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北の森の異変

 大蟷螂の狩りを終え、冒険者ギルドで依頼達成の処理をしてもらう。依頼達成には一匹の大蟷螂を狩ることであったが、八匹狩っていたので、今回も八回の依頼達成扱いにしてくれた。むろん、大アリも査定してもらう。報酬は二百五十×九で二千二百五十マリク、素材買取が千×九で九千マリクとなった。ソーマは不思議に思い、セイシェルに尋ねてみた。

「セイシェルさん、いつもすいません。よろしいのですか? 何か納得いかない部分もあるのですが?」

「いいのです。以前、そうですね、二百年以上も前ならソロで五匹狩るなんて当たり前だったようなのですが、最近は冒険者のレベルも下がってきています。今回のマンティス狩りにしても、パーティによる狩りが主流になりつつありますからね。二百年前のCランクが今のAランクに相当するといわれていますので、ソーマさんのようにソロで八匹というのは異例のことなのですよ」

「そうなんですか?」

「ソロで活躍しているCランク以上の冒険者は数えるほどしかいません。ここニュルンでは三人といないでしょう」

「そうなんですか? ちょっと驚きました」


 そんなやり取りの後、冒険者ギルドを出ると、そこに<フォースター>のメンバーと行商人のハロルド、そして、先ほど助けた行商人のナイジェルがいた。

「あれ? お揃いでどうされたのですか?」

 不思議に思い尋ねる。

「いや、ハロルドさんが話をしたいというから待っていたんだよ。俺らが冒険者ギルドを出る少し前にお前が入ってきたから」

 とヘンリーが言った。ギルドの中にいたらしいが、ソーマはまったく気付かなかったようだ。いつもより遅い時間で、ギルドも人が多いからだろう。

「こんばんは、ハロルドさん、何か用事でもおありですか?」

「ああ、いや、息子を助けてもらったということで一言お礼をと思ってね。ナイジェルを助けてくれたそうで、ありがとう」

 そういいながら横にいるナイジェルを見やる。息子だったようである。確かに似ているかもしれない。

「いいえ、当たり前のことをしただけですよ。僕も<フォースター>とハロルドさんに助けていただいていますし」

「いや、それでも息子だしね。しかし、聞けば、マンティス三匹を瞬殺したというじゃないですか。すごいですね」

「いえいえ、ヘンリーさんやマルコムさんに弱点と対策を聞いていたので」

「とにかく、ありがとう。それと<金色竜翁亭>にはソーマさんの宿泊料金十日分支払っておきましたのでご了承ください」

 おそらく、人をやって手続きをしているのであろう。こういう対応をされると断りようがないのでソーマはあえて受けることにする。

「ああ、ありがとうございます。甘えさせていただきます」

「我々は明日出発しますが、息子はしばらくこちらに残るようなので、縁があればよろしくお願いします」

「はい、こちらこそ」


 その翌日、ソーマが冒険者ギルドで受けた依頼は街の北門から徒歩二時間ほどの草原に現れるオークの討伐であった。この七日間で二十匹以上のオークが目撃され、幾人かの商人や農夫が襲われているようだ。単独のオークならソロでDランクの冒険者でも対応が可能であろうが、群れているとなるとソロでは無理で、二十匹の群れであれば、Bランクのパーティ以上でないと対応できない、とされている。そして、ニュルンには現役のBランクの常駐パーティはいないのである。<フォースター>は常にニュルンにいるわけではないからであった。


 ソーマが受けるに当たっても、くれぐれも無理はせぬように、とセイシェルから注意されていた。ソーマとて死ぬつもりはないので、対応できなければ、引き上げるつもりである。それを強調してやっと受けられたのである。ただ、ソーマとしては<一期一会>の能力をフルに試したい、そういう気持ちが強いのも事実であった。前のゴブリン集落壊滅のときは無意識のうちに終わったこともあり、その性能を確認していなかったこともある。


 北門を出ると、西門と同じく、畑が広がっていたが、それは本当に街の近くだけである。三十分も歩けば街道の東西共に五百mほどの草原でその先が森になっていた。むろん、森の中には各種の魔物がいるはずであるが、食物連鎖の関係上、捕食対象が共同することはないといわれている。それに、オークは基本的に森の中で暮らし、草原にはよほどのことがない限り、現れないとされていた。


 今回、ソーマは街道の東側に入ることにしていた。草原を森の方に向かって歩いていると、何かに追われるように三匹のオークが現れる。こちらに気付くと襲い掛かってくる。武器は手に持った棍棒である。背負っていた<一期一会>を抜き放ち、氷を纏わせると右下段に構え、待ち受ける。隊列としては三角形で進んでくる。


 一匹目の振り下ろされる棍棒を左足を引いて、避けながら左上に切り上げる。ザッという音と共に頸を撥ねる。二匹目はその右後方にいるオークで、切り上げた勢いをそのままに棍棒が振り下ろされるよりも早く横薙ぎに振りぬく。三匹目は二匹が倒されたのを見て一瞬足を止めたところを左へと横薙ぎに払う。それで終わりであった。三匹とも頭が胴体と離れていた。剥ぎ取りと回収のために<一期一会>を鞘に戻し、ナイフを手にする。オークの証明部位は下顎から伸びる二本の牙である。肉もそれなりに高く売れるというので、布袋に入れて回収する。


 その後二時間、オークを十匹狩ったところで草原に現れるオークはいなくなった。ただ、何かに追われるようにオークが行動していたことから、<脇差>を抜いて森の中に入っていくことにした。比較的草原に近い浅い部分を南北に歩いてみたところ、所々にオークの屍が転がっていることに気付いた。そうして、ソーマが何故オークが草原に出てくるようになったのか理解したようだ。オークを捕食対象とする魔物はオーガが良く知られている。しかし、屍の中には臓物だけ食われたものも幾つかあった。オーガであればその肉を食うはずなのである。


 もうひとつ考えられるのは、レッドタイガという四足の大型の猫である。小冊子には暑い環境を好み、魔境の南にやってくることは稀であると書かれている。体長五m、体高三mという魔物である。このレッドタイガはオークだけではなく、オーガすら捕食対象としているようである。もし、これが生息しているなら一冒険者の対応できるものではない。冒険者ならAランクパーティか王国軍騎士団の出番となる。


 結局、ソーマはその日は撤収することとし、早々に森から出て行く。そうして、街道の西側の草原を南に向かうことを考えていた。その前に、森の中の大木の上で昼食を取り、休憩することにした。森の中から草原に出ると、幾人かの冒険者が草原で狩りをしていた。邪魔をするつもりはないので、草原と森の境界線を南に向かう。その後は何事も無く、北門から街に入る。


 冒険者ギルドに入ると何か騒がしいような気がした。休憩から戻ってきたのか、席に着いたセイシェルのカウンター前に立ったまま、オークを十匹狩った事を告げると、右奥の査定カウンターへと向かう。そうして、いつものように布袋を出して渡すと、担当の職員が布袋から素材を取り出して並べていく。待つことしばし、査定が終了したのか、元の席に戻ってカウンター越しに対面する。

「ソーマさん、お待たせいたしました。本日の依頼達成報酬は五千マリクになります。素材買取額は一万マリクになります」

「はい、判りました」

「こちらが報酬になります」

「確かに。それで報告なのですが、よろしいでしょうか?」

「はい、何か?」

 怪訝な表情でこちらを見ていう。

「実は北の街道の東側の森の中を調べてみました。オークの屍が十二ほど転がっているのを確認しました」

「オークの死体が十二ですね?」

「ええ、そのうちの四分の三は腕や足の肉が食われた跡があり、のこりは臓物のみ食われていました。このことから、オークを捕食する魔物が街道の東の森にいるのではないか、と推測します。それに追われてオークが街道脇の草原に出没しているのではないでしょうか」

「それは・・・ 少々お待ちいただけますか? 上司に相談してきますので」

 少し顔を青ざめてセイシェルはそういって奥へと歩いていった。

「はい」

 五分ほどしてセイシェルは戻ってきたが、カウンターの中ではなく、ソーマの背後から現れた。

「ソーマさん、ギルド支部長がお会いしたいとのことです。二階の応接室まで来ていただけませんか?」

「ええ、かまいませんよ」

 返事を聞いて歩き始めたセイシェルの後について二階へと続く階段を上がる。階段を上がって左側は大会議室、右側は小会議室など幾つかの部屋がある。その右側のもっとも奥まった部屋に通された。そこには年の頃、四十半ばの鋭い目つきをした男がいた。部屋に入ってきたソーマにいう。

「ニュルン冒険者ギルド支部長のアーサーだ。君の活躍は聞いている。街の北東の森について調べたそうだね。聞かせてもらおう。まずは座ってくれ」

 自らの対面のソファを勧める。セイシェルには記録をとるよう命じ、自らの左のソファに座るよう指示する。

「話は聞いた。君の判断を聞きたい」

「オークを捕食するのはオーガでしょう。間違いなく番がいると思います」

「可能性は高いな。他になにか?」

 さも当然というようにいう。記録をとっているセイシェルは若干顔色を青くしている。

「臓物のみ食われていたオークには鋭い爪のような跡がありました。肉は食われていませんでした。僕はみたことはありませんが、レッドタイガの可能性が高いでしょう」

「・・・・ それが事実だとすれば、騎士団を派遣してもらうしかない。君も聞いていると思うが、二百年前に比べて冒険者のレベルが落ちている。今のAランクの冒険者といえど昔のCランクに相当するくらいなのだ。魔境に隣接している地域でしか魔物は現れない。魔物に接する機会が少なければ熟練度が上がるはずもないのだ」

「なるほど」

「そんな時に現れたのが君だ。おそらく、すでにBいやAランクのレベルだろうと考えている。今時、魔法剣を使える剣士など王国に五人といないだろうよ。オーガ討伐はできると思うか?」

 やはり、ソーマが魔法剣を使えることを知っていたようである。

「場所によります。草原であれば、可能かと思いますが、森の中では難しいでしょう。ごらんの通り、僕のメイン武器はロングソードですから。ただ、明後日、注文している刀が出来上がると聞いていますが、それ次第でしょうか」

「若い君に頼まざるを得ないのがニュルンの冒険者ギルドの現状なのだよ。そのときは協力してほしい」

「可能な限りは。それ以上は確約できませんよ。僕とて死ぬつもりはないですからね」

「すまんな」


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