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灰色ノ世界  作者: 新井真
第一章 突如現る白黒魔族!?
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十話:これからのこと


 昼休みの屋上には、気を失ったベリドと動けないリック、扉付近で様子を伺う宗真と飛鳥、地面に突っ伏して呆然と見上げるだけの瑛士、そして謎の光を放つ風華と、高らかに笑う白魔族が。

 白魔族の言いようからすると、風華の周りの光は魔法のようだ。確かに、白魔族もパイプでの物理攻撃を受ける際には創造系(レアテ)の魔法で小さな盾を作っていた。それが身体全体を覆ったものが、白魔族の攻撃を打ち消したのだった。

 だがそれが続いたのはほんの少しの間だけ。風華の周りの光はふっと消えた。そして彼女は全身の力が抜けたように、へたりと座り込んでしまった。


「はははは……!! こんなところに魔法を使える非魔族がいたとは!! ミカミエイジ、君はもう必要ない。不完全な君ではなく、こちらを持ち帰るとする」


 そう言って白魔族は風華に手を伸ばした。瑛士は、それを阻止しようとしても立ち上がることができない。


「やめろっ……」

「やぁあああああ!」


 瑛士が呟くとともにやってきたのは飛鳥。鉄パイプを持ち、白魔族の腕を打った。咄嗟のことに対処できず、今回は盾を出すことができなかった。「うっ」と苦しそうな声を漏らし、彼は左腕を庇うように体を丸めた。


「……!! 馬鹿なことをするものだ、遠くで怯えていればよかったのに」


 白魔族が飛鳥を睨む。飛鳥は二発目を叩き込むことはなかった。仕方のないこととはいえ、人を傷つけたことに抵抗を感じたのだ。


「本当に愚かだ、非魔族は」


 眼鏡を上げ、翼を広げて、また同じように手に魔力を込めた。


「あっ……」


 飛鳥の脳裏に浮かんだのは昨日のこと。ベリドには大したことはないと言ったが、実際のところはかなり痛かった。もう二度とあんな思いはしたくなかった。


「ごめんなさっ……」

「何も、言う必要はない」


 咄嗟に謝ってしまう飛鳥に、白魔族は冷たく言い放つ。その表情は静かな怒りを示していた。魔法を放つ準備は、できている。


「邪魔」

「わぁああああああああん!!!!」


 屋上に響き渡る突然の叫び声。

 白魔族は一瞬だけ、そちらに意識が移った。その隙に半狂乱になった宗真が飛鳥を抱えて魔法の軌道から外れさせた。


「ソーマ……うおっ」


 魔法の衝撃は地面に倒れている瑛士には十二分に伝わった。当たった地面は少しえぐれていた。

 宗真は自分のしたことが信じられなかった。目は焦点が合っておらず、ただ「あああぁぁ……」と口から声を漏らすだけだ。さっきと同じように、すっかり腰が抜けて、今度は飛鳥にしがみついている。


「またちょこまかと……」


 白魔族は苛立ちの声を上げたが、二人を心配する風華の姿を視界の端に捉えると、ふっと切り替え、冷静な表情に戻った。


「……いや、もういいか。僕の仕事に必要ないからね、君達は」


 そして白魔族の目前で、ひゅうと空を切る魔法。髪が風に煽られる。


「お?」


 前髪を掻き分け、白魔族が見たその先。ベリドが復活していた。リックはベリドを治癒系(クア)でなんとか動けるところまで回復させたのだ。今度は力を使い果たしたリックが眠ってしまっている。


「させん、で……」


 魔法一発でも言葉が途切れ途切れになる。白魔族に傷めつけられた体がもたないのだ。そろそろベリドも瑛士も、共に限界となる。


「もう無意味だ。君達は一歩遅かった。」


 ふらふらのベリドを睨みつけたが、白魔族はふっと切り替えた。そして今度は風華の腕を乱暴に掴んだ。倒れかけの敵を構うより、任務を遂行する方を優先したのだ。

 何とかして白魔族から解放されようと抵抗する風華だったが、強く握られた手からは逃れられなかった。それどころか、抵抗すればするほど力は強くなった。

 余裕そうに彼は左手を空中に向けた。その数センチ先が一瞬光ったが、それ以上何か起こることはなかった。


「……どうした? どうして開かない?」


 白魔族は一人呟く。


「これは……魔力が足りない? そんなはずは……!」


頭上の輪っかを掴み、ぐいっと目の前に持ってくる。そして目を見開いた。


「そんな……なぜほとんど空に……⁉︎」


 輪っかを持つ手がわなわなと震える。その道具は色が褪せていて、いかにも力がなくなったようだった。


「なんか知らんけどピンチ見たいやな? 反撃させてもらうで」

「くっ!」


 白魔族は屋上から身を投げた。逃げ出したのだ。魔力がきれかかっているとはいえ、少し飛ぶくらいはできた。


 ベリドが下を見ると、校舎のゴツゴツとした壁があるだけ。白魔族の影も形もなくなっていた。


「……逃げられてもたな」


 ベリドは舌打ちをする。


「ま、あいつは俺と(ちご)て非魔族から魔力取ることはできやんみたいやから、しばらくは大丈夫やな。って言うても──」


 ベリドはその場にごろんと横になった。瑛士はまたベリドが気絶してしまったのかと思ったが、今度はそうではなかった。ただ立っているのが辛かっただけだ。


「言うても、油断はできんな」

「……えっ? あっ、はい?」


 ベリドは、座り込んでいた風華に視線を向けた。完全に気が抜けていた風華は、それに気づいて我に帰る。


「お前が魔法を使(つこ)た。つまりこれから奴らが狙うんはお前なんや」

「でも、私、なんで」

「知らんわ。なんでか分からんでも、それが事実なんやからしゃあないやろが」


 ベリドに聞いても、雑に切り捨てられる。


「江里さん、俺をた、助けてくれたん、ですよねっ。ありがとうございますっ」

「三上くん……。うん、どういたしまして」

「もっ、もともとは俺がターゲットだったん、ですよね。そのままだったら、ベリドがいるから平気だったのに。ははは……」

「あほう、この俺でも無理やったやんか。こんなボロカスにやられたんも久しぶりや」

「どうしようにも、ベリドとリックさんが二人がかりでかかっていったのに負けてるだろ。打つ手なしじゃないか?」

「そら、また考えなあかんけど……」

「じゃ、リックさんをフウカの家に置くのはどうかな? 三上の家にそのベリドってやつが居ても、何も問題なかったんでしょ?」


 瑛士とベリドと風華の会話に、更に飛鳥が加わる。彼女にしがみついていた宗真は、いつの間にか姿を消していた。


「いや、言うてるやん? このままやったら無駄に終わるて」

「それでも何もないよりはマシでしょ!? 何かあったら何かしらの手段で連絡してー、あんたがたすけにくるの。どう?」

「『どう?』やないや──」

「いいじゃんいいじゃん! 一応俺もベリドについていくよ。俺のいないとこで魔法使われて死んじゃったら嫌だし。今度は足手まといにならないようにするよ!」


 文句を言おうとしたベリドの言葉を遮り、瑛士は張り切った様子で飛鳥の意見に賛同した。


「お前も──」

「決まりね。リックさんは今気絶しちゃってるから〜、ベリド、あなたから説明しておいてくれる?」


 今度は瑛士に文句を言おうとしたが、またもや邪魔が入った。今度は飛鳥に命令されてしまった。普段なら嫌だと突っぱねるところだが、今回はそんな元気がなかった。ベリドは顔面に手を当てて、もういやや、というように首を振った。


「よし、じゃあ、そういうことで話は着いたね? そろそろ教室戻ろうか。今何分だろう?」


 瑛士はそう言って弁当の袋を持ち上げた。何気ない瑛士の言葉を拾い、飛鳥は自分の腕時計を見た。


「えっと……一時……十分」



「遅刻じゃん!!!!」


 一瞬の沈黙の後、瑛士が叫んだ。瑛士の声に、近くにいたベリドは一瞬ビクッとした。飛鳥も時計を見たまま青ざめ、風華はどうしよう、と慌てている。

 授業が始まる時刻は十二時五十分。予想外に時間は過ぎ去っていた。もうすっかり授業中だ。

 チャイムは校舎の中でしか鳴らないため、いつもは瑛士と宗真が昼食を終えた時点で教室に戻る。この日も昼食を食べつつベリドの説明をして、皆食べ終えたところで教室に戻って、何かあれば放課後に……というのが瑛士の計画だった。だが、リックの登場と白魔族の強襲という突然のイベントが組み込まれてしまい、立てた計画は無駄になってしまった。


「えっと、フウカ、次の授業は何だったっけ?」

「げ、現代文……」

「現だっ!? うわあ、それじゃあ俺、教室に戻れないじゃん」

「なんかあんのか? 遅れたくらいなんや。普通に部屋入ったったらええやん?」

「いやー……」


 現代文の教師は遅刻や居眠りに厳しかった。ましてや二十分の遅刻など考えられなかった。よく眠ってしまう瑛士は、その教師に目をつけられていた。


「三上はダメでもあたしとフウカは大丈夫じゃない? 現代文は点数いいし、授業態度も多分いい方だと思うし」

「じゃあ二人ともお先にどうぞ。三人一緒に戻るとまずいでしょ」


 瑛士の提案でまず二人が教室に戻っていった。普段が普段なだけに、現代文教師は二人を責め過ぎることはなかった。

 遅れて入った瑛士には何か説教が待っているのかと思いきや、三上大丈夫か、と予想外の心配の言葉が。先に戻った宗真が、瑛士は貧血で倒れたと嘘をついていたのだ。前回ベリドの魔力過剰使用で倒れてしまったことで瑛士はそういう体質なのだと理解されたようだ。

 その時は訳がわからなかったが、瑛士はなんとかことなきを得た。授業後、宗真に話を聞き、先にこっそり戻ったという点についての文句を言いつつ、瑛士は感謝した。


#


 とある路地裏、白魔族はまた一人のホームレスを手にかけていた。もう何人になるだろうか。

 屋上から飛び降りた時、着地のために使った魔力で完全に輪っかの中の魔力は空になってしまった。これ以上は自分の中にある、量の少ない魔力を削ることになる。彼はそれを拒んだのだ。


「たったこれだけか……、これほどの非魔族を使っても」


 がっかりしたように吐く独り言。現在溜まっている魔力では魔法を使って何かをする、というのは無理である。


「仕方がないな、今は急ぐべきだ」


 彼は空中に左手をやった。すると掌の先の空間に青いヒビが入ったかと思うと、小さな穴が開いた。白魔族の世界と非魔族の世界とを繋ぐゲートを作るつもりだったが、魔力が全く足りないために出来上がった不完全な穴が。


「聞こえるか、センチ?」


 小声で穴に話しかける。


「……レグナさん、どこに行ってたんですか? 今、こちらではあなたを捜しているんですよ。会議終わるやいなや、どこかへ行ってしまったじゃないですか」


 穴の向こうの相手も小声で返事をした。どうやら穴は思い通りの場所に繋がったらしい。ほっとして口元がほころぶ。


「非魔族を使った実験をしていたんだ、実際に下界に来て、な。それに、メガだっていつものことだろう、すぐにどこかに行ってしまうのは」

「あの方は仕方がありませんよ。なにせ『大天使の会』の──」

「その話は必要ない。それよりも、この連絡手段が消えてしまわないうちに、君に命ずることがある。よく聞くんだ」


 白魔族──レグナは、穴の向こうにいる白魔族──センチの話を打ち切り、早口気味に言った。いつ消えるか分からない穴を憂いているのだ。


「エンゼリングに魔力を貯めて下界に持ってこい。僕は白の世界から飛び降りてゲートを作ったけれど……その必要はない。くれぐれも誰かに知られることのないようにしろ」


「えっ、エンゼリング!? そして私も無断で下界に……!? 無茶な……!!」

「僕の部屋の本棚を退ければある、エンゼリングはな」


 穴の向こうで絶句するセンチ。白魔族の頭に浮かぶ輪っか、エンゼリングは生まれた時から一人に一つが基本。スペアを持つ者は誰一人としていないはずだった。


「僕は君をただの運び屋にはしない。必要なんだ(・・・・・)、君が」


 必要だ、というレグナの言葉が、センチを動かした。


「……分かりました、すぐにそちらに向かいます」

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