5 いらっとされるタイプ
「ライライライライ――――」
大きく腕を振ってボスに指示を出す。
「ライライ――うん、そこで!」
私の指示で、ボスが伐り倒された木を音もたてずにそっと地面に置く。
「誘導ごっこ楽しいね~」
まるで仕事が出来る現場監督みたい。現場監督が実際にどんな仕事をしてるのか知らないけど。
「よし、ロイヤルもう1本お願い」
次にロイヤルに指示を出す。
今私達は、拠点の畑を拡張している最中だった。
ロイヤル(たまにキイロ)が木を伐り倒し、ボスがそれをそっと運ぶ。
切り株を掘り起こすのはマッチャ、残りのみんなと私はざくざく土を掘り起こして石を取り除く作業。
白フワはフワついてるだけ。まあしょうがない。
自分達だけでやってみたかったのでサンリエルさんとカセ&アルのお手伝いはお断りしているが、代わりに拠点のキッチンで食事の用意をしてくれる。なにこれ社員食堂?
サンリエルさん達のお手伝いは断ったが、ヤマチカの様子を見に来てくれたヴァーちゃん達がうずうずしていたので、掘り起こした石を運ぶのを少しだけ手伝ってもらった。ご老体だけど。筋肉はすごいけど。
その時、姿を現していたこじんまり達が掘り起こした石を「もらってもよろしいですか」とお伺いをたてていたので、「いいそうです」と答えておいた。
石でも売れる……?
開墾は時間制限もないし気が向いた時にのんびりやっているが、進み具合がやたらと早い。さすが守役様。
「――じゃあひと休みで」
適度な労働後の爽やかな自分を楽しみながら拠点に入ると、女性人型チカチカさんが椅子に座ってお茶を飲んでいた。
隣の席のテーブルには冷えた飲み物が。
「チカチカさん、これ飲んでもいいですか?」
「いい」
私が「ライライ」言い始めた時は冷たい視線で見つめられたが、何だかんだ優しい保護者チカチカさん。好き。
なので愛情を込めて、うっすらかいた額の汗を固定化したチカチカさんの服で拭いておいた。汚れるもんでもなし。
みんなにはマッチャ母さんが飲み物を用意していたので構わず先にごくごく飲んだ。おいし。
「はる、3人が来る」
「……そういやそろそろお昼ごはんの時間ですね」
マッチャに肩をマッサージしてもらっていると、今日も社員食堂がオープンすると教えてもらった。
サンリエルさんがいるとチカチカさんは姿を現せない。というか現したらサンリエルさんが大変な事になる。エネルギーが色々あれだからだ。そう、あれ。
なので何となくチカチカさんに向けて解散の気持ちで手を振っていると、「体のにおい」と謎の言葉を残してチカチカさんがふっと消えた。
「え、におい? ――――もしかして汗の臭い!?」
慌てて自分の臭いをくんくん嗅ぐ。
「え、え? こういうの自分ではよくわかんないんだけど……みんなちょっと申し訳ないけど嗅いでみて」
モフモフ達にふんふんくんくんさせている私。すまん……すまん……。
「キャン」
「私のにおい?」
「クー」
「頑張ってる時の私のにおい……?」
……まじ……? え、ちょっと、まさか私御使いのくせしていつも困った臭いをまき散らしてたって事はないよね……?
アルバートさんみたいにおろおろしていると、みんなから「いつもはもっと良い匂い」と心底ほっとするお言葉を頂いた。
どうも体と土と草汚れがコラボレーションしたにおいらしい。どんなにおいだ。
でもそうだよね、あの鼻の良い首長に嗅がれた時はアルバートさんに良い匂いって言ってもらえたもんね……! 言わせた感じになってたけど……!
「あー焦りましたよ~。チカチカさんが変な事言うからー」
空中に視線を向けながらまた自分で自分の臭いをかぐ。
「変な汗かきまし――――違う違う、これから人が来るからそういう事じゃない」
自分のノリツッコミのような言葉にぞっとしながらもやらなきゃいけない事をはっきりと理解する。
チカチカさんも「今のなに」って鋭い指摘をしてきたけど聞こえないふりをした。ノリツッコミなんかしてない。
「さて、お風呂に入るか」
御使いが変な臭いを漂わせてたら彼らが気を遣ってしまう。
「キイロとロイヤル、ダクスはついてきてね。――すぐ戻ってくるからサンリエルさん達を家の中に案内しててもらえると助かる」
お客さんに突撃しそうなメンバーは島に連れて行き、大きい組は来客対応で残ってもらう。
白フワは島の家に入れないし、フワフワしかしていないので体当たりされても安全だ。主にアルバートさんが。
島からほかほか状態で戻ってくると、早速キッチンで食事の支度をしている男性3人の姿が見えた。
「守役様にお招き頂きました。何か召し上がりたいものはございますか」
すぐにひゅんと音がしそうな速さでサンリエルさんが目の前にやって来た。
「えー……お肉とか?」
「かしこまりました」
サンリエルさんはまたひゅんと戻って…………こっち見ながら作業してるな……。
なんかコメントした方がいいんだろうか……。
マッチャの華麗な包丁さばきを憧れの目で見ていたアルバートさんも一生懸命挨拶してくれる。
「こんにちは……!」
「ヤマ様お邪魔しています」
カセルさんも何やら炒めながら挨拶をしてくれた。
「こんにちは。手伝いますか? 揚げ物食べます?」
「いただきます」
「食べます!」
「は、はい……!」
頭をごしごし拭きながら質問すると、アルバートさんがばっと場所を空けてくれたのでお礼を言って料理を始める事に。
無性に唐揚げが食べたい。お肉ばかりの献立になってしまうが美味しいからしょうがない。
髪を濡れたまま適当にまとめ、切ったお肉にこれまた適当に味付けする。
毎回味が違うのは目分量のせいだとはわかっているが、わざわざ量るのもめんどうだ。
チカチカさんが甘酢だれを作ってくれているからなんとかなると思う。火さえ通っていれば。
アルバートさんを助手に、大量に揚げた。
2人で何度も「もう火が通ってますかね?」「え、あの……!?」という素人丸出しのやり取りをしていたら、サンリエルさんが揚げ具合をその都度見極めに近付いてきたので、ちゃんと火が通った唐揚げになっていると思う。
サンリエル・アイはすごそうだもんね。
「美味しそうですね~。いただきます」
テーブルの上にずらりを並んだ料理を前に、まずは唐揚げから食べる。
「あー甘酢美味しい……」
案の定何もつけない唐揚げは普通味だったが、甘酢最高。
でも島のみんなは「何もつけなくても美味しい」と褒めてくれた。満点の優しさ。
「このたれ美味しいですね~」
「ですよね。ご飯がすすみます」
「噛めば噛むほど深みのある味が舌を楽しませてくれます」
「……ですよね」
カセルさん作の野菜の炒め物と、サンリエルさん作の煮込まれたお肉ももちろん美味しい。あ、アルバートさん作のサラダも。
カセルさんはマッチャの作った料理をガツガツ食べていて、正直な青年だと改めて実感した。そういうとこ好きよ。
アルバートさんはまんべんなく食べていると見せかけて唐揚げを1番口にしていたので、こちらも改めてなんでも美味しい舌なんだと実感した。
サンリエルさんは……うん、サンリエルさんだった。
当然のように唐揚げのお持ち帰りをお願いされたので、カセ&アルにも渡しておいた。
親元を離れている息子が実家に帰ってきた時に、タッパーにおかずを大量に詰めて持たすお母さんの気持ちがわかった気がする。