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魔力酔いと鬼娘の現代ダンジョン攻略記  作者: 氷純
最終章 リーズリウム深緑ダンジョン
61/92

前日譚3

「橙香、友達が出来たんだね」


 南藤と出会ってから度々原っぱでドローンの操作を教わるなどしていたのが護衛の警官から伝わったのか、紅香は嬉しそうに言って橙香を後ろから抱きしめた。

 橙香は数学の勉強をしていたノートから顔を上げた。


「友達、なのかな?」

「えっ違うの?」


 きょとんとした顔の紅香に問い返されて、橙香は南藤の顔を思い浮かべる。

 ドローンの操縦方法を教わる以外にも、図書館で落ち合って勉強を見てもらったりもしている。言ってしまえばそれだけで、一緒に遊んでいるわけでもない。


「どちらかというと、生徒と先生みたいな気もする」

「ふむふむ。つまり、遊べばいいんじゃないかとお姉ちゃんは思うよ? あ、もしかして私は今お姉ちゃんらしく人生相談を受けてる? しょうがないなぁ、橙香ちゃん」


 楽しそうな紅香だったが、部屋の外から聞こえてきた電話の着信音を聞いて「あぁ……」と声にならない声を上げる。


「またパーティーのお誘いかな。今度は観光かもしれないけど」


 ちょっとはゆっくりしたい、とぼやいて紅香は橙香に体重を預けた。

 着信音から少し間を開けて、母が歩いてくる音が近付いてくる。


「紅香、橙香、明後日の予定が入ったわ」

「どこに行くの?」

「近くに大きな神社があるでしょう? あそこでやる夏祭りの準備に太鼓の練習をするんですって。見学もそうだけど、霊界の神楽にも興味があるそうだから披露してほしいそうよ。紅香、お母さんと神楽舞のおさらいをするから、すぐに来なさい」

「すぐにって、この家でお神楽を舞えるような場所ないでしょ。どこ行くの?」

「それもそうね。えっと、人目に付かないところとなると……」


 悩み始めた母を見て、橙香は窓の外を見る。

 橙香はふと思い出して、二人に声を掛けた。


「一つ、心当たりがあるけど」



 橙香が最初に思い浮かべた心当たりは南藤とドローンを飛ばしている原っぱだったが、母と紅香に紹介した場所は異なる。

 原っぱを避けたのは少し遠いというのも理由の一つだったが、南藤と紅香を合わせたくないという理由の方が大きかった。

 したがって、橙香は別の心当たり、町の道場を紹介したのだ。

 自宅から原っぱに行く途中にあるその道場は剣道場だが、門下生の減少により看板はすでに下ろしている。道場の建物はそのまま残して室内競技の練習場所として貸し出しているのだと南藤に聞いた事があった。

 電話で連絡を取れば、今日も明日も利用者はいないから好きに使ってよいと快諾してもらえたため、母と紅香は最近免許を取った父の運転する車で家を出て行った。

 ひとり家に残った橙香は郵便受けに入っていたというチラシを警備の警官から受け取った。針などを仕掛けられていないか確認しているとの事だが、郵便受けを覗かれるのはあまり気分のいいものではない。


「夏祭りのチラシですね」


 女性警官がチラシの内容をちらりと見て声を掛けて来る。

 二カ月近く先に行われるようだ。


「こんな田舎のお祭りにしては屋台もたくさん出て、花火も上がるんですよ。この町の外からも人が来るので、行くのでしたら事前に声をかけてくださいね」


 警備の問題もあるからだろう、女性警官がそう釘を刺してくる。

 母や紅香が太鼓の練習風景だけで満足するとも思えないため、お祭りには間違いなく足を運ぶことになるだろう。


「霊界にもこういったお祭りはあるんですか?」

「ありますよ。神様はいないですけど」


 神隠しに遭って現世に来てしまった霊界の住人が後に神様として扱われたケースがある事や、その逆のケースがある事も今は研究が進んで判明しているが、海を作ったりするようなスケールの大きい創造神などは霊界であってもおとぎ話の世界だ。

 そんな神々をまつる神社もあれば、豊穣祭を始めとする様々なお祭り、神楽なども霊界には存在している。

 ただ、橙香はあまりお祭りに良い思い出がなかった。

 四年ほど前、橙香は紅香の友達や近所の同い年の子供達と共にお祭りに出かけ、迷子になった事がある。

 紅香は途中で神楽舞に参加するため別行動をとっていた事や、その神楽舞を見るためにいい場所を確保していた他の子供達もすっかり橙香の事が頭から抜け落ちてしまったらしく、迷子になってから二刻もの間、橙香は林の中で膝を抱えることになった。

 最終的には気付いた紅香が林の中まで必死に走り回って見つけ出してくれた。

 思えば、あの一件が紅香の添え物としての自分を自覚する契機だったと橙香は思う。


「橙香さんは神楽舞の練習に行かなくていいんですか?」


 紅香たちを乗せた車が去っていった方角を見ていた女性警官が思い出したように訊ねてくる。


「舞えないので」


 嘘だった。

 実際のところ、橙香も神楽舞は習っており、舞う事は出来る。

 だが、人前では舞いたくない。添え物として認識されている自分がわざわざ紅香と同じ舞台に立とうとは思えない。注目が集まるのはいつだって紅香の方であり、橙香自身も紅香の神楽舞を見る側に回りたいと思っているのだから、舞う行為そのものに価値を見いだせなかったのだ。

 また、神楽舞を披露する祭りの当日に、紅香は準備のために必ず別行動する事になる。紅香が別行動している間だけは、橙香にも注意がいくらか払われるという打算もあった。

 とはいえ、そんな自身の鬱屈した劣等感を女性警官に話したところで同意が得られるはずもない。被害妄想と一蹴されるか、もっと積極的に行動しなさいと説教されるか、どちらにせよ聞き飽きた言葉が返ってくるだけだとわかっている。

 橙香は夏祭りのチラシをリビングのテーブルに置いて、自室へ戻る。

 祭りの当日は護衛の警官が目を光らせているのだから、はぐれる事はないだろう。



 橙香の記憶にある霊界の祭りとは異なり、祭囃子は雑音が混ざっていた。スピーカーから発せられる音は大きく、あちこちから聞こえてきて賑やかではあるのだが、どうにも神経を乱されるようで橙香はあまり好きになれない。

 何故だか太鼓だけは本物を用意して叩いているのも首を傾げてしまう。

 とはいえ、せっかくのお祭りである。楽しまなくては損だろう。

 橙香の隣を歩いていた紅香が祭りの行列を眺めながら圧倒されたようにため息を吐く。


「霊界と違って人間しかいないけど、凄い数だね」


 どこを見ても人の頭が見える、と父と母も苦笑していた。

 屋台や神楽、花火もあるため見所が多いこの祭りは毎年賑うという話だったが、今年も例に漏れず人が多い。

 十歳の橙香の身長では人の頭よりも背中が見えるばかりだったが、人口密度の高さから人と人の隙間に目を凝らしても先がほとんど見通せない。


「護衛の人まで連れてきているのが申し訳なくなってくるわね」

「だが、これも文化交流だからな。後程、神主さんと引き合わせてもらえるそうだ。神楽を舞台裏から見せてもらえるぞ」


 舞台裏なら人の頭で神楽が見えないという哀しい事態にもならないだろうと父が笑う。

 神社の境内に入るための階段は二十段ほど。傾斜もきつくはない。

 階段を上り切った場所には立ち止まらないように促す警備員がいた。階段で渋滞が起きないようにする配慮なのだろう。


「屋台がたくさん出てるね」


 紅香が境内に並ぶ屋台を見回して呟く。橙香の低い視点では先が見通せず、すぐ近くにかき氷の屋台がある事しかわからなかった。

 橙香に気付いた紅香がほほ笑んで補足する。


「四列になってるよ。奥の方まで十店ずつはあるんじゃないかな」


 真ん中の二列は背中合わせになっているため、通行できるのは屋台に左右を挟まれた道二本らしい。人の流れができており、右側から奥に進んで神社に参拝し、左側を進んで階段へ戻ってくるようだ。神楽は参拝所の横にある舞台で行われるという。

 人の流れに逆らう意味もないのだからと、橙香達は右側の道をゆっくり歩きだす。

 人が多い事もあり、護衛の警官たちは忙しそうに視線を配っている。しかし、彼らの視線による警戒網は紅香を中心に張られているのが橙香には見て取れた。

 鬼の膂力は人間の比ではない。そのため、誘拐などは難しいが、銃などを用いれば殺害する事は容易い。現世に友好事業の一環でやってきている鬼を殺すのであれば、すでに顔が広く知られていて影響力の大きい紅香を狙うのが筋だろう。


「――あれ、橙香?」


 不意に横合いから聞きなれた声を掛けられて、橙香は足を止める。

 左を見れば、タコ焼きを売る屋台に鉢巻をした南藤が立っていた。


「え、なんでここに?」

「やっぱり橙香だ。タコ焼き食うか? 安くしとくよ」

「橙香の友達?」


 てんでバラバラに口を開いて会話が成立しないまま、橙香、南藤、紅香は顔を見合わせる。


「えっと、この人は南藤芳紀さん。友達、でいいのかな?」

「どうも、南藤です。叔父の手伝いに駆り出されてタコ焼き売ってます」

「こんばんは。橙香の姉の紅香です」


 橙香が紹介する流れを作ると、南藤も紅香もあっさりと話に乗る。

 橙香の父と母が興味深そうにタコ焼きを見つめ、価格を確認すると財布を出した。


「二パック貰えるかな」

「はい、毎度。普通の奴と、和風だし、ゆず胡椒の三種類ありますけど、どれにします?」

「普通のとゆず胡椒でいいかな?」


 父が家族三人に訊ね、異論がないのを確かめると財布から千円札を出す。


「合わせて七百円ですけど、友達のよしみで百円おまけしておきますね。熱いので、隣の屋台で冷たい飲み物を買っとくといいですよ。飲み物は百円です」


 南藤が橙香を見ながら言う。友達といっていいらしい、と橙香は密かにほっとした。

 しかし、おつりを受けとる父の横で紅香がタコ焼きのパックを南藤から手渡しされるのを見て、橙香はすぐに落ち着かなくなる。


「ここにいると他の人の迷惑になるから、早く進もう」


 護衛の警官を連れている事で、橙香たちは大所帯になってしまっている。一つ所に留まってしまうと、人の流れを容易にせき止めてしまうという橙香の主張は正しかった。

 周囲を見回した橙香の両親は納得したように頷いた。


「では、我々はこれで。南藤君、橙香とこれからも仲良くしてくれると嬉しい」


 父は南藤に声をかけてから人の流れに沿って歩き出す。

 橙香は南藤に小さく手を振ってからすぐに家族を追いかけた。

 南藤のいたタコ焼き屋が後方の人だかりの向こうへ消えると、橙香は安心した自分自身に眉を顰める。

 気付いたのだ。南藤を紅香に取られるのではないかと考えた自分に。

 紅香は橙香の友人を取ろうなどと考えてはいない。逆に、橙香が友達を作れるようにと機会を作ろうとしているほどだ。にもかかわらず、橙香はいま、紅香と南藤が友達にならないようにと引き離した。

 そんな姑息さを橙香自身が許せなかった。

 かといって、人の流れに逆らって引き返すことはできない。それこそ自分勝手だ。

 祭り会場を一周した時にもう一度声をかけてみるべきか、と橙香が考えたその時、背後から駆けてくる足音が聞こえてきた。

 橙香たちの後ろにいた警官が足音の主を制止するのと、橙香が振り返るのは同時だった。


「止まりなさい」

「――南藤さん?」


 橙香に声を掛けられた南藤が片手をあげる。


「よう。遊びたいからって叔父さんに言って屋台を抜けてきた」


 人混みから外れて屋台の隙間でボディチェックを受けた南藤が橙香に説明する。


「そ、そうなんだ」


 境内の屋台を一周回る内に紅香と南藤がきちんと会話できる場を設ける作戦を決めようと思っていた橙香は、出鼻を挫かれてしまった事もあり、曖昧な言葉を返す。


「なぁ、橙香」


 橙香の顔を覗きこんだ南藤は小首を傾げる。


「さっき、屋台の前で……やっぱり、いいや」


 何かを言いかけた南藤はあっさり言葉を引っ込めた。

 南藤の言いかけた事に察しが付いた橙香は曖昧に笑う。南藤は橙香のそんな笑顔に僅かに眉を寄せた。


「……そんな風に笑うから聞けないんだけどな」


 小声で呟いた南藤の言葉に橙香はぎくりとして、話を逸らすべく紅香に声を掛けた。


「お姉ちゃん、南藤さんも一緒にお祭りを見て回ってもいいかな」

「私は歓迎だよ。お父さんたちもいいよね?」

「もちろんだ、と言いたいが護衛の皆さんは何というか」

「我々は構いませんよ」


 紅香、父と母、護衛と順に了解を取り付けて、南藤が正式に一行に加わった。

 警官たちは護衛対象が増えた事で少し配置を変えたようだが、混乱は起きていない。

 屋台に挟まれた道を歩きながら、霊界にはなかった屋台について南藤が解説してくれる。


「あれは射的。コルク銃で撃った商品がもらえます」

「あれが銃なの? 聞いていたモノよりずいぶん静かなのね」

「実銃だともっと派手な音が出ますよ。あれは本物を模した玩具です」

「モデルガンとか、エアガンとかいうのとも別なのかね?」

「エアガンはガスや圧縮空気でプラスチック製のBB弾を飛ばすモノです。海外だと実弾を飛ばす空気銃を指すらしいですけどね。モデルガンは外観だけを本物に見せかけた玩具です」


 橙香の母や父の疑問にも的確に答えを返す南藤はすぐに質問攻めに合う。警官は職務上の問題で質問には答えられず護衛に集中しているため、南藤は重宝されていた。

 南藤の注意を逸らせたことでほっとする橙香だったが、南藤が紅香と話し始める度に胸の内にもやもやしたものが渦巻く。

 やがて参拝所が見えてくる。お祭りの客が足を止めて賽銭箱に五円玉を投げ込んでいた。

 橙香たちも立ち止り、賽銭箱へ投げ入れるお金を財布から取り出す。

 その時だった。


「――あ」


 財布からお金を出そうと橙香が俯いた瞬間、参拝所を素通りする客の流れに誤って足を踏み入れていた。

 すぐに流れから出ようとするが、けた外れに強い鬼の膂力で下手に力を込めてしまうと流れを作る客たちが将棋倒しになる事故が起きかねない。実際、霊界では似たような事件も起きている事を知っているだけに、人生経験の少ない橙香は力の加減も分からず後手に回ってしまう。

 護衛の警官はどこにいるのかと探すが、視界は客の背中や腹が見えるばかり。橙香の身長が低いため外に視界が開けないのだ。それでもちらりとだけ見えた警官は参拝所に向かって目を閉じている紅香の方を向いていた。

 仕事で注意を払っていなければならないはずの警官でさえ自分を添え物程度にしか思っていなかったのだ、と橙香は愕然とし、体から力が抜けた。



 人混みに流された橙香は神社の境内を取り囲む雑木林の中に辿り着いてため息を吐いた。

 人混みから逃れようとしてどうにか抜け出しはしたが、霊界では早々お目にかかれない人数と圧力に気分も悪くなっていたため、人の少ない雑木林へ自然と足が向いたのだ。

 吐く気力もなく、橙香は太い杉の木にもたれかかる。


「結局、こうなる……」


 霊界で紅香たちと行ったお祭りで迷子になった事を思い出し、橙香は杉の木の根元にうずくまる。

 霊界にいた時と全く変わらない。


「ボク、いてもいなくても変わらないじゃん」

「――俺は橙香がいてくれた方が楽しいけどな」


 唐突に掛けられた聞きなれた声に、橙香は驚いて顔を上げる。

 水の入ったペットボトルを持った南藤がいつの間にか傍らに立っていた。


「顔色悪いな。ほら、水飲んどけ」

「え、あ、ありがとう――ってなんで、ここに?」


 押し付けられるようにして渡されたペットボトルを受け取った橙香だったが、すぐに異常事態に気が付いて南藤に問いかける。

 南藤は橙香が人混みに流される直前まで紅香のそばにいたはずだ。警官でさえ注意が紅香に向いていたあの状況で、橙香が人混みに流された事に気が付くはずがない。


「なんでって言われても、人混みに流されるのが見えたから慌てて追いかけてきたんだよ。それにしても、護衛の警官より俺が先に気付くってどうかと思うな。橙香の家族は参拝中で目を閉じてたから仕方ないけどさ」


 橙香の疑問の前提条件を崩すような南藤の言葉に、今度こそ橙香は呆気にとられる。


「ボクのこと見てたの?」

「タコ焼き買う時もなんか悩んでるっぽかったし、俺が紅香さんと話してる時は表情が暗いし、人混みのせいかどんどん顔色悪くなっていくし、目を離せるわけがないだろ」


 当たり前のように言った南藤はポケットからスマホを取り出した。


「俺も急いでて誰にも声をかけてないから、きっと今頃警官たちが探し回ってるだろうな。連絡取った方がいいと思うけど、番号は分かるか?」

「お父さんたちはスマホ持ってないよ。ボクも使い方よく分からない」

「護衛の警官が初めて役に立つわけだ」


 肩を竦めて苦笑した南藤が地元の警察署に電話をかけ、事情を説明する。ボディーチェックを受けた際に警察手帳を見せられたとの事で、護衛の警官の名前も把握しているらしい。

 連絡を終えた南藤は橙香に倣って杉の木の根元にしゃがんだ。


「気分はどう?」

「ちょっと良くなった」


 病は気からというが、南藤が紅香だけでなく自分にも気を割き真っ先に探しに来てくれたと聞いたおかげで、橙香は人混みに酔った事などほとんど忘れかけていた。

 来てよかった、とこの場では言えないが。


「霊界にも花火ってあるのか?」

「あるよ。こっちのとほとんど変わらない。でも、キャラ物の花火はないかな。型物自体はあるけどね」

「そうか。今日はキャラ物も打ち上がるらしいから楽しみに……」


 言いかけた南藤は橙香を見て険しい顔をする。


「背が小さすぎて見えないかも」

「そんなに人が多いの?」

「河川敷が人で埋まるくらいには。肩車してもらえば見えない事はないと思うけど」

「それは恥ずかしい」


 父に肩車される自分を想像した橙香が顔を赤らめて嫌がると、南藤も言ってみただけだと苦笑した。


「ちょうど護衛の人も来たみたいだし、とっておきの場所を教えてやるよ」


 立ち上がりざまに差し出された南藤の右手に、橙香は左手を重ねる。


「とっておきって?」

「行政に放置されてる古墳の裏手。滅多に人が来ないから、今日みたいな日には重宝するんだ」


 そう笑いかけて歩き出す南藤に手を引かれながら、橙香はとっておきの場所とやらへ歩き出す。

 南藤の手は温かく、橙香は初めて居場所を見つけた気がした。

 このまま友達でい続けられるのなら、いつの日か霊界の桜の木へ案内しよう。

 そう心に決めながら、橙香は南藤の手を握った。




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