表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色ノ世界  作者: 新井真
第一章 突如現る白黒魔族!?
10/62

九話:特別な存在


「ミカミ エイジ」


 頭上の輪っかが一瞬光ったと同時に、全身が赤い光で覆われた白魔族は、恐ろしい速さで瑛士の目の前にやって来た。それほど距離はないのだが、不意を突くには一瞬で充分だった。


「エイジ!」

「三上くん!」


 宗真たちが思わず叫んだ。

 白魔族の右腕は、瑛士の体を突き抜けていた──否、突き抜けたように見えただけであった。瑛士の胸側と背中側、両方に青色の空間ができていた。


「危ないやんか。俺、転移系(ポート)苦手なんや、でっ!」

「ぐぅ……」


 ベリドが白魔族を蹴り飛ばす。屋上の汚れた地面を、転がり、真っ白な服が汚れた。


「あんなに差し迫った状況でも対処できるなんて。なかなかの実力者のようだ」


 当の本人は大してダメージを受けている様子はない。眼鏡をふっと吹いて埃を払い、掛け直した。


「エイジ、大丈夫か?」


 宗真たちが瑛士に駆け寄ってきた。ベリドの魔法のおかげで瑛士は白魔族の攻撃を受けなかった。ただ、突然の魔力の消費で少し疲れたが。


「ああ、なんとかな」

「ねえ、三上くん、本当に大丈夫?」


 風華も瑛士に近寄り訪ねた。その表情はとても心配しているようだった。綺麗な瞳が瑛士を見つめる。


「う、うん。全然平気! 超大丈夫!」


 近くに風華がいることで、瑛士は命の危機に直面した後であったが、急に緊張しはじめた。瑛士は風華に心配させたくない、と少しオーバー気味に言った。


「え、エイジ……。」


 宗真は呆れ顔だった。


「今ここでやり合うつもりなんか? せやったら俺の仕事も終わって嬉しいんやけど」

「ん? 僕を殺すつもりかい? 生憎こちら側にもやるべきことがあってね」


 両者共に黒いオーラを手に纏う。ベリドが魔力を使ったことで、瑛士は一瞬立ちくらみがした。思わず倒れそうになった瑛士を、宗真が支えた。

 白魔族はにやりと笑うと、背中から半透明の翼の形をしたものが出現した。左右それぞれ二枚の羽が加わると、白魔族の姿は瑛士たちがよく思い描きがちな天使の姿になった。


「お前のやるべきこととか知らん。さっさと、白魔族の世界にィイ! 帰れェ!」


 ベリドが白魔族に殴りかかる。冷静にベリドの拳を狙って、同じく殴りかかる白魔族。二つの拳が重なり合った時、魔力と魔力のぶつかり合いは激しい音と共に終わった。

 吹き飛ばされたのはベリド。屋上の柵に背中から突っ込んでいった。錆びた柵は鈍い音を響かせ、ぐわんぐわんと揺れた。


「嘘やろ……? なんでこんな簡単に……やられんねん」

「弱いということだな、君が」


 翼が消えた白魔族は淡々とそう言い、目線を瑛士に合わせた。眼鏡の奥の瞳が不気味に見つめてくる。宗真や風華が後ずさりする中、瑛士だけはそのままの状態。


「僕の力は示したつもりだ。大人しくしていて欲しいな」

「……っ!!」


 逃げだそうとしても、それが無理であることが嫌でも分かってしまう。近づいてくる白魔族に対して、瑛士は一歩も動けずにいた。


「やめなさいっ!!」


 白魔族と瑛士の間に割って入ってきたのはリック。未知なる脅威を前に、先ほどまでの軽い口調からは打って変わって、すっかり敬語だ。


「エイジくんに何をするつもりなんですかっ! いきなり手荒な真似はやめてください!」

「だから、つれてゆくんだ、白魔族の世界に。それに、こうでもしないと邪魔だからね、君たち黒魔族が」


 眼鏡を指でくいっと上げ、白魔族が言う。


「つれていく目的は……何なんですかっ! まずはそれを話してください!」

「話す必要はない。話したところで何かが起こる訳ではない。また、何かが変わる訳でもない」


 白魔族はまた天使のような姿となり、黒いオーラを手に込め、リックに向けて数発放った。


「そうとは限らない! 話し合いをすることでお互いの事情がはじめてわかるものでしょ! 話さないと、何も変わらない!」


 リックは白魔族の魔法をひょいっと華麗に避けた。


「話し合いは無意味だ。黒魔族と白魔族の間には言葉などいらない」

「ふぁあっ!!!」


 白魔族は更に多くの魔法の弾を放った。リックは全てを避けることはできず、数撃をまともに受けてしまった。服は軽く焦げ、当たった箇所からは煙が出ていた。


「リックさん!」


 一番近くにいた瑛士が、その場にうつ伏せに倒れ込んだ彼女に駆け寄る。


「エイジ……くん、ここは……危ない。離れ……」


 苦しそうに、言葉を途切れ途切れに吐き出す。這って動くこともままならない状況だ。


「じゃあ、リックさんも、逃げましょ──」

「うああああーーー!!!」


 突然リックが叫んだ。白魔族が彼女の背中を踏みつけたのだ。魔法攻撃を受けたところが酷く痛むようだ。


「何を……!!」

「僕の目的はあくまで、君だけなんだ」


 表情一つ変えずに足をぐりぐりと動かす白魔族に、瑛士は恐怖を覚えた。リックの体力がどんどん削られてゆく。


「ええかげんにせえっ!!」


 背後から白魔族に向かって放たれた魔法。何にも邪魔されることなくヒットした。

 瑛士は体が急に重くなるのを感じた。かなりの大きさの魔力を使ったのだろう。


「……っ! ベリド!」


「お前が瑛士(そいつ)を連れてくんやったら、俺がそれを阻止したるわ!!」

「ふうん。果たしてできるのかな」


 リックから足を退け、ベリドの方を見た白魔族は、余裕の表情だった。背後から一撃、充分な威力を受けた筈なのだが、全く効いていなかった。


「驚いたかな。僕には全く効かないんだ、君たち黒魔族の魔法がね」


 見下した笑顔がまた、狂気の笑顔に変わる。


「死ね」


 また輪っかがぼんやりとした光を放ち、白魔族の全身が赤く光った。一気にベリドへと間合いを詰める。強化系(ストロ)で力が上がった拳一つ一つが、ベリドへと撃ち込まれる。


「ぐっ……がっ……はっ……!!」


 ベリドはだんだんと苦しみの声すらあげられなくなっていった。


「やめろ」


 瑛士はぽつりと呟いた。


「やめろよ」


 同じ言葉を繰り返し、白魔族に向かって歩き出した。右手には、先ほどのパイプを握りしめて。


「エイジくん……だめ……」


 リックの忠告も耳に入らない。


「やめてくれって! 言ってるだろ! お前の目的は俺なんだろ! ベリドやリックさんは何も……!!」

「今ここで潰しておくのが良いと判断したんだ。君はなぜそうまでして彼らを庇おうとする? そこの彼は自らの魔力を補うために君を苦しめる悪魔だ。そして僕は君たちを救う天使……といったところだろうか」


 冗談めいたことを言う白魔族の拳は、弱まるところを知らない。


「悪魔じゃない。黒魔族、だ。それに、お前も魔族なんだろ。ベリドたちと何ら変わらないはずだぜ。何が天使だ」

「そ、そうだそうだ──うあああああああああ!!!」


 遠くの方から野次を飛ばす宗真の足元にに、白魔族は破壊系(トロイ)を撃った。足元が焦げているところを見て、宗真は腰を抜かした。


「天使が駄目ならば、僕は善魔、かな」


  瑛士を小馬鹿にした態度は変わらない。


「うるさい!!」


 瑛士はパイプを振った。手ごたえを感じたが、それは白魔族の出した盾の感触だった。


「君は無傷で持ち帰りたかったのだけれど、そうはいかないみたいだね。そこまで抵抗されてしまっては仕方がない」


 白魔族は翼を広げ、瑛士に向けて破壊系(トロイ)を放った。瑛士が掴んでいたパイプは弾き飛ばされ、空を舞って遠くに落ちる。


(いっ)て……しまった!」


 瑛士は、本気でパイプを武器に白魔族と戦う気でいた。ベリドとリックが動けない今、どうにか出来るのは自分しかいないと思ったのだ。宗真は動き回ることに関しては頼りにできないし、女の子二人を危険な目に遭わせる訳にもいかない。勝てる見込みはなかったが、それでも瑛士に残された道はこれだけだった。


「眠っていて貰おうかな、少しの間ね」


 瑛士に向かってくる黒い拳。もう終わりだ、と瑛士は諦めていた。


 その時だった。


 瑛士は、何かに押された。


──え?


 視界から白魔族が消え、代わりに屋上の硬い床が迫る。



「……っ!!」



「フウカっ!!」


 飛鳥の叫び声がした。

 瑛士を突き飛ばしたのは、風華だった。ギリギリのところで瑛士を庇ったのだ。

 自分に向かっていた白魔族の攻撃の対象が、変わってしまった。瑛士はすぐにそれに気づいた。


「江里さっ……!!!」


 屋上に倒れるやいなや、瑛士は顔を上げた。


「え……」


 瑛士の目の前で起こっていたのは信じられないことだった。

 風華の周りには薄い緑色の層が発生していた。それを境に風華の体と白魔族の拳の間には数センチの距離。それ以上は狭まることはない。


「えっ、あれっ。何? なに、これは……」


 風華自身も何が起こったのか分かってはいなかった。ただバリアの中でプチパニックに陥っていた。


「そんな……ばかな」


 瑛士はベリドとリックを一瞥した。ベリドは柵にもたれかかって気を失っているし、リックは倒れたまま、動ける状態ではない。


「はは……はははははは!! こんなところで出会えるなんて!」


 一時的に呆然としていた白魔族は我に返り、大声で笑いだした。


「やはり、存在したのか!! 下界にも!! 魔法を扱える者が!!」


 瑛士たちが唖然とする中、白魔族の笑い声だけが響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ