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ニュルンにて

次回から週に一話投稿できればと思います。その場合、週末になるでしょう。

 ニュルンは高さ五m、厚さ五十cm、外周六km弱の石の壁に囲まれた辺境では大きいといえる街であった。聞くところによれば、先先代までは領主が住んでいたそうで、先先代領主の次男が王都からの帰省時に魔物に襲われて亡くなったそうである。その後、西に馬車で一日のところに新しい街、ニューロンハイムという、を造成、そこに移り住んだようである。現在、この街には代官が住んでおり、街の運営に当たっているという。


 街には東西南北に四つの門があり、東門は堅く閉ざされているという。その向こうは馬車で一日、おおよそ八十km、の距離に魔境と呼ばれる地帯が存在するからであった。東門以外はよく利用されているという。門でソーマは入市税として白銅貨二枚、二十マリクを支払う必要があった。身分を証明するものがなかったからである。否、正確にはあったが、ここでそれを使うわけには行かなかったのである。身分を証明するものがあれば、十マリクで済んだのだが。一般住民を含めた街の住民は何らかの身分を証明するものがあるため、街への入出の際には入市税を払う必要はない。商人には別の税金が課せられる。


「さてと、ソーマはすぐに冒険者ギルドへ行くんだよな?」

 そう尋ねてきたのはパーティリーダーの剣士であるヘンリーである。

「はい、身分を証明するものがないと困りますので」

 メンバーの後ろを歩きながらソーマが答える。

「俺たちも依頼の結果報告があるから冒険者ギルドには行くからついでに登録まで付き合ってやるよ」

「ありがとうございます。助かります。何しろ、初めての街なので」

「気にするなって」


 冒険者ギルドは街の中心からやや東よりの位置にある。街を東西に貫くメイン街道を歩いていくと、市場を抜けたその先の南側にあり、かなり大きな石造りの二階建ての建物であった。ソーマは初めて見るものであったようだ。現在、フレイムアース王国の外縁、多くは魔境に接した地域でしか見ることができないため、フォレスター伯爵領中央部のフォレスベルグには出張所程度の小さいものしか存在しなかったからである。


 玄関の木製ドア、幅三m、高さ三mほど、を開け、中に入るとまだ夕方のピークは来ていないようであった。朝の九の鐘が鳴る前と夕方五の鐘が鳴った後がもっとも混雑するとヘンリーから聞いていたので、手続きにはそう時間もかからないだろうと思われた。事実、カウンターは五つあり、その内の三つが空いていた。ヘンリーは一番玄関に近いカウンターへと向かい、ソーマはその隣のカウンターへと向かう。


「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」

 応対してくれたのは、金髪に赤茶色の瞳をした年の頃二十代半ばと思われる女性職員であった。美人というわけではないが、愛嬌のある容姿をしていた。初めて見るソーマに丁寧な口調で声をかけてきた。

「冒険者登録を行いたいのですが、ここでよろしいでしょうか?」

「はい、こちらで受け承ります。なにか身分を証明するものはお持ちでしょうか?」

「いえ、今日この街に来たばかりなので・・・」

 昔とは異なり、ここ五十年ほどでは、冒険者登録をするためにもある程度の身分証明が必要とされていたのである。

「では、入市税支払い証明書はお持ちでしょうか?」

 街に入るときに入市税を支払うとそれを証明する書類が貰えるので、それを要求されたのだった。つまり、入市税を支払っていない場合は登録ができなくなるということである。この証明書には名前と年齢、性別が記入されている。ちなみに、この書類で七日間だけ、街に滞在することが許される。それ以降は捕縛されるか、追放されることがある。むろん、街によって異なるだろうが。

「はい、これでよろしいでしょうか?」

「はい、たしかに確認いたしました。なお、登録料として白銅貨五枚が必要ですが、大丈夫でしょうか?」

「はい、大丈夫です」

「ではこちらの書類にご記入をお願いします。書けなければ代筆も可能ですが、どういたしますか?」

 この世界では識字率がかなり低いといわざるを得ない。読み書きができるのは人口の三十パーセント程度でしかないので、そのため、代筆も認められている。

「いえ、大丈夫です」

「さようでございますか。ではご記入をお願いいたします」

 書類の記入欄はそれほど多くはない。氏名と出身地、年齢、性別、得意とする武器だけである。識字率が低いため、できるだけ項目を少なくしているようである。

「これでよろしいでしょうか?」

 サラサラと書いて書類を職員に手渡す。ちなみに十五歳という年齢には問題がないとされている。最近ではほとんど無いが、百年前には八歳で冒険者になるのが当たり前だったようなときもあったが、現在では十二歳で冒険者になる場合がほとんどであった。

「はい、結構です。すぐにカードを発行しますので少々お待ちください」

 手渡された書類と白銅貨を確認した職員がいう。忙しげに手元で作業しているようであるが、カウンターの陰で見えない。

「お待たせいたしました。こちらが冒険者カードになります。仮登録のFランクとなりますので、早いうちに依頼を受けていただいて、本登録を行ってください。冒険者ギルドについての説明をさせていただきます」

 そう言って職員は木製のカードを差し出してきた。ここ何十年かは登録後は木製カードが発行され、依頼をひとつでもこなすと金属掣のカードに変更してもらえるようになっている。ちなみに、Fランクの下にGというランクがあるが、こちらは未成年、十五歳以下の申請者の場合に交付される。未成年でGランクでは街の外での依頼は受けられないようになっている。冒険者ギルドについての説明は重要なルールのみ説明される。曰く冒険者同士での問題発生にはギルドは関与しないとか、ギルドを通さない依頼には報酬が出ないだの、犯罪に関与した場合には厳罰があるだの、冒険者カードを見つけた場合はギルドに報告と提出の義務があるだの、Dランク以上では緊急依頼は正当な理由がない限り拒否できないだの、負傷などの理由以外で、一年間依頼を受けなかった場合は資格が停止される、だのである。

「ありがとうございます。あのですね、街に入る前に先輩の冒険者に聞いて薬草を採取しているのですが、それを依頼として認定してもらえるのでしょうか?」

 説明を受けた後、ソーマの後ろにいたメンバー、青いロープを羽織っていた巫女のキャロルから薬草を受け取りながらいう。彼女は魔法鞄を所持していたので保管してもらっていたのである。

「はい、可能です。少々お待ちください」

 そういって職員はカウンターの下から依頼書を取り出して処理を済ませる。キャロルが気を利かせてくれたので、街に入る前に採取してきていたのである。

「お待たせいたしました。こちらが本登録後のEランク冒険者カードになります。そして、こちらが報酬の五マリクとなります」

 職員はまず、金属製の新しいカードを手渡してきた。自身の左右どちらかの親指を当てると、何もないつるつるの面に、名前とランクが表示された。手続きの際、一度カードに左右の親指を当てていたからである。このとき、当人の魔力も登録されるらしい。キャロルによれば鋼鉄と何かを使った合金でできており、上級の魔法でも破壊できないという。そして次に銅貨五枚を乗せた小さなトレイを差し出してきた。この報酬はキャロルと分けることで事前に合意している。

「どうもありがとう。明日から本格的に活動させていただきます」

「はい、活躍を期待しております」

 その声に送られてカウンター前の椅子から立ち上がる。


 冒険者ギルドを出た後は着替えなど必要なものを揃えるため、市に向かうことになっていた。他のメンバーとはここで別れている。本来なら先に宿を取ってからの予定だったが、キャロルがついてくれるため、宿まで案内してくれることになっていた。何しろ、ソーマは初めての街であるが、ヘンリーやキャロルにとっては住みなれた街であり、ここまでの道中で案内をお願いしていたのである。


 市の中の服を売る店、もちろん、キャロルのお勧めの店ではキャロルが選んだ服を上下三着ずつ、さすがに下着は自分で選ぶつもりだったが、これも選んでくれた。合計三十二マリク、日用雑貨屋では手拭や歯ブラシ、水筒、食器などで合計三十マリクの買い物であった。市の中のどの店がいいのか聞いたのだが、それなら案内する、といってくれたのがキャロルだった。しかし、選んでくれるとまでは思っていなかったので、うれしいと思う面もあった。実のところ、ソーマはこういった店での買い物の経験はなかったからであった。


「キャロルさん、ありがとうございました。助かりました」

 買い物を終え、宿に向かう道すがらソーマはキャロルに改めて御礼をいう。実のところ、本当に助かっていたのである。

「いいのよ、先輩として後輩のためにしてあげられることは限られているから。私も昔は先輩に良くしてもらったから」

 顔の前で手の平をひらひらさせながらいう。


 ちなみに、キャロルはもうすぐ二十六歳になるという。女性としてはそろそろ冒険者引退を考える時期にあるのかもしれない、とは本人の弁である。


 なお、ヘンリーのパーティで最年少がキャロルで、ヘンリーはもうすぐ三十八歳だというし、ブロンドの髪に青い瞳をしている魔法使いのマゴットは二十八歳、明るい茶色の髪に茶色の瞳をしている盾役のマルコムも三十三歳だという。彼らのパーティランクはBランクだという。彼らはパーティを組んでから今年で十年になるという。ソーマにしてみれば、十年間も誰一人欠けることなく続いているのはすごいと思うのだが。


 宿は北門に近い場所にあり、<金色竜翁亭>という。一人部屋で一泊朝食付き、共同浴場ありという形で五十マリクという料金で、夕食は宿泊客に限り、八十ペリクで提供されているという。メンバーがこの街に滞在するときの常宿だというので、紹介された宿である。ちなみに、メンバーは明日朝早くに西のニューロンハイムに向かうということで、アドバイスをもらえるのも今夜だけであろうと思われた。


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