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南の森の異変

 九月に入って街周辺、特に南街道東側に異変が起きていた。これまであまり森を出てこなかった魔物、大アリ、大蠍などが街道に出てくるようになっていた。さらに、ゴブリン、オークなども出現するようになっていた。襲われる行商人はいたが、これまでは負傷者はいても、死亡者は出ていなかった。南街道は西や北街道に比べて利用者が少ないため、あまり問題とされていなかったのだ。


 とはいえ、魔物が街の街壁から見える範囲に出現するとなると、話が違ってくる。かって、北東の森にオーガやブラッドウルフが現れ、森の中に住む魔物が街道に出てきていたことから、今度も何か上級魔物が出現しているのではないだろうか、そう考えられたのだろう。しかし、現在、ニュルンの街には高ランクのパーティはいない状況で、森の中の調査は不可能だった。結局、対応としては、街道に現れる魔物の討伐ということになる。そして、この場合、ソロではCランク以上、パーティではDランク以上でなければ、手に負えないだろう、と冒険者ギルドでは判断されていた。


 現在、ニュルンの街にはBランク冒険者が四人、Cランク冒険者が五人、Bランクパーティが二個、Cランクパーティが一個、Dランクパーティが二個存在するという状況だった。街に現れるAランクパーティは護衛依頼で街を離れている状況である。ちなみに、Cランク冒険者の内の一人がソーマである。Dランクパーティの内のひとつが<ブライトフォー>である。そして、ソーマ以外の冒険者はギルド職員であり、教官として訓練場にいる。Dランクパーティのもうひとつが<四つの明星>で、以前、ナイジェルの護衛についていたパーティである。それ以外のパーティはギルド職員によるパーティだった。


 正直なところ、かなり貧弱といえた。また、ソロの冒険者としてみた場合、現状ではソーマがもっとも上位ランクとなる。というのも、教官としてギルドに属している冒険者は一ヶ月以内の実戦経験と条件をつけた場合、ソーマに劣るからである。パーティも同様で、現実的には<ブライトフォー>と<四つの明星>以外では一ヶ月以内の実戦経験では劣るのである。


 ただし、結成直後という条件がつくが、パーティで言えば、もうひとつCランクに近いパーティが存在する。それが<サムライ>である。<サムライ>としての活動は、一ヶ月に一度か二度、リント村への護衛依頼をこなす程度で、それ以外の活動は今のところない。ただし、パーティメンバーがCランク一人、Dランク四人ということで、Cランクに近くなるというだけである。


 ともあれ、ソロではソーマが、パーティでは<ブライトフォー>と<四つの明星>が南街道周辺の魔物討伐を引き受けていた。中にはギルドの許可を受けて、Dランクに近いEランク冒険者が参加していたが、森の中に入ることは許されていなかった。彼らはギルド訓練場で教官による試験を潜り抜けてのものであった。


 この森の異変でもっとも注意すべきなのは空を飛ぶ魔物であった。吸血大蝙蝠、シェールビー、大イナゴ、大蛾などである。毒を持つのはシェールビーと大蛾である。これらの空飛ぶ昆虫系魔物は魔法使いがいれば戦いやすい。とはいえ、人を襲うために近づくため、その瞬間に攻撃できれば、遠距離攻撃能力がなくても、対応が可能である。


 とはいうものの、このような森の異変はここ最近にないことであるが故に、冒険者ギルドとしても、対応に苦慮するところであろう。近隣の冒険者ギルドへは高ランク冒険者の派遣要請が行われているはずである。


 もっとも、秋から冬、春までの間は魔物も南に移動することはないとされており、今をしのげは、多少は落ち着くだろう、という見方もある。一年を通してニュルン近辺で見られるのはゴブリンやオーク、大蟷螂、大アリ、ジャンピングラビット、プレーリーラットなどである。ハイエーナなどもいるが、これは討伐対象外であった。というのも、森の掃除屋として重宝しているからだ。ただし、今年が異常気象で暖かいことを考えると、秋から冬にかけて魔物が減るかどうかは今のところは判らないといえた。


「もうキリがないわね。範囲魔法が使えれば楽なんだけど・・・」

 炎弾や炎矢、炎槍を放ちながらローズがいう。彼女は現れる魔物に対して、単魔法である炎弾や炎矢、炎槍を放っているのだ。

「それは無理ですよ、ローズさん。範囲魔法とはいえ、火魔法です。討伐証明部位が燃えてしまいますよ」

 そういうのはローズの落とした魔物に止めを刺し、証明部位を剥ぎ取っているソーマだった。今回、<サムライ>として討伐依頼を受けているのだ。理由はもうすぐ、南の村への護衛任務が入る予定で、それの準備のためである。

「とはいうものの、頭部や胴体を狙って単魔法を放つのは結構つらいのよ」

「我慢しなさいな、ローズ。それに範囲魔法を使うと森に延焼する可能性があるでしょう」

 ソーマと同じ作業をしているヒルダがいう。今の体制は、セーラとローズが後衛、ブライトンが盾役、ソーマとヒルダが前衛という形である。森が近いため、単魔法といえど、遠距離攻撃は控え、近距離攻撃に徹しているのだ。これが氷や水、風系なら森の木々を凍らすか倒すかなので被害は少ないが、ローズの属性の火ではそうもいかないのだ。


 討伐を終えて、ギルドで手続きを済ませ、素材の売却を済ませて、<セオドア武具工房>に向かう。今回もそれなりに売却益があったため、素材を利用して武器を造れないか、相談するためである。実は一匹の大蟷螂を討伐した際、その腹の中から寄生していたワームが現れたのだ。俗にスチールワームといわれる虫であるが、これが剣の材料になると聞いたことがあったので、本当に可能なのか確認する意味もあった。


「ほう、スチールワームか、また珍しいものを持ってきたな」

 黒い直径四cm、長さ五mほどの物体を見るなり、そういう。

「ええ、今日の討伐で結構大きいやつから現れましたので、頭と尾は落としてきましたが」

「で、これをどうしろというんじゃ?」

「いえ、以前に剣を作れると聞いたので・・・」

「また、剣を作るのか、お前は」

「違いますよ。僕は今ので十分です。実は近接戦闘用にローズさんは短槍を、セーラさんはダガーを使っているんですが、今よりもいいものが出来るならと・・・」

「ふむ、見たところ、短槍もダガーも鉄のようだな。むろん、それよりはいいものが出来るはずじゃ。スチールワームはうまく使えば、鋼鉄とダイアチタの間の強度を持つからな」

「例えば、短槍、ショートソード、ナイフ四本ではいくらぐらいで出来ますか?」

「一万だな。そっちの小僧の片手剣を入れて一万五千でやってやろう。それでも素材はあまるが」

「ああ、僕のはこの間新調したばかりですし・・・」

 ブライトンはそういうが、おいかぶせるようにセオドアはいう。

「その剣よりは上物が出来る。そうだな、そっちの嬢ちゃんの予備の刀を含めて二万でやってやろう。余った素材は貰うぞ」

「ああ、ヒルダのはいらないです。彼女はメインでこの間打ち直してもらった<脇差>を使ってますし、予備の刀はありますから」

「そうか、なら、その予備の刀は引き取ろう。わしとしては少し納得のいかん部分もあるしな。一万八千でいいぞ」

「判りました。それでお願いします」

 ソーマはそういってカウンターに金貨一枚と銀貨八枚を置いた。むろん、<ブライトフォー>からは後で貰う予定だ。


 セオドアによれば、昔、といっても五百年ほど前までは魔物の素材、ドラゴンの鱗や牙、甲殻魔物、サーベルタイガの牙、オーガの角などから剣や防具を作ることは当たり前に行われていたらしい。しかし、現在ではそれらの技術が大部分が失われており、精々がワイバーンの革やオーガの革からの革鎧、甲殻類からの鎧、スチールワームからの剣などいくつか残っているだけだという。セオドアにしても、先に挙げた程度の技術しか受け継いでいないという。武器に限らなければ、大蟷螂の鎌や羽、昆虫系の羽などを利用出来るらしい。いずれにしろ、昔に比べて、魔物素材を利用できる技術が失われているという。


 それはドワーフ王国でも変わらないといわれている。北部の魔境に接した街に住むドワーフの中には、大蟻の牙から短剣を造ったり出来るものがいるらしいが、王国東部に住むドワーフにはその技術も失われつつあるらしい。結局、鉄や鋼鉄、ダイアチタ鋼が流通したため、魔物素材を利用する鍛冶師が減り、それが今の技術消失に繋がっているということであろう。昔は手元にあるもので、武器を造る必要があり、それが技術として確立されていたのだろう、とのことであった。


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