第3話 その1
その日は、雨が降っていた。
私は窓から灰になって空へ昇っていくお兄ちゃんをただ見ていた。
膝の上には泣き疲れて眠る史莉。
史莉…。
これからは、私が、あなたを守るからね。
見守っていてね。
お兄ちゃん。
お兄…ちゃん。
…だめ。泣いちゃだめ。泣いてちゃだめ。
忙しくお葬式の業者さんの話している女性の声。
その声の主は私達の代わりに、お兄ちゃんのお葬式をしてくれている美恵さん。
お兄ちゃんの…彼女。
私の視線に気付いたのか、こちらを見て優しい微笑みを向けた美恵さん。
思わず視線を逸らす私。
なんで、
なんで、一緒に車で出かけて、お兄ちゃんだけ死んじゃうのよ。
なんであんただけ、無傷で生き残ってるのよ。
あんたのほうが死んじゃえば、よかったのに。
「…りまちゃん?まりまちゃん?鞠真ちゃん?」
「…えっ、あっ、はい…」
「どうしたの?ボーッして、気分悪い?」
「い、いえ、大丈夫です…あっ、腕…ありがとうございました」
ここは美恵さんの部屋…なのだろう。
可愛らしいタンスの上にはぬいぐるみ、整理された台所、小さいながらも女性らしい可愛い部屋だ。
「でも最初見た時は凄い火傷だと思ったけど、抱えて帰ってから見たらそうでもなくてよかったわ。何かの魔法みたいね」
「…はは…」
その部屋の上、上空。
キリカと星加が魔法少女の姿で美恵の部屋を見据えている。
二人共魔法を纏い、周りに姿が見えないようにしている。
「どうする?星加?」
「…すこし様子を見よう」
「…捕まってないんだよね、犯人」
声のトーンを下げて、美恵さんが話を変えてくる。
「は、はい…」
「優馬君が暴走車と正面衝突する瞬間に私をかばってくれて、私だけ助かって、優馬君は死んじゃって…」
「……」
思わずうつむくように下を見た私。
だから美恵さんの様子には気付かなかった。
美恵さんの顔がドス黒く変色していく姿に。
「犯人許せない…犯人許せない!!犯人許せない犯人許せなああああぁぁぁぁい」
美恵さんの身体からシャワーのように溢れるシャドウ特有の肌にひりつくような瘴気。
史莉のように、シャドウが取りついている状態でも察知が出来たならよかったのだろうか。
『グァアアア』
膨れ上がった瘴気は美恵さんを真っ黒な化物に変え、この部屋では狭っ苦しいとは言わんばかりの大きさになり、思い切り振りかぶった腕の先に生えた巨大な爪を私に向かって勢いよく振り下ろした。