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北の魔境で

 翌日、冒険者ギルドを訪れ、街の外での魔物討伐依頼を受けて魔境に向かうことにした。行き先は東北部の森である。依頼達成期限が七日後なので、余裕を持って隠れ里の調査が行えるだろう、そう判断したからである。遠出をするため、馬車で出発する。ローズの話では、街から馬車で一日の距離にそれはあるということらしい。むろん、交流があるわけではなく、たまに、鉄製品や布地などを買う人間がおり、その人間が東北に向かうということらしい。


 すでに晩春といえるため、二月や三月に比べて、魔物が多く、狩りも順調だった。ギルドへの皮や肉などの素材売却は考えず、長期間保持していても問題のない蟲形の素材を集める。そのための依頼を受けていた。今回はローエンベルグもしくはノイエベルグを拠点に、隠れ里への行商のルート調査であり、将来を見越しての調査だといえた。つまるところ、サザンクロス商会の事業拡大のためであり、この地域でしか散れない商品を探すためでもある。ソーマ以外のメンバーもそう思っている。彼の最終的な目的は北部の塩湖である。もし、本当に存在するなら、塩市場の独占も可能だからである。


 森の中には整備された道は無いと思われたが、長期間利用されていると思われる獣道のような道があり、幅がニmもあるため、馬車でも何とか通ることが出来た。森自体はそれほど深くはなく、馬車で四時間ほどで抜けることが出来、その先は所々に小さな森はあるものの、概ね草原だといえた。とはいえ、所々に小高い丘、高いところでは五十mを越える、が点在していた。そうして、そろそろ夜営でもと考えていた四時ごろ、前方に幾筋かの煙が立ち上っているのが確認できた。おそらく、隠れ里の住民が夕食の用意でもしていると思われた。当然だが、火を使う魔物はいない。攻撃として火を使う魔物もいなくは無いが、前方で見られるように幾筋もの煙が立つことはない。


 そうして、進むこと三十分、周囲十kmほどの小高い丘陵を抜けると前方に柵で覆われた集落が見えてきた。戸数は見える範囲で百五十ほどだろう。集落の入り口と思われる場所では数人の男の姿が見える。こちらを見て騒いでいるようで、二人ほどが集落の中心部へと走っていくのが確認できた。こちらも念のため、いつでも戦えるよう準備だけはしておく。見たところ、人族で亜人、つまり、獣人ではないようである。


 入り口では特に問題もなく、集落の中へと通された。自分たちは冒険者でサザンクロス商会からの依頼で行商ルートの調査に来たのだ、という説明が受け入れられたと思われた。彼らはそれほど排他的ではなく、かといって、受け入れを歓迎する風でもなかった。それでも、話だけは聞いてもらえるようである。ただし、集落には宿泊施設はないとのことで、広場での夜営となった。代表者との話は翌日に行われることになった。


「つまり、今すぐではないが、将来的に行商人が定期的に訪れると?」

 一通りの説明の後、そう訪ねてきたのは村長だという五十代の男性である。

「ええ、ただし、この集落の成り立ちと支払いなどを調べてからの判断になるでしょう。行商に来たはいいが、支払いが出来ない、では困りますので」

 後にブライトンを従えたソーマがいう。

「わしらの先祖は百十年前に領主によって魔境開拓を命じられた家臣たちの末裔じゃ。その後、領主が変わり、徐々に交流が無くなっていき、今に至るのじゃ」

「そうでしたか」

「支払いとかは難しいだろう。この集落では物々交換が普通で、貨幣は使われておらん。それに、これといって特徴のない集落じゃ。小麦や幾つかの野菜などは豊富だが、街では普通にありふれており、売ることすら適うまい」

「そうですか。ここ以外に同じような集落はありませんか?」

「北に徒歩で二日の距離に我らと同じような境遇で出来た村がある位じゃ。それ以外には知らんな」

「そうですか。ここから北西に塩湖があると聞いたのですが、ご存知ですか?」

「あるが、人が住んでいるかどうかはわからん。魔物も多いと聞く・・・」

 村長がそこまで言ったとき、外で騒ぎがあった。彼らは村長の家の中で話していたので、外の様子は判らない。


 外に出たソーマが目にしたのは、プレーリーラットをさらに大きくしたような動物であった。村長はダークラットだといい、あれは普段は人を襲うことは無いが、飢えたら人を襲うのだという。大きさはジャンピングラビットと同じほどであり、尾は短い。それが北西の柵を越えようとしていた。村の若い衆が木槍を手にして立ち向かうが、あまり有効ではないようである。すでにヒルダが向かっていた。見ていると、<シルバーソード>と名付けた刀、例のスチールワームから造られた刀、で前足の攻撃を受け流しつつ、首を断ち切っていた。ソーマの氷剣と異なり、巣のままなので、ダークラットの切断された首から多量の血が流れている。だが、それを見た村長はあまり良い表情を見せていない。聞けば、血の匂いに誘われて腐肉漁りの魔物が来ることがあるという。


 それを聞いたソーマはかってリント村で行ったのと同じ提案をしてみた。十六本の太い丸太と多数の細い丸太、多目の木板、丸太類は乾燥したもの、を用意できるなら集落の周囲を土壁で覆うことが出来る、と。見たところ、集落は五百mほどの範囲内にあることで将来的なことも考え、周囲の小高い丘陵の狭部に土壁と門を設置、結果として、東西三千m、南北二千五百m、周囲十km弱の地域を集落に出来ると提案した。土壁は高さは三m、幅は二mとすれば、このあたりに多いというゴブリンやダークラット、ジャンピングラビットなどは防げるだろう。オーク相手では心もとないかもしれないが。


 そうして、一日かけて土壁の設置を行う。ローズには東西南北を貫く大通りとなる幅四mほどの土を火魔法で焼き払ってもらう。雑草の生えない道路を作成するためである。それまで以上に広い集落内は村長に管理してもらう。また、ちょうど畑を囲む形になり、狭部の土壁は厳重に管理してもらい、崩れたりした場合は補修を行うようにしてもらう。門は東西南北四箇所、当面は木製で十分だと判断したが、将来的には強化の方向である。要するに、新規の下級魔物の侵入を防げればよいわけで、上級魔物のことは一切考慮していない。それでも、今まで以上に安全性は増すだろうと思われた。むろん、無料ではなく、サザンクロス商会が要求したならば、可能な範囲で小麦など農産物を提供してもらうことで話はまとまった。


 ちなみに、一日で出来た理由は土壁として設置したのは東西南北あわせて千mにも満たないからであった。彼らの先祖である初期開拓者は丘陵に囲まれたこの地をわざわざ選んで開拓していたといえる。丘陵に囲まれたそれなりに広い地域であるがため、そこに壁を作ることで安全を確保できると考えたのであろう。しかし、領主からの支援がなくなり、現状を維持するだけでやっと、という状態だったのかもしれない。


 いずれにしろ、こうして集落は耕作地も含めて安全な壁の中の地域となった。この中には未だ開墾の進んでいない場所もある。魔物にしても、新規の流入は防げるものの、既に入り込んでいる魔物は村民たちで討伐してもらわなければならない。もっとも、ソーマの見るところ、それほど脅威になる魔物はいないと思われた。いるとすれば蟲系の魔物だろう。当然、ソーマたちも可能な限りであるが、討伐をしていたが、当然ながら見落としがあるかもしれないのである。


 しかし、この後、彼らは農地を集落外に新たに開墾しなければならなくなるのであるが、それは知ることはなかった。むろん、ソーマを含めた<サムライ>のメンバーも同じであった。ともあれ、この時点ではそれまで以上に安全な村となった。


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