古いパンの価値
年寄りばかりが百人住む村に、一軒のパン屋があった。店主は毎朝早起きし、一日に百個のパンを焼いていた。
九十九人の年寄りはなかば習慣のようにパンを買いにきた。残りのひとつは自身も年寄りの店主の分であった。
ある日、一人目の年寄りが死んだ。その日からパンはひとつ売れ残るようになった。店主は売れ残ったパンを店の裏に捨てた。古いパンには価値がなかったからだ。
しかし、次の朝に店の裏を見ると、捨てたはずのひとつのパンはなくなっていた。店主はのら猫か何かが持っていったのだろうと検討をつけた。
ある日、二人目の年寄りが死んだ。その日からパンはふたつ売れ残るようになった。店主は売れ残ったパンを店の裏に捨てた。古いパンには価値がなかったからだ。
しかし、次の朝に店の裏を見ると、捨てたはずのふたつのパンはなくなっていた。店主はのら犬か何かが持っていったのだろうと検討をつけた。
ある日、三人目の年寄りが死んだ。その日からパンはみっつ売れ残るようになった。店主は売れ残ったパンを店の裏に捨てた。古いパンには価値がなかったからだ。
しかし、次の朝に店の裏を見ると、捨てたはずのみっつのパンはなくなっていた。店主はカラスか何かが持っていったのだろうと検討をつけた。
(省略)
ある日、五十人目の年寄りが死んだ。その日からパンは五十個売れ残るようになった。店主は売れ残ったパンを店の裏に捨てた。古いパンには価値がなかったからだ。
しかし、次の朝に店の裏を見ると、捨てたはずの五十個のパンはなくなっていた。店主は何かが持っていったのだろうと検討をつけた。それにしても、この村にはいったい何ひきの動物がいるのだろうかと不思議がった。
(省略)
ある日、九十九人目の年寄りが死んだ。その日からパンは九十九個売れ残るようになった。店主は売れ残ったパンを店の裏に捨てた。古いパンには価値がなかったからだ。
しかし、次の朝に店の裏を見ると、捨てたはずの九十九個のパンはなくなっていた。店主はパンを持っていくものの正体がわかりかけていたので、村でたった一人になっても寂しがらなかった。
ある日、百人目に死んだのはパン屋の店主だった。店主はもうパンを焼けなかった。
九十九人の年寄りはなかば習慣のようにパンを買いにきて、そして買うことができなかった。
残念だな、きみのパンをもう食べられないなんて。誰かが言った。
すまんね。店主は笑って答えた。
よかったら感想欄かtwitter @cubitfmに感想をお願いします。