短詩二編ー見るものと見られるもの
《動物園》
「ゴリラ」と札のつけられた檻の前で、母と子が、興奮気味に話していた
「ねぇ、ねぇ、ママ、本物のゴリラだよ、ゴリラ!」
「そうね、図鑑にはない迫力があるわねぇ、本物はねぇ」
ゴリラは寝そべって、尻を掻きながら思った
ーあんまり、似てねぇなぁ、この親子ー
「ゴリラ」と記された札の裏には「ホモ=サピエンス」と記されていた
《競馬場》
朝から東京競馬場に来ていた中年男A氏は、第一レースから負け続け、最後の500円をメインレースに賭けた
A氏は三番人気コンスタントウォーリィアーを軸にしようとしていた
彼はパドックの柵にへばり付いて観察した
ー発汗はしていない、トモの張りもいい、入れ込み過ぎてない、うん、イケるー
熱い視線を感じたコンスタントウォーリィアーは周回しながら、A氏に目を遣った
ー貧相な耳たぶ、締りない口元、ミスマッチな上下のファッション、うん、オケラで帰るな、このオッサンー
わたし達は、常日頃、観る事に意識を集中し過ぎているのではないか?
時に、観られる事に、わたし達の視点の基点を置いたら、どうなるのでしょうか?