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灰色ノ世界  作者: 新井真
第三章 波乱と幻想の白魔族界!!
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五十一話:黒のキング


 ここは黒魔族界。半壊状態の黒魔城の前の人だかりは、城が破壊されたという噂を耳にした人が集まることで、その数を増していた。


「おい! 一体どういうことなんだ! 街で暴れたあいつらは一体誰なんだ!」

「調査しろ! さっさと! 公表しろ! さっさと!」

「偉い人呼んできて!」


 門の前では一般魔族たちが口々に叫んでいる。城への侵入を防ぐ衛兵もさらに人員を増やし、対応におわれている。

 そんな彼らを、黒魔城の側面にぽっかりとあいた穴から見下ろす魔族がいた。


「あーあ。立て続けにいろんなことが起こって、みんなパニックになってるっすよ」

「私もなりかけてるわ」


 剥がれたタイルを集めながらマクーがそう言うと、げんなりとした様子でウィズが答えた。

 二人は数名の衛兵団を連れて黒魔城の片付けに来ていた。はじめは「なんでこんなことを……」と文句ばかり言っていたウィズも、ついに口を開く余裕すらなくなっていた。


「それにしても、これ……すごいわよ。あの方、ここが自分の城ってこと知らなかったんじゃないの?」

「ホーマーさんに止められなかったら、ウィズさんもこんな風になってたかもしれないっすよ。……はい、これよろしくっす」


 ウィズは床にあいた穴を覗きこむ。先程見た、城を貫いた巨大な魔法によるものだ。近くの兵に大きめの床の破片を渡し、マクーが言う。


「仕方ないでしょ!? 知らなかったのよ!」

「いやいや、俺も知らなかったから責めるつもりはないっすけど」


 彼らが知らなかったというのは、この城を破壊した人物のことだ。その男は闘技場に現れ、一人でゲートを作り出し、白魔族界に赴いた。


「大丈夫なんすかね。闘技場に、カッゾは誰も残ってないっすけど」

「大丈夫なんじゃないの? あの方の力見てたでしょ?」

「そうっすねえ」


 ホーマーは城の外にある病院にいる。救護室がなくなった今、頼れるのはそこだ。

 彼が倒れたきっかけは、例の男だ。闘技場に現れた男を見たホーマーは、頭を抱えて苦しみだしたのだ。男が何かの魔法をかけると、彼は苦しむのをやめて眠ってしまった。男曰く、「じきに目覚める」らしい。


「特に説明なく行ってしまわれたわけっすけど……」

「今まで表に出てこなかったし、いい加減な人なんじゃないの?」

「あ〜。言いつけるっすよ? そして出かける直前、最後に『すまんが、よろしく頼む』っすよ。何のことっすかね?」

「さあ? 謎ばっかりだわ」


「ウィズ様、このフロアに散らばる瓦礫は取り除きました。危険物も異物も、特にありませんでした」


 年老いた兵が二人の前に立ち、報告をする。


「お疲れ様。じゃ、下の階行きましょうか」

「喋ってばっかで申し訳ないっす、団長」


 わざわざ移動して階段を使うまでもない。彼らは床の穴から一つ下のフロアに降りていった。


#


 そしてここは白魔族界。

 オズマの奇襲を受けてピンチだった瑛士一行だったが、突如として謎の男が現れた。そしてその眼前の男は、黒魔族王ブレッジ・ラダラトゥスと名乗ったのだった。


「王……だと……!?」


 ザラルは膝をつく。実は五本のエンゼリングとともに自分自身の魔力も使い切り、立っているのも限界だった。


「あの人、王様らしいですよ、リックさん!」

「ら、らしいわね!?」


 物陰から瑛士たちはその光景を見ていた。


「らしいわねって、あんた自分の世界の王様見たことないの!?」

「そうだよ」

「エイジくんもジェオスちゃんもそう言うけど、本当にいるのかどうかも怪しかったの! 少なくともここ百年は、王が人前に現れることはなかったみたいなんだもん! うちのおばあちゃんが言ってた!」


 リックはムキになる。そして彼らの一番左端に隠れていたナレスが「あの……」と手をあげる。


「百年以上前からの王様……にしては若くないですか?」

「たしかに」


 彼女の言う通り、ブレッジの外見は若い。髪も髭もまだ黒く、顔には目立った皺もない。


「若い、か。嬉しいことを言ってくれるな!」


 ブレッジは視線をザラルから瑛士たちの隠れている岩陰の方に移し、聞こえるようにそう言って頬を緩めた。

 瑛士たちは思わぬ返答にぎょっとする。


「魔族はみんな地獄耳なのかよ。小声で話してるのに全部筒抜けじゃん」

「聞こえにくいのでな! 強化系(ストロ)で聴覚強化をしておるのだよ」

「普通に会話できるし……」


 十数メートルを隔てた会話の外で、王を睨みつける魔族。身体中の毛を逆立たせ、血が滲むほどに歯を噛み締めた。


「王はァ……俺だァアあああぁあぁああァア!!!」


 とびかかるオズマ。魔力と体力は尽きている筈だが、これまでにない動きを見せた。全身に赤いオーラを纏う。ナイフの巨大な刃を立て、ブレッジの背後から貫こうとする。


「王様っ! オズマが!」


 瑛士が叫ぶが、ブレッジはこちらを向いて笑ったままだ。赤いオーラは強化系魔法を示す。オズマは叫びながら、刃を握った手を全力で突き出した。


「王様ァ!」


 瑛士とリックは思わず瓦礫の陰から出ていく。そんな二人にブレッジは手を向け、静止を促した。


「心配いらぬ。こういった不意打ちへの対処は──」

「!?」

「我の得意技なのでね」


 オズマの刃の切っ先、その小さな一点に、壁が出来上がっていた。

 王の創造系(レアテ)の強度は驚くべきものだった。メガネのレンズほどのバリアは、オズマの攻撃を通さなかった。


「その武器は封じさせてもらおうか」


 生成されたバリアから壁が広がり、オズマのナイフ、それを持つ手、腕、肘までを完全に固めた。


「もう何もできぬだろう? 大人しく──」


 余裕綽々で振り向くと、オズマはふっと消えた。その場には砂煙がたち、彼の姿は見えることはなかった。


「……逃げられてしまったか?」


「なーにやってんすか! せっかくのチャンスだったのに! また被害増えますよそれじゃあ!」

「エイジくん! 相手は王よ! 逆らうのやめて!」


 ずかずかと王に向かって歩いていく瑛士の腕を引っ張るリック。ナレスとジェオスはその後ろを黙ってついてきた。


「いやあすまん。まさかあれほど素早いとは思わなかった」


 ブレッジは驚いたような顔で、頭をかく。


「あんなにすごい魔法を使う王様でも、油断するんですね」

「エイジくんっ!」

「仕方なかろう? 我はずっと眠らされていたのだ。どうやら怠惰な王だとか好き勝手言ってくれたようだ。いや、眠りというより封印に近い……」


 拗ねたようにそっぽを向き、ブツブツと文句をこぼす。まるで子どもだ。


「あの男、我を謀っておった。いや、我だけではなく我らの世界、黒魔族界を裏切った。いや、もしかしたらそれだけではないかもしれぬ」


 ブレッジは拳を握り、怒りを表した。瑛士たちは、漏れ出す魔力とその迫力に背筋を凍らせた。


「おい、君は白魔族だったな。この世界の王はどこにいるか分かるか? 案内して欲しいのだが」


 問われたのはザラル。リックに体の傷を癒してもらっている最中だったが、ブレッジに話しかけられ、急いで立ち上がり、焦りながらも返事をする。


「はい。あ、えっと、この場合は議会の場所でいいのか……? 議会なら、あちらの方向です。きっと他の黒魔族の皆様も向かっていると思われます」

「よろしく頼むぞ。……っと、他にも黒魔族界から来ておるのか?」

「第三位テトさん、第四位サラさん、第七位ジェムさん、第八位ベリドくん、そして私、第十位リックです」


 リックがそう言うと、ブレッジは顔をしかめた。


「我の問いへの答えは分かったが、その、『第何位』というのはなんだ?」

「カッゾの序列です。複数の魔法が使えて、ある程度の魔力を持つ人たちを集めて作った、黒魔族界の特別階級ですよ」

「はァ……なるほど。また、色々とやってくれたようだな……」

「さっきから何を仰ってんすか? 何かあるんですか?」


 一人で納得して顎を撫でるブレッジに、瑛士は尋ねる。


「いや、いずれ話してやろう。まずは白魔族の王とも話し合わねばな。先ほどのオズマという男のことは後回しで構わん」

「白魔族界の……王とですか? やっぱり議会じゃないのかな? ナレスさん、この世界に王なんていらっしゃいました?」

「い、いえ。聞いたことがありません」


 二人のやりとりを聞いて、ブレッジは頷く。


「ふむ。白魔族界でも何かが起こっている、ということか」

「何か……ですか?」

「そう。何か、だ」


 そう言ったブレッジの目は、すでに何かを見ているようだった。


#


 黒魔城の掃除もかなり進んだ。

 兵たちだけでなく、城内のシドたちも加えて共に作業をした。結果、効率は良くなり、かなりの部屋を掃除することができた。

 次の部屋はどこだろうか。ウィズは穴から下のフロアを見る。

 今までのように光が差し込んでおらず、異様な雰囲気を醸し出していた。彼女は、すぐにその部屋が何であるかに気がついた。


「あら。ここって私たちがいつも集まる場所よね? こんなところにあったのね」

「むしろ、本当に城の中にあったことにびっくりっすよ」


 この場所への移動手段は転移系魔法のみ。周りの環境を遮断した部屋は、外の声は一切聞こえないようになっていた。もっとも、今では天井から上の階の音がどんどん入ってくるようになってしまったわけだが。

 マクーは一足先に下に降りる。


「やっぱ外と比べると暗いっすねー」

「壁に火があるでしょ? 文句はだめよー」


 たしかに壁には明かりとして、十の炎が存在する。そんなウィズを無視して、隣から兵が懐中電灯を投げた。


「助かるっす」

「あんた、なにしてんのよっ!」

「ヒエ! すいませんっ!」


 上の階の悶着を無視し、マクーは辺りを見回す。


「えっと、ここから上に向けて魔法撃ったみたいっすねー。ここの床には穴あいてないっす」

「やっぱりこの部屋にいたのね。階段の奥に部屋でもあったのかしら?」

「階段っすか。たしかに──」


 ウィズの言葉を聞き、マクーはライトを階段に向ける。そしてすぐにその方向に走っていった。そこは、いつもは生地の厚い紺色のカーテンがかかっているのだが、この時は違った。吊り下げている天井から千切れ、その切れ端は黒く焦げていた。


「……!」

「どうしたの?」


 マクーが上の階から見えなくなったため、ウィズも降りてきた。立ち尽くす彼に声をかける。

 兵やシドたちは、場所が場所なだけに、穴の上で待機している。カッゾ以外は足を踏み入れることは許されていないが、見るだけならOKだろうと、穴の淵にぎゅうぎゅうに詰めて並んでいた。

 マクーは階段の上に立っていた。声をかけられ、振り向く。


「ウィズさん……これ、見て欲しいっす」

「なによ?」


 マクーがそこを退く。カーテンの奥は更に暗く、ウィズは目を凝らした。


「なにも見えないんだけど……」

「これで、どうっすか」


 マクーが一点にライトをあてた。そこには何かが倒れていた。


「ひっ! なにこれ!?」

「死体っす。服がボロ切れみたいになってるっすけど、血はそんなに出てないっすね。でも重要なのはそこじゃなくて……」


 ライトはその顔を照らした。


「!?」


 ウィズが息をのむ。

 ぼろぼろになって死んでいたのは、伝達役のルシルだった。

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