7 センスって先天性の才能だと思う
惑星の高等テクニックに心を奪われそうになるアクシデントはあったが、クダヤの人達の大体の年収を教えてもらった事により商品の方向性も定まってきた。たぶん。今は。
「少し思い付いたんですが、装飾品を売るだけではなく同時に貸し出しも行うというのはどうでしょうか」
考えているのは、ブランド品なんかをレンタルするあれとか振袖やウエディングドレスをレンタルするあれ。
「防犯の面では問題はありませんし、特別な記念日に――そう言えばこちらは結婚する際にお披露目はしますか?」
話がころころ変わって申し訳ないが少し我慢してほしい。
そしてこの中で1番年上で結婚に1番(偏見)縁遠そうなサンリエルさんに聞いてしまった。
別に日本とかじゃないから結婚の話題で場の空気が悪くなるとかはないよね……? 男性だし……。
「クダヤに限って言えば、領主や族長など立場のある人間の場合は人を呼びお披露目という形をとる事があります。ですが親族だけで集まり祝うのが一般的かと」
「そうなんですね」
「領主様の場合はどのようなお披露目にするのか考えてるんですか? ご結婚はされないんですか?」
うわ。
カセルさん勇気あるな! そして直球。
「特に考えていない」
「そうなんですか~」
こちらが勝手にそわそわしているだけで、一族の2人は特に気にした様子もない。モテる人種だからか?
アルバートさんは私と同じくそわそわしていたので笑顔で頷いたらばっと目を逸らされた。だと思った。
いいよ、気にしてないからおろおろしなくていいよ。
「えー、その親族の集まりの際に花嫁さん花婿さんは着飾ったりしますか? そういった機会に真珠の装飾品を貸し出したらたくさんの人に喜んでもらえるかなあという安易な発想なんですが……」
「誰しもがヤマ様の装飾品を身に着けたいと切望するでしょうが、ヤマ様の装飾品に見合った衣服を用意できる者は少ないかもしれません。ものにもよりますが」
「装飾品だけ浮いてちぐはぐな感じになってしまっても残念ですよね~」
「へ、へえ……。全体の印象ですか……」
なんか……ファッションセンスの無さを露呈してしまったかも……。
確実にサンリエルさんとカセルさんの方がファッションセンスがありそうなんですけど。恥ずかしんですけど。
「はるは雑誌をそのまま真似するだけの個性のないありふれたファッションだったね」
どんなタイミングで保護者は話に入ってくるんだ……! 別にいいじゃん。ありふれてていいじゃん。
「……ちょっと試しに何点か装飾品を作ってきますのでお待ち下さい」
癒しの為にモフモフをもふもふする時間が欲しいし、私の美的感覚がこの街の人に通用するかどうか知りたい。
ここの人達は素敵じゃない装飾品でも優しさから何も言わずに買ってくれそうだし……。
サンリエルさん達には「お仕事があるなら構わず戻って下さい」と伝えたが、まあ予想通り「ヤマ様の意思に沿う事が仕事です」という言葉が返ってきた。そうですか。
領主様は部下だけを戻らせようとしてたけど。そうですかそうですか。
「さて、ナナはここで作れる?」
さっと島の家に戻ってきた。
普通にゲート岩を囲ってある柵の内側に入って行くのを見られたので、瞬間移動装置とまではいかなくても移動に関係する場所なのはばれているかもしれない。本当に今更だけど。
「作れる」
「あ、良かった。虹色鉱石エリアまで行かなくていいんですね」
ナナに抱き着きながらナナの足のもふもふを撫でまくる。
他のみんなも近付いてきたのでぎゅうぎゅうに挟んでもらった。幸せ。このまま寝れそう。
「チカチカさん、私のデザインしたアクセサリーがダサいとか思われたくないので、島のみんなの姿形を全面的に押し出していこうと思うんですけどいいですか?」
守役様の恩恵にあやかるつもりしかない私。
いいんだよ無理に苦労しなくたって。優しい道があるなら構わずそちらに行く。
きりりとした顔でだらしなくモフモフにもたれ掛かっていると、目の前のテーブルに1冊の本が現れた。
「あれ? これなんですか? ――カタログ?」
ぱらぱらとページをめくると、指輪にネックレスにピアス、たくさんのアクセサリーの写真が載っている。
「地球の装飾品をカタログにした。そのデザインを真似すればいい」
「おお……」
すごい。
保護者から堂々と『パクりなさい』指令がきた。
そっとモフモフから抜け出し、光球チカチカさんにそっと抱き着いておいた。
しっかりパク……インスパイアされた装飾品を作ります。ありがとうございます。
「じゃあナナ、このページのブローチのここの部分を――誰の形から作ろうか?」
「キャン!」
「ダクスね。あっ、そういや街の人達に姿を知られてるのはキイロとロイヤルとボスだけじゃない?」
ヴァーちゃん達や族長さん達はダクスの事知ってるけど。あと確かアルパパ達。
でも大きい組の姿はサンリエルさんとカセルさんにアルバートさんしか知らないはずだ。
帰還降臨の際は恥ずかしさのあまり島のみんながどうしていたのかはほぼ記憶にないし……。
「その小さいのは姿を見られてる。他のもアクセサリーのモチーフにしていい」
「そうなんですね~。じゃあそれぞれに意味を持たせるのもいいかも」
四葉のクローバーは幸運、みたいな。
「キュッ!」
「え? ロイヤルは強さ? 別に良いけど……」
強さを自己申告されたんですけど。ナルシストかしら。
「ぴちゅ!」
「キイロは素早さ? 素早さ……まあ変わり種でありっちゃありだけど……」
「キャン!」
「たくましさ? ごめん、それは同意できない」
それはいくらなんでもないわ、ダクス。確実に可愛さ、愛されとかでしょうよ。
ダクスが納得いかないとばかりに前脚でバシバシしてくるので、多数決でそれぞれの姿形に持たせる意味を決める事にした。
ナナがダクスの『たくましさ』案にそっと前脚を浮かせて1票を投じていたので優しさに泣きそうになった。なので顔をはむはむしておいた。愛しさが溢れる。
でも多数決でダクスの担当は『可愛さ』になった。そりゃそうだ。