表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/35

昆虫系の討伐

辺境領主物語の外伝も投稿しています。よろしければ、そちらもお願いします。

 その翌日、<フォースター>のメンバーは街でゆっくりするというので、ソーマはいつもの時間通り、冒険者ギルドへと向かった。今日から本格的にDランクの依頼を受ける予定である。昨日もマルコムに言われたのだが、冒険者になって五日でDランクに上がることは普通はないのだという。大抵の場合二~三ヶ月は架かるという。その点、ソーマも恵まれていると感じていた。そして、マルコムから街道護衛についていると昆虫系魔物と多く遭遇するとのことで、それを狩る経験は必要だといわれていた。


 冒険者ギルドに入ると、まず、掲示板に向かう。どんな依頼があるのかを確認するためである。依頼書には黒字で大きくランクが書かれているので、間違っても自らのランクより二段階上の依頼を受けることはない。とはいえ、識字率が低いので稀に起こるといわれる。ちなみに、依頼書が張り出されるのはCランクまでなので、Dランクになれば、掲示板の総ての依頼を受けることが可能だ。もっとも、自らのランクよりも下の依頼では、討伐料は出ないから素材買取による買取報酬だけになる。


 言い忘れていたが、掲示板は二ヶ所あり、入り口脇の掲示板には討伐系以外の依頼書が張り出されている。例えば、荷物運びや物品整理など街の中で済ませられる依頼である。入り口から離れたカウンターに近い場所に張り出されるのが討伐系や護衛系などの依頼である。これはどこの冒険者ギルドでも変わらないのだといわれている。まあ、ヘンリーやキャロルに聞いたところ、事実のようである。


 今日、ソーマが受けようと思っている昆虫系討伐の依頼は最近になって増えているらしい。特に、南門から南に向かう街道の東側によく出没するという。最近では街道にまで現れるという。彼の目に留まったのは南門から二日歩いたところにある村との間の街道の東側でのマンティス討伐の依頼である。判りやすく言えば、大蟷螂の駆逐である。ヘンリーによれば、体長は大きいものでニmほどあり、武器は左右の前足の鎌だという。鉄の剣で受けようものなら、切断されることもあるほどの威力があるといわれるが、鋼鉄の剣であれば問題なく受け止められるようである。


 その依頼書を持ってセイシェルのいるカウンターの列に並ぶ。キルド内でもソーマの担当はセイシェルという暗黙の了解があるようで、一昨日、セイシェル以外のカウンターの列に並んだら名指しでセイシェルの前の列に並ばされた。待つことしばし、セイシェルに依頼書とカードを渡して処理してもらう。ちなみに、討伐系の依頼は必ずしも一日で達成する必要はない。素材、特に毛皮や肉を買い取って貰わないのであれば、街の近辺の場合、最長で三日間の猶予がある。むろん、街から離れた場所が指定されていれば、その期間は延長される。


 そうして、九の鐘が鳴るころ、ソーマは南門から外に出ると一路南へと向かった。今日も弁当持ちであるから、かなり、といっても徒歩で往復可能なところまで足を伸ばす予定だ。西と違ってこちら側には畑がないので、門を出てすぐに森に近い草原へと分け入り、そこを南下することにした。こちらにはジャンピングラビットはいないようで、プレーリーラットが確認できる程度のようだった。


 街を出て一時間、草原が消えて街道のすぐ傍が森に変わる頃、最初の獲物に出会うこととなった。自らをおとりとするため、気配は絶ってはおらず、何か来る、と感じた瞬間に左前方からそいつは現れたのだ。体長ニm弱の大蟷螂であった。ほぼ森に近いため、<一期一会>は抜かず、<脇差>で対応する。


 鎌の威力は高いかもしれないが、大振りである。右の鎌を身体を沈めて避けるとその右側へと飛び込んで鎌の付け根を狙って素の<脇差>を振り下ろす。ガッ、という音を立てながら鎌を前足から切断する。そうして、三角の頭と胴体の付け根に上段から振り下ろすと、ザッという音とともに頭が落ちる。素の<脇差>でも十分通用するようだ。ヘンリーから弱点は聞いていたのでそれを狙ってみたのだった。


 <脇差>を収め、ナイフで剥ぎ取りをする。大蟷螂の剥ぎ取り部位はその鎌であり、二本で一体と計算されるため、左右とも剥ぎ取る。鎌の長さは八十cmほどもあるだろうか、見事な三日月型をしていた。剥ぎ取った鎌を布袋に入れてリュックサックにしまうと、<脇差>を抜いて刀身を確認する。頸はともかく、鎌の根元を切ったとき、少し強い抵抗を感じたので、刃を確認するためだ。大丈夫のようだった。


 その後、二時間ほど森の中を南下する間に、四匹の大蟷螂と遭遇、総て問題なく狩ることに成功した。一度だけ、鎌を<脇差>の刃の部分で受けることになったが、刃毀れはしていなかった。しかし、受けたときの手応えが微妙な感じがするのは製造されてから手入れもされず、長時間経過したための経年劣化の可能性があるのかもしれないな、そう考えるソーマであった。


 そうして、それ以上南下するのはやめ、街に戻ると決めて森の中を今度は北に向かうことにした。途中、森の中の松に似た大木の上で昼食を取り、休憩を取った。ソーマ自身驚いてはいるだろうが、とても十五歳の冒険者になりたての行動とは思えないのだが、走馬の記憶故のことだろうと思われた。帰路も二匹の大蟷螂と三匹のクレイジーアント、大アリを狩ることができた。クレイジーアントの剥ぎ取り部位はその牙である。昆虫系の魔物は普通は飛び道具を持たないので、対応が適切であれば。怪我をすることはない、というのがマルコムの弁だった。


 そろそろ街まで後一時間というところで街道に向かう。前方から悲鳴やら怒声やらが聞こえたからである。森の中から出たとき目に飛び込んできたのは、街道に一台の馬車と六人の男女、そして三匹の大蟷螂であった。むろん、人のほうが劣勢である。一番近い大蟷螂は左の鎌を振り上げようとしており、その前には一人の男が跪いていた。


(間に合うか)

 そう考えながら大声を発して駆け寄る。その鎌が振り下ろされる前に<脇差>は鎌を切り落としていた。次いで首を狙って切り上げると手応えとともに首が落ちた。さらにその向こう、振り下ろされた鎌を何とか大盾で防いでいだ男に駆け寄り、振り上げんとした鎌を切り落とす。さらに、落ちた鎌を踏み台にして跳躍、首を狙って切り下げる。ソーマが着地したのと同時に頭が落ちる。その先、最後の大蟷螂は今までと異なる姿をしていた。


 そう思ってしまうのは鎌の形が違うからなのだ。鎌の形が普通の大蟷螂とは反対だった。しかし、刃は普通の鎌と同じ位置にあるようだった。そう、曲刀のようなものだった。その大蟷螂の前には剣を手にした男と女がいた。二対一ならと気を抜いたとき、男が跳ね飛ばされた。それを見て女も大きく後方に下がった。


「こっちが相手だ!」

 気付けばそう叫んで前に出ていた。<脇差>には氷ではなく、風を纏わせている。そうして、大蟷螂がこちらに向き直る前に、左の鎌めがけて大上段から鎌の付け根を狙って切り下げる。風を纏わせた場合、十数cmから二十数cmほど刃が伸びるのである。その分、疲労が残るのであるが。見事に左の鎌を切り落とすことになった。そして、大蟷螂がこちらに向き直る前に跳躍し、首を狙って切り上げる。間合いが遠いと誰もが思っただろうが、ソーマは十分な手応えを感じていた。ソーマが着地すると同時に大蟷螂の頭が落ちる。


 三匹とも倒れた後、馬車から金髪碧眼の若い男が降りてきていった。

「助かりました。私は行商人のナイジェルといいます」

「ニュルンの冒険者ソーマです。負傷者はいるようですが、ご無事でなによりです」

「草原に出て気を抜いた瞬間に不意を着かれて襲われてしまい、対応できませんでした」

「そうでしたか。あの、三匹の剥ぎ取りを?」

「どうぞどうぞ、倒したのはあなたですから、我々には剥ぎ取る権利はありません」

「いえ、特にあの大蟷螂、奇形なのか亜種なのか気になりますし、報告しなければなりませんので」

 曲刀のような鎌を持つ大蟷螂を指差していう。

「あれはなんでしょうか? これまで診たこともない大蟷螂です」

「おそらく、奇形だとは思います。鎌以外は普通の大蟷螂と変わりませんし。仮に、亜種だとしたらもっと別の特徴があるはずですし」

「なるほど」

「ですからあれだけは体ごと回収していきます」

「えっ、どうやって持っていくのですか?」

「魔法鞄がありますので大丈夫です」

 そうして、ソーマが剥ぎ取りを済ませる間に体勢を整えていたナイジェルたちとともにニュルンに戻ることとなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ