6 お金も大切
食事の時間が終わり、真珠のアクセサリーについて打ち合わせをする事に。
「サンリエルさん、これを使って装飾品を作ろうと考えています」
テーブルの上にごろごろとダクスが集めてくれた真珠を出す。
白に黒、シルバーにピンクゴールドに、様々な淡いパステル色の真珠たち。目にも楽しい。
しかしサンリエルさん達の様子が少しおかしい。
真珠を凝視している。
「……ここまで大量の真珠を一度に目にした事はこれまでありません」
「ですね。色もですが……」
サンリエルさんの言葉に、カセルさんも同意している。
「この守役が集めたんです」
我が子を褒められたような気がして、膝の上に乗っていたダクスをテーブルの上に持ち上げる。
可愛さだけじゃないんだぞ。ふふん。
サンリエルさん達も「素晴らしい」とべた褒め。
そのダクスの額を撫でていると尻尾をぶんぶん振り回し始めたのだが、わざわざアルバートさんのティーカップまで近付きその上でぶんぶんする必要はないと思う。ひとつ余計だ。
あ、カセルさんが自分のティーカップも近付けてきた。それ祝福を与えるとかじゃないからね。
「ヤマ様、水の族長が手持ちの真珠で装飾品を作成して頂く事は可能かどうか気にしております」
「まだ返事を聞いてないのに何度も海に潜って真珠を見つけようとしてるんですよ~」
その場で踏ん張るダクスと、こちらに来させたい私との引っ張り合いっこを中断してサンリエルさん達に向き直る。
「大丈夫ですよ。そうすると高すぎない価格設定で無理なく買えますね」
そうだ、真珠を持参してもらって購入者の希望のデザインにするのでもいいかもしれない。完全オーダーメイド。チカチカさんとナナがいるからこそできる。
確固たる経営方針なんてないから方向性はほんとふらつくな。でもそれでいい。
「大丈夫なんですが、その場合値段ってどうしましょうか。相場がわからないんですけど……」
「ヤマ様と守役様の御業による神の装飾品、本来なら最低でも白金貨1枚からかと」
でたよ、サンリエルさんお得意の白金貨。
「しかしその事実を知っているのは私達だけです。それでも品が品ですので金貨30枚の値はおつけいただきますようお願い申し上げます」
「金貨30枚……!?」
ひっと声が出そうになったがなんとか我慢した。
金貨30枚って適当換算で300万円なんですけど……!
作成費用とデザイン料だけで300万? なんなの私って人間国宝なの? もしかして人間国宝はもっとするの? だめだ、混乱する。
「えーと、確認なんですが……例えばこれ1粒おいくらですか?」
シンプルな白い真珠を持ち上げてサンリエルさんに聞いてみる。
「その大きさ、色ですと……金貨50枚以上で取引されるかと」
「ごじゅ……!」
高い。想像以上に高いよ……!
「水の一族が以前献上したものは一族が家宝にしていた物のようですよ~」
カセルさん、止めを刺してくるのはやめて。
「チカチカさん……高い……合わせて800万円て……」
とうとう保護者に泣きつく事に。あと隣にいたエンにも抱き着く。
「はるのこれまでの生活水準ならそうだろうね」
「言い方……」
「ここの一族の人間は稼いでるから平気」
「一族の人ですよねえ……?」
そりゃあ稼いでそうだけど……。他の住民が買えないとそれはそれで良くない気がする。
「……アルバートさん、お1人でちょっとこっちに来て下さい」
「……え!?」
部屋の隅に呼んでこっそり年収を聞こうと考えたのだが、アルバートさんはカセルさんに助けを求めるような視線を送るだけで中々こちらに来ない。
君のお友達はにやにやしてるだけだぞ。
「フォーン」
「大丈夫。連れてこなくて大丈夫」
これ以上はアルバートさんが宙を舞う可能性があるので、『髪に触ります』脅しで部屋の隅に連れてきた。すまん。
「サンリエルさん達は耳を塞いでて下さいね。キイロとロイヤルは見張りをお願い。これから失礼な質問をしますので、アルバートさんは嫌なら答えなくてもいいんですけど――」
そう前置きし、アルバートさんの年収を聞く。
年収の概念があるかどうかわからないが。
「え!? あ、あの!?」
「装飾品の値段について考えてまして。良かったら参考に聞かせてください」
「は、はい……」
申し訳ないとは思ったが、アルバートさんはぼそぼそと大体の年収を教えてくれた。
「なるほど」
年齢の割にずいぶんと多い(地球日本基準)と思ったが、拝謁許可者なる肩書のおかげで年収がアップしたそうだ。
そして他の一族ではない住民は、役職に就いていたり儲かる商売でもしていない限りはそれより少ない人が多いようだ。
「金貨80枚は一族以外の住民は手が出ないですかね?」
「難しいかもしれません……あっですが一族の人間や他国の貴族はこぞって買い求めると思います!」
一生懸命こちらをフォローしてくれるアルバートさん。良い子。
「アルバートさんありがとうございます。もう戻って――――うわ、見てますね……」
「はい……」
サンリエルさんがこっちをひたすら見てる。耳を塞いだまま見てる。
「……次はサンリエルさんにお1人で来るように伝言をお願いします。その次はカセルさんで」
こうなったら公平にメンズの年収をそれぞれ聞いてみようと思う。ぶしつけ御使い。
早歩きで戻って行ったアルバートさんから伝言を聞いたサンリエルさんはあっという間に目の前にやって来た。
そしてすらすらと年収を教えてくれた。
「え……まじ……」
つい普段使いの口調が。
でもそれくらいサンリエルさんは稼いでいた。そりゃあ白金貨がポンと出てくるわ。そういや領主様だしな。
年収の詳細も事細かに教えてくれそうだったが、丁重にお断りしておいた。
この人躊躇する事ってあるのかな……。
次のカセルさんも笑顔で近付いてきて、笑顔で年収を教えてくれた。
この子も躊躇とかしなさそうだ。
結論、一族すごい。
「チカチカさん、私がクダヤの住民だったら一族の人に色仕掛けで迫ってたと思います」
それくらい魅力がある。
稼ぎが良くて仕事熱心でなおかつ見目も良い。性格も個性は強いけど素敵だし。
「その顔と体で? 御使いの肩書のないはるじゃ笑われて終わり」
相変わらずうぬぼれは許さない惑星だな……。
「はるの情けない顔は好きだけど人間受けはしない」
ツ、ツンデレが急にきた……!