8 御使いコレクションINクダヤ
1人だけ納得していない(ダクス)話し合いが終わり、島のみんなそれぞれの形を模したアクセサリーを作って拠点に戻ってきた。
ゲート岩の柵の扉を開けると白フワがシュッと頭の上に。
「ただいま~。あのね、白フワの形のアクセサリーなんだけど、『勇敢』っていう意味を込める事にしたんだ。勝手に決めちゃったけど大丈夫?」
頭の上の白フワをごしごししながら聞くと、目の前にこれまたシュッと移動し、上下に細かく振動してくれたので『勇敢』を気に入ってくれたようだ。
白フワは守役様じゃないが、タツフグモチーフのものと一緒にそっと商品に紛れ込ますつもりだ。
「お待たせしました」
声を掛けるとサンリエルさんがてきぱきとお菓子とお茶を用意し始めた。執事か。
カセルさんとアルバートさんはさっと席を立ち、座りやすいよう椅子をひいてくれる。うん、執事。
作ったアクセサリーは虹色トレイに乗せてマッチャに持ってきてもらったので、テーブルの上に置いてもらう。
敷いている布が高級感を出してて宝石店みたい。
「すごい……」
こういう場面ではほとんど発言しないアルバートさんだが、思わず言葉がこぼれてしまったようだ。
その正直な反応に嬉しくなってつい視線を向けたらアルバートさんが挙動不審になってしまった。ごめんて。
「大変素晴らしい品です」
「ですね~」
いつの間にか隣に立っていたサンリエルさんも、アルバートさんにぐいぐい前に押し出されていたカセルさんも、嬉しそうにトレイのアクセサリーを見ている。
これで地球デザインが通用する事がわかった。良かった良かった。
若干私のデザインも加えたけどね。でも丸々私のデザインじゃないからさ、人気が無くても私のせいじゃないっていうかさ。
保護者には真顔で見つめられたけどさ。
「これなんか花婿さんにどうですか? 『情熱』という意味があります」
そう言ってエンの形をしたブローチを手に取って見せる。
「良いですね~! こちらの装飾品の意味は何でしょうか?」
カセルさん、サンリエルさんを遮って発言した形になっちゃったけど大丈夫? あなたの上司すごく見てるけど。
でもまあキイロの形だし興奮するよね。
「それは『素早さ』という意味があります。この守役が素早さを得意としてますので」
私の肩に乗っているキイロの翼をぴろっと広げて見せる。
それだけでカセルさんは大興奮。
「素早さ! 買います!」
「私はすべて買います。込められた意味を教えていただけないでしょうか」
いやあの、勝負じゃないんですけど……。
「えー、この形の意味は――」
要望通りそれぞれの意味を説明する。
キイロは『素早さ』、エンは『情熱』、マッチャは『優しさ』、ナナは『富』、ダクスは『可愛さ』、ロイヤルは『強さ』、ボスは『偉大な』、タツフグは『進化』、白フワは『勇敢』。
そして、1粒しか取れなかったマーブル模様のパステルカラーの真珠はこれだけ形を変えずに指輪にした。
チカチカさんのつもりで作ってもらった。
「――最後に、この指輪が『すべて』という意味です。気に入ったので私が身につけようかと」
冗談じゃなく希少性から億の値段がついちゃいそうだし。
島にいる時だけ身につけるつもりだ。
自ら『すべて』の指輪を身につける御使い……意外と私のメンタルさんは図太いのかもしれない。
「……もし似たような真珠が他にありましたら私にも指輪としてお作り頂く事は可能でしょうか」
あれ、これ……。
「領主様、ヤマ様とお揃いですか?」
そうそれ、カセルさん。
そういやこの人、私が技の一族に作ってもらったアクセサリーと同じものをこっそり作ってるんだよね。
チカチカさんとボスの前じゃこっそりも意味ないけど。
お揃い好きだね~。でも指輪のお揃いは遠慮したい。
「……同じようなものが見つかったらお知らせしますね」
当分の間似た真珠は出てこない予定です。
「さて。こんな感じで装飾品を作成していきますので、次は販売と貸し出しについての詳細ですね」
ささっと話を変える。
「販売は真珠持ち込みの場合は金貨30枚。こちらが用意する場合はその真珠の値段を追加する形で。後で真珠それぞれの大きさ、色による値段の簡易一覧表のようなものを作成して欲しいんですが」
「お任せください」
「ありがとうございます。図案を持ち込みの場合なんですが――」
あれやこれやと話し合った結果、私のデザイン料は金貨1枚という事にした。それでも10万円。
カタログからインスピレーションを受けて少し手を加えるだけのお仕事。ぼったくりの疑い。でも肩書でちゃらにして。お願い。
真珠持ち込みでデザインもお客自ら行う場合は金貨29枚。
これまでの地球生活で私は商売人という仕事をしてはいないそうなので、利益率とかそんな感じの事はよくわからないがなんとかなるだろう。
この手厚いサポート体制で取り返しのつかない事態になる方が逆にすごいと思うし。そもそも何も出費してない。
納期は手間暇がかかるというイメージを与えたいので3ヶ月という事にした。実際は1分。
まさかのファンタジー世界で予約2年待ちとかありえそう。私だったら注文しても手元に届く頃には興味を失ってそうで怖い。
そして装飾品のレンタルに関しては、ひとまずシンプルなネックレスとイアリングのセットにブローチというラインナップにしてみた。
クダヤの住民限定でセットは1日金貨2枚、ブローチは金貨1枚。
女王がつけるような重そうなネックレスに、至る所に傷をつけそうな大きさの指輪なんかは美術品として展示するという提案をしてもらったのでそのうち作ってみてもいいかもしれない。
そういえばミナリームの王様、王冠作り直したのかなあ……。
「――追加の農作物の販売はひとまずロマとスールジで。これは店頭だけではなく飲食店から取引の要望があれば卸そうかと」
ついでに他の新商品の話し合いもした。
値段を高めに設定するので、既存のロマ・スールジ農家さんに影響はそこまでないと思いたい。
毎日欠かさず食べる野菜という訳でもなさそうだし。
「注文致します。毎日食しますので」
「毎日ですか~」
いや、特定のお偉いさんにとっては違ったわ……。