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ローエンハイム騎士爵領の異変

 <サムライ>のローエンハイム騎士爵領への護衛依頼は問題なく達成された。なによりも、ソーマの土魔法のおかげで、夜営もそれほど危険ではなかったためである。また、道中に残してきた夜営地も再利用が可能であり、<サムライ>でなくとも、ある程度の安全は確保されたといえる。もっとも、馬車で一日、距離にしておおよそ八十kmごとであるので、徒歩での移動の際にはその限りではない。そのため、次回の依頼の際、徒歩で一日、距離にしておよそ四十kmごとの夜営地の設置を考えているソーマである。その後、二ヶ月の間に四度の依頼を達成し、その際に夜営地の設置を済ませている。


 そうして、ソーマが冒険者になって一年、<サムライ>は護衛とは関係なく、ローエンハイム騎士爵領地のノイエベルグに向かっていたのだが、途中の道中、東へ向かう街道に入ってから徒歩で東へ向かう人々を見かけることとなった。夜営地も利用されているようで、その日の夜営地では五十人位の集団と一緒になることとなった。聞けば、ローエンハイム騎士爵領への移住予定だという。その集団は王都東南のキュヒラー伯爵領地の出身だという。国王の怒りを買い、改革中で、伯爵領地は人減らしを行っており、それで東部辺境へと向かうのだという。しかし、ローエンハイム騎士爵バルトの許可は得ていないようである。


 道中、他にも多くの移住予定の集団がいたが、その多くは王都とヘンゼル男爵領の間の貴族領地出身だという。原因はいずれも、国王の怒りを買い、改革のための人減らしだというのである。先の話と同じく、ローエンハイム騎士爵バルトの許可は得ていないということで、ひと悶着あるだろう、ソーマはそう考えざるを得なかった。


 今回は魔境の調査であるが故に、ローエンベルグには向かわず、直接ノイエベルグに向かい、幾度か宿泊している宿、<北の防人亭>に部屋を取った。ここノイエベルグも移住希望者で溢れており、前回以上に人が多く、混雑していた。とはいえ、その多くが宿を取るわけでもなく、街の広場に集められていた。その周囲には衛兵が監視しており、これでは治安の悪化が問題となるだろう、そう思われた。すでに、宿を求める集団と衛兵との間に衝突が起こっているようでもあった。


「バルト卿はどうするんだろうね?」

 それを見ながらソーマは誰に訪ねるともなくいう。

「ローエンベルグ近在では農地を潰すことになるだろうし、これ以上人が増えれば、街の外に避難所でも作るしかないようですね」

 同じように広場を見ていたセーラが答える。

「それじゃあ根本的な解決策にはならないだろうし、街の外の農地が荒らされるだろうね」

 セーラの言葉にブライトンが答える。

「計画も立てず、押し寄せるほうがおかしいのです。彼らは何を考えているのかわからない」

 ヒルダも若干顔を赤らめて怒りを表す。


 後に判明するのであるが、多くの貴族領地では領地軍の再編を行っているようである。結果として、領地外からの軍人が解雇され、職を失っていた。しかも、その受け入れが領内では不可能なため、移住させることにしていたようである。しかも、その受け入れ先として、以前から領地開発において人手不足を訴えていたローエンハイム騎士爵領へ強制的に移住させていたようである。当然、本来であれば、受け入れ先であるローエンハイム騎士爵バルトに相談すべきところをしておらず、結果として人が集まるが、受け入れ態勢が整っていないということになり、現在の混乱を招いていたようである。


 当然、ローエンハイム騎士爵からはそれぞれの貴族に抗議が成されたが、元の居住地の貴族たちはローエンハイム騎士爵領の名前は出していないと突っぱねていた。バルト卿側としても以前から人手不足を訴えていた以上、強い姿勢で対応することも難しかった。もっとも、人手不足を訴えてはいたが、誰でもいいというわけではなく、犯罪者や王都のスラム街の住人では困るので、それなりの質の開拓民を募集していたのだが、それが覆されることとなったのである。


「結局は魔境に放り出して支援はするから勝手に開拓しろ、ということになるのでは?」

 ブライトンがそういう。

「しかし、支援するとはいえ、ローエンハイム騎士爵にそれほど余裕があるわけではないでしょう」

 ローズが反論した。

「何も兵を派遣する必要はないでしょう。おそらくは冒険者に対して依頼するということなのでしょうね。それでも支援は支援ですから」

 セーラがいう。

「とはいえ、魔境の開拓は簡単なものではない。問題は起きるでしょうね」

 ヒルダがいう。

「そうでしょうね。我々も注意は必要でしょうね。気を付けないと」

 ソーマはそういった。

「なるほど、少なくとも<サムライ>はBランクですから。おそらく、今は我々が最高ランクの冒険者ということですか」

「そういうことです。ブライトンさん。とりあえず、逃げ道としてサザンクロス商会の依頼を受けているという理由もありますけど」


 このとき、なせ他の地域ではなくローエンハイム騎士爵領なのかといえば、ここがもっとも安全だという理由の他に、もうひとつ、王都周辺の貴族領地から近いという理由があった。特に、前者についてはその通りであった。短に領地までの移動というだけでもそうといえた。北部の騎士爵領では街一つという場合も多く、その街も間の中にあり、底に至るまでには魔境を突破する必要があり、多数の戦えない人間が移動できないからである。後者についても、王都周辺からではそれなりに遠いといえた。そういうこともあって、多くの人がローエンハイム騎士爵領に殺到したといえる。


「それでも打つ手はあると思うんだけどね。問題はその人材がいるかどうかとバルト卿がそれに気付くかどうか、ということだろう」

「ソーマさん、それはどういうことでしょうか

?」

「ローエンハイム騎士爵領の南部、海岸線沿いですが、漁業はそれほど盛んではないでしょう? もし移住希望者の中に漁師がいれば受け入れるべきでしょう。そうすれば領内が発展する可能性もあるはずです」

「ああ、たしかに。漁業はそれほど盛んではありませんね。聞くところによれば、それなりに漁獲量はあるらしいし」

 ブライトンが納得したようにいう。


 ローエンハイム騎士爵領は魔境にも接しているが、南部にはそれなりに良港たりえる場所が多いといわれている。ただ、領民の安全を考えれば、漁業よりも農業と魔物討伐を優先せざるを得なかったのだろう。しかし、ある程度は収穫量も安定しており、南に目を向けることも可能なはずである。とはいうものの、素人がいきなり海に出ても成果が上がるはずもないので、漁師がいればという条件がつくのである。


 とはいえ、王国内ではというよりも、王都ではそれほど魚が食べられているわけではない。あっても川魚で、海魚が内陸部に恒常的に持ち込まれることはないのである。その理由は輸送の困難さにあった。そのため、沿岸部の街で水揚げされた海魚は基本的にその街あるいは隣接する地域のみで消費されているのが現状であった。


「結局はバルト卿の判断ひとつでしょう」

 ソーマはそう締めくくった。


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