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魔力酔いと鬼娘の現代ダンジョン攻略記  作者: 氷純
第二章 藻倉ダンジョン

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第四話  連合パーティー

 鰭モグラの血液を採取しながら話を聞いたところ、クラン『藻倉遠足隊』は第二階層の水没廃坑を効率よく探索するための水中探索機械や魔力強化済みの潜水服を持つ特殊兵装持ちであることが売りらしい。

 金髪男性、古村が後ろのメンバーを振り返る。


「強度の増加に加えて伸縮性の強化、水中抵抗軽減の魔力強化もしてある。水中での戦闘がかなり楽になる逸品なんだけど、嵩張っちゃうんだよね」


 古村の言う通り、クラン『藻倉遠足隊』のメンバーの一人は大荷物を担いでいた。酸素ボンベが一本しかないところを見ると、装備一式なのだろう。

 全員分の酸素ボンベその他を運ぶとなれば、第一階層での戦闘がこなせなくなる。


「自分らは基本的に護衛を雇って第二階層まで赴き、地図を作成して他の冒険者たちに売って攻略の補助をするクランです。藻倉遠足隊って名前なのも、戦闘技能がないって事をアピールする為だったりします」


 乙山ダンジョンで最前線にいたクラン『踏破たん』を知っている橙香にとっては、遠足隊という名前でも戦闘力がないとは想像していなかったのだが、とりあえず鰭モグラの尻尾を踏んづけて止めたのはファインプレーだったらしい。

 クラン『藻倉遠足隊』の茶髪の女性、米沖が胡坐をかいて座り、機馬を指差す。


「そっちがウチと連合してくれると、嵩張る水中装備一式をそのデカい機械で運んでもらえる。ドローンの先行偵察も魅力的だし、なんなら、ウチの技術をいくらか提供してもいい」


 米沖が挙げたメリットに橙香はなるほどと納得する。

 つまり、積載量に優れる大型荷運び機である機馬で水中装備を効率よく運搬したいという話なのだろう。

 現在の藻倉ダンジョン最高到達階層は第二階層。つまり最前線で活動する為のノウハウを『藻倉遠足隊』は持っている事になる。

 ただでさえ、水没廃坑という難踏破地形の第二階層で地図を作ってきた彼らならば、立ち回りを含めて様々な事を教えてくれるだろう。

 とはいえ、橙香側には南藤の魔力酔いという現実問題が存在する。

 橙香に膝枕されてうつろな目をした南藤は、まだ第二階層へ行けるほど魔力耐性が上がっていないだろう。

 さらに、杷木儀はきぎから藻倉ダンジョンに誘われて以降、南藤は水没廃坑を攻略する準備としてとあるモノを作成していたのを、一緒に暮らしている橙香は見ていた。


「芳紀、水中ドローン作ってなかったっけ?」


 南藤が親指と人差し指で丸を作る。完成しているらしい。

 今日は第一階層を少し探索するだけのつもりだったため、水中ドローンは持ってきていないのだろう。

 水中ドローンと聞いて、古村が身を乗り出す。


「その水中ドローンって攻撃能力はありますか? 性能は?」


 詳しいことが分からない橙香は南藤に目で問いかける。

 すると、ドローン毬蜂を頭上で滞空させて、南藤はスマホの写真フォルダを開いて見せた。

 表示されたのは水中ドローンのスペック表だった。


「無線機で、理論値で速度は三ノット。水中対応のカメラとライトを搭載。武装はゴム式の水中銃」

「水中銃まで付いてるんですか。サハギン相手だとなかなか難しいですが、ドローン本体の自衛用ならアリですかね」


 橙香が読み上げたスペックを聞いた古村が金髪頭を掻いて唸る。


「三ノットっていうのも半端ではありますが遅くはないですね。装備込々で自分らが泳いでいく速度について来れる速さです。戦闘機動を取るのは水中ドローンでは元々無理でしょうし。無線なら自分らが水中でサハギンと対峙しても邪魔になりにくい」


 南藤と橙香が提供できるメリットの大きさを吟味した古村が仲間を呼んで車座となり、相談を始める。

 やがて、話し合いがまとまったのか橙香を振り返った。


「予備の水中装備があるからそれを提供します。魔力強化も済んでいますから、水中での戦闘も行えますよ」

「ボクの分もありますか?」


 見た目は中学生にしか見えない童顔の橙香は体格も小柄だ。体格にあった潜水服があるのか不安だった。

 しかし、橙香の不安を吹き飛ばすように米沖が明るい笑顔を向ける。


「ウチの妹が小学生の時に使っていたウェットスーツがあるよ。こっちは流石に魔力強化してないけど、そっちのツレの魔力耐性上げの時間も考えれば魔力強化する事も十分可能。サハギンは効率がいいからね」


 小学生と体格が一緒と言われた橙香が眉を寄せるとすぐに魔力強化の話にシフトさせる当たり、米沖のコミュ力は高い。


「芳紀、どうする?」

「うぇっぷ」

「外に出てからにしようか」


 魔力酔いで思考も鈍っているだろうし、と橙香は立ち上がる。

 鰭モグラの処理はとうに済んでいる。藻倉遠足隊も二階層から帰還する途中だったとの事で、共に藻倉ダンジョンを後にした。



 三日後、南藤、橙香ペアとクラン『藻倉遠足隊』は正式に連合し、藻倉ダンジョン第一階層で鰭モグラを優先的に探して討伐していた。


「荷物がないとこんなに戦いやすいとは……」


 米沖が木刀に鋭い石を刃代わりに埋め込んだ自作の武器を振り回しながら呟く。インディアンが使っていたマカナという武器に似たその自作木刀はやっつけ仕事な見た目に反して非常に鋭く、鰭モグラの胴体を深く斬り裂いた。


「荷物持ちに人手を割かなくていいのがなにより嬉しい所ですね」


 目を細めた古村が米沖に答えて、裁ちばさみの留め金を外して両手に持つと、鰭モグラとの距離を一気に縮めた。一太刀、二太刀、三太刀と斬撃を浴びせ、鰭モグラの首筋の肉を三角形に切り取る。

 鰭モグラが頭部を振って古村を追い払う。悠々とバックステップで距離を取った古村の目配せを受け、米沖が木刀で突きを放った。

 三角形に切り取られた鰭モグラの首筋の傷へと吸い込まれるような米沖の突きが鰭モグラの首の血管を断つ。

 ほぼ即死した鰭モグラの傷口に素早くウェットスーツを当てて魔力を充填しつつ、米沖が橙香を振り返った。


「ごめん、そっちはもうちょっと捕まえておいて」

「了解でーす」


 声を掛けられた橙香は両手で鰭モグラの胴体を掴みあげて壁に押し付け、身動きを封じていた。鬼の怪力に抑え込まれては体長二メートル近い魔物の鰭モグラでも動けないらしく、諦めたように死んだふりをしている。

 無論、どれほど憐れだろうと逃がすつもりなどさらさらない。

 他のメンバーは南藤が操るドローン毬蜂を狙うコウモリ型魔物二種類を迎撃している。ラクロスのラケットを器用に使いこなすクラン『藻倉遠足隊』の後衛二人組は、空中を飛び回るコウモリをラケットのヘッドに捕えるや否やボール代わりに思い切り投げ飛ばし、壁に叩きつけたり他のコウモリに叩きつけて落としたりとやりたい放題である。

 戦闘能力がないという触れ込みは自衛能力がないという意味ではないらしい。


「南藤さん、音波コウモリは他のコウモリに射線を塞がれないように飛んでいるんでよく観察してください。音波コウモリの魔法は二秒以上浴びなければ武器を壊されることもほとんどないですけど、余裕を持って回避を」


 超音波魔法で武装を破壊する音波コウモリは最優先で撃破すべき対象である。

 後衛二人組は目ざとく音波コウモリを見つけては優先的に墜落させてとどめを刺していた。第二階層で地図を作成しているというだけあって、手馴れている。

 だが、後衛二人組は気付いていた。南藤のドローンが絶えず、もう一種類のコウモリ魔物、三半規管を狂わせる攪乱コウモリが魔法を放てないように圧力をかけている事に。

 元々、この二種類のコウモリは巧みな連係が持ち味の魔物だ。攪乱コウモリの魔法で冒険者の動きを封じ、音波コウモリが武装を破壊し、丸腰となった冒険者を数の暴力で殺害する。

 しかし、冒険者の動きを封じる役割の攪乱コウモリは南藤が操るドローン毬蜂に邪魔されて冒険者への魔法攻撃を放てないでいる。音波コウモリが射線を確保するのと同様、攪乱コウモリは音波コウモリの邪魔をしないように立ちまわる事を南藤は見透かしており、音波コウモリの方へと攪乱コウモリを追い詰めているのだ。

 むやみに飛び出して射線を確保しようとした攪乱コウモリがパイルバンカーに貫かれて胴体に大きな穴を開けられる。

 コウモリが全滅する頃には橙香が抑え込んでいた鰭モグラにもとどめが刺され、血液の採取が行われていた。


「楽勝!」

「人数の多さもさることながら、各人の相性もいいですからね」


 古村の言う通り、全体的にバランスのとれた連合チームである。

 ここに至るまで数度の魔物との戦闘があったが、先行するドローンで発見、ラクロス二人組の遠隔攻撃、橙香たち前衛組による近接戦闘と並行して頭上ではドローンがコウモリたちを翻弄する。

 欲を言えば盾を持つ仲間が欲しいと思う橙香だったが、第一階層も第二階層も狭いトンネル状の通路が主となるため、嵩張る盾は仲間の動きを阻害する可能性がある。なおかつ、音波コウモリによる武装破壊の標的となりやすいため、藻倉ダンジョンでは盾を使う冒険者がほとんどいなかった。


「クラン『剣と盾』っていう、全員がライオットシールドで武装したクランも藻倉ダンジョンに潜っているので、機会があれば誘いたいですね」


 古村は安全性を重視してそんなことを言うが、橙香たちはさほど必要性を感じないほどに戦闘は安定している。

 橙香は通路の壁に開いた大穴を横目に見る。先ほど鰭モグラが奇襲を掛けて来た際に開けた大穴だ。

 乙山ダンジョンボスのバフォメットが行った橋の爆破や鰭モグラの穴を開けての奇襲など、ダンジョンの構成物は相応の労力を払えば破壊が可能である。しかし、鰭モグラほどの巨体が通れる穴を開けるのに、鰭モグラはやや腕力が不足している気がしていた。

 藻倉ダンジョンは出現する魔物の多くが魔法を使用する事を考えると、鰭モグラの穴あけも魔法によるものなのかもしれない。

 機馬の上に寝そべっている南藤がシジミのお吸い物を入れた水筒を開けようとしているのを見て、橙香は駆け寄って蓋を開ける。


「はい、芳紀」


 魔力酔いで力が入らないらしい南藤にお吸い物を飲ませる。

 鰭モグラ二体とコウモリ魔物多数が魔力に戻った影響で、南藤の魔力酔いが悪化している。仮に第一階層の魔力濃度で活動できるようになったとしても、閉所で魔力が溜まりやすいこのダンジョンの構造のせいで一か所に留まっての長期戦闘は不可能だろう。魔物との戦闘が長引いて仲間を呼ばれでもしたら大変なことになる。


「南藤さんの魔力強化はどれくらいかかりそうですか?」

「この調子なら多分、四日くらいで行けると思う」


 橙香の答えを聞いて古村たちが予定を組み始める。

 ウェットスーツの強化も含めて、十日後には第二階層に進む事が決まった。


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