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パーティ<サムライ>

 土竜を討伐した翌日、ソーマは冒険者ギルドで報酬を受け取った。十万マリクである。うち、五万は冒険者ギルドに預けている。三日前のオーク集団討伐の際は、緊急依頼ということで、素材買取は行われなかったが、今回は素材買取に関してはソーマのほうで断っていた。代わりに、素材と討伐代金を一括してもらっている。それが十万マリクであった。土竜が現れたのは五十年ぶりとかで、研究材料として使えるようにしてほしい、との依頼があったからである。素材買取りとなれば、ばらされて研究どころではないからである。むろん、謝礼は先の金額に含まれている。それと、アーサーとの対談も行われている。Bランクに昇格してすぐであり、今すぐの昇格は望めないだろうが、一応の推薦はしておいた、とのことで二ヶ月以内に結果が出るとのことであった。


 ソーマとしては臨時で得た五万マリクをそのまま、サザンクロス商会の資金として提供している。業績は好調で、より遠距離で商売をするため、馬車代や人件費として拡充するための資金である。ソーマの目的としては、王国辺境の諸侯領地、とりわけ、故郷のフォレスター伯爵領の状況をつかむためであった。むろん、他の地域の情報収集のためでもあった。


 その後は特に何もなく、日々が過ぎていった。そして、ソーマがニュルンに来て半年、季節はこれから冬に向かうため、ニュルンの街周辺の魔物も落ち着いてきており、例年のように討伐依頼も減少しつつあった。多くの冒険者はこの時機になると、ランクアップを狙って魔物の出没が変わらない北の街に移動するのだ。それは、低ランクの冒険者ほどその傾向が強いといえただろう。


 Bランク冒険者として、結局、Bランクになってすぐの土竜討伐であったため、Aランクへの昇格は来年に持ち越された、ソーマも今後を考えなければならなかった。依頼数が減少し、低ランクの依頼をこなし、素材買取で過ごすことも多かったのだ。むろん、サザンクロス商会の依頼として、パーティ<サムライ>での依頼もこなしていたが、それとて、それほど多くはなかったのだ。


 この時機のソーマはじっとしていることを嫌っていたのだ。何か仕事をしていたい、そういう意識が強かったのだ。それこそ、走馬の意識の影響かもしれなかった。<ブライトフォー>のメンバーもランクアップ間近のDランクとの評価されており、セーラ以外はCランクと同等とされていた。セーラはパーティとして以外では討伐にはあまり出ず、もっぱら冒険者ギルドや街の教会の治療院での活動にとどめていたため、ランクアップ間近とは評価されるには至らなかった。


 そして、ソーマの出した結論は、パーティ<サムライ>の本格的な活動開始であった。パーティ<サムライ>はBランク一人、Dランク四人ということで、Cランクパーティとして認知されており、指名依頼もそれなりにあるのだった。それはセイシェルがソーマに明かしたものでだった。しかし、パーティ<サムライ>は常に活動しているわけではなく、冒険者ギルドの方で断る場合が多いというのである。


 そんな十一月末のある日、ソーマは<ブライトフォー>のメンバーとの対談に望んだのであった。場所はソーマの部屋である。これは、ソーマの部屋が二人部屋で他のメンバーの部屋よりも広かったからに過ぎない。

「呼びだててすみません。実は昨日、セイシェルさんから聞いたのですが、<サムライ>には護衛依頼が良くあるそうです。常時活動していない、ということで、 冒険者ギルド側で断るケースが多いというのです。本格的に活動するのはどうかと思いましたので」

 そのソーマの言葉に最初に答えたのはヒルダだった。

「私はいいと思う。ただし、仕事の内容によるのだけど」

「私も賛成だな。同じ場所にばかりというのもね、そろそろ移動しても良いかも」

 ローズが答える。

「もう半年もこの街にいるんだ。いい時期かもしれない」

 そういったのはブライトンである。

「私も、北でも南でもいいと思います」

 セーラが少し考えていう。

「ヒルダさん、仕事の内容による、というのは?」

「出来れば北への移動がいい。南にはあまり行きたくない」

「そうなんだ」

「私は南でもかまわないわ。あまり長居はしたくないけど」

 とローズ。

「今まで聞いていなかったけど、聞いていいかな?」

「何を?」

 とセーラ。

「出身地です。僕はフォレスター伯爵領のフォレスベルグだけど」

「ブライトンと私はローエンハイム騎士爵領のローエンベルグという街よ」

 セーラが答える。

「私はローエンハイム騎士爵領のエッセルという街ね」

 と、ローズが答える。

「私はローエンハイム騎士爵領のローエンベルグだけど」

 少し迷ったようにヒルダが答えた。


 ちなみに、ローエンハイム騎士爵領とは王国の最東部の領地で辺境といわれる地域である。南は海で、東は大森林、西はヘンゼル男爵領、北西はニュルンハイム騎士爵領と接している。そして、領地の北部は直接魔境と接しており、魔物の出現率が高く、冒険者には人気の地域でもある。気候的には、夏は二十五度を越えることは稀で、冬は十度を下回ることはない。非常に過ごしやすいといわれている。セーラのいうローエンベルグは領主の住む中心都市でありローズのいうエッセルは東部の街である。


「それで、ヒルダさんはあまり南へは行きたくないと。ただ、サザンクロス商会は南を重視しているようです。僕ではなく、ナイジェルがということですが」

 実はソーマがローエンハイム騎士爵領に興味があるのだが、ここでは明言しない。ローエンハイム騎士爵バルトはソーマの父フランクの信頼する男だと聞いていたからである。なので、ソーマが伯父のワグナー伯爵、姉の嫁ぎ先であるガードナー伯爵の次に頼ろうとしていた人物である。


「まあ、仕事なら仕方がない。反対はしない」

「内陸部への護衛は少ないと思います。ナイジェルの伝で<四つの明星>が付くことが多いでしょう。<サムライ>としては魔境に近い街道沿いを受けたいと思います」

「それは我々なら守れると信じて貰っているのかしら?」

「ええ、セーラさんのいうとおり、<サムライ>でなければ、その次は<ブライトフォー>ということです」

「ほう。ソーマにそこまで信頼してもらえるのなら、これは応えなければならないな」

 ヒルダが少し顔を赤くしていう。


 ともあれ、サザンクロス商会だけの依頼を受けるわけではなく、他の行商人の依頼を<サムライ>として受けることを確認できた。むろん、サザンクロス商会の依頼を優先することには変わりはない。当面の間、拠点はニュルンに置くため、アパートを借りておくのはいいが、いずれ滞在日数が少なくなれば、宿を取るほうが安くなるということになる。


 こうして、パーティ<サムライ>の本格的な活動方針が決定された。誰もが、冬の間のものではないと理解していたのだ。むろん、時にはソロで、時には<ブライトフォー>として活動することもあるだろうが、基本的には<サムライ>として動くことになったのだ。これも時代の流れかもしれなかった。二百年前、魔境に接した地域だけではなく、内陸部にも魔物が現れていた時期とは異なり、現状では魔物を見ることが出来るのは辺境だけである。そのことが今の流れ、パーティで活動する、を形作っていたのだろう。


 つまり、現在ではパーティで活動するのがメインで、ソロ活動しかしないのは協調性がないもの、という風潮が強いらしい。この辺りではそう多くは無いが、北部では幾つかのパーティが集って合同で行動することも多いという。そのため、幾つかのパーティの集合体というものが出現しているとも言われる。その中から目的に応じてパーティを動かしているというのである。


 ともあれ、パーティ<サムライ>は翌月から本格的に活動を開始することとなった。それはある意味、新しい試みでもある。商会運営はナイジェルが行っているが、商会会頭ではない。商会会頭は書類の上ではソーマになっているので、自分の商会の財産を自分で守るという試みになるからであった。


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