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上位種現る

年末年始はバタバタしていました。今週中にもう一話書ければと思います

 ニュルンに戻ったソーマたちが、ヨツン村までの行商人護衛依頼達成の手続きを済ませるため、冒険者ギルドに向かった。その手続きの最中、セイシェルから南の森にオークの上位種が出現した可能性を知らされることとなった。オークは二足歩行の豚であるが、その身体には粗末な布あるいは皮の下滞しか付けておらず、武器は棍棒である。しかし、今回、オークの集団の中に皮鎧を付け、剣を持つ個体を目撃したとの情報が寄せられたのだという。もしかしたら、オークキングかもしれません、そう告げられたのである。


 オークキングが王国東部、ニュルンハイム騎士爵領を含む、に現れた記録はあるが、それは三十年以上も前であり、それ以降は目撃例はない。通常のオークとの差はその装備であるが、過去の例ではオークの群れを率いてかなりの規模の村を壊滅させた、という記録が残されている。それはこの周囲ではなく、もう少し北の方であるらしい。少なくとも、それなりに知能があり、人間の残した装備を身に付けること、群れを作って村を襲撃すること、という特徴があるそうだ。今後、南の森で狩りをする場合は注意するよう告げられた。


 もっとも、パーティ<サムライ>としても、ソロとしても、また<ブライトフォー>としても、近距離護衛依頼を終えたばかりのため、二日ほどは休息に当てる予定である。討伐依頼を受けるのはそれ以降の予定だ。ソーマは一日アパートで過ごす予定で、<ブライトフォー>のメンバーは<セオドア武具工房>で装備の整備を行ってもらうようである。


 そのオークキングを目撃したのはパーティ<四つの明星>で、現在はナイジェルの護衛でニュルンを出ているそうである。冒険者ギルドでは、オークキングがオークの群れを率いてニュルンに攻めてくる可能性を考慮しているようであった。とはいえ、ニュルンの街は街壁に囲まれており、三十年前に壊滅させられた村とは違うのである。


 仮に襲ってきたとしても、街壁の上からの弓による遠距離攻撃、魔法による攻撃、そして剣や槍による近接戦闘で撃退出来るはずであった。少なくとも、弓を扱う冒険者はそれなりにいるはずで、レベルはともかくとして、数打てば当たる方式でいけるはずである。それが冒険者ギルドの考えであろうし、ソーマもそう考えていた。


 翌日、午後の二の鐘が鳴る頃、その考えが甘かったことを冒険者ギルドやソーマの知るところとなった。アパートにいたソーマのところに、冒険者ギルドの職員がやってきたのである。よほど急いだのか息が上がっていた。街には魔物襲来を知らせる鐘がカーン、カーンと鳴り響いていた。現れた職員はソーマに向かっていった。


「オークが群れで現れました。緊急依頼が発動されました。Dランク以上の冒険者に召集がかかりました。すぐに、冒険者ギルドのほうへ」

「判りました。準備をしてすぐに向かいます。現れたのは南門のほうですか?」

「はい、そうです。あの・・・ <ブライトフォー>のメンバーは?」

「今、<セオドア武具工房>にいると思いますよ」

「ありがとうございます」


 そういって職員は外へと向かった。ソーマはいつものように革鎧を着け、アームガードを装着、少し考えた後、リュックサックから<一期一会>を取り出して背負う。<氷風水炎>は着けずにリュックサックに仕舞うとアパートを出た。出入り口では女将さんが心配そうな顔をしていたので、ひとつ頷いてから出る。


 冒険者ギルドに行くと、十数人の冒険者が集まっていた。ほとんどがDランクらしいが、中にはBランクやCランクの冒険者もいる。彼らはソーマの知らない顔で、他の場所から出てきた冒険者なのだろう。中には数人のEランクの冒険者もいるようであった。冒険者ギルドにより、Dランク相当の腕があると考えられるものであると思われたれた。やがてギルド支部長のアーサーが現れ、静まった冒険者に向かっていった。


「南門の先、一kmのところにオークの集団が現れた。数はおよそ百匹、街壁を破壊するためと思われる二本の太い丸太を担いでいる群れもあるようだ。Dランク以上の者には拒否権はない。弓を使うものと魔法使いは街壁の上へ、剣や槍など近接戦闘を行うものは南門へ向かってくれ! 繰り返すが、緊急依頼である。Dランク以上の者には拒否権がない。拒否すれば罰則が適用される」


 この依頼の中には弓使いや魔法使いはDランク以下でも、参加できる、と付け加えてもいるが、その理由はオークと直接対峙しないからであろう。


 それを聞いた冒険者たちは我先に南門へと向かった。十数分後、南門から外に出たソーマが見たものはアーサーの言った通りの光景であった。街道を挟んで左右に広がった隊列で行進してくるオークの姿だった。その街道のすぐ脇を直径一m、長さ五mを越える丸太を背負った二列が行進していた。最後方に皮鎧を着け、剣を持つ他より一回り大きいオークがいるのが見える。すでに、街壁まで七百mを切っている。いや、十匹程度のオークが先行して五百mほどまで近づいていたが、弓矢による攻撃準備はなされてはいない。よく見ると、先行するオークのすぐ前に数人の冒険者がこちらに向かって逃げてきていた。このままでは弓矢や魔法による遠距離攻撃は行えないからだろう。


 逃げている冒険者の何人かはそれほど早くは走れていないようである。どこか怪我をしているのかもしれない。見るからにすぐに追いつかれそうな感じである。オークの先頭と後続の間は二百m。

(何とかなるかもしれない)そう考えたソーマは<一期一会>を抜くと駆け出した。

(間に合えばいいが・・・)そう思っている。後ろでは衛兵の静止の声が上がるが、無視する。ソーマが最後方の冒険者の元にたどり着いたとき、その冒険者は足から血を流しているのが見えた。氷を纏わせた<一期一会>で先頭のオークに切りかかりながら叫ぶ。


「後ろは気にするな! 死にたくなければ、走れ!」


 そうして、十匹を切り捨てた後、後方を見ると、件の冒険者はそれほど離れていないところを何とか歩いている様子である。街までまだ三百mはある。すでにオーク集団とソーマの間は百mほどに縮まっており、その集団から何匹かのオークがこちらに向かって駆け出しているのが確認できた。ソーマは思う。

(冒険者を助けながら走るのは無理であろうし、距離が開かない以上、弓矢や魔法での攻撃支援は受けられないだろう。それなら、いっそのこと・・・)


 そうして、ソーマはオーク集団に向かっていった。その光景は街壁に上がってきたギルド支部長のアーサーも見ていた。そして(無茶なことを・・・ )と胸のうちで呟く。彼だけではなく、弓を持つ他の冒険者や杖を持つ魔法使い、そして、門の近くにいる冒険者や衛兵たち、誰もがそう思っただろう。そして、誰もが、彼は討たれて死ぬだろう、そう思っていただろう。


 一人、オーク集団に切り込んだソーマであるが、彼は最初は稲妻型に移動して刀を振るっていたが、徐々にその動きが変わってきていた。円の動きであった。ソーマ自身、剣の修練は積んでいるが、あくまでも一対一の剣技を学んでいたに過ぎない。というよりも、王立アカデミー中等部や高等部ではそういった剣技しか教えないのである。では、その円の動きはどうして身に着けたものだろうか。それは三上走馬の知識であり、経験であったかもしれない。これまで刀を奮っているとき、走馬の意識に触れたことはなかったが、ここにきて、ソーマは自身の身体を動かしているのが他人のような感覚を味わっていた。そうして、当たるを幸いとオークを切り捨てていた。なにしろ、自身の周りは総て敵なのである。


 その光景を遅れてきた<ブライトフォー>のメンバーも南門のすぐ外で見ることとなった。<セオドア武具工房>に預けた武器を引き取り、やや遅れて南門にやってきていたのである。ヒルダは刀を抜いてソーマの加勢に向かおうとしたのだが、その戦いぶりを見て、自然と見入られて動けないでいた。それはさらに遅れて到着した<フォースター>のメンバーも同じであったようだ。特に、ヘンリーとマルコムは駆け出してすぐ、その場から動けなくなっていたのだった。ソーマの戦いぶりに魅入られて。


 氷を纏わせているため、刀の切れ味は衰えることはない。切れ味が鈍れば、氷を新しいものにすればよいのである。しかも、ミクロン単位まで氷の厚さを変えていた。そのため、<一期一会>は剃刀以上の鋭さを維持していた。いつものように一撃で頸を撥ねるなどとは考えず、戦闘力を奪うことだけに徹して刀を振るい続けたソーマは、棍棒ではなく、剣による攻撃を受けたことで意識は現実に戻る。目の前には、錆びた剣を持ったオークキングがいた。しかし、円の動きに徹しているソーマはその攻撃を難なく避け、刀を振るった。そうして、そこで初めてすでに敵がいないことに気付く。


 彼が戦闘中、自らの意識を手放していたかどうかは判らないが、今は自らの意思で円の動きを極自然に行っていた。そして、隙を見せたオークキングの脇をすり抜けて背後に回り、背後から袈裟懸けに切り捨てた。それは革鎧を紙のごとく切り裂いた。それで周囲を見回し、すでに、立っているオークがいないことを確認してから<一期一会>を片手で一振り、纏っていた氷を払うと鞘に戻した。総て、氷を纏っていた攻撃のため、血は一滴も流れていないし、返り血も浴びてはいない。そして、あたりには薄っすらと霜が下りていた。冬ではない、のにである。


 中にはまだ動き続ける息のあるオークもいるだろうが、止めを刺す気力はなかった。時間的には一時間と過ぎてはいないのだが、これほど、長時間にわたり、魔法剣を振るったことがなかったため、予想以上に疲れていたのかもしれない。門に向かって歩いていくと、途中でヘンリーとマルコムが迎え、賞賛の声をかけてきたが、疲れているから、とだけ伝えた。そして、その先にいた<ブライトフォー>のメンバーにも迎えられたが、疲れた、といい、息のあるオークに止めを刺してくれるよう頼んだ。彼らはそれを聞いていたヘンリーとマルコムと共に、オーク集団の倒れているほうへと歩いていった。


 門をくぐると、そこにはギルド支部長のアーサーら幹部がおり、声をかけてきた。しかし、疲れているから今日は帰る、明日、ギルドに行きます、そう告げてアパートへと重い足取りで歩いていった。そうして、<金色竜翁亭>の女将には疲れているので、とそれだけ言って自室の鍵を貰い、部屋に入り、装備を外すとベッドに倒れこんだのだった。


 この日を境にソーマには二つの二つ名がついた。ひとつはオーク百匹切りの男、もうひとつは氷剣のソーマ、である。しかし、後に氷剣のソーマが代名詞となる。ヘンリーもマルコムも、ヒルダやブライトン、その他の冒険者も倒されたオークを見て、ソーマの氷剣の切れ味に驚愕したからである。オークを百匹切ったことよりもそちらのほうがインパクトが強かったのだ。そうして、ソーマのランクは上がることとなった。


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