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灰色ノ世界  作者: 新井真
第三章 波乱と幻想の白魔族界!!
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四十七話:VSピト!


 中央議会の建物へと向かう途中、レグナとテトは、とある白魔族と対峙した。

 中央街のど真ん中を一文字に伸びた道を、びゅうと風が通り抜ける。レグナとテトにとっては向かい風になる。風に乗って大小の砂ぼこりが運ばれてくる。二人は思わず顔の前に手をやった。


「おいお前、あいつは一体……? お前を知っているようだが……。くそっ、精神系(ミンド)が効かない……」


 テトは少し後退してレグナの横に並び、小声でそう尋ねた。

 現れた謎の魔族は護衛団ではなかった。動きやすさを重視したような護衛団の白い制服とは違い、明らかに装飾過多である。頭上にエンゼリングが浮いているところを見ると、やはり彼も白魔族なのだろう。


「奴はピト。中央議会の一員さ」

「ほう、あいつがそうなのか。よし、第一位のところに向かう準備運動だ。捻り潰してやる。議会のやつならば殺してしまっても、第十位は何も言わんだろう」

「やめろ。奴を殺すのは僕だ。君に邪魔はさせないぞ」


 苦々しい記憶を思い出し、レグナは眉間に皺を寄せる。視線は眼前の白魔族から離さない。非魔族界から戻ってきたときに受けた屈辱。牢で過ごした間、ずっと忘れることはなかった。


「レグナ、俺の紹介が雑だゾ。もっと有益な情報はなかったのカ? ……あるわけねーよナァ? あんたはあまりにも勝手すぎタ。中央議会のことは詳しく知らないんだロ?」

「!?」

「聞こえているのか……」


 彼らのやりとりはピトに筒抜けだった。はっとした顔でこちらを見る二人を見て、ピトは満足そうに笑顔を浮かべた。


「あんたをうまく処理できたと思ったんだが、生き延びてしまったみたいだナ。今度はきっちり殺してやるヨ。あと、黒魔族のあんたも俺を舐めすぎだゾ。レグナに似て自信家……いや、無謀なところがあるみたいだナ」

「なんだとォ!! 俺とこいつを一緒にす──」

「君はひとまず落ち着け……。それにしても随分大きくなったじゃないか、態度が。普段から白魔族中央議会(あんなところ)にいたせいで敬語の使い方すら忘れてしまったのか? そもそも君のような弱者がいるべきところではないぞ、あそこは」


 テトが挑発に乗せられて声を荒げるが、レグナは冷静に煽り返す。だがそれも不発に終わった。


「へっ。つまらない冗談だナ、レグナ。いいか? 囚人を貧民街に向かわせるようにしたのは、俺なんダ。いち早くあんたを殺したかったんでネ」

「何が言いたい?」

「あんたの言う『弱者』に命を左右されちまうような立場に、あんたが落っこちちまったってことサ。気分はどうダ?」


 レグナは地面を勢いよく蹴り、ピトに向かって突撃した。そして右手に破壊系魔法を纏い、それを至近距離で発射した。


「最悪さ! ひとまず爆ぜろ!」


 衝撃で彼らの周りの地面が飛び散る。敷かれたタイルやその下を固めたコンクリート、脇の建物から崩れた破片が空中で互いに砕きあう。そして二人の白魔族が砂煙と魔法のエネルギーの光で見えなくなった。


「ぐっ! あ!」


 テトの隣をかすめ、レグナが一直線に飛んでいく。ちょうど道の真ん中に、崩れて上半分だけになった建物が刺さっていたため、そこにぶつかることで勢いは落ちた。

 強い衝撃で背中と後頭部を打ち付けたレグナの視界に星が散る。そして自由を失ったまま地面に叩きつけられ、次の瞬間強烈な痛みと共に一段と体が重くなった。


「なん……だと。うっ、うわああああああああああ!!!」


 運が良いのか悪いのか、レグナがそこにぶつかった拍子に、脆くなった建物の残骸はどどどっと音を立てて崩れた。彼は悲鳴とともに、瓦礫の下敷きになった。


「あんたが中央議会にいた頃とは違うんだヨ。いつまでも自分を強いと思わないことだナ。あんたはナンバースリーなんていうハリボテの看板を堂々と掲げていただけなんダ」


 煙の中から現れたのは、正面に右手を伸ばしたピトだった。レグナの攻撃をものともせず、逆に彼に攻撃をしたのだ。

 レグナは背中に乗った瓦礫を粉々にしつつ立ち上がろうとする。彼は、ピトに全く歯が立たなかったことに、悔しそうに言葉にならない叫びを上げる。ピトはまた、んへへへと変な笑い方を響かせた。

 そしてテトはぱちぱちと拍手をしはじめた。

 レグナもピトもそれに驚いたようで、彼の行動に釘付けになった。


「な……、貴様、何をしてっ……。奴は敵だぞ……!」


 レグナは壊れた建物とえぐれた道路に体の自由を奪われながら、テトに向かって怒りの言葉を投げる。

 テトはそれを無視してピトにこう言った。


破壊系(トロイ)の相殺、そして相手の防御魔法を予想し、かつ周りの景色を理解してそれを利用するための操作系(コン)……。なかなかやるじゃないか。それがお前の本気なのか?」

「へへっ。そんなわけないだロ。こんなのまだまだ半分くらいサ。それでもあんたには勝てそうダ」

「……そうか」


 テトは吹き飛ばされたレグナを一瞥し、ピトの方を振り返る。レグナはまだ抜け出せてはいなかった。

 彼は深呼吸をして、また一つ質問をした。


「おい白魔族。第一位はどうした? 先にお前たちの議会とやらに向かったはずだ。あいつは分身することができる。お前たちが何人であろうと、第一位は分身して一対一で戦うと思うが?」

「あの黒魔族なら、倒したヨ」

「ほう。恐ろしいほどの実力者だな。それが嘘でないなら」

「本当サ」

「本当か?」

「しつこいナ」


 二人の問答が続く。


「あんたの狙いが分かったゾ。レグナが戻ってくるまで時間稼ぎをしようというんだナ?」

「あ?」

「自分一人だけでは俺に勝てないと踏んだんだロ? その判断は正しいヨ」


 テトはだんと足を踏み鳴らす。地面に小さな窪みができた。それを足にひっかけてピトのもとまで飛んだ。


「レグナと攻撃パターンが一緒じゃないカ。頭が悪いのカ?」

「ここまで耐えたがもう我慢ならん! さんざん俺をコケにしやがって!! いつまでも俺がおとなしくしていると思うなよォオ!!」


 テトが怒りを露わにする。


「俺はァ! 黒魔族最上クラスカッゾ第三位! テト・ティムポスカルだぞ!」

「へぇ、第三位? なんダ、そんなところまでレグナと一緒じゃないカ」

「一緒にするなといったはずだっ!!」


 テトがパンチを繰り出す。ピトには当たらない。そして代わりに彼の蹴り上げが炸裂する。

 ピトはそれほど背が低いわけではないが、テトがあまりにも大柄すぎた。懐に潜り込めば攻撃の範囲から外れ、隙が生まれる。そのうえテトの攻撃の特徴も重なって、避けることは容易だった。


「こんなものなのカ! 黒魔族の最上クラスは! 大したことないナァ!」


 バランスを崩したテトは、さらにピトに蹴り飛ばされ、着地に失敗して後ろに倒れた。


「ぐうっ……!」

「どうした、調子が良くないみたいだが」


 レグナが、いつのまにかそこにいた。彼は倒れたテトに向かって手を差し出す。


「なんのつもりだ。それより、出てくるまで遅かったな」

「ようやく抜け出せたのさ、君が時間を稼いでくれたおかげでね」

「お前までそんなことを言うのか!」

「──感謝するよ」

「!」


 テトは不機嫌そうな表情を崩し、ふっと笑った。レグナの手を取り、立ち上がる。


「おいお前。もう準備はいいか? 今度は吹き飛ばされるんじゃねぇぞ」

「当然だ。君こそ、次は奴のペースにのまれないようにね」

「誰に向かって言ってやがる」


 二人は並び、ピトの方を向いた。


「たとえ二人で来ても、結果は一緒ダ」


 ピトは調子を変えず、両手を開いて魔法の準備をする。そしてこちらに手を向けたと同時に、魔弾を連続発射した。


「それはどうだかな」


 レグナはまた、ピトに向かって正面から突っ込んでいった。魔弾一つ一つを避けていく。


「同じことをしても意味がないゾ!」


 と、ピトがレグナに手を伸ばした瞬間、彼の姿が消えた。


「なニ!?」

「こっちだ!」


 次にレグナが現れたのは彼の背後だった。テトがレグナを転移系魔法で移動させたのだ。


「どうだ」

「……別ニ。どうってことないだロ」


 事実、レグナの奇襲も避けられてしまった。

 ピトは近くに来たレグナに手を伸ばす。が、今度はレグナの体に触れることなく、自分の腕が消えた。今度はレグナが、自分の体の前後に転移系魔法を発動し、ピトの腕がすり抜けるようにしたのだ。


「くソッ!!」


 ピトは破壊系(トロイ)の魔弾を乱射する。レグナも負けじと乱射し返す。


「こっちだ! レグナ(・・・)!」

「……! ああ!」


 レグナはピトを挟むように、テトの向かいに移動した。そして変わらず、破壊系(トロイ)を発射する。


「両方から挟み撃ちでもしようっていうのカ!? 無駄ダ! お前たちの放つ魔法なんて簡単に避けてやル!」

「それがどこから来ても、か?」

「!?」


 ピトの周りを青い光が取り囲む。そしてそこから無数の魔弾が飛んで来た。


「うぁあああああああああ! こ、これハ……!?」


 ピトは一つ攻撃を受けると、急に動きが悪くなり、また一つ、さらにもう一つと攻撃を受けた。


「僕の魔法がお前に直撃するように、こぼれ球を全て転移させた!」

「俺が、な」

「く、レグナァ……! 小癪なことヲッ……!」


 ピトはレグナの猛攻を避けるのに集中している。それに転移系(ポート)の光でテトの動きは見えにくい。これ以上ない攻撃の機会だった。

 テトは手に、最大限の魔力を込めた。


「うおおおおおおおお!!!」


 テトは叫びながらピトに向かって拳を構える。

 はっと何かに気付き、レグナはテトに向かって大声を出した。


「おい! 君のッ……!!」

「うるさいんだヨォ!! そこカァ!」

「ぐっはっ……!!」


 レグナはピトの操作系(コン)で地面にうつ伏せの状態でたたきつけられる。そしてさらに上から過剰な重力をかけられ、地面にめり込む。なんとか顔を横に向けたが、顔半分が埋まってしまったために呼吸ができない。

 レグナの動きが封じられたことで、ピトを包囲した魔法も意味をなさない。

 テトがピトの体越しにレグナを見る。レグナは何かを言おうとしているが、空気を吸えないため声を出すこともできない。口が動くが、半分以上が地面に隠れていて読み取れない。


──大振りなんだよ、君の攻撃は。それじゃあいくら魔力があったとしても当たらない。


 テトはその言葉を思い出した。

──大振り……か。


「ならば……これでどうだ!」

「……!! 何ッ……!」


 テトは姿勢を変えた。前かがみになり、見た目の体の大きさがぐんと小さくなる。その目はまっすぐにピトをとらえていた。今度もまたテトの方へ走って攻撃をかわそうとしていたピトは焦った。自分自身に操作系(コン)をかけ、逆方向に引っ張る。

 が、間に合わない。テトの鋭い一撃が、ピトの腹に放たれた。


「ばっ……かナ……!」

「うおおおおおおおおおおお!!!」


 テトはパンチの手を開き、破壊系(トロイ)の魔法をぶつけた。内臓に衝撃を受け、ピトの口から血が吐き出される。飾り気の多かった衣服は燃え、レグナが着ているようなボロ切れとなった。

 気を失ったピトは落ちていく。頭──体──腕──脚──その順番で地面に打ちつけられてゆく。エンゼリングが頭から外れ、からんと転がる。最後には惨い姿となって、倒れた。


「やった……か」


 テトはぜいぜいと肩で息をする。そして地面にめり込んだレグナを剥がすために彼に駆け寄り、手を貸した。


「……最後の僕の一言がなければ危なかったんじゃないか」


 身体中から砂を落としつつ、レグナは冗談交じりに言った。


「そうだな。助かった。……感謝す──」

「いや」


 レグナはテトの感謝の言葉を遮る。


「こいつを倒せたのは君のおかげということにしておくよ。僕は君にちゃんと伝えられたとは言えないし、君の一撃が勝因だからね」

「……ふん。お前がそう言うなら、そうさせてもらう」


 二人は倒れたピトを間に挟んで両側に立ち、話をはじめた。


「だが、この程度で、第一位が敗れたというのはにわかに信じがたいな」

「そいつが案外弱かった、なんてことはないのか? 第一位というのは外面だけで」

「それはない。黒魔族界では第八位や、あの非魔族ですらも苦戦し、負けていたほどだからな」

「ミカミエイジも……か。それではやはり嘘をついていたのだろう、こいつは」

「嘘じゃ……なイ……」


 かすれた小さな声が、足元から聞こえた。反射的に二人はざっと一歩後ずさり、足元と手元に魔力を集中させる。


「こいつ、まだ生きていたのか!? なんてしつこい奴だ!」


 テトはそう言うが、ピトはもう自分で動くことができないくらいの重傷だった。じきに命も尽きる。四肢に動きはなく、呼吸もままならない。


「どういうことだ、嘘じゃないとは?」


 レグナはそう質問をし、虫の息のピトの返答を待つ。


「あの……黒魔族を倒したのは……嘘じゃなイ。ただ、倒したのは……俺じゃなイ……。めっ、メガ様ダ……。五人に増えた黒魔族を……一掃しタ。あのお方は……大天使の会に、認められたのサ……」


 二人は、中央街に現れたすさまじく巨大な魔法陣を思い出す。


「あぁ、あれか」

「やはり、あれをやったのはメガか。ついに大天使の会(やつら)も動き出したか……」


 間の抜けたような声を出すテトに対し、レグナは事態をおもく、深刻に見ていた。ピトは何とか二人がかりで倒すことができたが、それ以上の敵となるとそうはいかないだろう。そしてレグナの知る限り、残った五人の中央議会のうち、ピトは最弱。彼が予想外に力を付けていたことで、ほかの魔族もパワーアップしている恐れがある。状況は絶望的だった。


「もう遅イ……。メガ様は……非魔族界へ向かう前に……予定を変更なさっタ……。狙いはもちろん、黒魔族界ダ。まずは非魔族界を奪ってから……その次に徐々に攻撃を仕掛けるように狙う予定だったのを、逆にしタ……。わざわざ乗り込んで来られちゃ黙っていられない、ト」

「先に乗り込んで来たのは貴様ら白魔族だろう? 兵団が迷惑していたぞ。それに俺たちがこっちに来たのは、その際に一人連れ去られた非魔族がいるからだ。第一位が先に来たのはただの手違いだ」


──食い違いがあるな。また嘘をついているのか、ピトは? それとも勘違いしているだけか、テト(こいつ)が。

 レグナは二人の顔を交互に見る。だがそれを確認するすべはない。精神系魔法で頭を覗くことを試みたが、ピトは自身に残った少ない魔力でそれを防護していた。


「んへへ……。もうそんなこと関係なイ。お前たちは……おしまいサァ。黒魔族界も、裏切り者のレグナ、お前モ!」


 ピトは眼をかっと見開き、空を見つめる。テトやレグナに焦点は合っていない。また苦しそうにぐほっとせき込むと、先ほどよりたくさんの血を吐いた。顔半分が真っ赤だ。


「よく喋るな。もう黙っていいぞ」

「ぞうザぜで……ボらおウ……」


 彼はゆっくりと目を閉じ、二度と動くことはなかった。白魔族ピトは、静かに息絶えたのだった。


「……」

「仲間の死を見て、何か思うことでもあったか?」

「仲間? 君は今まで何と戦っていた? もう仲間でも何でもないさ」

「だが、白魔族であり、同族なんだろ」

「……あぁ」


 レグナはピトの死体を見おろし、目をつむる。

──これで一人目、か。……同族であろうと関係ない。僕はこの世界を壊してやる。


「どうした白魔族。さっさと中央議会に行くぞ。もうあいつらも着いているかもしれん。建物は間違いなく無くなっているだろう。だからお前の記憶が頼りだ。ほら、早くしろ」


 レグナが目を開けて辺りを見回すと、テトはすでに数メートル先にいた。

──自分で言い出しておいて。なんなんだこいつは。

 そんなことを思ったが、不思議とレグナは以前のように不快に思うことはなかった。そして前を歩く黒魔族の後を追った。

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