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初めての査定

昨日、投稿したつもりだったのですが、投稿できていなかったので投稿しました。基本的に週一で投稿できるようにしたいと思っています。


 昼食を終えて冒険者ギルドへと向かう。街の様子はといえば、市が住民たちで賑わっていた。それほど人口の多い街では無いが、物資なども商人や行商人によって十分に潤っているためか、人々の顔は明るいものであった。昨日、キャロルから聞いたところによれば、同じような魔境に接している他の街に比べれば、物資が十分入ってくる街は明るいという。逆に、あまり物資が入ってこない街や村は人々の表情も暗いらしい。


 夕方になれば、外に出ている冒険者たちが戻るため、また違った意味で賑わうことになる。特に、酒場は冒険者で溢れることもあるらしい。ソーマ自身はいまだ成人したばかりの十五歳のため、酒はあまり飲まないし、初めての街での酒場などがどのような状態なのかわからないが、ヘンリーがいうには、結構賑わっているとの事である。


 ともあれ、昨日着いたばかりの街であり、街をゆっくりと散策するつもりで冒険者ギルドへと向かう。街のあちこちにある空き地では多くの子供たちが遊んでいる。今の状況を見る限り、ここが魔境に接した街であるとは思えないほどであった。ソーマの故郷であるフォレスター伯爵領は大きな街は四つあるが、北部のノイエフォレス以外は街の外でも魔物を見ることはなく、精々が耕作地を荒らす害獣、ジャンピングラビットやプレーリーラット、ブラウンボアを見かけるだけである。なので、点在する村も含めて、魔物対策などしていない。また、昔からある街を除けば、街壁すら存在しないのである。


 それに比べれば、ここは魔境に接しているにもかかわらず、雰囲気としては故郷の北の街であるノイエフォレスに似ている、そう思う。少なくとも、ソーマがこれまで通ってきた北の街では、魔物に対する過剰な反応を示していたし、もう少し暗い雰囲気だった、などと考えつつ歩いていると冒険者ギルドに到着した。


 冒険者ギルドに入ると、朝と違ってそれほど人はいない。何かを依頼に来たと思われる商人や一般の人の姿がちらほらと見えるだけで、後は休息に当てているのか、掲示板を覗いている冒険者が数人いる程度であった。これがもう少し時間が遅く、例えば五の鐘がなる頃となるとまた様子が違うらしい、とはマルコムから聞いていた。


 そうして、運よく朝に応対応してくれたセイシェルのいるカウンターが空いており、そこへと向かう。ソーマに気づいたセイシェルは笑顔を浮かべて応対してくれる。

「ソーマさん、早いお帰りですね。成果はありましたか?」

「はい、予想以上の収穫です」

「では、こちらのトレイに証明部位をお出しください」

 そういって二十cm四方のトレイを差し出す。証明部位は前歯なので、五匹分だとこれで十分なのだろう。仮に十匹狩ったとしても十分なはずである。

「ああ、すみません。剥ぎ取りはまだしていないんです。それに、数が多いので、ここでは出せないと思います」

「剥ぎ取りはまだ行っていないと? それに数が多いってどのくらいでしょうか?」

 少し怪訝そうな表情を浮かべて問う。

「ええと、ジャンピングラビットが四五匹で、プレーリーラットが十五匹ですね」

「えっ! すみません。もう一度お願いできますか?」

 はっきりと驚いた、という表情を浮かべていう。さらに、付近のギルド職員もソーマの方を見てくる。

「はい、ですから、ジャンピングラビットが四五匹、プレーリーラットが十五匹です。一応、頭と胴体の数はそろっていると思います。剥ぎ取るにも結構時間がかかると思ったので、そのまま持ってきたのですが、いけなかったでしょうか?」

 ゆっくりとセイシェルに確実に伝わるように多少声を大きくして話す。

「確認させていただきますと、ジャンピングラビットが四五匹にプレーリーラットが十五匹で、剥ぎ取りは行っていない、これで間違いありませんか?」

 信じられない、という表情を浮かべ、ソーマの顔を見ていう。その声はやや上ずっていた。

「はい、間違いありません。それでお聞きしたいこともあるのですが・・・」

 ソーマのその言葉に付近のギルド職員もざわめく。そして、カウンターで依頼の申請をしていたのだろう、商人たちも驚いているようだった。

「判りました。それではあちらの鑑定カウンターの方へどうぞ。もちろん、私が担当させていただきます」

 そう言ってソーマから見て右端にあるカウンターを指差す。


 そこは、他のカウンターとは異なり、高さが三分の一ほどで、その奥には結構な広さのスペースが用意されていた。大物用のカウンターなのだろうと思われた。ソーマが移動すると幾人かの職員もカウンターの向こう側をそちらに移動する。一人、奥の部屋へと走り去っていくのが見えた。


 鑑定用カウンターで、リュックサックからパンパンに膨れた布袋を出し終えたソーマに、セイシェルはその前に置かれていた椅子に座るよう指示した。見ていると、布袋からジャンピングラビットの胴体と頭部、プレーリーラットの胴体と頭部が並べられていくのが見えた。セイシェルは数を数える役のようで、手にしたメモに何かを書き付けている。あと、上司のような男性と何事か話していた。小さい声で、切り口が綺麗だし、皮も肉もほとんど痛んでいないな、そんな声も聞こえてきた。そうして、二十分後、セイシェルから再び元の場所に移動するよう指示される。その際、預けた布袋を返してくれた。


 このとき、ギルドの多くの職員が驚いていたことをソーマは知らない。ジャンピングラビットもプレーリーラットも素早い動きをすることで知られており、一度にこれだけの数を持ち込んだ冒険者はいなかったのである。それは現在高ランク冒険者として知られているどの冒険者でも、新人のころにここまで派手な働きをした者はいないからである。


 ましてや十五歳、昨日、登録したまったくの新人冒険者である。驚くなというほうが無理なのである。ちなみに、何年か前、ジャンピングラビットとプレーリーラットが異常発生し、ギルドからBランク冒険者に指名依頼したおり、一日に持ち込まれたのがジャンピングラビットが五十匹であった。このときは素材のことは考えておらず、毛皮は半分以上が使い物にならず、肉にいたってはほぼ総てが買い取りできないほど痛んでいたのである。


 それに比べると五匹ほど数は少ないものの、毛皮と肉がほとんど痛んでいない。それが驚きの原因であった。もっとも、難点としては血抜き処理が成されていないことであったが、これとて、狩られてから時間が経過していないことで、これから血抜きを行っても十分間に合うということで、問題にされなかったといえた。


「ソーマさん、お待たせいたしました。ジャンピングラビットが四五匹、プレーリーラットが十五匹、間違いなくございました。それと報酬ですが、ジャンピングラビットもプレーリーラットも五匹で依頼達成となっておりますが、今回はジャンピングラビットが九回、プレーリーラットが三回、それぞれ依頼を達成したという形でお支払いすることになりました。それでよろしいでしょうか?」

 メモを身ながらセイシェルがいう。

「僕のほうは問題ありませんが、かまわないのですか?」

 首をかしげながら答える。

「ええ、十二回分の依頼を達成したということで、二百四十マリクの討伐報酬になります。そして、素材買取分ですが、皮も肉も状態が非常に良いので、一体五十マリクで合計三千マリクとさせていただきますが、よろしいでしょうか?」

 さらにメモを身ながらいう。本来であれば、一度の依頼達成と素材買取分の報酬だけであろうが、今回は依頼を十二回こなしたという扱いと共に、素材買取報酬も一体に付き倍額とされているため、ソーマには異論はない。

「はい、結構です」

「では報酬を用意いたしますので、しばらくお待ちください」

 そういってセイシェルは立ち上がって奥へと向かった。待つ間、ソーマは衛兵との対話を反芻し、どう問うか考えていた。待つこと五分、セイシェルは小さなトレイを持って戻ってきた。その上には冒険者カードと銀貨が三枚、赤銀貨が二枚、白銅貨が四枚載せられていた。カードは先ほどの鑑定カウンターのところで渡していたものだ。

「こちらが今回の報酬および買取分になります。合計三千二百四十マリクになります。ご確認ください」

 そう言いながらトレイをカウンターの上で押し出してくる。

「確かに。それで聞きたいことがあるのですが?」

 トレイの上の硬貨を腰の皮袋に入れながらいう。

「はい、どのようなことでしょう?」

 空のトレイを下げながらいう。


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