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治療の固定概念と新たな治療師?

 木に生い茂る葉の色は真っ白で、異様な光景が広がる。

 元の世界ではこのような木は存在しない。



「なんやこれ……凄いなぁ」



 薫はポツリと言葉が漏れる。

 異質とも言っても過言ではない。

 アレスから白亜の森の入り口の前まで連れて来てもらってから、薫は立ち尽くしていた。



「あれれ~? ここは来たことがあるようなぁ……。思い出せないのでいいですよね! きゅっきゅ~」

「……」



 プリシラは辺りをキョロキョロしながら観察をする。

 今のところ周りに冒険者などがいるため、耳を器用に髪の毛の中に隠している。

 服装は、ひらひらとした白いローブを身につけ、魔導師の格好をしている。

 中は、クリーム色のシャツに黒のプリーツスカート。

 胸が大きいためか、2つの丘はシャツを押し上げて窮屈そうにしている。

 そして、エリーゼがプリシラにギュッとひっついている。



「あ、あの……、エリーゼさん? ほんの少し力を緩めてくれると嬉しいのですが……」

「やだ、プリ姉様」

「そ、そうですか……」



 エリーゼの返答に、プリシラは早々に諦めた。

 気にしない方向で行こうと切り替える。

 だが、冒険者たちの視線が妙にプリシラの胸部分へと釘付けになっている。

 それは、エリーゼが胸下に手を回しているため、大きな胸が余計に強調されているからである。



「顔も可愛いが……あの胸はなんだ……! 凶暴過ぎる」

「どこかの令嬢か!? クソ……女の子同士でイチャイチャと……百合百合しい」

「ぜひ、私のコミュニティに入っていただきたい! おっとりした子なんて最高じゃないですか!」

「あの胸に顔を埋めて寝れるなら、死んでもいい!」



 などと、プリシラ本来の能力なのか知らないが、周りの男どもを魅了している。

 だが、中身がダメプリンセスラビィのため、薫にとってはただのアホの子としか思えない。

 溜め息を吐いてから、プリシラとエリーゼに森に入ることを伝えると薫の横にちゃっかりとプリシラは陣取る。

 いつでも頭を撫で撫でしてもいいんですよ! と期待いっぱいな目線を向けながら。

 いや……撫でませんから。



「んん! 嫌!」

「きゅ~!? え~、なんで引っ張るんですか! 薫さんとの撫で撫でエリアが崩れちゃいますぅ」

「……」



 プリシラは、涙目になりながら薫から離される。

 撫でられないギリギリのラインに、絶望の表情を浮かべる。

 なんでそんなに必死なんだ……このダメプリンセスラビィは。



「あんまり離れたりはせんようにな。守ろうにも守れへんから」

「了解です!」

「……」



 薫の言葉に、プリシラは綺麗な敬礼をするが、エリーゼはムスッとした表情で薫を見つめる。

 警戒MAXと言ったらいいだろうか。

 とりあえず、プリシラがいるかぎり無茶なことはしないだろうと薫は考えて歩き出す。

 ヒモを引き、イモムシ状になったモーリスを引きずる。

 地面を引きずってるせいか、体中ぼろぼろになりさるぐわをはめて声も出せない。

 周りの冒険者は、薫の仕打ちになんの言葉もかけない。

 いや、モーリスの顔に浮き出ている呪印のせいでもある。

 これは、罪を犯した者に浮かび上がる呪印だ。

 契約と制約により、それを破った者にほどこされる。

 人目でわかるため、誰も何も言わないのである。



「さて、アレスから聞いた話やと、この森の中にはそれほど強い魔物はいないと言われとる。日数にして約2日の道のりだとかやな」

「馬車が使えないからですよね~。これは、先にピンクラビィを走らせて目的地にゲートを繋いだほうが早そうに思いますよぉ」

「何ズルしようとしてんねん……」

「あたたた!? し、下に埋めるように撫でるのはなしですよ、カオルさん! きゅー! 優しく撫で撫でを要求しまっ~~~痛ぁ~い、きゅっきゅ~!?」

「プ、プリ姉様をいじめないで!」



 エリーゼは、そう言って薫の魔の手? からプリシラを守る。

 プリシラは、なんとも言えないもの寂しさと焦らしプレイ? といった感じの雰囲気を醸し出す。

 このダメプリンセスラビィが……お薬ではもう手遅れのようだ。



「すまんすまん。もう手は一生出さへんから勘弁してくれへんやろか?」

「次……、手を出したら許しません!」

「そ、そんなぁ……」



 薫は満面の笑みでエリーゼに言うと、本気でプリシラは涙目になって肩を落とした。

 少しは反省と自重をしなさい。

 その後は、プリシラがおとなしくなったおかげもあり、目的地を目指すのがかなりやくだった。

 途中、魔物が出てきたりもしたが、ほとんど苦労のくの字もしない。

 薫たちが今日のキャンプ地点に到着し、コテージなどの準備をしていく。

 そんな中で、プリシラはエリーゼの目を盗んで薫に会いに行こうとするが、ことごとく捕獲されて窶れてしまう。

 カオルニュウム不足と愛の鞭が足りないと叫んでいたが、薫はラックスティーをのんびり呑みながら、気にしないでおこうと思うのであった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 スパニックのルルの部屋に到着したアリシア。

 ルルに抱っこされたピンクラビィが、アリシアとスノーラビィをお出迎えする。

 そんな光景にアリシアはほっこりと頬が緩んでしまう。



「おねえちゃん!」

「ルルちゃん、ただいま戻りました」

「きゅ~」



 頬を上気させるルルにアリシアはどうしたのだろうかと思うが、それは病気などではないことが直ぐにわかった。



「あ、あのね……。ピンクラビィのお姫様とおはなしいっぱいしたんだよ」



 大興奮と言わんばかりの勢いで、アリシアに今まで話したことを体を大きく使いながら教えてくれる。

 愛らしいルルの行動に、アリシアもついつい眉尻と頬が緩んでしまう。

 スノーラビィは、自分の役目はないようだと思ったのか、アリシアのピンクの白衣のフード部分に前転して転がり込んでいく。

 ぽふんとアリシアのフード部分に収納されると、1番安定する態勢を探しながらもごもごと動いた後に、規則正しい寝息が聞こえてくる。



「ルルちゃん、よかったですね」

「うん、わたしね、大きくなったらプリシラ様みたいになりたいの! きれいで、かわいいの!」

「あ……うん……えっと、うん、が、頑張ろうね、ルルちゃん」



 なんとも言えない回答になってしまったアリシア。

 プリシラの素を知っているからこその反応である。

 ぐーたらしただらしないプリシラの姿が、アリシアの脳内を過る。

 だが、ルルの目にきらびやかに映るプリシラの像を壊してはいけないと必死に笑顔を作るが、かなり引きつったものになったのは言うまでもない。

 嘘がつけないアリシアは相当頑張ったほうだ。



「もう2,3日は安静にして、お薬を食後に飲むようにしてくださいね。元気になってお外で遊ぶのもいいかもしれませんよ」

「うん……でも、元気になったら……ラビィちゃんが帰っちゃう」



 しゅんとしてしまうルルに、ピンクラビィがするりと腕から抜けだし、肩に乗ってから頬に引っ付くようにして宥める。

 ほわほわした毛並みにルルの沈んだ心が一瞬で向上させる。

 肩に乗るピンクラビィをルルの小さな手で優しく撫でると、嬉しそうに頬を擦り付ける。



「えへへ、かわいい、もっふもふ」

「今のうちに十分かわいがってあげてください。治るまではこの子を預けておきますから」

「ありがと、おねえちゃん」



 ルルはそういうと、ベッドに横になって安静にする。

 ピンクラビィは、定位置を決めているのか一度布団に潜ってから両耳だけをちょこんとだして、ルルに引っ付く。

 安心して眠れるように気遣っているのかわからないが、ルルは嬉しそうに目を瞑った。

 アリシアは、2人がベッドで寝るのを確認すると部屋を後にした。

 一度スパニック支店に戻ってからアニスに報告するためだ。



 スパニック支店に戻ったアリシアは、アニスともめている人物を発見する。



「だから、ここの治療院をしている者に合わせてと申しているのです!」

「申し訳ございません……。現在、アリシア様は往診に行かれておりますので、いつお帰りになるかわからない状態ですので……なんとも言えないんです」

「もう! ずっとそればかりじゃないの」



 アリシアは、扉の前できょとんとした表情をして立ち尽くす。

 大きな声を上げる女性は、アリシアよりも身長は高い。

 165cmくらいだろうか。

 白髪のツインテールで毛先が軽くウェーブしている。

 スレンダーで、タイトな黒スカートに白のワイシャツの上に白衣を纏っている。

 嫌味にならない程度の装飾品を身に着けているが、どれも高級品に見える。

 アリシアは、どこかの貴族の令嬢さんかなと思いながらもアニスとその女性の下へと向かう。

 アニスはアリシアの姿を確認すると、タイミングが悪いといった表情を浮かべた。

 それに気が付いたアリシアはゆっくりと脇の方へと隠れようとしたが、その女性はアニスの表情から後ろを振り向きアリシアと目が合ってしまった。



「ん? 子供の治療師ですか?」

「こ、こども……」



 ぼそっと口にした女性の言葉に傷つくアリシア。

 確かに身長もそんなに高くはないが、ちゃんと成人しているので子供ではない。

 これでも旦那だっているのだぞ! とそう言い張りたいが、切れ長なその女性の睨みについつい腰が引けてしまう。

 相当苛立っているのだろう。

 そんな目線に当てられたアリシアは、ぷるぷる震えて涙目になる。

 小動物が大型の肉食獣に睨まれたそれを思い浮かべられる。

 涙目になり、萎縮するアリシアにその女性は慌てて声をかける。



「あ、えっと、ごめんなさい……な、泣かないでちょうだい」

「な、泣いてません。ぐすん……」



 ちょっとおろおろするその女性は、なんとなく可愛らしかった。



「はぁ、アリシア様、お帰りなさいませ」



 アニスは、これ以上隠すのは難しいと思ったのか、小さく溜め息を吐きその女性に言葉を紡いだ。



「え? こ、この子がここの治療師なの!?」

「そうですよ」

「!?」



 驚きで目を見開くその女性。

 アリシアは、こんなちんちくりんが? といった目線らしきものを感じる。

 いや、ただ単にそういうふうに思われているのではないかという自己嫌悪のようなものだが。



「え、えっと、アリシア・ヘルゲンです。ここの治療院で治療をさせてもらっています」



 そう言いながら、アリシアはぺこりと挨拶をする。

 すると、固まっていた女性は再起動できたのか、アリシアの言葉を聞いた後に自身もそれに答える。



「私はナタリア・ディズ・フォントリアーヌ。一応、治療師よ」



 ナタリアは、名を名乗りながら腰に手を当てアリシアを見下ろす。

 いや、身長差があるから必然的にそういう構図になる。



「ナ、ナタリアさんですね。えっと、私に何か用ですかね?」

「ええ、用があるに決まってるじゃない! 冬吸風邪の特効薬と検査キットを作り上げたと聞いたから飛んできたのよ」

「え、えっと、作ったのは私じゃな……」

「いいの! 言いたくないのでしょ? 広まればエクリクスからも目を付けられるのは目に見えてるもの! でも、そんな謙虚じゃいけないわ」

「いや、あの、本当に……」

「それでね! そんなあなたに見てもらいたい物があるのよ。冬吸風邪を治療できるということは、これらは確実に理解してるはずだから」



 ナタリアは、アリシアの言うことを全く聞かずにどんどん話を進めていく。

 わたわたとどうにかしようとするが、まったくダメなようだ。

 アニスに助けてと目線を向けるが、アニスは両手を合わせてアリシアに口パクで「すみません」と言うだけだった。

 がっくりと肩を落としてアリシアはナタリアを見据える。



「アリシアさん、これよ」

「えっと、研究資料ですか?」



 手渡されたのは、厚さ1cmくらいの古い書類だ。

 さぁ、中を見てくれと言わんばかりの表情にアリシアは恐る恐るページをめくる。

 すると、中身は病気に関することであった。

 それも、薫が作り上げたものと類似するものが数点あったことに驚く。

 世紀の大発見のはずなのに、なぜ今現在これが公表されていないのかが全くわからないと思いながら、アリシアはスキルを使いながらページをめくっていく。



「古い研究資料ですが、これはどうされたのですか?」

「これは私の曽祖父が病気の研究をしていた物よ」

「凄いです! これは大発見だと思います」



 アリシアはナタリアを見上げながら伝えるが、あまり嬉しそうではない。

 いや、そこで気がつくべきだったのかもしれない。

 なぜ、この研究資料が表に出ていないかを。



「あははは、やっぱり私たちの研究は間違いじゃなかったのね……。もっとちゃんと痛みをなくす薬さえ見つけることができれば、あんな事にはならなかったんだわ」



 ナタリアの言葉に、アリシアは研究資料の麻酔の部分に目をやる。

 するとそこには、患者に使用された薬品名が並んでいた。

 症状や経過時間など様々な記録が書かれてある。

 しかし、その薬品内には薫が指定した薬品は入ってはいなかった。

 薬品投与したはいいが、患者が痛みを訴えたということだ。

 アリシアはゾッとする。

 フーリの腕の治療のときに見たが、皮膚を切り開いてから骨の部分を削るなどの治療を行うのだから、痛みに対して麻酔効果の強いものでないと、激痛で確実にショック死を起こすことは目に見えている。

 いや、手術に関しては特にそうだ。

 患者の負担が1番かかる。



「えっと、ナタリアさんはもしかして……これと同じ治療法をしたのですか?」

「ええ、そうよ。でも、半分成功で半分失敗といったところね……」

「亡くなられたのですか……」



 ナタリアの言葉に、治療の末亡くなった者がいることは容易に想像できた。

 だが、成功した者もいるということは救われた者がいる。

 すべてを救うことなどできはしない。

 だが、アリシアはよくばりなのかもしれないと思いながらも、自身の回りにいる者は救いたいと思ってしまう。

 薫と同じように……。



「病気によってはよ……。私だって救えるなら救いたいわよ。でも、そうできないことだってあるってことくらい理解はしてほしいわ。まぁ、そのおかげで治療師ギルドからは除名されたけれどね」

「え……、じゃあ治療師ギルドに所属している治療師ではないのですか?」

「曽祖父の失敗が原因で、私の家系は全員治療師ギルド所属の治療師にはなれないことになってるのよ。患者を苦しめて殺した悪魔のような治療をすると言われ続けてるわ。私に頼る人は、後がない人くらいよ……」

「そ、そんなの酷すぎます! その治療法があれば、救われる人だっているはずです」



 悲しそうな表情でナタリアは首をふる。



「仕方のないことなの。死なせてしまったのはこっちのミスだもの。難病に罹った公爵家の令嬢でなればここまでのことにはならなかったと思うけれど」

「っ……」



 アリシアは、難病に名乗りを上げて治療できなかった時のリスクを思い出した。

 自身の病気もそうだったが、絶対に助からないとわかっている病気の治療など、普通の治療師は名乗り出てくることは滅多にない。

 いや、皆無といってもいいだろう。

 死なせると何を言われるかわからない。

 それが貴族であれば尚更だ。

 一族の首を差し出さなければならないことだってある。

 それほどまでにリスクが高いのだ。

 だからこそ、薫の行動は凄いと思う。

 一歩間違えば、人生を棒にふるレベルなのだから。

 それに、医療の最先端と言われるエクリクスですら無理だった心臓の病気を、薫は治してしまった。

 ハイリスク・ハイリターンで、薫は見事にハイリターンを掴みとった。

 そして、今現在見ているこの研究資料は確実に薫と同じような治療法なのだ。

 闇に葬られるのは絶対にさけたいとアリシアは思ってしまう。

 しかし、この研究資料にはいろいろと粗があり、このまま使用したら確実に後遺症を招くおそれがある。

 同じ失敗を確実にしてしまうのは目に見えている。

 アリシアは俯いて、悔しそうに研究資料に目を落とす



「でも、あなたが私たち一族の研究に対して、賛同してくれること自体が私は嬉しいのよ。今まで誰一人賛同なんてしてくれなかったから……。今日はほんとうにいい日だわ。アリシアさん、あなたに会えて本当によかった。これで、もっとこの研究を生かして治療ができると思うわ」

「……」



 アリシアは、ナタリアの言葉に粗のある部分を教えたいと思うが、それにはアリシアの知識がたりない。

 中途半端にナタリアに麻酔のことを教えてミスを招いては何もならない。

 だから躊躇してしまう。

 薫ならば、これに的確に答えれるというのに。

 結局、アリシアはナタリアに言えないまま別れてしまった。

 アニスはそんなアリシアにそっと言う。



「アリシア様、大丈夫ですか?」

「は、はい、凄くためになりました。あそこまで独学で調べあげてるなんて凄いと思います」



 しかし、アリシアの言葉に何とも言えない表情になるアニス。

 なぜ、そのような表情をするのか理解できないアリシアは首を傾げる。



「えっと、言い難いのですが……。あのナタリアさん、かなりの悪評が取り巻いている人物なんです。治療師ギルドを除名された家系の娘で、代々その治療法を継承しているとかで……。あまりかかわらないほうがよろしいかと私は提案したいです」

「な、なんでそのようなことを言うのですか!」

「あ、いえ、その……、治療方法が悪魔のような所業と言われております……。それに治療での死者も年々増えていますし」

「っ……」



 アリシアは、この大陸で少数派の治療法が一番効果のあるものというのに、大多数派のせいでないがしろにされているということを今初めて知った。

 いや、今までそれが表に出なかったのは死亡事故が多いため、治療師がその後その治療をしなくなったためと推測できた。

 治療という概念が、根本的に凝り固まってしまっていることが最大の原因だ。

 アリシア自身は、薫からの治療法を教育で受けているからこそそのような固定概念がない。

 だからこそ、ナタリアの治療法が凄いと思える。

 だが、その他の者が見ると悪魔の治療と言われる。

 これは、絶対にナタリアを応援しないといけないとアリシアは思うのだ。



「アニスさん、ナタリアさんの治療が悪魔の治療というのなら……、私は今ここにはいないということになります。カオル様の治療もナタリアさんと同じような治療法です。安全面などはカオル様とは多分段違いとは思いますが……。だから、そのようなことは言わないでください……」



 先ほどの言葉は、薫を否定しているように思えて、アリシアは心臓がギュッと押し潰されるような感覚をもってしまう。

 そんなこと絶対にあってはいけない。

 アリシアにとって薫は絶対的な存在なのだから。

 救うと言えば、その言葉を現実にしてみせる。

 その治療法が、この世界では悪魔の治療と言われようとも。

 使い方1つでどのようなことだってできるのだ。



「申し訳ございません……」

「いえ、私こそすいません」



 ちょっと気まずい雰囲気になってしまい、アリシアはおろおろとしてしまう。

 本日は、治療しに来る患者がいないことから、一旦治療院へと入ってカルテの確認だけ済ませようと思い、アリシアはアニスにぺこりと頭を下げてから治療院に向かう。

 治療院へと入ったアリシアは、小さく溜め息を吐く。



「やってしまいました……」

「きゅ~」

「スノーラビィちゃん、私は駄目な子ですよ……。アニスさんにあたってしまいました」



 アリシアは、肩の上に移動した寝ぼけたスノーラビィに語りかける。

 まだ目向いのか、スノーラビィは耳はしおれている。



「カオル様の治療法を間近で見れば、少数派の意見も重要視されそうなのですが……。これは難しそうです……」

「きゅ~~~きゅ~~~」

「わぁ!? スノーラビィちゃん、危ないですよ!」



 アリシアの肩からころりんと前に落っこちるスノーラビィ。

 それを急いでキャッチしようとするが、落下途中に胸にぽよんと弾かれ前方へと飛んで行く。

 怪我をしたらいけないと思い、勢い良く前へとアリシアは飛び出しなんとかキャッチしたのはよいが、アリシアはその勢いでカルテの入った棚に頭をごちんとぶつけてしまう。



「はぅ~~~~! 痛いです……、はぅ! はぅ~~~!」



 アリシアがツッコンだ衝撃で、カルテの入ったファイルが2冊アリシアの頭に直撃して、涙がほろほろと流れる。

 痛みを堪えながら、手の中で丸まっているスノーラビィを見る。

 気持ちよさそうにまんまるに丸まって寝息を立てていた。

 ホッと胸をなでおろして、アリシアは床に散らばったカルテを集めるため座り込む。



「もう……、スノーラビィちゃんは眠いのならフードの中にいてください。危ないですよ」

「きゅ~~~~」

「これは絶対に聞いてない返事です……」



 長い返事でアリシアの言葉に返すスノーラビィだが、夢の中で幸せいっぱいのようだ。

 アリシアは、そのまま起こさないようにフードへスノーラビィを入れる。

 転がりながらストンと入ったのを確認する。

 そして、ぶつけたところに回復魔法を掛けてからアリシアはカルテを拾い始める。



「あ、この方は初めて冬吸風邪の治療をしにきた方ですね。日数的に見て、もう完治はしてますから大丈夫なはずですね。でも、ちゃんと完治したか検査キットを使いたいというのは私のわがままでしょうか……。うー、治療の固定概念をどうにかできないものか……悩みの1つです」



 そう言いながら、アリシアはどんどんカルテを拾い上げていく。

 一枚一枚ファイルにしまってから元の棚の位置に戻して、ラックスティーを入れる。

 ひとまずゆっくりとしてから物事を考える。

 今考えても何もいいことは出てこないと思うからだ。

 温かいラックスティーに心をホッコリさせるアリシアは、椅子に座りながら足をブラブラとさせ、休息を取るのであった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 質素な宿屋の中。

 カーテンが締め切られて、部屋の中は真っ暗になっている。



「ふぅ~、今日は本当にいい日だわ。アリシアさん……、私たちの研究に賛同してくれるなんて思ってもみなかった。私のことを知れば、大抵は化物を見るような目で見られるのだから」



 そう言いながら、硬いベッドに体を倒すと1匹のリスのような小動物が勢い良くナタリアに近づいてくる。

 ふんわりとした毛並みで緑色の毛。

 目はくりくりとして、人懐っこそうな表情でナタリアを見つめる。



「キキッ♪」

「お留守番ご苦労様、ユユ」

「キッ!」



 まるでナタリアの言葉がわかっているかのように、寝っ転がっているナタリアの胸の上でゆらゆらと大きな尻尾をふる。

 ナタリアは、ユユの頭を撫でながら優しい笑みを零す。



「明日は患者の下へと向かうわ。救える命なら……私は救ってみせる。悲しいのは嫌よね」

「キキッ!」

「よし、御飯を食べましょう。安物でもお腹いっぱいにするわよ」

「キィ~♪」



 ナタリアとユユは、宿屋の食堂へと向かう。

 すると、食堂内に入った途端に嫌な目線を感じる。

 目線を気にせず席に座って、店員に一番安くて量のあるものを頼む。

 店員は、注文を取ると苦笑いで一度頭を下げてから厨房へと消えていった。

 昼間の多い時間帯ではないが、何組かの客がいる。

 その中で、治療師と冒険者がナタリアの方をじっと見ているのだ。



「なぁ、あれそうだろ……」

「なんだ? 知り合いか?」

「フォントリアーヌ家の治療師だと思う」

「フォントリアーヌ? 聞いたことないな」



 冒険者は、首を傾げて仲間の治療師にたずねていた。



「あまり表立ったことが公開されてないからな。治療方法も完全に伏せられているし。ただ、患者を苦しませる悪魔のような治療だと言われているのはたしかだ。ギルドに入ってないから、治療師でもないんだが……。あいつが治療したあとは絶対に治療してはならないって言われるほどだ。次に治療するやつのときに患者が死ぬとも言われてる」

「そんなヤバイやつを野放しにしてるのか?」

「噂だがな……。なんでこんなところにいるんだよ。飯がまずくなる」



 小さな会話だが、ナタリアにはその言葉が聞こえていた。

 普段であれば、殴り飛ばしてやろうかとも思うのだが、今日は気分がイイので無視しておく。

 料理が運ばれ、よく噛んで味わって食べる。

 ユユも小皿に分け与えられたものを、もしゃもしゃと頬張りながら空腹を満たしている。

 すべてを平らげたら、さっさと会計を済ませて宿の自室へと戻る。

 そして、アイテムボックスから古い研究資料を取り出してそっと指でなぞる。



「必ずこれらは正しかったと証明させます……。見ていて下さいね、みんな」



 そう言いながら、ナタリアは研究資料胸に抱き目を瞑るのであった。


読んで下さった方、ブックマークしてくださった方、感想を書いて下さった方、Twitterの方でもからんでくれた方、本当に有難うございます。


はい、『天才外科医が異世界で闇医者を始めました。②』が発売されて一週間とちょい。

TSUTAYAランキングにも入れたので、なんかよかったよかったといった感じです。

発売二週間後に、編集さんからどのくらい売れたのか聞くまで、お腹が痛いのは治らないだろうと思う今日このごろ。

なれないこの現象は、ストレスだと……。


はい、えーっと、最新話投稿遅れてしまい申し訳ない!

さぼってたわけではないんですよ? ガチで本業が忙しいだけです。

また今月中頃から忙しくなりそうなので、もしかしたら投稿が遅れるかの性がありますので先に一言言っておきます。

ごめんなさいm(_ _)m

それと、感想も返せてない状況です。

面目ない(´;ω;`)

時間があれば、どうにかしますので許してくださいとだけ言っておきます。

何でも……とは言わない! 絶対にだ

では、次回の更新でお会いしましょう ではではノシ

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