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中距離護衛

遅くなりました。すみません。

また、投稿先を間違えてました。

 <サムライ>の最初の依頼はハイゼル騎士爵領へ赴く行商人の依頼であった。ナイジェルの知り合いの行商人で、ニューロンハイムで仕入れた商品を商うためである。グレイグという行商人で、このルートをいつも担当しているという。しかし、今回、初めてニュルンからハイゼルへと向かうという。普段は西のもう少し安全なルートを取っているのだが、トーガシを仕入れるため、ニュルンに来たものの、Eランクパーティの護衛では無理と判断、ギルドに依頼があったようだ。往復五日、場合によっては一日滞在日が伸びる可能性もあるとのことで、依頼は六日間ということになっている。


 グレイグは<サムライ>が馬車を用意するということで、非常に喜んでいた。これまでは徒歩での護衛のため、道程の進行が遅かったからであろう。そもそも、大規模な隊商でない限り、あるいはBランクパーティ以上でない限り、護衛側で馬車を用意することなど稀であったからだろう。しがない行商人の護衛に馬車に乗る護衛がつくことのほうが不思議なのである。


 この依頼を成功させたところで、<サムライ>の報酬は足が出ない、という程度のものである。ソーマはそれでも良かった。あくまでも、メインの活動はサザンクロス商会の依頼であり、それ以外は報酬を得るためのものではなく、経験を積むためのものであるとの考えからだ。それと情報収集のためでもある。さらにいえば、今回のルートは夏にオーガが出現した森を幾つか通過するルートで、馬車無しの護衛では危険が大きいこともあった。


 出発したときの隊列は<サムライ>の馬車が前でその後にグレイグの荷馬車が続くというものであった。馬車の後部では行商人の馬車の右側をローズが、左側をヒルダが見張る。前方はブライトンが見張るという体制をとる。休憩は昼食までの間に一度、昼食時、夕食までの間に一度ということになっていた。適度な村がないため、夜営という予定である。これは仕方がないことで、魔境に接している街道に等間隔で街や村があること事態がおかしいのである。


 昼食までの間、二度魔物に襲われたが、群れではなく、一匹ずつであったため、一度はヒルダが、二度目はローズがそれぞれ仕留めている。当然、剥ぎ取りは行う前庭なので、済ませていくことになる。いずれも大蟷螂であったため、すぐに剥ぎ取りは終わる。昼食は乾燥肉と乾燥野菜、それにパンである。基本的に昼はそれほど手間をかけない予定であった。街道とは言え、それほど整備されているわけではなく、広い獣道といった感じなので、それほど速度が上がることもない。


 野営地は、ソーマが一mほどの高さの土壁で周囲を覆い、その中に馬と馬車、人間が入る形で形成した。大したものでは無いが、それでも、何もないよりはましで、グレイグも喜んでいた。夕食は乾燥肉と乾燥野菜を水で煮る。もう季節は冬であるから、冷えた身体も温まる。むろん、トーガシたっぷりの乾燥肉を使っているためである。


「これがナイジェルのところの商品か、確かに今の季節にはいいな。乾燥肉のときにも思ったが身体が温まる」

 グレイグはそういいながら食べていた。今回の護衛では、食事は<サムライ>が用意するということになっているためである。むろん、依頼料に上乗せされている。

「ニュルンでは冒険者も持ち歩いています。商人にはまだ広がっていませんが・・・」

 ソーマが答える。

「先日、大量のオーク肉が手に入ったので、在庫はあるみたいですよ」

 そう続けたのはローズである。

「うん、僕も次からはこれを用意しよう。極論を言えば、水で煮るだけでスープになるとは楽でいい」

 塩で味を調える必要はあるのだが、そういって美味そうに食事をするグレイグはすでに三十を越えているが、実直そうな男であった。


 その日の夜は魔物の襲撃はなかった。普通の夜営なら現れていたかもしれないが、土壁に囲まれていたため、襲撃はなかったのかもしれない。復路でも利用できるかもしれないので、土壁はそのまま残しておくことにした。次の日は昼食まで三度襲われたが、これも難なく撃退した。一度はゴブリンの集団だったが、十匹だったのでソーマが問題なく対応した。その次は大蜘蛛だったが、ローズの魔法で撃滅している。最後はオークが一匹で、これはブライトンが仕留めている。馬車二台の道程であったため、速度が速く、目的地のハイゼル騎士爵領のゼルファという街には一日半で着いた。


 街の規模はニュルンよりも小さいようであった。街の入り口でグレイグと別れ、ソーマたちは馬屋に馬車を預け、冒険者ギルドで素材を売却したあと、宿を取って二日ぶりの風呂とベッドを確保した。予定通り、街に二日滞在したが、特に見るべきものもなかった。ただし、北にあるだけにニュルンよりは暖かった。その後、予定通りに帰路に着く。帰路も特に問題なく進んだ。むろん、魔物には襲撃を受けたが、上位魔物はいなかったので、問題はなかった。ただ、やはり南に向かうだけに気温は下がって寒く感じる。


 その後も往復で五日程度の護衛依頼を三度こなす。うち、二度はサザンクロス商会の依頼で、一度はグレイグの依頼であった。いずれも、<サムライ>として問題なく依頼達成していくことになった。やはり、馬車を用意できるのが大きいといえた。ただし、いずれも、内陸部向けの依頼であったため、素材確保という点では問題があった。


 内陸部向けの護衛依頼では対象が盗賊、もしくは山賊からの護衛となる。いわゆる対人護衛ということである。つまり、襲撃を受ければ人を斬ることになる。これは、<サムライ>の誰もが経験していないことであった。三度の依頼で一度だけ盗賊集団に襲われたのだが、ソーマとヒルダは片刃の刀であったため、殺傷することなく、捕らえることになった。


「ソーマさんは内陸部での護衛は初めてでしたよね?」

 ナイジェルがやや不満げな顔でいう。

「ええ」

「盗賊や山賊は捕らえるのではなく、斬り捨てていくのが基本です。捕らえると最寄の街まで連れていく必要があり、そうすると、捕らえた盗賊にも対処しなければならない。長距離移動は不可能なので、殺して何かの証拠品だけを街の衛兵に届けることになります」

「そうなのですか?」

「ええ、我々商人としては余計な荷物は持ちたくありませんからね」

「判りました・・・」


 盗賊を人間と思わないことだ、そういわれた気分で、ソーマもヒルダも落ち込んだといえるだろう。ソーマは領主の息子として、剣技は学んだものの、人を殺したことはない。走馬にしても、殺人の技術は習得しているが、殺人を犯したことはない。ヒルダにしても、ソーマと同様のようで、落ち込んだといえる。そう考えると、魔物相手の護衛依頼は危険があるものの、心の葛藤は起きないのだといえた。


 ちなみに、王国では殺人はかなり重い刑に処される。少なくとも、二十年は鉱山での強制労働となるようである。ただし、殺人を犯しても罪にならない場合がある。それが盗賊殺し、山賊殺しである。むろん、しかるべき証明があればということになる。五割以上の確率で、盗賊や山賊は各領主の衛兵が把握しているようである。そうでない盗賊や山賊もいるが、皆殺しでなければ、必ず情報収集が行われるため、大なり小なりの情報はあるようである。


 そんなソーマを変えたのが、父を殺害したゲッベルスに対峙したときに切れるか、という考えであった。今は収監されているが、もし、フォレスター伯領で会った場合、父の敵として斬らねばならない。そう考えることで、盗賊に対しての対峙も変わることとなった。敵を取れないというのは、ソーマにとってはなによりも不甲斐ないと思われたのであろう。


 しかし、ヒルダにとってはなかなかに難しいようで、しばらくは落ち込んでいたようである。原因は彼女の出自にあるのかもしれない、ソーマはそう考えることにしたのである。<ブライトフォー>の他のメンバーはヒルダに無理に斬り捨てることはなない、そういっていたようである。


 そうして、王国暦二百五十三年一月、<サムライ>はローエンハイム騎士爵領に向かうこととなった。道程はこれまででもっとも長い片道五日という護衛任務につくこととなった。おまけに、季節は冬であり、ニュルンよりも気温が五度ほど低いという。しかも、セーラやローズ、ヒルダによれば、街道とはいえ、かなり状態が悪いという。


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