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魔力酔いと鬼娘の現代ダンジョン攻略記  作者: 氷純
第一章 乙山ダンジョン
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第五話  魔力酔いと斜め上の対策法

 南藤が目覚めた時、そこは白く清潔なベッドが一つ置かれているだけの小さな病院の個室だった。


「芳紀! 大丈夫? 痛いところない? 気持ち悪かったりしない? 背中撫でようか? ごはんが欲しい? 水いる?」

「ちょっと静かにしてほしい」

「分かった!」


 口をつぐんだ橙香に礼を言いつつ、南藤は上半身を起こして自分の体調を探る。ダンジョン内で感じた倦怠感も頭痛も鳴りを潜め、万全といっていい体調だった。


「大丈夫みたいだ。吐き気もないし。スロープを下りて、その後どうなった?」

「いきなり芳紀が気絶したから、ボクが担いでスロープを駆け上がって戻ってきたんだよ」


 成人男性である南藤を平然と抱え上げたという橙香が右腕を曲げて力こぶを作ろうとする。しかし、盛り上がりは微々たるものだった。鬼の腕力は筋肉とは別の要因が働いているのかもしれないと思いつつ、南藤は窓の外を見る。

 窓辺にクッキーの箱が置かれていた。


「早田市冒険者グループの人達からだよ。ボクは慌ててあの人たちを置き去りにしちゃったんだけど、心配して追いかけてきてくれたんだって」

「礼を言わないとな。それで、俺が倒れた原因って何か分かるか?」


 橙香が首を横に振った時、病室の扉が開いた。


「――典型的な魔力酔いですね」


 そう診断結果を告げながら、白衣の女性が入室する。異世界貿易機構から派遣されている専門医らしく、白衣の胸元に陰陽図のワッペンが付いていた。


「魔力酔いとは、魔力に対する拒絶反応の事です。アジア系は比較的魔力酔いが出やすいと言われていますが、それでも一万人に一人もいないでしょう。アレルギーなどとは違いますし、身体が慣れてくれば徐々に症状が緩和する類の物です。アルコール中毒のようなものですね。限界はありますが、ある程度までは耐性が出来ます」


 魔力酔い、という聞きなれない言葉に首を傾げる橙香にもわかりやすく、専門医は説明してくれる。


「ですが、南藤さんは体質的に魔力への耐性が絶望的に低いようです。先ほど、血液検査をしたところ、魔力濃度が異常値を計測していました」


 計測値を見せられたところで、門外漢の南藤や橙香には分かるはずもない。

 二人の反応から、計測値を読み取って導き出すべき結論に辿り着かなかったと悟った専門医が端的に告げる。


「南藤さんは冒険者に致命的なほど向いてないです」


 ドクターストップという奴か、と南藤は頭を掻き、すぐに思いつきを口にする。


「自分の身体を魔力強化して耐性を高めるって手もありますよね?」

「否定はしません。冒険者は多くの場合、魔力強化で身体能力を高めていますからね。ですが、南藤さんの場合は魔力耐性を高めるために他の冒険者よりも余計に魔力強化が必要になります」

「ハンデがあるってことですね」

「途方もないハンデですね。何しろ、魔力強化しなくては思考も散漫になって、まっすぐ歩く事もできなくなりますから」


 南藤の予想以上に深刻な症状が出るらしい。

 実際にダンジョンで気絶した南藤としても、無視できるハンデではなかった。

 腕を組んで思案する南藤を見て、専門医は病室の扉を開く。


「よく話し合う事です。では、賢明なご判断を」


 病室を出ていく専門医に礼を言って、南藤は窓辺のクッキー箱を手に取る。

 壁の時計を見れば、ダンジョンで気絶してから七時間ほど経っているのが分かった。腹も空くはずである。


「橙香も食べるか? 腹が減ってるとろくなことを考えないから、何か入れておいた方がいい」

「食べる。そのアーモンドチップのクッキーが食べたい」

「ほら、あーん」

「あーん」


 ヒナ鳥のように開けられた橙香の口にアーモンドクッキーを齧らせ、もう片方の手でバタークッキーを自分の口へ運ぶ。

 数枚のクッキーを腹に収めた南藤は本題を切り出した。


「霊界に行く事だけが目的なら、俺以外の冒険者と組むって方法もある。どうする?」

「芳紀が行かないならボクも行かないよ。大人しく待ってる」


 殊勝なことを言う橙香だが、霊界との連絡が途絶えてからの落ち込みぶりを知る南藤は言葉通りに受け取る事が出来なかった。


「魔力に慣れる事でどれくらい耐性がつくかにもよるが、気絶した時の感覚からすると時間がかかりそうなんだよな」

「ダンジョンって下の階層に行くほど魔力濃度が高くなるんだよね?」

「魔力に耐性がほとんどなかったとはいえ、第一階層で少しだるいくらいだったのが、第二階層に到着する直前に気絶したんだ。下に行くほど魔力濃度が上昇するのは間違いない。異世界貿易機構の公式掲示板でも書かれてる」


 魔力濃度の違いがダンジョンの下の階層ほど魔物が強くなる理由だとも書かれていた。

 南藤はスマホを操作しながら口を開く。


「俺たちが取り得る選択肢はいくつかある。一つはスッパリと冒険者を止める事だけど、当然却下だな。他の選択肢としては、魔力耐性が上がるまで体を慣らしたり魔力強化する方法だけど時間がかかる。そこで、別の案を取ろうと思う」


 南藤はスマホに表示した企業サイトの電話番号を確認し、発信した。


「橙香、俺に一カ月くれ。探索できるようにしてみる」



「ザラメおせんべいって美味しいよね」


 呑気に呟き、居間でくつろいでいる橙香がぼんやり眺めているテレビのニュース報道では今まさに海外で起きた異世界人特別居住区へのテロ行為を取り扱っていた。


「海外は大変だねぇ」

「国内にもいるんだから、警戒はしておけよ」

「外では角を隠してるから大丈夫だよ。日本国内で活動してる排斥運動の人達って他国から来てるって本当かな?」

「偏見もあるだろうけど、一部では事実だろう。逮捕してみると外国人だったってケースは日本以外でもあるらしいし」


 孫子兵法にも離間の計とあるくらいだ。異世界が発見された事により地球上での国家バランスが崩れ、一部では緊張状態も起きている今、内部工作の類はどこにでもある。

 南藤はネジやボルトを分類してケースに収納しつつ、コントローラーを橙香の前に置いた。


「完成したの?」

「一応な。動かしてみてくれ」

「起動!」


 ノリノリで片手を突き上げた橙香が電源スイッチを入れる。

 直後、だだっ広い庭に鎮座していた六本脚の機械が跳ねるように体を起こした。

 配線が剥き出しで見た目の悪い六脚機械は前後左右に二メートルもある。某機動隊が使用する戦車にも似た形状だが、デザイン面では比較するのもおこがましい適当な代物である。


「武装はなし。外装は動作確認してから取り付けるけど、今の状態でも耐久力はそれなりだ。基本的にダンジョンでの運搬用補助機械だな」


 ただし、運ばれるのは主に魔力酔いでグロッキー状態の南藤本人である。

 縁側に腰を降ろして動作確認の様子を確認しつつ、橙香が作り置きしてくれている麦茶を飲んで説明する。


「これがあればダンジョンの奥に潜る時に大荷物も持ち込めるってわけだね」

「そういうことだ」


 南藤と橙香は二人で活動する事を前提にしている。

 日本国内ではあまり活発ではないとはいえ、世界では異世界人に対する排斥運動も行われている。そのため、知らない冒険者と不用意にチームを組んだ場合には霊界の鬼である橙香の身が危ぶまれるからだ。

 しかし、二人組で活動するとなると嵩張る荷物を持ったままの戦闘を余儀なくされてしまう。一階層程度であれば荷物も最低限で済むが、今後より深く潜るとなれば食品その他、様々なものが必要になるだろう。

 運搬能力を高めるのは後回しにしていた課題だが、南藤は良い機会だからと解決しておいたのだ。

 また、前回の探索で話題に上がった無線機も付属品として付いている。ネットからの情報によれば、別の階層の相手とは交信できない他、ダンジョンによっては使用する事がそもそもできないなどの弊害はあるらしい。

 もっとも、乙山ダンジョンでは使用できることが確認されている他、南藤にとって無線機は橙香とはぐれた時の連絡手段に過ぎないためさほど重要視はしていなかった。


「しかも、保温クーラーをオプションで装着可能!」

「ダンジョンでアイスも食べられるんだね!」

「お値段はなんと二十三万四千五百円税抜き。オプションパーツは五千円から!」

「安い気もする!」


 断言しないあたり、橙香の金銭感覚は騙されていないらしい。

 動作確認をして感覚を確かめた橙香は南藤を見る。


「で、本当にこれに乗ってダンジョンに行くの?」

「歩けないほど気持ち悪くなるのなら、歩かなければいいんだよ」

「芳紀……」


 かわいそうな子を見るような目をした橙香はコントローラーを横に置き、南藤を引き寄せて頭を抱きしめる。


「無理しなくていいんだからね?」

「無理せずに済むようにこれを作ったんだけどな」


 南藤は橙香の平たい胸の感触を後頭部に感じながら、庭の機械を見る。

 名前を考えていない、といまさら気付いた。


「さて、名前はどうするかな」

「タ――」

「却下な」

「さすがは芳紀。ボクの言いたいことを的確にくみ取るとこ大好きだよ!」


 嬉しそうに南藤を抱きしめる橙香が近くに持ってきていたザラメせんべいの袋を漁って南藤に一枚差し出す。


「はい、芳紀。正解のご褒美」

「おう、ありがとう」


 ザラメせんべいを齧りつつ、改めて庭の大型機械へ目を向ける。


「機械の馬で機馬でいいか」

「あじけなーい」

「分かりやすいくらいでいいんだよ。魔力強化したら登録に銘を記入しないといけないし、下手に凝った名前にしたら厨二扱いされるだろ」

「いいじゃん。愛着湧くよ、きっと」

「そう言う橙香はなんてつけたいんだ?」

「タ――」

「却下な」


 流れるように橙香の命名を却下して、南藤は大型機械の名前を機馬に決定する。

 時計を見れば、ちょうど夕食時の頃合いだ。


「夕食は何にする?」

「天丼にするつもりだよ」

「あぁ、しつこいタチ○マ推しはそういう」

「芳紀、言っちゃダメじゃん」

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