16 人はそう簡単に変わらない
個人的には大剣装備というファンタジー装いを目にしたかったが、結局外に置いてもらう事になった。
そりゃそうだ。
そして順番が来たララウルク首長にユリ王子、マーリー王女が店内に入ってきた。
王女様大人っぽくなったな~。
思わずアルバートさんにちらりと視線を向けてしまったが、アルバートさんは動揺したりはしなかった。
(そうだよね……あれからこっちでは1年経ってるんだもんな……。時の流れか……)
「あれ? 髪の毛が傷んでますね。体調でも悪いんですか? 私のこと久しぶりだから忘れちゃったかな? アルレギア連合国家のララウルク族のララウルクです」
油断していたらいつの間にかララウルク首長が近くにいた。
ぼんやりした顔をしてるのに動きは全然ぼんやりしてない。
「まだ首長なんてものをやらされてますけどね――周りに言わせると首長という首輪をつけておく方が安心なんだそうです。そんなに心配しなくても大使館の担当者として大人しくクダヤで仕事をするだけなんですけどね。早くそうなりたいものです。人相手は得意ではないんですがなんとかします。そうそう、旅に出ていたって聞きました。だから髪が傷んでしまったんですか?」
ちょっと。髪が傷んでる言い過ぎ。
ボスのさらさら尻尾ウィッグに比べたら人間の髪は誰でも傷んでるわ。
相変わらず一方的な会話だなあ。においを嗅がれてないだけましか。
「しまった。以前女性の接し方について教えてもらったんでした。忘れてました」
もう遅い。
カセルさんとイシュリエさんは笑顔だが目が笑ってないからね。
この人は私が地球に帰ってた間もめんどくさい絡みをし続けちゃったんだろうな……。
「ララウルク首長は相変わらず不躾な方ですのね。日々を重ねてもお変わりのないようで」
イシュリエさんの嫌味こわ。女性の嫌味って基本怖いけど。
監督する立場に近いユリ王子困った顔してるし。王女様はアクセサリーに釘付けだけど。そういう所はまだ幼さが残ってる。
「ヤマチカさん、アルバートと帳簿を確認してもらっていいですか?」
お、カセルさんのファインプレーがきたぞ。そしてアルバートさんは驚き過ぎ。
断る理由はどこにもないので笑顔でアルバートさんの方に歩き出そうとすると、ララウルク首長もアルバートさんの存在をはっきりと認識したようだ。
「神の愛し子の愛し子だ。あなたはもう守役様の装飾品を――」
「装飾品を見に来られたのかしら? それならこちらをぜひご覧になって下さい」
ここでローザおばあちゃんもファインプレー。
可愛い孫がからまれると困っちゃうもんね。
さすがに一族3人の防御は崩せなかったようで、ララウルク首長は装飾品をじっくりと眺め始めた。
ある意味純粋な人。
「やっぱり高いな。でも素晴らしい。どのくらい動物を狩ればこの金額が貯まるんだろう。そうだクダヤで私を雇ってくれそうな所を紹介してもらえませんか? そこそこ役に立つと思います」
接客は一族3人に任せてアルバートさんと会計の仕事をこなしているが、どうしてもララウルク首長の言葉が耳に入ってくる。
イシュリエさんは「そんな所はありません」とばっさり接客中。
そんな中今度はユリ王子が笑顔でこちらに近付いてきた。
「素晴らしい装飾品です」
「ありがとうございます」
「このような素晴らしい技術を持った親族がいらっしゃるんですね」
「……そうですね」
「今はその親族の方と一緒に暮らしているんですか?」
あれ、なんか探られてるような感じ……?
「一緒には暮らしていません。人嫌いのようでして……」
「へえ。でもこうやって装飾品を売る許可をもらっているんですからヤマチカさんは特別なんでしょうね」
「今回の滞在期間は」
「あ、あの……!」
ヤマチカの状態でいる時にあれこれ質問されてもなあと困ってきたところで、店にやって来たサンリエルさんと隣のアルバートさんの声がかぶった。
「申し訳ありません……」
アルバートさんは声が重なってしまった事でおろおろしているがフォローしようとしてくれた事が嬉しいぞ。
サンリエルさんもありがとう。
クダヤで1番のお偉いさんの登場により使者来訪イベントは無事終わった。強制終了に近い。
王女様は表向き王族という事実を隠しているので売り物のアクセサリーは買わなかったが、チラチラお兄さんに視線で訴えていた。
お兄さんは笑顔でその視線を無視してたけど。王女様残念。茶葉で何とか我慢してね。
帰り際にユリ王子に「依頼した装飾品を楽しみにしています」と言われ困った。納期が……。
王女様も帰り際アルバートさんにとびっきりの笑顔を見せていたので人の恋路にまたぐいぐい身を乗り出してしまいそうでこれまた困った。
ララウルク首長もアクセサリー以外のものを買ってくれたが、お菓子を手に取った時にサンリエルさんの目が一瞬細まったのを私は見逃さなかった。そうか、嫌か。
「皆さん今日はありがとうございました」
疲れてきたので当初の予定より少し早めに店を閉める事に。頑張るとかしない。
さらっとお偉いさん達は再集合でコンプリート状態。今日もクダヤは平和なんだな。
売り上げの報告とか私より真剣な顔して聞いてるし。
「あと6日間お店を開けますが、装飾品はその都度家に持って帰るので箱に戻します」
別に置いておいてもいいが怪我人が出るのも良くないからね。
大丈夫だとは思うけどチカチカさんや島のみんなの普通の人間の脆さに対する理解度が心配なんだわ。一族の人が頑丈だから特に。
最近の甘やかされ具合から推測するに盛大なお仕置きをしそう。
「……ねえ、やっぱり他にも家があるの?」
「今日もどこか他の場所から来てたわよね」
「あ」
しまった、一族生き残り設定を知らないアレクシスさん達がいたんだった。
族長さん達には秘密の隠れ家的なニュアンスでその辺はふわっとさせておいたし、向こうからもその辺は詳しく聞いてこなかったんだよね。私には、だけど。
というか自宅兼店以外の所からやってきたらそりゃ気になるわ。あー先を考える力が欲しい。
「2人ともそれくらいにしておきなさい。領主様や族長達の態度からして口に出せない事もあるんでしょう」
ひっ。
ローザさん正解です……!
やっぱりここまで特別扱いされてたら気付きますよね。
「アルバートは動揺を悟られないよう訓練が必要ですね。動きに出てますよ」
「え!?」
ローザさんそれは私もたまに思う。
「ヤマチカさんそんな顔をしないで。責めているわけではないですからね」
……私も出てたみたい。思いっきり顔に。人の事言えない。
この流れをどうしようか考えていると、階段にこっそり姿を現しているダクスが視界の隅に映り込んできた。
(何やってんだ! あっキイロも!)
こちらは必死で視線をそちらに向けないようにしているが、ぎしりと音を立ててギルバートおじいちゃんがそろりそろりと階段を下りてきてしまった。
肩にロイヤルを乗せてゼロ距離で睨まれながら。
まじで、なにを、やってんだ。