
霊界出身者はどこに消えたんだ?
キノコ狩りのショタとか鞍馬天狗とか
348:名無し、帰還したってよ
薄闇世界のダンジョン攻略に出張ってるらしい
まだ向こうに情報が届いてないんだろうな
唯川上流ダンジョンを通るだけでも時間かかるはず
364:名無し、帰還したってよ
異世界貿易機構が大戸峠の公園に支部を作ったらしい。
まだ三角テントだけど
378:名無し、帰還したってよ
大戸峠周辺のビジネスホテルとかが冒険者向けに価格下げ始めた
本格的に攻略が始まるのは明日からだな
381:名無し、帰還したってよ
公式に新情報
大戸峠ダンジョンの第一階層の構造と魔物が薄闇世界のリーズリウム深緑ダンジョンと一部被ってるらしい
今薄闇世界に問い合わせしてるみたい
386:名無し、帰還したってよ
薄闇世界から魔物に関する情報を貰えるのか
攻略がはかどるな
392:名無し、帰還したってよ
氾濫から二日経つわけだが
いまだに>>159>>226からの返事がないな
410:名無し、帰還したってよ
>>392
心配してくれてありがとう159だ
あのあと友達と合流して撤退するときにコンビニから悲鳴が聞こえて226を救出した
226はハリネズミみたいな魔物に刺されて入院してるけど、命に別状はないらしい
421:名無し、帰還したってよ
>>410
生きとったんかワレ!
423:名無し、帰還したってよ
>>410勇者現る
426:名無し、帰還したってよ
>>410ラノベ主人公みたいで草
435:名無し、帰還したってよ
>>410
本物?
もし本物なら無事でよかった
臆病者とか言ってごめんな
尊敬する
512:名無し、帰還したってよ
ふざけんな
ダンジョンで俺たちを攻撃してきた連中顔覚えたかんな
被害届も提出済みだ
絶対逃がさねえ
516:名無し、帰還したってよ
>>なんで荒れてんの?
526:名無し、帰還したってよ
>>516
512でいいんだよな?
大戸峠ダンジョンで六人組の冒険者に襲われた
弓とか西洋剣とかの完全な武器を持ってたから、すぐに特定できるはず
こっちに死者は出なかったけど武装は壊された
服も強化し直し
532:名無し、帰還したってよ
>>526
災難だったな
ダンジョン内で人殺しって裏ギルドか?
本当にいたんだな
542:名無し、帰還したってよ
>>526
魔物じゃない?
ダンジョン内で人殺しとかリスクでかすぎるし
西洋剣自体が銃刀法違反でお縄だから持って入れない
548:名無し、帰還したってよ
大きさ調整の魔力強化を重ね掛けしてるんだろ
539:名無し、帰還したってよ
>>526
ダンジョンでおまえらを襲ったのって薄闇世界の冒険者かもよ
>>381でも書かれてるけど薄闇世界のダンジョンと符合してるらしいし、内部で繋がってるかも
548:名無し、帰還したってよ
>>512>>526
これデマ
公式に問い合わせたら被害届は出てないって言ってた
アンデッド騒動と一緒で人型魔物に関する都市伝説を作ろうとする愉快犯だろ
じきに公式でもアナウンスするらしい
553:名無し、帰還したってよ
デマかどうか知らんが西洋剣を振り回している冒険者の集団は見た
銃刀法違反なのになんで西洋剣? ってことで魔物と判断して近付かないようにしたけど
なんかサハギンナイトパーティーみたいになりそうでやな感じだ
572:名無し、帰還したってよ
魔物かどうかの判別がつかない人型UMAが出たってここ?
577:名無し、帰還したってよ
人型でうまとはこれいかに
※
酷い喧騒だった。構成している声のほとんどが怒声だ。
日本からやってきた異世界貿易機構の職員からもたらされた情報に頭痛を堪えながら、街から機馬で駆けつけた南藤と橙香、オル、深映はダンジョン前の有様に眉を顰めた。
足を踏み入れるのも戸惑われるほどに、ダンジョンの前にいる冒険者たちは険悪な空気を醸し出している。
よくよく観察してみるとダンジョン前の集団の冒険者たちは二つに分かれている。その片方に法徳の姿を見つけると同時に、集団も南藤たちに気付いて怯んだような顔をした。
「何の騒ぎかしら?」
ひらりと雪が舞うような軽やかさで深映が機馬から地面に降り立つ。凛と響く声で問いかけられて鼻白む集団の片割れに対し、もう片方から法徳が一歩前に出た。
「罵られるばかりで我らもいまいち状況がつかめぬが、どうやらダンジョン内で同士討ちがあったようだ」
「同士討ち?」
聞き返しながら、深映が集団を見比べる。
法徳たちの側は日本から来た冒険者、クラン『鞍馬』やクラン『魔法探究班』のメンバーだ。もう片方は薄闇世界の住人達である。
「……ダンジョン内の人型、かしら?」
「おそらくは」
深映が額を押さえる。
法徳は南藤や橙香を見て、口を開いた。
「貴殿たちこそどうしたのだ。ここの騒ぎを聞きつけたにしては早すぎるが」
「異世界貿易機構からの連絡があったんだよ」
法徳の質問に答えて、橙香はため息を吐いた。
「日本の大戸峠ダンジョンが氾濫を起こし、第一階層の構造、魔物の種類に至るまで一致しているって。つまり、リーズリウム深緑ダンジョンが大戸峠ダンジョンに繋がったみたい。それで、中にいる人型魔物は――」
「日本の冒険者、なのか?」
「その可能性が高いね」
最悪だ、と法徳が呟き、薄闇世界の冒険者たちからの視線の険悪さが増した。
薄闇世界の冒険者の一人が前に出てくる。
「さっきから話を聞いていると、ダンジョンの中で俺の仲間を殺したのは日本の冒険者って事か。どうなってんだ?」
答え次第ではタダではおかない、と橙香を睨みつけるその冒険者は橙香の横で具合悪そうにしている南藤を見て目を細める。
「そういえば、ダンジョンの中で俺たちを襲ってきたのは黒髪の冒険者三人組だった。珍しい髪色だ。すぐに犯人を特定できるだろ」
「日本人はほとんどが黒髪なんですよ。髪を染めている人もいますけど、髪の色から個人を特定するのは無理です。それに、リーズリウム深緑ダンジョンが日本と繋がっている確たる証拠がありません。まずは事実関係の調査が先です」
「ふざけるな! こっちは氾濫が起きる前にこのダンジョンを攻略しないといけないんだ。そんな悠長なことをしてられるか!」
詰め寄ろうとした冒険者の前にドローン毬蜂がふわりと割り込む。
驚いて半歩後ずさった冒険者に法徳が声を掛ける。
「我らとて、早くこのダンジョンを攻略したいのだ。思いは変わらぬ。貴殿の仲間を殺害した卑劣漢どもを見つける手助けもしよう。しかし今は、引いてもらいたい」
「納得できるか!」
「――おい、待てって」
頭に血を登らせて武器に手を掛けた冒険者に、別の冒険者が声を掛けて押しとどめる。
「ここまで盛り返せたのもあの人たちのおかげだ。お前の怒りも分かるが、仲間を殺したのはあの人たちじゃないし、むしろ森での掃討や地図配布で俺たちを助けてくれた。今回の件と無関係なのは明白だろ。一度頭を冷やせ」
「……くっそ!」
地面の石ころをけ飛ばした冒険者はその場を離れ、木の根元にドカリと座り込んだ。
「事実関係の調査とやらにどれくらいかかるんだよ?」
冒険者の質問に橙香は答える。
「これからダンジョンの中に入って、日本側の出入り口となる場所を探します。向こう側で作成された地図とこちらの地図を照らし合わせて大体の場所が分かっているので、今日の内に発見できるはずです」
「発見して、その後どうなるんだ?」
「殺人が起きたことを説明して、出入りの記録から容疑者を絞り込みます。その後は分からないですけど、薄闇世界側との協定次第だと思います。皆さんはボク達が戻るまでダンジョンに入らないでください。同士討ちの危険があるので」
「あんたらが戻ってくる保証がどこにある。それこそ、同士討ちで殺されるかもしれないだろうが。何人で潜るつもりだ?」
「ボクと芳紀、それからオルさん。法徳さんも来て。天狗なら見た目もあって日本人は攻撃に躊躇するはずだから」
「よかろう」
面子を見回した冒険者が南藤を見て困ったような顔をする。
「その男も連れていくのか?」
「芳紀が一番頼りになるからね。日本で表彰された事もあるんだよ」
「そ、そうなのか……」
魔力酔い状態の南藤の有様と表彰という言葉が繋がるはずもなく困惑している冒険者を無視して、橙香たちはダンジョン封鎖を深映に任せ、リーズリウム深緑ダンジョンへと入った。