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灰色ノ世界  作者: 新井真
第一章 突如現る白黒魔族!?
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三話:迫る危機


「ほんじゃあの」


 ベリドはこちらに左手の平を向け、右手の指をぱちんと鳴らした。その瞬間、瑛士の顔面に向かって、どこから湧いて着たのか無数の黄色の光球が飛んでくる。


「うわぁぁああ!!」


 逃げる間もなく、瑛士は光球に包まれてしまった。たまらず瑛士はのたうちまわり、苦痛の声をあげた。

 今ベリドが使ったのは魔法の中でも”精神系(ミンド)”と呼ばれるものだ。その精神系の中でも対象の記憶を無理矢理引きずり出すことによって記憶を消すという少々荒っぽい魔法だ。魔法を使う側にももちろん、対象の体や脳にはより強い負担がかかり、更に痛みも伴う。


「ああ……あああ……」


 瑛士の絶叫が薄れてきた。記憶を消す魔法が効いたらしい。その代わりに瑛士はひどい息切れを起こしていた。


「ああ……あ? あれ? 何とも……。俺……何も消えて……ない」

「何やと!?」


 屋上のタンクの裏に身を隠して、瑛士の記憶が消えたことを確認しようとしていたベリドは驚きの声をあげた。


「魔法が効かんやと? そんなはずは──」


 ベリドが瑛士に駆け寄ろうとした時、屋上の扉が勢いよく開いた。


「待ったせたなー! エイジ! ほら見ろ、これ! 唐揚げサンド!! なんと今日は売り切れてなかっ……どうした?」


 意気揚々とやってきたのは宗真だった。食堂で売り切れ必至のパンを買ってきたらしい。そういった中でもすぐに瑛士の様子がおかしいのに気づいた。


「いや、何でもないよ。ちょっとくらっとしただけさ」

「そうか? お前の汗の量おかしいぞ? 水浴びでもした?」


 宗真の言う通り、まだ春で気温もそれほど高くはないというのに、瑛士の顔は紅く、水を浴びたように髪の毛が湿っていた。


「いやいや、本当に大丈夫だって。昼休み終わるぞ。ほら、飯だ飯」

「おっ、おう」


 二人はまた、いつもと同じように昼御飯を終えた。その中には大した会話もなく、ただ淡々と咀嚼する音だけが聞こえた。


「ごちそうさん。よしエイジ、もう教室行こうぜ。次の教科は……」

「化学だ。けど、ごめん、ソーマ。ちょっと先行っててくれ。俺、ちょっとやることあるんだ」

「お? おう。わかった……」


 宗真は唐揚げサンドの包みと水筒を、空っぽだった弁当箱袋に詰め込み、屋上を後にした。


「……おい、まだいるんだろ。出てこいよ」


 瑛士が声をかけた相手は、どこかに隠れているであろうベリド。


「どういうことなんや。なんでお前に魔法が効かへんねん」


 瑛士の思った通り、屋上と校舎内を繋ぐ扉の裏から、ぬっとベリドが現れた。


「そもそも俺らの魔法が見える事がおかしいんや。なんでお前みたいなやつが」

「そんなこと言われてもさ」

「しかも!!」

「ゔっ」


 ベリドは瑛士の胸に拳をつきつけた。


「あの時俺が持っていた魔力は底をつきかけとったはずやのに、俺は魔法が使えた。自分の近くにあるありったけの魔力を集めるつもりで魔法を使ったんや。非魔族界には魔力が満ちてへんと聞いとったんやけどな! 現にはじめてやって来た時にはいつものような力が出えへんかった」

「そ、そうなんだ?」


 そう言いながら瑛士は額の汗をぬぐった。


「それや! それ! その汗!! お前の他にもう一人おったやつが言うとったよなあ! お前汗だくやなあって! 聞いたことがあんねん。非魔族──お前らは魔法は使えんけど魔力はある。そいつらを手なずけれたらどこでも自由に魔法を使える、てな」

「君は俺と悪魔の契約でもしたってこと?」

「それに近いやろうな。あと悪魔ちゃうぞ、気ぃつけろ。ま、あいにく契約の条件は聞いてへんけど。黒魔法の仕様として、俺が魔法使うたんびにお前の体力が多少減るはずや。現にさっきのお前は息切れしてたし、汗もかいてた。これが証拠や」

「体力?」

「魔法はな、使用者の体力を吸うんや。俺とお前の場合は主な魔力消費者のお前の方が多く吸われる。そんで、あんまり使う魔力が多すぎたらお前は死んでまう。ま、その時は、その時や」

「そんな……」

「まあ、折角魔力の供給源ができたんや、大事に使わしてもらうわ」


 ベリドは、はははと高笑いした。


「あ、そうだ。どうせなら君の、ベリドの目的を教えてくれよ。さっき言いかけたやつ。ほら俺にはもう魔法効かないんだろ? ならいいじゃんか。もう一緒だ、一緒。な?」

「ほんまに腹立つな。落ち込んだと思たらウキウキした顔しよって。もうええ、ここまできたらお前も巻き込んだるわ。ええか?」


 瑛士を見たベリドの眼は本気そのものであった。瑛士はその眼にのまれそうになったが、気合いで首を縦に振った。


「ええんやな。分かった」


 ベリドは自分が非魔族界──瑛士たちが住む世界にやってきた目的を話そうとした。が、急に口を(つぐ)んだ。


「……どうした?」

「待て」


 声色が変わった。彼は目を閉じ、姿勢を低くした。瑛士もそれにつられてとりあえずしゃがむ。


「俺が非魔族界に来た目的は、敵対している存在が非魔族界に降りてきた、それの監視をするためや。ほんで対象が対象やったら、滅すること」

「おい、何だいきなり」


 これがさっき言おうとしたことらしい。ベリドはなおも低い声で説明を続ける。


「敵対してんのは白魔族っちゅうやつらや。俺ら黒魔族と一線を画す悪い奴ららしい。俺も最近知った」

「黒と白か」

「あいつらが使う魔法は、とてつもなく強いらしいんや。命を削るほどとなると、体力と違て回復なんてせえへんから、俺ら黒魔族でも……ましてやお前ら非魔族なんてすぐ死んでまう」

「おい、それ、本当か? 本当だったらマジでやばくね? そいつがこの近くにいるってことか?」

「避けろ!」


 ベリドが瑛士をどんと押した。瑛士は勢い余って屋上の柵へぶつかる。もう少しで落っこちるところだった。


「何するんだよ!?」

「来たで」


 ベリドはやれやれと言ったように首をふる。彼と瑛士の丁度真ん中の地点は、何かが焦げ付いたような跡が残っていた。瑛士は思わず「うひぃ」と情けない声を漏らす。

 空を見上げると、一人の人間が空中に立っていた。体からは橙色のオーラが出ている。


「おい、ベリドベリド! あいつ浮いてる!」

「……さっき俺の魔法見せたとこやろ」

「あ、そっか。あれが白魔族なのかよ?」

「せや」


 白魔族は何も言わず、ゆっくりと屋上に降りてきた。全身真っ白のスーツの男は、何も言わずに瑛士たちに刃を向けた。本当の刃物のようだ。瑛士は身震いした。

 そしてこちらに走ってきたかと思うと、軽く一飛びして瑛士たちの背後の柵に移り、それを蹴って加速した。

 無表情のまま剣を構え、ベリドを突き刺そうとする。


「無駄や」


 ベリドはそう言って回し蹴りを食らわせた。攻撃を受けた白魔族は勢いを失い、そのまま屋上に倒れた。

 そして全身に青い光が走ったかと思うと、その姿は忽然と消えてしまった。


「逃げられたか……。あいつは誰かに操られとった。あいつを逃したのも多分そいつや」


 一瞬のことで自体を飲み込めない瑛士に、ベリドはさらりと解説をした。


「今回は弱い奴で、かつ俺がおったから良かったけど、もしお前が偶然白魔族と出会ったら大変やで。あいつ、持っとったやろ」

「やっぱりあれ、マジの刃物だったんだな」

「せやけど、俺と(ちご)白魔族(あいつら)は魔力の供給源はないやろうし、しばらく攻めて来ぉへんはずや」

「そうなのか。ならよかったぜ……」

「少なくとも、奴らをほっといたら、えらいことになるってことだけは分かったやんな? 俺ら黒魔族のためにも、ついでにお前ら非魔族のためにも、奴らを追っ払わなあかんのや」


 ベリドはまた瑛士に対してビシッと指を指した。瑛士はその手を掴み、無理やりに握手をした。


「……ああ。身をもって分かったよ。本当は嫌だけど、契約もしちゃったし、しょうがないね。ベリドに協力するよ」

「ああ、お前は俺の魔力の貯蔵庫にでもなっといてくれればええ」

「え?」

「お前がやれることはない。さっきと一緒や。魔力だけくれや」

「そ、そんなこと言わずにさあ。あと、俺の名前は瑛士だ。その、お前ってのはやめてくれよ」

「その辺は、まあ考えといたるわ」

「じゃ、俺授業あるからさ。ベリドはこれからどうするつもりか分かんないけど、じゃあまた──」


 言い切らない内に、授業開始のチャイムが鳴った。ベリドに振ろうとした手がぴたりと止まる。


「あっ、これ、まずい!」


 瑛士は分かりやすく焦りだした。魔法を使った時に出た汗が引いてきたところだが、新たに冷や汗が吹き出てきた。


「俺に任せえ」

「えっ!」


 ベリドは瑛士の肩を持ってまた指を鳴らした。綺麗な宝石のような青い光が瑛士を包み込む。気づけば瑛士は教室の中、自分の席に座っていた。いきなり場所が飛んで、瑛士はまた少し焦った。魔法が使われたこともあって、すこし体が熱い。


転移系(ポート)。今回は上手くいってよかったわ。ちなみにお前の席は、朝ついてきた時に知った」


 耳元でぼそっとベリドの声がした。また透明人間になっているらしい。よくよく注意してみると気配だけは感じられる。


「あ、ありがとう」


 なんとか授業に間に合った瑛士は、クラスメイトの耳に届かないように小声でお礼を言った。

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