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土竜スレイヤー

 翌日、一晩ぐっすり寝たソーマは体調を回復させ、すっきりした状態で朝食を済ませると、冒険者ギルドへと向かった。<ブライトフォー>のメンバーとは顔を合わせ、賞賛とねぎらいの言葉をかけられ、<フォースター>のメンバーにも同様の声をかけられていた。ソーマ自身は大したことはしていないつもりなのだが、周りの目は違っていたようだ。冒険者ギルドに入ると、周囲の冒険者からは、あれがオーク百匹切りの、とか、あれが氷剣の、とか聞こえてくる。セイシェルのカウンター前の椅子に座ると早速声をかけられた。

「ソーマさん、昨日はお疲れ様でした。体調のほうはいかがですか?」

「ええ、問題ありませんよ。なんですか、あれ?」

「ソーマさんの二つ名ですよ、すでに広まっているようです」

「そうなんだ」

「さて、報酬の話の前に、ギルド支部長から奥に通すように、そういわれております。どうぞ、こちらへ」

 そういってカウンター席を離れ、ソーマには階段のほうに回るようにいう。階段のところまで歩いていくと、二階には上がらず、職員用の通用口からカウンター奥の部屋に案内された。カウンターの向こうとこちらは完全に遮断されており、冒険者がカウンター内に入るにはこの通用口を通ることになる。普通はありえないことなのである。案内されたのはギルド支部長の執務室だった。

「支部長、ソーマさんを案内してまいりました」

 ノックの後、そう声をかけるセイシェルに、「入れ!」、との返答があった。部屋に入るとそこにはギルド支部長であるアーサーと二人の男がいた。アーサーはソーマにソファにかけるよういい、二人の男を、鑑定部のトロイと育成部のロッドだと紹介した。

「昨日は見事な働きだっだ。あのままでは犠牲者が出ていただろうし。街壁を破られていた可能性が非常に高い。君のおかげで街は救われた。感謝する」

「いいえ、自分に出来ることをしただけです」

「そうか、トロイから話があるようだ。聞いてやってくれ」

「鑑定部のトロイだ。昨日のオーク集団だが、オークが百匹と上位種のオークキングが一匹だった。その八割が絶命していた。残り二割は<ブライトフォー>と<フォースター>のメンバーが止めを刺している。鑑定部では百一匹総てが君の討伐だと判定した」

 手元のメモを見ながらいう。

「ありがとうございます」

「育成部のロッドだ。君が助けに入った冒険者だが、治癒士により、助かっている。まだ、ひよっこだが、さる貴族の三男でな。死んでいたら問題になるところだった。礼をいう」

 少し自嘲気味にいう。確かに、三男とはいえ、貴族の子弟である。厄介ごとが起きる可能性があったのだろう。

「さて、君のランクだが、Bランクに昇格することが決定したことを伝えておく。我々が判定できるのはここまででな、SランクやAランクへ昇格するにはギルド支部長会議を経なければならん」

「ありがとうございます」

「異例の短期間での昇格だが、異論は出ないだろう、そう判断している。ニュルン近郊ではここ最近、Bランク以上に昇格するものはいないからな。久々のBランク冒険者の誕生だ」

 基本的にBランク昇格までは各ギルド支部に任されるが、それ以上はギルド支部長会議を経て決定される。討伐系依頼をメインにこなし、半年を経ずしてBランクになるのは異例のことだという。現在ではBランクになるのに、最低十年はかかるといわれているそうだ。

「ご苦労だった。報酬の話とカード更新はセイシェルがやることになる。下がってくれてよい」


 そうして二人でカウンターを挟んで向き合うと、セイシェルが話し出した。

「緊急依頼であるため、報酬は通常の二十五パーセントとなりますので、オークが百匹で二万五千マリク、オークキングが一匹で五千マリク、合計三万マリクとなります」

 聞けば、緊急依頼は通常の四分の一と安くなるという。これは冒険者のランクを基準にしているためであるようだ。今回はDランク以上のためらしい。これがCランク以上だと五十パーセント、Bランク以上だと七十五パーセント、Aランク以上だと百パーセントだというのである。もっとも、ここ五十年ではAランク以上はおろかBランク以上の緊急依頼はないという。つまり、それほど高ランク冒険者が少ないということだろう。

「判りました」

「では、カードをお預かりします。少々お待ちください」

 ソーマがカードを手渡すと、いつも通りの処理を行う。そして、自席の奥から金貨三枚を乗せたトレイと新しいカードを持ってくる。

「三万マリクと新しいカードです。ご確認ください」

 ソーマがカードに親指を当てると名前とランクが表示された。それを見て、ソーマはトレイから硬貨を受け取る。

「確認しました。ありがとう」

「お疲れ様でした」

 その言葉に送られるようにして、ソーマは冒険者ギルドを出る。


 その翌日、ニュルンの街はとんでもない魔物の襲来を受けることとなった。土竜の襲来である。土竜は日本で普通に見られるトカゲと同じ体型をしているが、その大きさが異なる。体長十m、尾の部分は四mあり、稀に十五mを越えるものもいる。毒を持たないし、ブレスも吐かないが、紛れもなく、竜の一種である。その武器は前足の爪と強靭な顎で獲物を襲う。一節には、腐肉も喰らうとも言われ、血の匂いに敏感だといわれているようだ。


 つまり、オーク集団討伐の後、ニュルンで百一匹のオークの解体が行われたのだが、そのさい、多量の血液や臓物が廃棄され、その匂いが周辺に充満し、その結果として、近くの魔境にいた土竜を誘き寄せることになったのだ、と後に結論付けられている。


 その土竜はたまたま、南に下ってきていたが、血の匂いと肉の匂いに誘われて現れたものだった。多くの冒険者がオークが討伐されたことで、南の森に入ることとなり、そのうちの何人かが土竜を目撃、ニュルンの街に向かっているとの知らせがギルドにもたらされることになったのだった。時間的に昼を過ぎたばかりで、街にはそれほど冒険者がおらず、緊急依頼というわけにはいかなかった。もっとも、緊急依頼を発令しても、この場合はAランクとなるため、ニュルンには存在しない。


 その日、ソーマはソロで街の南側の街道の西側の森に入っていたのだが、咆哮と地響きのような轟音に気付き、急いで街道に戻って来た際に、反対側の森の中から現れた土竜に遭遇したのだった。土竜と街の間にいる冒険者の中には<ブライトフォー>のメンバーもいた。このときのソーマの位置は土竜から見て左斜め前というところだった。すでに戦闘は始まっており、ローズも火魔法の内、単魔法を放っているが、あまり効果はない。他の魔法使いもそれぞれに攻撃をしているようだが、初級魔法がほとんどのため、効果はないようだった。ローズが中級の火魔法を使えないのは、土竜の近くに多くの冒険者がいるせいである。それはローズだけではなく、他の魔法使いも同様だった。弓矢での攻撃は行われていない。理由は標的の周囲に冒険者がいるため、誤射を恐れていたのである。仮に、攻撃していても、その硬い鱗に阻まれ、無効であっただろう。それこそ、鏃がダイアチタ鋼で出来ていない限りは。


 剣や槍を扱う近接戦闘は行われていたが、やはり、Dランク以下ということで、躊躇している者も多いようである。ソーマは森の中での討伐ということで、今日は<氷風水炎>を手にし、<一期一会>はリュックサックの中である。が、氷を纏わせた<氷風水炎>を手に前に出て行く。しかし、土竜は意外にも俊敏で前足を器用に使い、ソーマを含めた冒険者を近づけさせない。既に、幾人かの冒険者が負傷していた。


 とはいえ、ソーマもオーク集団討伐の際、走馬との意識の融合を果たしており、どの冒険者とも違う円の動きをし、前足の攻撃を避けながら徐々に間合いを詰めていく。そうして、前足が振られた瞬間、その前足に飛び乗って駆け上がり、跳躍、大上段に持っていた<氷風水炎>をまっすぐ振り下ろすことに成功した。その攻撃は違わず、土竜の首を捕らえていた。それは他の冒険者からすれば、一瞬の出来事であったかもしれない。だが、その一撃は土竜の直径一mはあろうかという首を切り裂き、頭を地面に落とすことになったのだった。いつもより魔力を多めに纏わせたため、氷の刃は一m以上に伸びていたのだった。


 そして、氷を纏わせていたため、その切り口は凍り、一滴の出血もなく土竜は倒れた。頭が地面に落ちたのを確認して、他の冒険者が近寄ってくる。最も早かったのはヒルダであった。

「ソーマ、やりましたね」

「なんとかね。しかし、こいつデカイよな」

「そうですね、私の聞いた話だと、胴体と尾を含めて十m程度だといわれているようだけど」

「うーん、こいつは十四mはあるぞ。亜種なのかもしれないな」

「だけど、土竜と変わるところはないじゃないか」

「たしかにね。でも、土竜がこんな南に現れるとは知らなかった」


 こうしてソーマにはもうひとつの二つ名、土竜スレイヤー、という、がつくこととなったのだった。


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