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とても幸せに暮らしています~私とモフモフと過保護の日常~  作者: シーグリーン
暇を持て余した神の使いの就職活動編
18/22

初代拝謁許可者によるとみられる回想録2

視点変更です。

 



 守役様を肩に乗せた祖父の姿を見た瞬間、めまいがした。



「ギルバート!」



 祖母も慌てる事があるのか……。


 祖父の後ろからはどうしたらいいのかわからないと言った様子のジーリ義兄さんも寝ているジーノを抱いて下りてきた。

 俺もどうしたらいいのわからない。



 辺りを見回すと領主様以外はみな守役様を無垢な子供のような目で見つめている。

 母が興奮し過ぎないよう祈るばかりだ。

 ただ、バルトザッカー隊長はあまりの事に言葉が見つからないようで、口が開いたり閉じたりしていた。



 そしてヤマ様は……なんと言うか……渋い顔、そう、まだ熟していない果物を食べた時の顔をしている。

 あの表情は見てはいけないものでは……?



「……サ、領主様……」



 鋭いと褒められた事はこれまで一度もないが、今回はヤマ様が領主様に事態の収拾をすべてお任せになったのがわかった。



「任せておけ」



 領主様はいきいきと目に見えて張り切りだし、俺の家族とバルトザッカー隊長にヤマチカさんの一族の生き残りという素性について説明している。頼られて嬉しいんですね。

 ヤマ様の判断は正解だ。



 そのヤマ様は渋い顔のままでカセルに「しょうがないです。こんな事もありますよ~」と声を掛けられていた。

 おい! 御使い様に対して偉そうな事を言うな! 友達じゃないんだからやめろ!



「守役様! 私、恐れながら守役様のお姿を模した装飾品を身につけさせて頂いております!」



 そんな中大きな声で祖父の肩にお乗りになっている守役様に向けて水の族長は興奮したまましゃべり続けている。


 当の守役様は聞いていらっしゃらない気がする。羽を大きく動かして祝福を与えて下さっているからだ。

 水の族長は少し落ち着いた方がいいかもしれない。声が外まで聞こえそうだ。あと地の族長も。


 しかし風の族長まで空飛ぶ守役様にそっと自分の装飾品を見せていたので落ちつく事はないとわかった。

 そしてイシュリエ婆さんは守役様と祖父を交互に見ながら、祖父の時だけ睨むという器用な事をしていた。


 それにしても祖父の髪がぼさぼさだな……。





「――そういう事ですか」



 足元にいらっしゃる4本足の守役様と白い守役様を渋い顔をしながら見つめている――カセルはその状況でよくへらへらしてられるな――ヤマ様をこっそり見ていると、祖母の声が聞こえてきた。



「お祖父達も知ってたのね!」


「まったく。フィンセントもそうだけどあの子達は隠し事が上手過ぎるわ。ジーリは何となく隠し事をしているのはわかったのに」


「お、俺だけですか?」


「そうよ。何か極秘任務に携わってるのかとお祖母様とお母様と話し合ってたの」


「そうなんだ……。隠し事しててごめんね、アレクシス」


「良いのよ」



 ジーリ義兄さんが姉に隠し事を出来るとは思っていなかったが、問い質されなかったのはそういう事なのか。

 しかしこんな大勢の、しかもヤマ様がいらっしゃる前でべたべたしないでもらいたい。



 そのヤマ様だが、先程は渋い顔をされていたのにもう嬉しそうな顔をされていた。

 さすがヤマ様だ。切り替えが早い。

 だがじりじりと姉とジーリ義兄さんに近付いているのは何故だろうか……?



「守役様、私は“理”のローザと申します。拝謁許可者アルバートの祖母でございます」



 祖母が深々と腰を折って守役様に挨拶すると、母と姉もそれに倣った。

 領主様達も神妙に守役様に敬意を表している。なので俺も慌てて礼をとる。


 しかし、自分も膝をつこうとした祖父は肩に守役様がお乗りになっている為どうしたら良いのかわからずおろおろしている。

 しかも4本足の守役様が両足の間をぐるぐるとくぐっていらっしゃるのでその場から動けない。


 あんな状態でこの街の権力者全員からあんな視線を向けられたら俺なら確実に気絶する。



「……守役様、このような事をなさっては御使い様がなんと仰るか……」



 そんな中ヤマ様が4本足の守役様をそっと持ち上げて棚の上にお乗せになった。

 それに続いて祖父の肩にお乗りになっていた守役様が空中をお歩きになってヤマ様にお顔を寄せた。

 それでようやく祖父も礼をとる事が出来るようになった。



 が、安心していた俺の頬に白い守役様がぶつかって――そのまま張り付いていらっしゃる。



「あ、あの……?」



 俺が動揺しているとヤマ様は無言で白い守役様を手で包んで棚にお運びになった。

 4人の守役様を置物の様に並べてらっしゃるな……。

 それに毛の流れとは反対方向に手を動かしているような気がする。



「守役様が気持ちは受け取ったと申されておりますので立って下さい」



 その言葉に立ち上がりはしたものの、みな守役様を興奮した様子で眺めている。

 祖母は祖父の髪をこれまた興奮しながら直していて、その様子をヤマ様はじっと見つめていた。

 一瞬領主様の姿がよぎったのは何故だろうか……?



「ヤマチカさん、私達と一緒に暮らしませんか?」


「え?」

「え!? ――あ、も、申し訳ありません!」



 突然祖母がとんでもない事を言い出したせいで大きな声を出してしまった。

 注目を浴びてとんでもなく恥ずかしい。

 技の族長とバルトザッカー隊長が肩をやさしく叩いてくれるが恥ずかしさは収まらない。

 一緒に暮らせるわけがないだろう!



「さすがお祖母様ですわ。ヤマチカちゃん、私妹が欲しかったの」

「客間を整えないと。いえ、それより増築するのも良いわね」

「浴室も増やさないといけませんね」



 俺が恥ずかしさのあまり俯いている間にも話はどんどん一方的に進んで行く。

 やめてくれ! ヤマ様がお困りになるじゃないか……!



「それは不公平だわ!」

「そうですよ! 俺達は領主様が睨むから言えなかったのに~」

「まあまあ」



 地の族長はすごいな……。領主様の前であんなにはっきりと……。



 そしてまたお偉いさん達が揉め始めた。

 俺の家族も揉め事に参加しているという事実に気が遠くなりそうだ。



「お話の途中にすみません、守役様に呼ばれましたので」



 ヤマチカさんの本当の住まいは神の島だと言えるわけもなく、そわそわしながらヤマ様の様子を窺っていると、ヤマ様が守役様とさっと2階に向かわれた。



「あ……」



 もしかして不興を買ってしまったのではないだろうか……?

 居てもたってもいられなく階段の下までつい走り寄ってしまい、階段の上部から4本足の守役様に牙を剥き出しにされて睨みつけられてしまった。



「なんて凛々しいお姿……!」

「そうだな」

「凛々しさに満ち溢れていらっしゃいますね」



 ……おかしい。一族だけの感性かと思っていたが、良識のあるバルトザッカー隊長も恐れを感じている様子は一切ない。祖父も恐れとまではいかないようだ。

 もちろん母と姉は恐れなんて感じないだろうが。


 俺だけなのか? 牙があんなにも鋭いのに……。





 領主様が俺を押しのけて階段の近くに陣取った時、ヤマ様が笑顔で下りてこられた。



「みなさん、これから本日店を見守って下さった守役様に感謝を捧げる宴を開きますので、良かった参加して下さい。――ここではない私の家で開きます」



 ヤマ様がそう言った途端みな息を飲んだ。

 とうとうあの拠点の存在が……。



「遅れて来ても早く帰っても問題ありません」


「もちろん最初から最後まで参加します!」


「カセルさんは参加ですね」



 おい。拠点の場所を知ってるお前がなんで1番に声を上げるんだよ。

 領主様に睨まれてるぞ! いつもはこういう時領主様が1番だからな……。



「そうそう、領主様はお時間があるなら皆さんをばらばらに私の家まで案内してもらえますか? 領主様が1番道に慣れていると思いますので」

「任せておけ」



 ……すごい。あっという間に領主様の機嫌が良くなった。

 さすがヤマ様だ。





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