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僕の名は

 僕は今、夢を見ている……と思う。あるいは走馬灯なのか。


 一人暮らしのワンルームマンション。ベッドの上で高熱と痛みでぐったりとしていた。

 数日前に風邪をひき、市販薬で乗りきれるかと思ったのだが、のどが腫れ、痛みで自分の唾を飲み込むことすらままならない。

 水を飲めないので薬も飲めず(座薬なんて存在自体を忘れていた)、大量の発汗が脱水症状を加速させ、気付いた時にはヤバイではなく、もうダメだという状況だった。

 のどが痛くて声も出ないので、自分で救急車を呼ぶこともできない。恥ずかしいけど実家の母親にメールして出動要請してもらおう、そう考えてテーブルの上の携帯に手を伸ばすが届かない。

 上半身を乗り出し、指先が触れかけた時、僕の体がベッドから滑り落ちた。高さはたいしたことなかったんだけど、運悪く頭がテーブルの角にぶつかって激しい痛みを味わうはめになった。

 ついでにこめかみの辺りを切ったらしく、派手な勢いで血飛沫が壁や床に舞った。染みになって汚れが残ったら敷金から引かれるなぁとか、余計なことを考えてる間にも出血は続き、カーペットに吸い込まれていく。

 血と一緒に体温も奪われているらしく、すぐに寒さを感じたが、しばらくしたらその感覚すらわからなくなった。あぁ、これマズいやつだ、本格的に死にかけてる。視界がだんだんと暗くなる中、僕に呼びかける声が聞こえた……ような気がした。他に誰もいない室内で、今まさに孤独死しかけてる僕の名を、でもたしかに誰かが呼んでいた。

「------様っ、--様!」

 懇願する悲痛な声は、若い女性のようだった。切ないほどに声が震えていて、聞いている僕の胸がしめつけられる。

 大丈夫だから心配しないで。

 ……いや、全然大丈夫なわけないんだけど、思わず心にそのセリフが浮かんだんだよ。

「お願いです、死なないでくださいッ……」

 だってこんなにも心配されたら、誰ともわからない相手だろうが、その人を残して逝くのが気の毒に思えるじゃないか。僕の三十年近い人生で、ここまで誰かに必要とされたことなんてなかった気がする。だから------

「死なないで、リアン様!」

 誰それ!? 僕の名前と違うし!

 そうツッコんだ瞬間、僕の意識はほどけるように消えてなくなった。


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