Sランクの者達とフーリの決意
レイディルガルドの上空を見つめる。
ぶっ飛べスピカMk-Ⅰと書かれた空飛ぶ船が薫たちの目の前にゆっくりと降りてくる。
「これは凄いな……。初めて見るわ」
「あれ? 見たことなかったっけ?」
薫の言葉にナクラルはおかしいなといった感じで頭をかしげる。
しかし、よくよく考えてみたら薫はモーリスが帰ってきた時に飛行船を見ていなかったなと思い当たる。
薫は、ちょっとワクワクした感じの表情を浮かべる。
「アレスちゃんと仕事したのね」
ディアラは、そう言いながらにこやか表情になる。
そんなディアラの前に空から一人の女性が飛び降りてきた。
「ディアラァアア!」
ストンと地上に土煙1つ上げないで降り立つ。
真っ赤に燃えさかる赤い髪を靡かせる女性。
身長は158cmくらいで、赤いドレスを身を纏い、ワンポイントの大きなネックレスをしている。
「あら? なんであなたが来たの? ユグウィ」
「何でって!? 娘が1人で行ったら危ないからに決まってるでしょ!」
そう言いながら、頬に手を当ててにこやかなディアラにユグウィは歯をむき出しにして訴える。
そんなユグウィを上空から可愛らしい声が聞こえてくる。
「お、お母様! いきなりそのようなことを言ってはいけないって私に言ったじゃないですか!」
「!? こ、この女は別なの! 特別なのよ! マーニャ」
そうユグウィはぶっ飛べスピカMk-Ⅰから顔を出しているマーニャに叫ぶ。
ユグウィと全く瓜二つの髪型に服装をしている。
しかし、年齢的にはニアより少し年上くらいだろうか。
頬を膨らませてユグウィを見ていると、ユグウィはしょんぼりとした表情を浮かべ始める。
「お母様! 喧嘩は駄目って私にいつも言ってます。約束……守れないんですか?」
「も、もちろん守るわよ。と、特例なんてないわ」
ディアラに喧嘩腰だったのがなくなり、マーニャの笑顔にホッとする胸をなでおろしているユグウィ。
親は子に甘いようだ。
いや、ただの親バカなのかもしれない。
ぶっ飛べMk-Iが地上に着陸すると、マーニャもトコトコと降りてきた。
そのまま、ユグウィに腰抱きついて嬉しそうな表情を浮かべている。
甘えたがりのようにも見える。
「あら、可愛くなったわね。マーニャちゃん」
「えへへ、ちゃんとフェルの血を継ぎましたよ」
Vサインをディアラに向けるマーニャ。
薫はこの2人は顔見知りなのだろうなと思いながら、なぜ来たのだろうかと思考を走らせる。
話の流れを聞いてればいいかなと思い、瓦礫に腰を落として様子を窺うことにした。
楽しそうにしている辺り、争いなどは起きそうにないなとちょっと安心もした。
「ディアラ……元気そうね(あんた私の都市の賠償金払いなさいよ)」
「ええ、おかげさまで(何のことだかわからないわ)」
「ニアも元気にしてるみたいじゃない(しらばっくれる気? あの時どれだけの民が私のところに押し寄せてきたかわかってるの?)」
「ええ、すくすく可愛く育ってるわよ(大変だったのね。心中お察しします。でも、私が蒸発させたわけじゃないし)」
「私の娘のマーニャが今度ニアと遊びたいっていってるの(そ、それはそうだけど……。でも、元はといえばあんたが原因でしょ! 責任とんなさいよ! 怒るわよ)」
「あら、子供同士の方が遊びがいがあるからいいんじゃないかしら(あら、アーニャちゃんに言い付けちゃおうかなぁ)」
「そうでしょうね……(ぐぬぬ……)」
2人は普通の会話をしているのに、なぜか裏で違う話をしているかのように見えてならない。
薫は、先ほどの安心というのを撤回しなければならなさそうだと溜め息を吐く。
アーニャは、楽しげにユグウィに引っ付いていたが相手にされなくなって、辺りをキョロキョロとし始めていた。
ニアは瓦礫を積み木のようにして何かを作っている。
あれはもう興味が完全にそっちにいってしまっているようだった。
真剣な表情で、1つずつ積んで高さを出し始めている。
そんなニアにアーニャは気が付いたのか、ゆっくりと近づいて横に座ってニアに瓦礫で積みやすそうな物を手渡していく。
ニアは「ありがとぉ、いっしょにあそぼ」と言いながら2人でもくもくと積み上げていっていた。
何とも微笑ましいのだろうかと思う薫。
それに比べて親ときたらこれだ。
どうしたものかといった感じで、薫は頬杖を突き見つめる。
誰かとめてくれないかなといった感じのオーラを醸しだすが、世間話(裏で会話)はなかなか終わりそうにない。
そんな中で、ぶっ飛べスピカMk-Iからぞろぞろと4人ほど出てくる。
1人目は、緑髪の少女。
身長は148cmくらい。
フードを深くかぶり、ほんの少し翡翠色の目が見える。
文句をたらたらと小言のように言いながら、ムスッとしている。
2人目は、青い髪の毛で背中まで伸びるロングヘアに、エルフ耳がピンとしている。
身長は158cmくらい。
スタイルもよく、真っ白な雪を思わせるローブを羽織っている。
年齢は、20代前半だろうか。
眠そうな表情を浮かべる美人さんだ。
いや、もう眠っているのかもしれない。
船を漕いでしまっている。
3人目は、薄い紫髪をツインテールにしている女性。
身長は163cmくらい。
ショートパンツに白のワイシャツを着てかなりラフな感じである。
前の2人を支える感じで歩く。
ツリ目でちょっと気難しそうな表情だが、面倒見がよいのかもしれない。
4人目は、亜人の男。
青い髪の長髪にピンとたった獣耳が付いている。
身長は2mで、前の3人と比べたらあまりにもでかく見える。
年齢は二十代後半くらい。
白銀の軽装備で細マッチョと言ったらいいだろうか。
薫は、その4人に目線がいってしまう。
ディアラは4人に気が付いたのか、ユグウィとの会話を打ち切り4人に近づく。
「スピカちゃん、シュカさん、ティルシュさん、ラグアンツさん、あなた達以外は集まらなかったのね」
「私も居るわよ! ディアラ!」
「うるさいですよ。ユグウィ、アーニャに言いつけるわよ」
「……」
しょぼんとしてしまうユグウィ。
その場でいじけ始めてしまった。
薫は全員初めて会う人たちで、纏う魔力が異常なのくらいしかわからない。
ディアラは、薫に紹介すると言わんばかりに近づいてくる。
「カオルさん、こちらの方々は現Sランクで全員序列上位の方ですよ」
「それは……おっかない奴らやなぁ」
ディアラが薫にそういった瞬間、ラグアンツがちょっと表情を変える。
薫もそれに気が付きなんだろうなと思う。
ラグアンツは、薫に近づいてきて一礼をする。
「私は、ラグアンツ・ド・アーバンレイン。【蒼き聖獣】の団長をしていると言ったらわかるかな? あなたの話は仲間から聞いているよ」
「【蒼き聖獣】? ああ! あんたがバッドたちの親玉か」
「はっはっは、あいつらが世話になったようで」
「いや、俺も世話になったからな。あいつらは元気か?」
「今もビスタ島で迷宮の調査を継続してもらっている。あいつらも早く強くなってもらわなくてはならないからね。特にカールがなぁ……。対人戦にはめっぽう強いくせに魔物に関してはまだまだだ……。今度、鍛え直さないといけないと思ってたところなんだよ」
薫は、久々に聞いたことのある知り合いの名前に懐かしさを覚える。
あと、カールは死なない程度に頑張れと心の中で思うのであった。
それにラグアンツの垂れ流す魔力は異常である。
これは化け物級、Sランクと言われる風格が薫でもわかる。
戦いたくはないなと普通に思ってしまう。
しかし、ここにいる者はその垂れ流される魔力や威圧に全く動じない。
例外は、ガラドラとユリウスは完全に硬直してしまっているが……。
仕方ないね……。
Sランクではない者には酷な状態だ。
ミィシャは、マリーに守られ平気なようだった。
ぷるぷる震えているのは、白い妖精さんのせいだろう。
「あら、知り合いがいるのね。世間って狭いわね」
「そうやなぁ」
そう言いながら、ディアラは他の者たちの紹介を続ける。
「この子はスピカちゃん。神術持ちで風を操ることが出来るの」
「あの……スピカ・フラベルです」
「どうも、俺はカオル・ヘルゲンや」
ちょっと人見知りなのかなといった感じで、もじもじとディアラの後ろに隠れてしまう。
だが、ちょっと興味があるというのも伺える。
ちらりとこちらを見てきているからである。
薫は、どうしたものかといった感じで苦笑いになる。
「カオルさんがレイディルガルドをこんなんにしたの?」
「ああ、本当はここまでする気なかったんやけど……。最後の一撃で城下町までまるまる吹っ飛んでなぁ……」
「完全固有スキルでぶっ飛ばしたの?」
「いや、魔力強化だけやで」
「何それ凄い! 1回見せてよ」
興味津々といった感じで言ってくるが、流石に現在修復中のレイディルガルドでそんなことしたら、妖精たちに二度と元に戻してもらえそうもないので出来ないと断った。
ちょっとつまんないといった感じで不貞腐れるスピカ。
「カオルさん、実はこの空飛ぶ船を作ったのはスピカちゃんなんですよ」
「ディアラさん! 空飛ぶ船じゃなくてぶっ飛べスピカMk-Ⅰだっていったじゃん!」
「そこにこだわるんやな……」
「いい名前でしょ? なんたって私が考えたんだからね」
えっへんといった感じで胸を張るスピカ。
薫は、目の前にあるでかい船を見てちょっと乗ってみたいと思うのであった。
「乗ってみたい?」
「乗せてくれるんなら乗ってみたいな」
「んー、じゃあここをぶっ飛ばしたのを見せてくれたらいいよ」
「スピカちゃん、駄目よ……。国が吹き飛んでいいところが……一個あるわね」
「おい、俺を置いて何話を進めてんねん! 消していいところなんてないやろ……」
薫がそう言いながら、2人を見るが何やら2人は目を合わせた途端に何か通じあったかのように口を揃えて言う。
「「エクリクス」」
「おい! なんで治療の最先端の国滅ぼそうとしてんねん! いや、なんで俺にさせようとしてんねんって言った方がええんか? ったく」
「ほら、カオルさんってやりそうじゃない?」
「見たい見たい♪」
「おいやめろ! その後が大変そうで笑えんわ。今回のこれでもかなりの負担をミィシャにかけてるんやからな」
ディアラとスピカは「え~」と言いながらちょっとつまらなさそうにする。
人をなんだと思ってるんだこの2人は……。
国落としとかもう勘弁と思う薫。
あとの作業が半端ではなく面倒くさいということが今の時点でわかりきっている。
だが、仲間を傷つけるようなことがあれば、また同じようなことをしてしまうかもしれないと思う。
薫は、あいかわらず仲間には甘いなと苦笑いを浮かべそうになる。
しかし、スピカはこの話になった途端に、人見知りだったのが嘘のようにこちらをちゃんと見つめて話をしている。
意外と順応性が高いのか、それともこちらのことを観察していただけなのかなと薫は思う。
見事に飛行船を餌に何か面倒事がでてきそうだと溜め息を吐きそうになった。
ディアラとスピカはそんな薫を見て笑っていた。
薫としては全く笑えないと思うのである。
「じゃあ、乗りたかったらいつでも言ってね。乗ったら契約成立だよ♪」
「絶対に乗らへんわ」
「えー! なんで!? いいじゃん乗ろうよ! 快適だよ? ピューッと行きたいところに行けるんだよ」
「めんどいことはごめんや」
「あらあら、カオルさん……大丈夫よ?」
「ディアラさんの大丈夫は、本当に大丈夫やなさそうやから怖いねん。先が見えてるんやろ? それ、確定で何かに巻き込まれるってことやないか!」
もう確定事項のように言われてしまったため、薫は本気で嫌な表情をする。
ディアラの未来予知には抗えそうにない。
今まで全て自身で決めて動いていたはずなのに、ディアラの見つめる未来へと薫は勝手に動いてしまっている感じがしたからだ。
口元に手を当てディアラはくすくすと笑っている。
薫は、それを見て肩をがっくりと落としてしまう。
もうどうにでもしてくれと。
「じゃあ、次の人を紹介するわね」
「ああ、ちゃっちゃとお願いするわ」
とぼとぼと薫はディアラに連れられて青髪の女性へと近づく。
立ったまま目を瞑って、気品ある姿勢を維持する。
その姿はまるで女神のように見えてしまう。
「シュカさん? あれ? 寝てるのね……」
前言撤回、ただの睡眠欲の強い残念美人でした。
薫は、本当に大丈夫かといった感じの目をしてシュカを見る。
「ふぁ~~。あれ? ああ、ディアラさんおはようごじゃいます」
「うん、おはよう。自己紹介いいかしら?」
「はぁい、えーっと、シュカ・リズド・グランドリオンです。シュカの血を受け継ぐ者ですぅ~。すぴぃ~」
「いやいや、寝んなや……。あかん……、こいつら変なの揃いや……。人のこと言えんけど」
薫は、呆れ顔で立ったまま眠るシュカを見る。
ディアラもちょっと苦笑いを浮かべるところを見ると、これがデフォルトなのだろう。
なので、ディアラがシュカのことを少し詳しく話してくれた。
シュカは、神術の氷を操る者の血筋らしい。
大陸で使用すると、年中白銀の世界になる。
現にシュカの納める領土は北に位置する。
初代シュカの血を引く者が神術を使った名残が未だに残っているらしい。
なんとも恐ろしい能力である。
あんな綺麗な顔してえげつないなと思うのである。
「じゃあ、次の子ね」
「サクサク行こうや……もうなんかしんどくなってきたわ」
「そうねぇ~」
ディアラはそう言いながら、金髪ツインテールの子へと歩み寄る。
つんつんとした雰囲気を醸し出している。
「ほら、ティルシュさん自己紹介を」
「ふん、ティルシュ・イングル・トールよ。雷の神術使いよ」
「薫や、よろしゅうな」
「ん……」
小さく返事をして、ぷいっとそっぽを向くティルシュ。
面倒くさいと言わんばかりの表情なのである。
「ティルシュさん、薫さんは冬吸風邪の特効薬を作った方よ」
「ふぇ!?」
「あら、いい表情ね」
「ほ、本当なの? 本当に本当に出来たの!? エクリクスでも作れてないのよ!」
物凄い表層で薫に飛びついて白衣を掴む。
ちょっと怖い。
ツリ目だからだろうか。
ディアラが軽く咳払いすると、ティルシュはちょっと恥ずかしそうに白衣から手を離す。
「ああ、レイディルガルドに申請しないといけないとか面倒事があったが、それももうないからな。オルビス商会にもう流通を任せてるからその内大陸全土に薬は広がると思うわ」
「その……ぜひ100人分ほど薬を融通してもらえないかしら? だめ?」
「急ぎなんやったら別に用意はしたるよ。流石に直ぐ大陸全土には浸透しないやろうからな」
「是非お願い! 私の国の民を助けたいの」
「「「「ティルシュ! 抜け駆けは駄目」」」」
「!?」
いきなり、ユグウィ、スピカ、ラグアンツ、シュカが声を揃えて言う。
皆、特効薬が欲しいのかと思う。
まぁ、それもそうかと薫は苦笑いになる。
どこも今の季節は冬吸風邪が流行っているのだから仕方がない。
しかし、先ほど立って寝ていたシュカまで血相を変えて声を上げたのにはちょっとおもしろいなと思う。
「とりあえず、今は魔力欠乏症でちょっとあまり魔力は使えんねん。回復してからで……」
「それなら私の魔力使っても構わないわよ」
「ティルシュさんのをねぇ……。まぁ、貰えるんやったら貰っときたいかな。お願いできるやろうか」
「交渉成立ね」
そう言って、ニッコリと笑う。
その笑顔は、つんつんした感じは全く無く。
素直に可愛いとすら思えるいい笑顔だった。
その他の者たちはちょっと不服といった感じで、不貞腐れるのである。
ティルシュは、薫の手を取って魔力を譲渡し始める。
黄色く、雷のようにぱちぱちと魔力がはじけている。
その光景は、神秘的に見えた。
魔力を薫に渡し始めてから少し経つと、ティルシュはありえないといった表情をする。
「って、どんだけあなた魔力を使ったの……? 私の半分の魔力を渡してるのにまだ入るって化物じゃないの……」
「ああ、ちょっと普通のやつより多いくらいや」
その言葉に、アホかと言わんばかりにティルシュは片眉を釣り上げて睨む。
ちょっとだけの騒ぎではない。
自身で普通よりも遥かに多い量の魔力を保有していると自負しているためこのようなことになるなんてありえないとすら思っている。
Sランクとは、それくらいの化け物級の魔力を持っていなければ認められないのである。
これ以上は無理といった感じでティルシュは魔力の譲渡をやめる。
「これくらいあればいいでしょ?」
「ああ、大分楽になったわ」
「あなたって一体どんだけ魔力持ってるのよ……」
「企業秘密や」
「……」
ティルシュは、ジト目で薫を見つめる。
薫は、何もなかったかのように笑顔を向ける。
続いてユグウィがこちらに近づいてくる。
「では、私が今度は魔力をあげます。だから私にも100人分の特効薬をいただけるかしら」
「ああ、かまわへんよ」
「ふっふ~ん、ティルシュでは荷が重かったようですからね。あ、私はユグウィ・エン・フェルナルド。フェルの血筋の者です。炎の神術の使い手ですよ」
「ああ、よろしく頼むわ」
薫はユグウィの差し出した手を取ると、魔力が体に流れてくる。
真っ赤に燃えるような魔力に、体中がホカホカとしてくる。
ユグウィは、ドヤ顔で薫を見つめる。
どうだ! 凄いだろと言わんばかりなのである。
数分後、そのドヤ顔は崩れ去っていた。
歯を食いしばって、必死な表情になってる。
「ありえないわ……。何……どんだけ吸い取ればいいのよ……」
「ああ、その辺でもうええよ。そっちがぶっ倒れそうやし」
「へ、平気ですよ! まだまだ序の口よ……」
完全に無理している。
Sランクとしての威厳もあるし、先ほど大きく出たため引くに下がれないと言った感じになっていた。
結果、瓦礫にコテンと倒れてしまい魔力欠乏症になりピクリとも動かなくなった。
ディアラは、頭を抱えて突っ伏しているユグウィを見つめる。
大体の魔力が回復したので、薫はもう大丈夫かなと思うのである。
「そしたら、薬をサクッと作るとしようか」
「「「「おお!」」」」
皆、どうするのだろうと言った表情を浮かべる。
そして、次の瞬間呆気にとられる。
薫は5つの麻の袋に『薬剤錬成』を唱えると、一瞬で100人分の薬を5袋分作り上げた。
一瞬のことに目を丸くしてしまう。
薫は素知らぬ顔でその袋を5人に渡していく。
「これでええやろか?」
「凄~い……。無から有を生み出すなんてみたことないわぁ」
シュカが眠そうだった目を見開き、おっとりした感じでそう言うのである。
スピカもその袋を大切に手に持つ。
何とも嬉しそうな表情で笑顔を作っている。
薫はスピカに1回無料で飛行船に乗せてもらうことを言うと、仕方ないなぁとスピカ笑顔で了承してくれた。
ユグウィは、突っ伏したためマーニャに薬を持たせてた。
「お母様が迷惑を……もうしわけないですぅ……」
「ニアと一緒に遊んで楽しいか?」
「意外と楽しいの。ね、ニアちゃん」
「たのしい! 積石がいっぱい」
「そっか、ならもうちょっとだけ遊んどってな」
「「はーい」」
可愛らしく手を挙げる2人に薫は癒やされる。
しかし、綺麗に積み上げて現在150cmの高さまで達している。
ニアを肩車してマーニャが上手く誘導している。
なんとも微笑ましいと思う。
そんな薫にディアラが近づいてくる。
「カオルさん、これからのことを話し合うんですが……一緒に聞きますか?」
「いや、政治の話は俺は専門外やからなぁ。そっちで決めてもええよ。そのかわり……間違い犯すんやったら俺も動くことになりそうやけどなぁ」
そう言いながら、莫大な魔力を纏ってディアラの後ろにいる者たちを見る。
たじろいだりはしないが、薫の纏う魔力の練度に皆が笑う。
いや、笑うしか無いような感じであった。
「うふふ、大丈夫ですよ。今回集まったこの人たちはそういったことはしませんから。それに、元々大国としてやってきたのをレイディルガルドが潰したのですし」
「元の形に戻るってことか? でも、それで管理が行き届くんか?」
「それを解決するのがラグアンツの【蒼き聖獣】よ。1番大人数で連携が取れし、何より冒険者ギルド内で信用を1番勝ち取ってるんだからね」
「ほう、それまた凄いな。まぁ、でも最悪も想定しないとあかんやろ? そんときはどないするんや?」
薫がそういった瞬間、ディアラが笑顔を消して目を鋭くさせる。
その瞬間、時が止まったのではないかと思わせる感覚に陥る。
「そのときは、私のコミュニティが動くわよ。この大陸で唯一無二にして最強という名を与えられた【時の旅団】がね」
薫は、背筋に冷や汗が流れる。
あのおっとりしていたディアラとは思えない圧倒的な重圧を感じる。
他の者もそうだ。
表情に余裕は消えている。
皆、ディアラのコミュニティを動かすことがないように国を動かさなければならない。
動けば簡単に国が沈む。
「そのときは、薫さんにも動いてもらおうかしらね」
「今の見せられて、俺の出る幕なんてないやん」
「あら、何いってるんですか……。もっと魔力を密に練るとあれくらいカオルさんだって今なら出来るんですよ? 私と同等くらいには魔力があるはずですし」
「何それ爆弾発言やん……」
笑顔で返してくる辺り本当なのだろう。
薫は、もうちょっとだけ魔力の鍛錬をしようかと思う。
十分化け物クラスと言ってもいいような気がするのだが。
「じゃあ、話がまとまり次第カオルさんにも報告入れるわね」
「ああ、それでお願いするわ。すぐに決まるわけやないやろ? 連絡手段として何か……」
「そこら辺は大丈夫よ。それと……この3人の処罰はこっちに任せてくれないかしら?」
「その大丈夫が凄いなぁ。ほんまに……まぁ、それは構わへんよ。二度と悪さできんようにしてくれればええわ」
任せといてといった表情を浮かべるディアラ。
他の面々もかなり鬱憤が溜まっているようだ。
薫は、ほどほどにしないと死ぬぞといった表情をする。
その後ろにいる5人がいい笑顔なのがまた怖い。
薫は、ミィシャが頑張って復興作業を行っているのを見て、一度頭を撫でて「後は任せたで」と言うとしょんぼりとした表情で「わふぅ~」と溜め息を吐くかのような返事をする。
薫は、ポッケで眠るピンクラビィを摘んで起こすと「もう終わったの?」と言った感じの表情をしてからピンと耳を立ててゲートを開く。
薫は、そのままゲートをくぐり妖精の国へと帰還するのであった。
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妖精の国の個室。
アリシアは目を覚ますと、白いもふもふに覆われ幸せな表情をする。
魔力欠乏症で強制的な睡眠に苛まれてすやすやと眠ってしまっていた。
そして、その側で眠るスノーラビィのまんまる尻尾がアリシアの頬をくすぐる。
「もっふもふですぅ~。あぅ~」
「きゅ?」
「もひゅもひゅ~」
「きゅ~」
じゃれ合うようにしているが、アリシアは肝心なことに気がつく。
「ぬ、抜け出せないです!」
「きゅ?」
「こ、ここから抜け出せないです!」
「きゅっきゅ!?」
もごもごと動こうにも綺麗にベッドと壁の隙間にぴったりとハマったため、ビクリとも動けない状態である。
そんなとき、部屋の扉が開く音が聞こえる。
アリシアは、ぴくんと嫌な汗を掻く。
もしかすると、薫が来たのではないかと思ったからだ。
捕まれば底なしの喜びに誘われてダメ人間になってしまう。
いや、それはそれでいいのだろうが? いや、よくはない!
そんな葛藤をしていると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「アリシアちゃん? いないの?」
「そ、その声は! フーリちゃん!! た、助けてください!」
「え? ど、どこに居るの?」
フーリは、誰もいない部屋を見渡す。
誰も居ないのに、ちゃんとアリシアの声が聴こえる。
ちょっと困った表情でどうしようと腕を組んでしまう。
「こ、ここですぅ~。ベッドと壁の隙間に落っこちましたぁ~」
「きゅっきゅ~!」
「ふぇ!? そこ!!?」
フーリは焦るようにベッドに乗っかり、隙間を覗く。
すると、綺麗に挟まって身動きの取れない可哀想な生き物がそこにいた。
スノーラビィがアリシアを助けるために、健気に鳴いている。
ご主人思いのいい子に育っているのだろうと思う。
その後は、フーリの魔糸でアリシアは救出される。
アリシアの体をぐるぐる巻にして、すぽんといった感じであった。
「助かりましたよフーリちゃん」
「このベッド……固定されてるからいけない」
「で、でも、勝手に壊したらいけないですよ」
「ん~、でもまたアリシアちゃん落ちそう」
「……うぅ」
フーリの言葉にアリシアは確かにと思ってしまう。
1人で抜け出せないとなるとちょっと危ない。
寝るときは、何かその隙間に詰めるかなと思考を走らせる。
「そういえば、カオル様は?」
「たしかプリシラさんに捕まっていたような……。ちょっと今まで寝てしまっていて知りませんね」
「そうなんだ……。あのね、アリシアちゃん」
「うん? どうしたんですか?」
ちょっと不安そうにフーリはアリシアに言う。
何かを決めたような感じである。
「私も治療師になりたい」
「え? 治療師にですか?」
「うん」
「どうなんでしょうか……。私が一概には言えないです。治療師になるにはなれると思いますが……」
アリシアは、なんとも言えないちょっと歯切れの悪い感じになる。
簡単になれないというのは知っている。
アリシア自身、薫の心臓移植の副作用のようなもので今の治療魔法が使えていることは知っている。
魔導師と少し異なるが、適正がなければ使うことが出来ない。
それに、使えたとしても使える治療魔法には限界もある。
どうしたものかとアリシアは頭を抱える。
薫が居ればどうにかなるのにと……。
「無理かな……。カオル様の役に立ちたいの……」
「フーリちゃん……」
アリシアは、フーリの頑張るからといった捨て猫のような表情に胸がきゅんとしてしまう。
こんな可愛い表情をされては、手を差し伸べなければならない気がするのだ。
だから、アリシアは薫に少し相談しようと思うのである。
「フーリちゃん、そのことをカオル様に言ってみましょう。どうにかしてくれるかもしれません」
「うん!」
黒く綺麗な髪の毛を頷く度にひらひらとさせる。
やる気に満ちた真っ赤な瞳をアリシアに向ける。
フーリはがんばるぞーといった感じで天に拳を突き上げ、アリシアと一緒に薫を探しに行くのであった。
フーリとアリシアが薫を探し始めていろいろな部屋を調べていく。
途中、プリシラがベッドで横たわっている姿を見つけたが、譫言のように「カオルさぁ~ん、もっとつよく叩いてくださぁ~い。きゅっきゅ~」などと言っていたので、アリシアとフーリはそっとしておこうと扉を締めた。
あれは関わってはいけないと直感が働いた。
たぶん、あのあと何かしらのお仕置きが執行されたのだろう。
頭の上に乗るスノーラビィは、聞かないでと言わんばかりに耳を折りたたんで拒否権を発動していた。
アリシアはこれで察してしまった。
扉を締めた後に両手を合わせて合掌する。
そして、そこから30分後に薫を発見する。
いい笑顔で帰ってきたため、魔力欠乏症は大丈夫なのだろうかといった感じで心配になるアリシア。
そこら辺は、薫の説明で薬と魔力を交換したと聞き安心するのであった。
「あのカオル様! フーリちゃんからカオル様にお願いがあるそうです」
「ん? どうしたんや?」
「あ、あのね! 私も治療師になりたいの」
「ん~、無理やないやろか?」
「……」
薫はフーリに対してバッサリと一言で言ってしまった。
アリシアは、口をパクパクさせながら「なんということをサラッと言ってるんですかぁ!?」といった表情をする。
やんわりとオブラートに包まずバッサリと切り裂いてしまい、フーリはぷるぷると震え始めた。
今にも泣きそうな表情に、アリシアは慌てる。
「治療師は無理やろうけど……専門的な補佐なら出来るやろ。今回のことで俺も一人の限界を感じたからなぁ……」
「え?」
「ど、どういうことですか?」
2人は薫が何を言ってるのかわからないでいた。
泣きそうだったフーリは、薫の言葉に顔を上げる。
「うーん、そこまで大病じゃない患者の手術を『異空間手術室』で治すコストがあわんってのと、大勢のそういった患者が来た場合捌けないってのがある。やから、スキルを使わないで手術が出来へんかなって思ってるんや」
アリシアとフーリは、薫の言葉に息を呑む。
それは、今までスキル内で補佐などをしていたと言っていたことを思い出し、自分たちがそこに入るということになる。
つまり、薫の役に立つことが出来るということだ。
「フーリは手先が器用やし、周りをよく見てるからなぁ……。やってくれるんなら、麻酔投与の管理して欲しいと思ってるんや。はっきり言っとくけど、痛みを管理するんやから失敗の許されないものや……。相当な訓練が必要になるけどなぁ。それに、医療魔法の習得は完全把握が条件になってるんや。何となくとかでは使えもせんから覚えるだけでもかなりの時間がかかるんやで? 今、別にこの世界で代用品を見つけてはいるからどっちかを採用したいと思っとる」
薫の言う意味に、その重圧を感じる。
フーリは、麻酔を一度受けている。
投与されて、眠ってしまったあと、腕に手術の後が残っていた。
肘の皮膚を切り裂いて痛みを感じなくさせることで、あの治療ができるとなると相当な微調整をしないといけないのではないかと思う。
アリシアも麻酔に関しても薫から聞いている。
執刀医と呼吸を合わせなければならない位置関係にある。
患者の状態に合わせて投薬量を管理したり、メスを入れるときにも量を増したりしなければならない。
ものすごく大事な位置関係である。
それを任せるということは、どれだけの重圧になるのかとアリシアは足が震える。
一つの失敗で人の命を消してしまうかもしれない。
失敗なんて許されない世界の話である。
薫はそれを今まで全て一人で管理していた。
知れば知るほど薫のレベルが異常だと、そして追いつけない究極の高みにいるのだと理解してしまう。
薫曰く全科の技術を一人前くらいには出来るというが、そんなのありえないレベルだ。
そして、最も得意なのが外科という。
いろんな科に別れる図表を見て、アリシアはきょとんとしてしまったくらいだ。
アリシアは、今のところ外科医を目指す気でいる。
自身と同じような患者を助けたいからである。
その中で、麻酔科医をフーリに教えようとしているのである。
理解するだけでも難しすぎるとアリシアは思ってしまう。
「カオル様の……力になりたいから……死ぬ気で頑張る!」
「まぁ、まずは麻酔の薬をこっちの世界で作らなあかんからな。勉強ちゃんとできるんやったら教える気ではおるよ。誰かしらがそういったことをしないと、マジで俺の首が回らんわ」
「絶対に覚えるから! カオル様見ててね」
弾けんばかりの満面の笑みを浮かべるフーリは、薫に抱きつきぷらぷらと揺れるのである。
「こら、離れんかい」
「やだ~! 嬉しいからやだ~」
アリシアは、そんなフーリを見て私もと言わんばかりに反対側に引っ付く。
「わ、私もカオル様頑張りますからぁ~。はっ!!?」
その瞬間、薫の表情が悪魔となったことは、アリシアしか知らない。
がっちりとアリシアを捕獲した薫の手は微動だにしないのであった。
そして、1日言うこと聞く券の時間内ということをすっかり忘れてしまった哀れな子羊は、震えながら涙目で懇願することしか出来ないのであった。
後日、アリシアはあの日のことをこう語る。
あれは薫オオカミさんでした……。
あれにはあらがうことが出来なかったのですと……。
読んで下さった方、ブックマークしてくださった方、感想を書いて下さった方、Twitterの方でもからんでくれた方、本当に有難うございます。
発売してしまいました……。
買ってくださった方々ありがとうございますm(_ _)m
あんなところで区切ってしまってる時点であれっすよねw
プレッシャーハンパねーっす(´・ω・`)
でも、いろいろと試行錯誤して読みやすくなっていたのではないかと思います。
はい、そして今回はSランクの名前が出たけど登場してなかった者達が出てきております。
カールたちのコミュニティの団長ですねb
そして、フーリが薫の役に立ちたいために頑張るみたいですよ(・ω<)b
段々どんな風に動くのかがわかる……。
はい、と言うことでもう一つ総合ptが50000pt突破です。
なんだこれ……すげーな(困惑
もう一度言わせていただきます! 皆様、ブックマーク、評価してくださり有難うございます。
これからも頑張って書いていきますので、書籍版共々よろしくお願いします。




