9 エネルギッシュな中高年
お店を久しぶりに営業する為ここ数日あれこれと動き回っていたのだが(主にクダヤの人)、解決していない問題が1つ。
「ねえチカチカさん……もうすでにオーダーメイドアクセサリーの予約が5年待ちになりそうなんですけどどうしよう……」
惑星の影響力まじとんでもない。
「お店を再開してもないのにすでに予約殺到なんですけど……」
私の見通しの甘さがもうね……。
絶対経営者とか無理じゃん。今現在経営者だけども。
「ユリ王子を窓口にユラーハンの王族の人からも注文が入ってるし……あの変わり者ララウルクさんからもだし……。しかもミナリームのあの穏健派トップの真面目おじ様まで……」
超富裕層の購買意欲をなめてた。アクセサリーひとつによくそこまでお金出せるよね。
お金がありすぎて使い道に困ってるの? 喜んでもらうけど?
一族の人相手ならまあ大丈夫かな~なんてのんきに構えてたら、他国のロイヤルファミリーまで参戦してきたっていうね。
「はるは地球で庶民だったからお金を使い切れない程持っている人間の感覚がわかるはずがない」
チカチカさんは慰めてくれるが、庶民とはっきり言われてなんだか複雑な気持ち。
「悩むくらいなら3ヶ月設定をやめればいい」
「ごもっともで……」
どう考えてもそれが足を引っ張っている。
もともとヤマチカの生き残り設定を知っている人達は本当は3ヶ月も制作期間はかからないって知ってるし、さっさと渡して時期が来るまでこっそり自宅で鑑賞してもらうのが良いのかもしれない。
「ナナ、サンリエルさん達の分だけもう作ってもらいたいなあ~」
精一杯可愛く見える角度の上目遣いでナナにお願いする。
このくらいだと保護者も「可愛くない」指摘をしてこないだろう。セーフセーフ。
「出来た」
「はや!」
仕事が出来るどころの話じゃない。
びっくりし過ぎて「はや!」と連呼していたらチカチカさんに怒られた。うるさくてすんません。
私の正体が御使いだと知っているサンリエルさんとカセルさんはすべてを私にお任せしてくれたが、族長さん達は芸術作品のようなデザイン画を持参してきた。リレマシフさんは真珠も持参だ。
ガルさんのデザイン画は例外で野性味溢れまくってたけど。さすがネコ科は私の期待を裏切らない。
でもサムさんがやんわり手直ししてたな。
購入の意思があるならアルバートさんには無利息の分割払いを提案しようとしたが、カセルさんにこそっと「アルバートは結婚相手が見つかってから注文させるのが良いかもしれません」と言われたのでその案に乗っかる事にした。
そうだよね、一族じゃないからアルバートさんに高額の商品は負担になるよね。買いたくないと面と向かって御使いに言えないだろうし。優しいなカセルさん。
まあその案はアルバートさんにばっちり聞かれてたみたいで、カセルさんはずっと睨まれてた。
余計なお世話かもしれないが、甥っ子アルバート結婚の際は地球式のウエディングドレスをプレゼントしようと思う。
奥さんの家に代々伝わる衣装があるとかならアルバートさんの衣装を作らせてもらいたい。
結婚式の企画とかさすがに迷惑かな……。赤の他人だし……。でも全力で祝いたいし、確実に嬉し泣くと思う。私が。
せめてお披露目の席には呼んで欲しいな。参加したそうにしてたら呼んでもらえるかなあ。
「よし、じゃあ商品を納品しに行きましょう。打ち合わせみたいな雰囲気を出してさらっと港の執務室に行けばいいかな?」
「揉めてる」
「ん? 揉めてる?」
「力の強いのが集まってアクセサリーの予約の順番で揉めてる」
「えっ……それもう解決してますよねえ……?」
ガラス棚の設置という表向きの理由でお店の方にデザイン画を持ってきてもらったのだが、その際にくじ引きで順番が決まったはずだ。
ちなみに1番はくじ引きの前にサンリエルさんで決定していた。そのうち領主退任要求とかされないか心配。
「第2弾の予約」
「第2弾……」
確かにオーダーメイドに関してはひとまず1回の注文で1つだけに制限したけどさあ……。
もう次の事考えてるのか。
「あと3人分が権力を振りかざして販売するアクセサリーを自分1人で買い占めようとしてる」
「うわ……」
季節限定の商品として少しだけアクセサリーを作る案は変更した方が良いのかもしれない。
このままではクダヤの女性がパートナーとウインドウショッピングを楽しむ前に店頭から商品が消えてしまう。
「あの人前からですけど……なんだか更にいろんな意味で元気いっぱいですね……」
「飼い主と久しぶりに会えたペットが興奮し過ぎておかしな動きをするやつと同じ」
「例えひどい!」
自分とこの人間に対してドライだとは思ってたけどさあ……。
「でもこれは御使い権限でサンリエルさんの購入を制限した方が良いですね。そりゃあたくさんお世話になってますけどね」
さっそく説得と商品の納品も兼ねて店に向かう事にした。
「あーそうだ。農地も用意してもらったんだ」
お店に着いてから農地の存在を思い出した。
拠点の畑みたいに早送りで収穫できないから今のうちに種を植えておかないと。
「……遠いな」
しかしつい本音がこぼれる。
キッチンの椅子に腰を落ち着けてしまったし、用意された農地は大森林側にあるからかなり歩かないといけない。
しかも街を守っている防壁の外にあるので農地用の門番チェックを受けないといけない。街の外にあるちょっとした砦の近くなので安全性はばっちりだがなにしろ遠い。説明されただけで行った事ないけど。
車生活ならぬ瞬間移動生活、エン移動生活に慣れていた私にはそれだけで気が重い。もやしっ子過ぎる。
「……とりあえず様子窺い隊が来るまでお茶飲むか」
お得意の『問題の先送り』をしようとしたところ、保護者から突然ある提案をされた。
「トンネルで繋げる?」
「…………トンネル?」
「ここと拠点と農地。それならそれに乗って移動できる。瞬間移動でも良い」
女性版チカチカさんの視線の先にはエン。そのエンは体を私に擦り付けながら「任せて」と言っている。
……やばい。過去最高レベルの甘やかしが飛んできた。
「……でもいきなりお店から出てきたりすれば怪しまれるでしょうし、農地にいきなり現れてもおかしいですし……」
「出現ポイントを別に作ればいい。街の入り口と店の近くにひっそり小屋でも建てさせて。ここの人間なら喜んで作業する。直接繋げて惑星の力で怪しまれないようにも出来るけど」
……なんか古代エジプトのファラオみたいな事言い出した。ピラミッドじゃないけど。
「いやでもわざわざ……。歩けばいいだけですし……」
「毎回歩く? 店から外の農地まではるなら2時間近くかかるけど」
「…………トンネルつくる……」
私に選択の余地は無いんだ。
「……ついでに大森林の木の滝エリアと拠点をトンネルで繋げて欲しいってお願いしたら怒ります?」
「怒らない」
……過保護、フォーエバー。