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武具屋にて

少し早いですが登校します。

 宿についてだが、十日以上の宿泊料金を前金で支払うと、宿泊料が四十マリク、夕食代が五十ペリクに割引されるとのことで、ソーマは十日間の前金を払うことにした。夕食は六の鐘が鳴るころ、後二時間半ほどあるというので、ソーマはヘンリーに教えられた工房へと向かうことにした。ヘンリーに同行を頼んだのだが、メンバーは明日の打ち合わせで行商人と会うということで、今回は一人で行くこととなった。


 工房は東門に近い工業区画にあり、店主はドワーフ族だとヘンリーにいわれていた。王国では亜人が暮らしているが、その中でもドワーフ族はかなり多いといえる。実質的には武器防具製造はドワーフ族が独占しているといってよかった。人族の鍛冶師では、質のよいものが製造できないからである。人族の鍛冶師の多くは日用品、包丁や鋏などの台所用品、鋸やノミなどの大工用品、鍬や鎌などの農業用品などを造っているという。


 ちなみに、ドワーフ族以外の亜人としてよく見かけるのは獣人族であろう。ただし、王国辺境部の魔境に接している地域に限られ、王国中央部には居住していることはない。ソーマも故郷の北の街、ノイエフォレスで幾度も見ている。王国建国時にはエルフ族も居たそうだが、ここ百六十年ほどは王国内では見かけないという。というのも、五代目国王が治世の晩年に亜人排除政策を取ったことが原因だとされている。六代目国王の治世からは亜人容認へと移行したため、ドワーフ族は王国各地に居住している。


 もっとも、王国北西部には獣人連邦国が、西部にはドワーフ王国が存在するため、王国内に居住するドワーフ族も減少しつつある。その多くが魔境に接している辺境部に集中しているため、王都周辺ではあまり見られないという。ちなみに、辺境で見る獣人のすべてが冒険者であり、それ以外の職業ではほぼ見かけることはないとされているし、ドワーフ族の多くは鍛冶師であり、それ以外の職業に就くドワーフ族は極稀であるといわれている。


 紹介された工房の中に入るとカウンターには女性、たぶん奥さんと思われた、がいた。

「こんにちは、店主はおられますか?」

「旦那は留守だよ」

「いつごろ戻られますか?」

「そうだねぇ、来月になるんじゃないかい」

 今日は四月二十一日なので、十日ほど先になる。いろいろ相談したかったのだが、それは叶わないようであった。ソーマの求める剣が特殊だったからだ。


「せっかくなので店内を見させてもらってもいいですか?」

「かまわないよ。ただ、私はあまり詳しいことはわからないからね」

「判りました」


 まずはナイフから見ることにした。というのも、ソーマの求める剣、片刃の両手剣、いわゆる刀、が剣をまとめている場所になかったからである。とりあえず、ヘンリーにはナイフと剣、革鎧は最低限必要だといわれていたので、揃えるつもりであった。剣がないのでナイフを見ていくことにしたのである。


 ナイフを見ていくと、ひとつの品が彼の目を引いた。この世界では片刃の直線状で、刀身が十五cmほどのものが主流であったが、目を引いたのは片刃で反りがあるものだった。端的に言えば、地球でいうところのハンティングナイフである。走馬の記憶がそうソーマに告げていた。全長二十七cm、刀身が十五cm、革製の鞘に収められている。

「これは変わったナイフですね。店主が造られたものですか?」

「いいや、この工房の初代が客の依頼を受けて造ったものだよ。ただ、引き取り手が現れず、そのままになっているの。代金は前金で貰っているため、損はないけどね」

 奥さんは詳しく教えてくれた。

「そうなんですね。鋼鉄製ではなさそうですね?」

「刀身はダイアチタ鋼でできているの」


 ダイアチタ鋼とは、地球で言うところのチタンに相当する金属であり、この世界でもっとも硬いとされる金属で、鋼鉄よりも軽く、強度はその十倍以上だとされる金属でもある。とはいえ、他にも伝説的なオリハルコンや魔法使いが好むミスリル銀などが存在するが、オリハルコンは実在しないとされ、ミスリル銀は剣としては強度が足りないといわれている。そのため、ダイアチタ鋼は剣の材料として使われる最上の金属である。もっとも、値段も高く、冒険者の多くを占めるDランク以下の冒険者達は鋼鉄製の剣やナイフを使用するようである。


「ちなみにいくらですか?」

「そうね、二百年以上前に造られたものだし、五百マリクでかまわないよ」

 と、いわれたが、とりあえず、候補に挙げておく。


 さて、問題の剣であるが、今、ソーマが持っているのは父の形見といえる片刃の直刀であるが、装飾的な意味合いのもので、実際に使用するには問題があった。ソーマの求めるものは先にも述べたが、この世界では片刃の剣は総て片手剣であり、その代表がレイピアやシミターということになるだろう。


 剣はさておき、もうひとつ重要なのが防具であった。冒険者の多くを占める剣士は動きやすさに重点を置くせいか、革鎧を好むという。ヘンリーもオーガという魔物の革製鎧を身に着けていた。もっとも、一般的にはオークという魔物の皮を何層か重ねたものが主流だという。強度はそれほどでもないが、価格が安いからである。上級ランクの冒険者ではそれ以外の革製鎧、たとえば、ワイバーンやアイアンスネークなどの強度があり、軽いものを着用するという。もっとも、それらの鎧は高価であり、駆出しの冒険者には手は出ないものであるが。


 そうして、店内を見ていたソーマの目にとまったのが、店の片隅に積み上げられていた内のひとつ、暗赤色の革鎧、褐色のリュックサック、そして全長八十cmほどの棒が纏められているものだった。その棒を目にしたソーマはドキリとする。そう、ソーマが求めていた刀だったからである。


「あそこに纏めて置いてあるのは売り物ではないのですか?」

「ああ、あれらは一年ほど前に行商人から売れるものなら売ってほしいと預かったものだね。結局、その行商人との連絡が取れず、どうしようか迷っているの」

「見せてもらっても?」

「かまわないよ」


 つまり、店主が見ても売り物にならない、あるいは品が良くても買い手がつかない、そう判断していたと思われた。でなければ、あんな風に雑に置いておくことはないだろうと思われた。ともあれ、ソーマは一応見せてもらうことにしたようである。使えるものであれば、刀と鎧が両方手に入るからだろう。それに、そう高くもなさそうである。


 改めて見てみると、リュックサックは革製で高さ四十五cm弱、幅が二十五cm、底の暑さが十五cmほどの大きさで、何も入っていないためにぺシャンとしていた。あちこち汚れているが、破れや穴はなかった。小さなリュックサックでも買おうかと考えていたソーマにとっては、大きく重いが十分に役立ってくれると思われた。


「それは本来魔法鞄だったようだけど、今はその機能は失われているよ」

『そうなんですか? 魔法鞄として使うにはどうすればいいのでしょうか?」

「うーん、付与魔法を使える人に頼むしかないだろうねぇ。でも、この街にはいないのだけど」

「そうですか」

 内心で気落ちしたが、そう答えておく。


 次に鎧を見てみる。形としては、背中と胸腹部を覆う形で、頭からかぶるようにして身に着け、左右の脇腹部分についている鎖で固定するベストタイプのようであった。暗赤色であちこち汚れているが、破損していないと思われた。うっすらと鱗状の模様が見えるが、何の革なのかはソーマにはよくわからない。持ち上げてみると予想以上に軽いし、厚さも五mm程度であった。軽く叩いてみるとキン、と金属を叩いたような音がする。磨けばもう少し見栄えが良くなるだろうし、当面の防具としては問題なく使えそうであった。


 そして、刀である。長さはやはり八十cm、内、柄の部分が二十五cm弱、鍔は楕円形でやや小さい。鞘は元は黒だったのだろうが、あちこち剥げており、ところどころに地の色と思われる茶色が現れている。柄の部分には小さな宝玉が埋め込まれており、全体的に革でまかれているが、それも黒ずんで汚れている。ドキドキしながら抜いてみると、刀身五十五cm、幅が根元で三cm、峯の厚みが五mm、反りが三cm、全体的にくすんだ銀色をしており、ところどころに霞のような曇りがあった。錆びているわけではないが、あまり良い徴候とはいえない。刃は欠けておらず、切れ味もそう落ちてはなさそうである。


「これらは譲ってもらえるのですか?」

「そうだね、千マリクで良ければ売るよ」

「ではお願いします。ナイフと一緒に」

「そうかい、ありがとう。サービスとして手入れ用の油と布、柄に巻くための新しい革をつけてあげよう」

「五mほどの紐があれば付けてもらえませんか?」

「紐かい? これでよければ付けるよ」

 そういってカウンターに黒い紐を載せる。

「ありがとうございます」


 ナイフと合わせて合計千五百マリクの支払いを済ませ、リュックサックを持ち上げたとき、急激な脱力感に襲われた。昔、魔法の練習をしていたおり、魔法を使いすぎ、魔力が切れたときの感覚と同じであった。魔力切れの症状は非常につらいもので、酷い場合には動けなくなることもある。むろん、個人差があり、症状は人によって異なるが、ソーマの場合は動けなくなるほどではない。


「あんた、大丈夫かい?」

「何とか」

 そう答えて店を出る。奥さんも店の外まで見送ってくれたが、大丈夫そうだと判断したのか、すぐに店に戻っていった。


 店の外で、父の形見の剣をリュックサックに入れたにもかかわらず、リュックサックの形が変わらず、剣もスッポリと入ったことに気づいた。もしや、と思い、鎧をリュックサックに収納するようにイメージしながらリュックサックの開口部に持っていくと、鎧はリュックサックの中にスッポリと入ってしまうが、その形は変わっていなかった。


 これはたぶんだが、リュックサックが魔法の鞄として機能したと思われた。つまり、ソーマの魔力というかなにかがリュックサックに注がれた結果、魔法鞄としての機能を復活させたと思われた。ナイフも入れ、剣帯を腰に装着して、買ったばかりの刀を左腰に吊るすと彼は宿に向かってふらふらしながらも歩き出した。


聞きなれない金属が出てきますが、この世界はそういうものであるとご理解ください。

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