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魔法剣

 <フォースター>とハロルドを見送ったソーマはその脚で冒険者ギルドにある訓練場へと向かった。依頼すれば、三ヶ月間あるいは半年間、ギルドの職員による戦闘訓練を受けることができるようになっている。その多くが未成年で冒険者になり、街中での依頼を受け続けているGランク、Fランクの冒険者だそうである。特にFランクでもうすぐ成人するという冒険者が、街の外での依頼を受けれるようにと訓練しているのである。その他、負傷により、現場を離れていた冒険者もいる叢である。


 今回、ソーマはそれとは関係のない目的で訓練場にいた。まだ、早朝のため、冒険者ギルドにはそれほど人はいなかった。ちなみに、冒険者ギルドは二十四時間開いているが、午後の九の鐘が鳴るころから午前の六の鐘がなる頃までは職員は当直のものだけとなるようだ。訓練場乗りようには購買部のカウンターで手続きする必要があった。


 ソーマが試したかったこととは、刀に魔法を纏わせることができるのか、ということであった。一ヶ月ほど前、フォレスター伯爵領の自宅で、剣の練習中に刃引きした訓練用剣が炎を纏ったことがあったからだった。今回はそれを実剣で起こるのかを試したかったのである。さらに、魔力はそれほど高くないと断言されたが、火、水。風を刀に纏わせることができるか知っておきたかった。もし、纏わせることができるなら今後の活動が容易になると思われたからでもある。


 麦藁を束ねた人形に水を十分に吸わせておく。これは炎によって麦藁が燃えないようにすることと、切り難くするためである。そうして、購入した刀、名を<脇差>と名づけた、を正眼に構えると、手の掌から刀の腹、刃の部分から刀の背、峯部分を通して手の平に戻るように目を閉じてイメージしていく。一ヶ月程前は偶然だったかもしれないが、今は意識して行うようにする。なかなか炎が出なかったが、五度目にようやく刀身に炎が纏うようになった。手の平は大丈夫だが、顔がやや暖かく感じる。目を開けると確かに刀身にオレンジ色の炎が纏っていた。そうして藁束の右上から左下へと切り下げると、麦束は見事に切断されていた。


 次いで、氷を纏わせるようにイメージを繰り返すと、三度目で刀身が氷を纏っていた。先ほどとは逆に顔が冷たく感じる。そうして、藁束に今度は左上から右下へと切り下げる。やはり見事に切断されていた。ただ、炎を纏っていたときよりも麦束の抵抗が小さく感じられた。


 同じようにして、水と風を纏わせてみたが、どちらも氷を纏わせた時よりも切断時の抵抗が大きいと感じられたし、なによりも疲れが残るようであった。いずれにしても、刀を通じて魔力を放っているわけではなく、自分に戻るようイメージしている。放ってしまえば、いずれは刀身に纏わせることすらできなくなるだろう、と考えられた。


 ソーマ自身は理解しているつもりではあったが、これはいわゆる魔法剣といわれるものであった。昔は、といっても三百年以上前は魔法剣の使い手はそれなりの数はいたといわれる。しかし、現在では珍しい部類に入ることをソーマは理解していなかった。後に知ることとなるが、人属では十人ほど知られてはいたが、それとて、戦闘に使用できるほどのものでもないのである。多くは短い時間、もしくは、ここ一番というときに使われるものであった。いわゆる決め技として一瞬だけ使用される、そのことをソーマは知らなかった。


 ソーマ自身にはこのようなことができるとは思っていなかったが、一ヶ月前にできたことが再びできたことを喜ぶべきだった。何しろ、一ヶ月前に一度だけできたが、その後は再現不可能だったからである。結局、四属性総ての魔法適正があるものの、土以外の魔法が発動しないことと関係があったのかもしれない。今日はこれまでとして、一度宿に戻り、朝食を取ることにした。<フォースター>のメンバーは朝食を済ませているが、ソーマは朝食を取っていなかったからである。それに、明日はリュックサックの中から出てきた刀、名を<一期一会>と名づけていた、で試してみるべきだと考えていた。


 ソーマは知らなかったが、魔法剣を使うにはそれなりの剣が必要だといわれている。その中で、もっとも重要なのは柄の部分に埋め込まれた魔石であろう。当人の魔力を剣に流すにはその魔石を通じて刀身に炎なり氷なりを纏わせるといわれている。振り返ってみれば、ソーマが最初に炎を纏わせたときも今も、柄の部分に魔石のない剣であった。剣の使い手やそれなりに高ランクの冒険者にすれば、普通の剣で魔法剣を使用するほうが異常なのである。そうして、無知であったがため、後に<脇差>を痛めてしまうこととなる。


 ちなみに、刀という武器であるが、現在では使い手は少ないといわれる。刀が登場したのは六百年ほど前、帝国から流れてきた黒髪、濃茶色の瞳をした剣士が伝えたものとされ、当時流行したとされる。一節によれば、その剣士は異世界から召還された勇者だとも言われる。その容貌をを聞いた走馬の記憶はまるで日本人だな、と思ったようである。二百年ほど前までは結構な使い手がいたようである。斬る、という武器がそれまではなく、叩き切るというのがそれまでの剣であった。ソーマはオーソドックスな両刃の両手剣で教育を受けていたが、走馬の記憶が刀を使わせていたといえた。


 朝食を済ませて本日二度目となる冒険者ギルドのカウンターに向かったのはもうすぐ九の鐘が鳴ろうかという時間であった。やはり、人が多かった。昨日応対してくれた女性のいる窓口の列に並ぶ。周りを見回せば、ランクの低い冒険者たちは掲示板に張出されている依頼から選択して受けているようであった。ソーマもそうすべきかと思ったが、二度目なので、職員に相談してから決めようと思っていたのだった。


 待つこと十分、ようやくソーマの番がきた。カウンター前の椅子に腰を下ろしたソーマを見て、件の女性職員は他の冒険者と異なるような声をかけてきた。

「おはようございます。たしか、ソーマさんでしたね。今日はどのようなご用件でしょうかか?」

 にこり、と微笑みながら声をかけてきた。

「おはようございます。ええと・・・」

「ああ、わたしはセイシェルといいます。よろしくお願いします」

 ソーマの意を汲んで名乗る。

「セイシェルさんですね、こちらこそよろしくお願いします。ええと、僕は討伐系の依頼は初めて受けるので、少し教えてもらえたらと思いまして」

 掲示板のほうを指差しながらいう。

「ああ、ソーマさんは昨日登録されたばかりでしたね。基本的に自身のランクより二つ上のランク指定依頼は受けることができません。ですから、ソーマさんの場合はEランク、Dランクの依頼の中から選択してください」

 カウンターの内側の下を見ながら説明する。

「例えばどのような依頼がありますか?」

「Eランクではジャンピングラビット狩り、プレーリーラット狩り、ゴブリン討伐などです。Dランクになりますと、ブラウンボア狩り、サーベルキャット討伐、オーク討伐、昆虫系討伐などです。お勧めはジャンピングラビット狩り、プレーリーラット狩りですね。ほとんど人を襲うことはありませんから。腕に自信があるならゴブリン討伐もですね」

 ソーマの顔を見ながら告げる。


 ちなみに、ジャンピングラビット、プレーリーラット共に農作物を荒らす害獣指定されている。ゴブリンは人を襲うことが多い。ブラウンボアは大猪で害獣指定だが、人を襲うこともある。サーベルキャットは興奮すると人を襲うこともあるし、オークは凶暴な二足歩行の豚で、昆虫系はアリや蜂などである。


「Dランクはお勧めではないのですね?」

「最近の初心者は以前と違ってレベルが低いので、ギルドとしてもある程度は安全に経験を積んでもらうことを考えています。無理に上のランク依頼を受けて依頼達成できなかったり、怪我をしたり、命を落とすことのほうが多いからです」

 痛ましそうな表情を浮かべながらセイシェルがいう。

「そうなんですね。判りました。今回は初めてでもありますし、ジャンピングラビット狩りにしておきます。依頼書を取ってきます」

「ああ、そのままで。こちらで用意できますから」

 腰を浮かせたソーマを手で制してセイシェルが言う。


 そうしてカウンターの下からファイルを取り出し、そのリストの中からジャンピングラビットの討伐依頼書を取り出しながら、ソーマに冒険者カードを出すよう指示してきた。ソーマがカードを渡すと手早く処理を済ませ、カードと依頼書を渡してきた。依頼書には、ジャンピングラビットを五匹狩ることが記されていた。


「ジャンピングラビットの証明部位は前歯になりますが、毛皮や肉も需要がありますから、お持ちいただいたら素材としてこちらで買い取ることも可能です」

「ありがとうございます。それでは夕方に」

そう挨拶して腰を上げるソーマに、セイシェルは健闘をお祈りします、と声をかけ、ソーマを冒険者ギルドから送り出した。


 なお、狩りの依頼や討伐依頼は二種類ある。一度きりの依頼と常時依頼である。一度きりの依頼というのは、あまり出現しない獣や魔物が出た場合に出され、誰かが討伐すればそれで終わりというものである。常時依頼とは常に依頼があり、複数の冒険者が同時に受けることが出来るものである。Dランク以下の依頼はほとんどが常時依頼になるようである。


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