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ニュルンでの日常

 八月、ソーマがニュルンに来て三ヶ月が過ぎた。その間のソーマは冒険者として活動し、また、<サムライ>での護衛任務を受けたりとそれまでの活動と変わらない生活をしていた。討伐依頼での実績も重ね、Cランク冒険者となっていた。また、一方ではサザンクロス商会の共同経営者として、その活動も始めていた。


 そんな生活の中、もっとも変わったのは、自身の環境であろうか。これまでの宿を利用していたことから、賃貸のアパートに引っ越したことが大きいといえた。そもそも、ソーマとしては<金色竜翁亭>にそのまま長期宿泊を続ける予定だったのだが、その<金色竜翁亭>の女将であるソフィアが魅力的な提案をしてくれたのである。<金色竜翁亭>の裏にあるアパートを月額九百マリクで利用しないか、とのことであった。


 食事は前もって言っておけば、これまでどおり用意するし、浴場も利用してくれていい、という魅力的なものであった。元々は宿として使用していたのだが、宿泊客が減る中、空き部屋として長らく放置されていたものだった。部屋はダブルの部屋で、広さも申し分なく、セキュリティもしっかりしていた。何しろ、入り口が<金色竜翁亭>の入り口からしか入れないのである。家具も格安で提供してくれるという。<金色竜翁亭>に泊まれば、月額で千七百マリクかかるが、ここだと、九百マリクで収まることから、ソーマは決断したのだった。


 また、一人部屋だとソーマと同じ条件で、六百マリクで済むことから、<ブライトフォー>のメンバーにも声をかけたところ、全員が移ることになったのだ。冒険者ギルド経営の宿舎は安いとはいえ、三食を含めれば、四十五マリク、月額で千三百五十マリク必要だが、それを考えると食事代が必要とはいえ、安いといえた。なによりも食事の質が全然違うのである。掃除も週一回、一マリクでしてくれるというのだ。


 その<ブライトフォー>だが、パーティランクがDランクに上がり、また、護衛依頼達成の実績もあり、商人たちの評価も徐々に上げている。さすがに、長距離の護衛依頼はないが、往復四日程度の依頼はあるようだった。個人でも、全員がDランクに昇格していた。ローズは魔法使いとしての実績もそれなりに評価され始めていたし、セーラは冒険者ギルドでの治癒を行い、本来の治癒士としての実績を積み上げていたのだ。


 ソーマにとって、もうひとつ気がかりなことは、やはり、サザンクロス商会のことであろう。しかし、こちらはナイジェルの手腕もあり、それなりに事業が拡大していた。メインであるトーガシの取り扱いと共に、燻製肉や乾燥肉の商いが増えていた。燻製肉とはいえ、実際は腸詰肉、つまり、ソーセージである。いずれも、これまでの塩のみからトーガシをふんだんに使っており、それなりの需要があった。製造契約している肉屋などは、結構忙しいということだった。


 ニュルンの街の食事事情も大分変わってきていた。これまでの塩味中心からトーガシを使う料理が増えていたのだ。それは<金色竜翁亭>の料理にも現れていた。他の宿や飲食店でもそれは同じである。当然ながら、ニュルンの街を含めた領地の領主であるニュルンハイム騎士爵にもそれは伝わっていた。サザンクロス商会としては喜ぶべきことであっただろう。


 ナイジェルの父であるハロルドともソーマは対談しており、事業展開についても話し合われていた。ハロルドはこれまでニュルンハイム領地を主に行商していたが、それに加えて王国東部の中央部への進出を計画してもらったのである。ナイジェルはまだ若く、人脈もそれほど多いわけではない。しかし、ハロルドならこれまでの長年の商売実績で、それなりに人脈があることから対応してもらおうとしたわけである。


 なお、トーガシの扱いについては、リント村からの仕入れを考えた他の商会もあったが、護衛依頼など費用がかかるため、サザンクロス商会ほど安価に提供することはかなわず、参入をやめていた。リント村の村長はソーマとの約束を守り、他の商会にはそれほど量を出さず、価格もかなり高額を要求していた。当然ながら、商人ギルドからの反発もあったが、サザンクロス商会がゼロから始めたのであり、それなりの利権があってしかるべきだと主張し、認められてもいた。


 ともあれ、ソーマはほとんどの場合、討伐依頼を受けている。これは夏になり、暖かくなると、魔物は南下してくるため、魔境に接している地域では魔物討伐が増えるからである。寒くなる冬になれば、多くの魔物は暖かい北へと移動する。稀に、はぐれ魔物といって移動しない魔物もいるが、大抵はそういうことである。だからこそ、今の時期、討伐依頼が増えるのである。ただ、今年に関しては若干の異常があったのは先に述べたとおりである。ニュルンの街の北東の森にオーガやブラッドウルフが現れたため、森の様子もだいぶ変わっている。大アリや大蠍、腐肉喰らいといわれるハイエーナなどが増えていたのである。


 いずれにしろ、ソーマは六日間活動し、一日休むという、他人から見れば、妙なサイクルで活動していた。ソーマ自身も気付かないだろうが、三上走馬の記憶でそうしていたのである。ただし、護衛依頼を受けたときなどそのサイクルが崩れることもあるが、基本的には変わらないといえた。


 装備など変わることはなかったが、新調したものもある。そのひとつが革製ブーツである。三ヶ月前に購入したものは底が磨り減り、穴が開いたからである。今度も同じ革製ブーツであるが、グレードを上げている。もうひとつが、アームガードである。手の甲の上から肘の下までを守る意味でつけている。ソーマは両手剣である刀を使うが、森の中の歩行で、枝を払った際、怪我をしたのである。それでセオドアに相談したら、このファイヤーベアの革で出来たアームガードを進められたのである。


 装備といえば、<ブライトフォー>のメンバーの装備も変わっていた。ソーマ自身が関与したわけではないが、パーティ<サムライ>として幾度か活動しているため、自然とわかるのである。まずブライトンだが、これまでの鉄の大盾ではなく、鋼鉄製のものに変わり、使用する片手剣は鉄製のもので変わらない。使用している鎧は以前から着用している皮製からセミプレートメイルに変わっている。


 ヒルダは武器は変わらず、革靴から革製ブーツに、鎧はこれまでの皮製からファイヤーベアの革鎧とソーマと同じアームガードで纏めている。ローズも黒いローブを新調したようであるが、材質は聞いていない。短槍は鉄の穂先のまま変わらない。セーラはブライトンのために費用を出したのか、革靴が革製のブーツに変わった程度だった。


 <ブライトフォー>のメンバーはこの二ヶ月、Eランクの討伐依頼を受け続け、依頼成功と素材売却により、各人ともそれなりの収入があり、装備を整えることが出来たということである。とはいえ、ヒルダの刀については、ヒルダ自身が最初に手にした鋼鉄製の刀の代金はもらっているが、<脇差>については未だソーマが貸しているという状況である。ヒルダは購入という形で支払おうとしたのだが、ソーマはまず、防御用の装備の充実を行うよういったのである。


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