プリシラの目醒めと契約の破棄
妖精の国の謁見の間。
プリシラは、今か今かと鼻息を荒くして作戦決行を待ちわびる。
ピンクラビィたちもそれに同調するかのように耳をぴんと立てる。
日が昇り、プリシラは髪の毛にブラシをかける。
薫に撫でてもらう時に、触り心地が悪くて撫でを途中でやめられたら困ると思ってのことである。
ピンクラビィたちも同じで自身の毛づくろいを入念にしていく。
皆、最高の作戦にうっとりとするのである。
ノーリスク・ハイリターンの最高の作戦。
失敗などあり得ないといった感じが体中からにじみ出ている。
「皆さん! よろしいですね♪」
「きゅ~♪」
プリシラが号令をかけるとピンクラビィたちは一斉に鳴きだす。
もう我慢なんて出来ない。
そう言っているかのように、ピンクラビィはプリシラを急かす。
「ふっふっふ♪ 焦らなくても大丈夫! 私に皆付いてくるんです♪」
「「「「きゅっきゅ~」」」」
そう言って、プリシラはスキップをしながら薫を探しに行くのであった。
薫は、アリシアを脇に担いで廊下を歩く。
相変わらずアリシアは、ジタバタと最後の抵抗を行うが全くもって意味をなさないでいた。
アリシアは、もう諦めたと言わんばかりにぐったりとしてしまう。
もう好きにすればいいんですと小さな声でつぶやくのであった。
そんなとき、目の前に大量のピンクラビィを従えたプリシラが現れる。
アリシアは、プリシラの顔を見て直ぐに良からぬことを企んでいるとわかってしまった。
こういうことだけはなんとなく感覚でわかる。
あの顔は、スパニックに来たときと全く同じなのである。
「カオルさん! お話があります!」
ビシッと薫を指さし言う。
かなりのドヤ顔でである。
そんなプリシラに薫は溜め息を吐き、また面倒なことを持ってきたかと言わんばかりの表情を作る。
プリシラは薫の表情を見て、いつまでその表情を保てるかなといった感じなのである。
非常に腹立たしい表情をしている。
蹴ってもいいだろうか。
「忙しいからあとでな」
「きゅっ!? か、かなり重要なことです!!」
「じゃあ、ここで聞くわ」
薫は心底面倒といった感じで言う。
プリシラは、アリシアに聞かれたらこの作戦は破錠してしまうのでなんとかアリシアの解放を要求するが、なかなか離してくれないようだ。
まるで獲物を捉えた冬の狼のごとく。
しかし、アリシアは希望の光りを見つけたかのように薫を説得するのである。
逃げるなら今しかないといった感じだ。
薫は、大きくもう一度溜め息を吐いた後にアリシアを解放する。
でないと、プリシラの話が進まない。
すると、地面に足のついたアリシアは「どうぞごゆっくり~!」と言いながら、脱兎のごとくその場から走って逃げる。
絶対にあとでまた捕まえようと心に決める薫。
撫でくりまわしてやると心を鬼にするのであった。
「ほんで? 話ってなんや?」
ちょっと不機嫌そうな表情をする薫。
そんなのお構いなしなプリシラは、にやりと女王らしからぬあくどい表情になる。
「カオルさん! 私はあなたの弱みを握っているのです!」
ビシッとまたしてもキメ顔をするプリシラ。
薫は、その言葉に何かあったかなといった表情をして考えるが、全くもって見当もつかないでいた。
なので、適当にプリシラの内容を聞くことにした。
「カオルさん! あなたはアリシアさんともあろう方が居ながらクレハさんとキャッキャウフフなことをしていましたね!」
プリシラは、まず一枚目のカードを切る。
このカードによって薫が慌てふためくと思っているに違いない。
しかし、薫は「ふーん、で?」っといった感じで、プリシラの次の言葉を待つ。
そして、なんとなく今回の面倒事の背景が見えてきた。
「あ、あれ? あ、あたふたしないのですか? あ、あれれ?」
ちょっと困った感じのプリシラ。
逆に自身があたふたしているということを理解していないのである。
しかし、もう止まることは出来ないのでそのまま薫を追い詰めて幸せ撫で撫で計画を遂行する。
そんな時だった。
スノーラビィがちょこちょこと廊下を歩いてくる。
ピンクラビィたちの中に入って、何やら内緒話をしているかのようにか細い鳴き声が聞こえる。
そしてその会話が終わった後、こっそりとピンクラビィたちはそういえば仕事があった的な仕草をし始める。
物凄く不自然な挙動である。
あくびをしたあと、眠いのでねぐらへと戻ろう的な行動をしてその場からゆっくりと脱出するピンクラビィもいた。
多種多様な行動をするピンクラビィたちは、完全に逃げ惑っている。
自分たちはプリシラとは関係ないですよといった感じである。
そのピンクラビィたちの行動が、薫の方から丸見えなのである。
スノーラビィが、昨日の夜の出来事を話したのだろう。
プリシラ1人を残して……。
そそくさとプリシラの後ろにいたピンクラビィたちはゼロになる。
皆、足早に撤退してしまった。
残ったのはスノーラビィたった一匹。
哀れプリシラ。
本当にこの妖精の国の王女様なのか疑問に思ってしまうレベルである。
プリシラは、そんなことが後ろで行われているなどつゆ知らず、薫を追い詰めるために撫で撫でのためにどんどんカードを切っていく。
「カオルさん! このことをアリシアさんに言われたくなければ……私のことを撫で撫でしてください!!」
全てのカードを切り終えて、そういうとプリシラは肩で息をしながら最後に本日一番良いキメ顔をする。
最終的にそこへ行き着く辺り、悪いやつではないのだろう。
だが、その魂胆をそういった脅しで強要するというのはどうなのかと思う。
私欲のみで形成された行動に薫は溜め息を吐きながら、プリシラの頭を掴む。
「きゅ!?」
プリシラは、撫でてもらえるのかと思ったのか、ちょこんと薫に近づいていく。
なんとも満面の笑みをこぼしながらである。
しかし、次にきた衝撃は幸せの撫でくりではなく、頭が割れそうに圧迫感であった。
「きゅ~~~!? わ、割れちゃいます! カオルさん! 私の頭がメキメキメキっていってます!」
「そうか、よかったな」
いい笑顔で、掴んだ手に力を込める。
薫の握力にジタバタするプリシラ。
離れようにも薫の力の前には完全に無力と化していた。
涙目になりながら、「ごめんなさい! 許してください!」とプリシラは謝る。
薫は、表情は笑顔のままプリシラを引きずって目の前の扉を開ける。
真っ暗闇なその部屋へと薫とプリシラは入っていく。
スノーラビィは、プリシラが闇に飲み込まれていく姿をちょこんと座って傍観する。
今、あれは関わるとろくなことにならないだろう。
引きずられる中、スノーラビィの姿を見つけたプリシラは、助けてと言わんばかりの視線を送るが「無理です!」といった感じで、耳で敬礼をするスノーラビィ。
薫のあの目は、以前一度だけ見たことがある。
クレハが薫に裸で抱きついていたのを目撃してしまい、からかうためにウインクをした後に見た目だ。
あれは、やばい。
野生本能的に謝らなければいけないと本気で思うレベルである。
それ以来、薫には絶対に歯向かうことはしない。
命がいくらあってもたりなさそうだからだ。
プリシラは、「だずげでぇ~」と言いながら部屋の奥へと消えていった。
不自然に扉が勝手にしまったが、気にしないでおこうとスノーラビィは考える。
閉まった扉の向こうから、「お、お尻ペンペンは痛いです! きゅ~!」という声の後に、「あ~、めんどうなやっちゃなぁ……。その腐った根性を叩き直したろうか。このダメプリンセスラビィ」という声が聞こえてくる。
途中、「い、痛気持ちいいですぅ! きゅ~!」や「もうちょっと強く! ってきゅっきゅ~!」という声が聞こえてきたが、聞かなかったことにする。
何かに覚醒めてしまったのかもしれない。
スノーラビィは、何もなかったし聞かなかったと思いながら、お尻をフリフリしながら部屋へと戻る。
一仕事終えたといった感じで部屋へつくと、アリシアが頭隠して尻隠さず状態でぷるぷる震えていた。
さすがにこれはすぐに見つかるかなと思い、スノーラビィはアリシアの隠れていないお尻に体当たりをすると、びっくりしたのかベッドと壁の隙間に転げ落ちた。
いや、挟まってしまったといった方が正しいのかもしれない。
アリシアは一瞬パニックになりかけたが、スノーラビィの鳴き声に薫ではないことがわかった途端に安堵する。
そして、アリシアは現在挟まっている隙間が丁度いい感じの隠れ場所と思ったのか、そのまま疲れた体を休めるために眠りにつく。
スノーラビィは、世話のやける子だなと思いながら毛布をその隙間に詰め込むようにしてあげる。
隙間なく毛布がアリシアを包むと気持ちよさそうな表情になる。
そんなアリシアを見たスノーラビィは、その隙間はそんなに良いのかな? といった感じで、身を滑り込ませてアリシアの頭の上に乗って調度よい位置に調整する。
スノーラビィは、意外といいかもといった表情をした後、アリシアと一緒に寝息を立てるのであった。
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妖精の国と森の境目で、ウンディーネとドリアードとサラマンダーはのんびりと寝っ転がる。
今回の旅の話をドリアードとサラマンダーにしているのだ。
「ディーネだけずるい……!」
「そうなの! 美味しい食べ物いっぱい1人で食べてきたの!」
2人は頬を膨らませてブーイングを行う。
ウンディーネは、「そんなこと言ったってしかたないもん」といった感じで目を逸らす。
サラマンダーは、ウンディーネの話を聞いてとても美味しそうな食材などがあることを知り、今すぐにでも食べに行きたいと思ってしまっている。
食欲には勝てないようだった。
しかし、それはドリアードによって止められる。
いや、植物のツルでぐるぐる巻きになり、頭だけ出ている状態である。
「ドリちゃん! なんで止めるの!」
「この国を守る使命忘れてるの」
「あ!?」
「本当に忘れてたの……。ある意味素晴らしい脳みそしてるの」
ちょっとした嫌味を言うドリアードだが、サラマンダーは全く気にもしてない。
それどころか、気づかせてくれてありがとうと言うのである。
興味のあることにまっしぐらになり易い性格のサラマンダーを、ウンディーネとドリアードが制御している状態でもある。
にっこり笑っていってくる辺り、憎めない性格でもある。
ドリアードはサラマンダーに巻いたツルを緩める。
緩んだツルからサラマンダーはもぞもぞと体をくねらせる脱出する。
サラマンダーは両手を天に突き上げ、脱出成功といった感じで笑顔を作る。
「でも、ディーネちゃんだけずるいのは確かなの」
「えー、だって私が行くようにプリシラ様から任命されたんだよ? 私がずるいわけじゃないよ」
「外の世界って楽しそうなの。興味津々なの」
「ドリちゃんもお外行きたいんだったら、カオルさんに頼んでみたら? ちょっとした観光程度なら許してくれるかもしれないよ」
「むむむ、ちょっと魅力的な提案なの」
そう言いつつ、ドリアードはたわわな胸をたゆんとさせる。
やっぱり少し邪魔といった感じの表情を作る。
「でも、ドリちゃんがこの妖精の国から離れちゃうとちょっと面倒くさそうだよね」
そう言って、サラマンダーが口を開く。
その言葉にドリアードも確かにと頷く。
今、この妖精の国に故意に危害を加えようとする者はいない。
これは、前回【三叉の牙】が情報を流したことがきっかけである。
上位精霊が2人以上いることを話したからだ。
しかし、意図せぬことでこの妖精の国に紛れ込んでしまう冒険者もいる。
魔物に襲われ、必死に逃げ惑うことで普通なら感知できないプリシラのスキルを突破してしまうことがたまにある。
それを察知することが簡単に出来るのがドリアードである。
この森と植物全てがドリアードに侵入したことを報告してくれるのだ。
そのため、簡単に対処ができる。
しかし、ドリアード以外だと侵入したことに気が付かないことがある。
例外は、プリシラのスキルで妖精などからの連絡が入るくらいだ。
だが、基本そっちに対してやる気のないプリシラは、誰かがなんとかしてくれるから大丈夫といった感じなのである。
戦闘力がほとんどないのだから仕方がない。
優雅に折りたたみ玉座に寝っ転がって、薫からどうやったら撫でてもらえるかを考えることで頭がいっぱいという煩悩の塊のダメプリンセスラビィだからだ。
「私もちょっと心配なの……だから、ここからは離れられないの」
しょんぼりした表情をするドリアード。
ウンディーネとサラマンダーは、何度か外の世界に遊びに行っているがドリアードだけはいつも妖精の国の警備で出ていない。
なんとかならないものかといった表情をして考えこむ。
「なんとかしてあげたいね」
「そうですねぇ……。プリシラ様がもう少しやる気を出してちゃんとしてくれればいいのにねぇ」
そう言いながら、またレイアドラゴンに追い回される冒険者がこの妖精の国へと迷いこむ。
サラマンダーは、「今回は私の番だね!」と言いながら、スッと立ち上がり体から神秘的な炎を燃え上がらせる。
「森を焼いたら怒るの! 対象だけを攻撃でよろしくなの」
「りょ~かい♪」
そう言って、サラマンダーは一瞬で姿を消す。
ドリアードは、「あれは絶対にわかってないの。おバカな表情だったの」と言いながら、溜め息を吐きつつサラマンダーを追う。
ウンディーネは、消火が必要かな? といった感じでクスクス笑いながらドリアードに続く。
その後は、サラマンダーの炎によってレイアドラゴンは消し炭となり、冒険者は半べそ掻きながら幼女3人に感謝しつつ妖精の国を後にする。
上位精霊は、意外と優しく何より3人とも可愛らしかったという噂が広まり、会いに行こうとするロリコンが若干増えることはまた別の話。
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お昼すぎ、妖精の国の一室で目を覚ますガラドラ。
顔を横に向けるとユリウスが気持ちよさそうに眠っている。
その表情に安堵してから体を起こす。
「本当にユリウスは助かったのか……」
そう言いながら、ユリウスに近づく。
そっとユリウスの頭を撫でるガラドラ。
そうしているとユリウスが目を覚ます。
「お、お父様? お父様!」
そう言って、びっくりした表情でガラドラの顔を見る。
弱り切った顔ではなく。
ガラドラの顔色が、レイディルガルドにいた頃よりも格段に良くなっていることがわかる。
そして、今目の前にいるのが奇跡のように感じた。
話をすることも出来ない状況であったのに、ここまで回復することが出来るのだろうかと思う。
「もう平気なのですか!? って、あれ? 僕は確か変な首飾りをつけられてから……何があったの?」
ユリウスは困惑しながらガラドラに聞くが、ガラドラ自身そのとき何があったかはわからない。
薫からこっちに運ばれてからなんの説明もされていないからである。
だから、今ここがどこなのかもわからないでいた。
ただ言えることは、レイディルガルドではない。
この部屋一体の魔力の濃度が高いということだけは確かだと思うのだ。
「詳しくはもうすぐ来る奴に聞けばわかるだろ……」
「?」
ユリウスは、ガラドラがそう言って扉の方を向くと一緒になってそっちを向く。
異質なオーラを放つ者が近づいて来ていることがユリウスにもわかった。
この感覚は、一度経験している。
レイディルガルドの城を破壊した張本人だ。
それにしても、なぜこんなに禍々しいオーラを放っているのかがわからない。
この部屋の外で戦闘でもしていたのだろうかと思うのである。
そんなことを思っていたら、扉が開く。
「おう、やっと目醒めたか」
そう言いながら、薫が入ってくる。
片方の手にとても綺麗な女性が首根っこを掴まれ引きずられている。
ぐったりとしたその女性は、ちょっと嬉しそうな表情をしているような感じがした。
薫は、ひどく疲れたといった様子で大きな貯め息を吐きながら言う。
「さぁ、約束を守ってもらおうと思うんやけど。ええやんなぁ」
「カオルさん! プリシラはいい子です! ですから、離してもらえませんか? ねぇってばぁ~」
恍惚な表情でそのようなことを言うプリシラを薫は何もいないかのように話を進める。
「ああ、私の出来る範囲でなら何でもしよう」
「ちゃんと言質も契約書もあるんやからなぁ。守ってもらうで。もしも破るって言うんなら……そんときはちょっと可哀想なことになると思うわ」
「わかっている」
薫とガラドラがそのような会話をしている中で、ユリウスは驚きの表情を隠し切れないでいた。
なぜ薫の言うことを聞いているのかだ。
ユリウスにはわけがわからなかった。
レイディルガルドを崩壊させた張本人なのに。
だが、話はどんどん進んでいく。
「それで、レイディルガルドは今どうなっているんだ? 昨日の話では崩壊しただのとホラを吹いていたようだが」
ガラドラは、眉をひそめて薫を睨む。
絶対に崩れることのない最強の砦として君臨するレイディルガルド。
それを崩壊させるなどあり得ないといった感じなのである。
Sランクの者を抱え、冒険者や探索者のBランクを傭兵として雇っている。
ただ一度だけその砦は破られたが、あれは対象外だ。
最強のコミュニティ【時の旅団】の全メンバーが一斉に攻めてきた。
そして、団長の強さはSランクのレベルを逸脱している。
本物の化物だ。
あのレベルが来ないかぎりはレイディルガルドが落ちるなどあり得ないと言える。
「まぁ、口で言っても理解できんやろ? やから、自身で確認してもらった方がええやろ?」
薫は、悪い笑顔でプリシラの片耳をちょんちょんと引っ張る。
「あぁ~、い、痛気持ちいいですぅ~! も、もっとカオルさん!!」
「「……」」
美しいピンクのロングヘアのをふわふわとさせるプリシラ。
ガラドラとユリウスは、その姿を見て位の高い者だろうとは思うのだが、言動がちょっと危ない。
美しいのになんとも残念といった感じがにじみ出ている。
薫は、面倒だと言わんばかりに蔑んだ目でプリシラを見つめながら言う。
「さっさとゲート開かんと、二度と撫でも叱ったりもせんけどええか?」
「!? それは困ります! ぜひペンペンしてほしいです! きゅっきゅ~!」
そう言いながら、ドMダメプリンセスラビィがせっせとゲートを開通させる。
そのゲートを見て、ガラドラとユリウスは目を見開く。
空間干渉をする能力はかなりのレアスキルである。
物資を運ぶために、街道や航路を使うが確実に安全とはいかない。
街道でもそうだが、野盗や魔物もいる。
食料を確実に運んでいることもあるため、狙われたりもする。
航路もそうだ。
海賊もいる。
金品などを狙って襲われることがある。
後ろ盾がない限り、襲われたりする確率が跳ね上がる。
薫の使う馬車にはオルビス商会の旗が入っているのでそういったことは起こりにくい。
限りなくゼロには近づくが、絶対に襲われないというわけでもない。
そして、今回のスキルはそういったものを全く関係なく安全に運ぶことが出来る夢のスキルである。
制限としてはピンクラビィがいるところのみではあるが。
ガラドラは、プリシラをじっくりと見つめる。
そして、レイディルガルドのさらなる発展のためには必要不可欠とも思える。
そんな表情をしていたガラドラに薫はひと睨みをする。
冷たく凍えるような感覚に陥ったガラドラは、その場で硬直する。
背筋に冷や汗を大量に掻き、生唾を飲み込む。
「変なことを考えんほうがええぞ……。俺の関わる奴に手をかけたら……ただじゃすまさへんからな」
その言葉に、ユリウスも生唾を飲む。
薫の強さを知っている。
Sランクのモーリスをあしらうことが簡単にできる化物。
純粋に魔力強化で最上級の魔法を粉砕することができる。
なぜ、野放しになっているのかがわからないとも思うのである。
そんな中、プリシラだけが「きゅ?」と言いながら首を傾げる。
この一匹だけが気がついていないのである。
人のそういった悪い部分をあまり知らないのだろうかと薫は思う。
そんなことを考えながら、ガラドラとユリウスをゲートくぐらせる。
多分、かなり修復が進んでいるだろうなと薫は思いながらゲートをくぐるのであった。
ゲートをくぐると、薫は正面で誰かとぶつかる。
なぜくぐった先で棒立ちになっているんだと思いながら、薫は横に逸れてレイディルガルドを見る。
そこには、薫のイメージする修復が全くと言っていいほどなされていなかった。
いや、ほとんど手付かずで作業は座礁しているといった方が良いのかもしれない。
修復班のマリーとミィシャを見ると、マリーは苦笑いで頭を掻いていた。
その隣で、今にも泣き出しそうなミィシャが「わふ、わふ」と申し訳無さそうにこちらを見る。
とりあえず、何があったか聞かないといけないかなと思う。
アレスとナクラルは、のんびりと瓦礫の山の上で現実逃避をしていた。
「いや~、どうしようかねぇ。全く」
「薫が来るまで放置でいいんじゃないかな。俺らのせいじゃないし。普通に直すとしたら……年単位でかかるだろうからね」
などと言って、お酒を飲んでいるのである。
ちなみに綺麗にコテージも数個設置して、寝泊まり出来るようにしている。
モーリスは、若干だがめり込んでいる位置が変わっている。
多分、魔力が回復して起き上がったが、Sランク3人の餌食になったのだろう。
頭からめり込んでいるのは変わらなかった。
「おい、こんな瓦礫の山に連れて来て何をする気だ?」
「ん? いや、ここがレイディルガルドやけど」
「……そ、そんなはずはない! あの美しきレイディルガルドが、こんな無残な瓦礫の山になるなんてあり得ない! ナクラル! お前はこんなところで何をしている!」
そう言いながら、ガラドラは声を荒らげる。
信じようにも信じれないといった感じであった。
ユリウスは、自分が眠っている間にここまでひどい惨状になっているなんて理解できなかった。
覚えているのは、城が傾いた程度だ。
城下町まで崩壊しているなど知る由もない。
それに、住民もいない。
どこへいってしまったのだろうかと考える。
だが、答えなど出てくることはなかった。
「げ!? ガラドラ皇帝!」
「ああ、使えない皇帝か」
ナクラルとアレスは、そのように言いながらガラドラを見る。
そして、すぐ横に薫がいることに気がつく。
「おお、カオルお帰り! ちょっと面倒なことになってさぁ」
そう言いながら、ガラドラとユリウスなどいないかのように、薫の肩に腕を回して持たれてくるアレス。
薫は、とりあえず状況の整理が先かと思うのであった。
「いや、実はさぁ……。ミィシャの妖精が仕事したくないって言い出しちゃってさ」
「ほぅ……。で?」
ここらへん一体の空気が一瞬で凍りつく。
ミィシャは、尻尾の毛を逆立てぷるぷると震えだす。
白い妖精たちも何事かと思い薫の方へと視線を向けてジッとする。
「何でもカオルの魔力がちょっと欲しいみたいな感じのことを言い出してさ。それくれないと仕事しないって言うんだよ。困ったものだよね」
あはは、といった感じで笑うアレス。
薫はそんなんことかと思い威圧を解きながら、そのままミィシャの目の前で座り込んでいる白い妖精の下へ行く。
薫が近づくにつれて、ちょっと警戒する白い妖精たち。
木槌を手に持ちちょっと震えている。
「ちょっとでええんか? あんまり今はあげることは出来へん」
「!?」
薫は、笑顔を作り白い妖精たちに言う。
それを見た白い妖精たちは、ちょっと話し合ってから頭の上でマルを手で作る。
「大丈夫! ちょっと味見したいだけ」
「「「したいだけ!」」」
そのようにリーダー格の後に続くように発言をしてくる。
薫は、とりあえず直して貰わないと今後の予定が狂ってしまうから早めにお願いしたいと言った感じである。
もしも、面倒なことを言うのであればそれなりの対処はしなければいけない。
まぁ、そのようなことにならなかったから良かったと思うのである。
「そしたら、ちょっとだけやけど」
そう言って、薫は手から魔力をちょっとずつ出す。
それを白い妖精の額に引っ付けようとしたら、その指をぱくっと口に含むのである。
「おい!」
「ん! ん~~~! ぱぁ……。す、凄すぎる!」
そう言いながら、白い妖精のリーダー格の子が目を見開いて言う。
「アレと大違いだ!」
「「「!!?」」」
「わふ!?」
アレ扱いプラス指をさされるミィシャは、ほろりと涙が頬を伝う。
がっくりと肩を落として、白い妖精たちが自分の下を去っていくのではないかと不安になるのである。
もう立ち直れないと言わんばかりに尻尾がうなだれしょんぼりしてしまう。
薫はミィシャも大変だなと思いながら、ミィシャの頭に手を置きポンポンと叩きながら撫でる。
直に撫で続けると前のようになるので、そういったことを考慮しての撫で方である。
ちょっと嬉しそうな表情になるミィシャは、薫に「ありがと」と言うのであった。
尻尾をぶんぶん振り始めたので、ここらへんでやめておく。
すると、白い妖精たちのリーダー以外の者たちが、薫の魔力を欲しがって白衣をちょいちょいと引っ張る。
「「「私もほしい」」」
そう言いながら、薫に群がる。
幼稚園の先生になった気分になる薫。
薫は、白い妖精たちに均等に魔力を与える。
全員、満足といった感じの表情をしている。
プリシラが言っていたが、相性の合う魔力でランクの高いものを摂取すると神格持ちであれば進化するというが、この白い妖精たちはどうなのだろうかと思う。
精霊とはまた違った感じなのだろうかと思考を走らせながら、薫は白い妖精たちを見る。
ジッと見ていたが、進化するということはないようだった。
若干体に纏う魔力のオーラが光り輝いている程度である。
「それじゃあ、直していってもらえるやろうか?」
「あい!!」
薫に対して敬礼をして作業にとりかかる。
ちょっとやる気出た感を醸し出す白い妖精たち。
金槌を手に持ち、トンテンカンと音を立てながら街を直し始めるのである。
「おお、凄いなぁ」
「な、なんでカオルさんの言うこと聞くんだろう……。わふぅ……私の言う事聞いてくれないのに」
恨めしそうに薫を見るミィシャ。
薫は、苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
ただ魔力を与えただけで、それ以外は何一つしていない。
それだけで、白い妖精たちはちゃんと言う事を聞いているというのがちょっと納得いかないといった感じなのである。
白い妖精たちは、かなりのスピードで外枠からどんどん直していく。
ガラドラは、その直った場所を見て愕然とする。
目の前で修復された壁にはレイディルガルドの紋章が刻まれてある。
「本当にレイディルガルドなのか……」
「え……、さっきからそう言ってるやん。まだ信用してなかったんか」
薫は呆れるようにガラドラを見る。
そして、それをした張本人でもある。
「じゃあ、ちゃんと約束は守ってもらうで」
「……」
薫はガラドラを見ながら言う。
目つきを鋭くして、「商談と行こうか」といった感じで纏う空気を変える。
その空気にガラドラは生唾を飲み込む。
ユリウスもそうだ。
薫は、横槍が簡単に入ることが出来ない空気を醸し出す。
「それで……そっちの要求はなんだ」
「ああ、こっちの要求は契約の破棄やな」
「契約の破棄だと!? で、出来るわけないだろ!」
ガラドラは、何を馬鹿なことを言っているんだと言わんばかりに声を荒らげる。
「なんか勘違いしてるみたいな感じするから詳しく言うで。俺が今回言うてるんは、Cランク以上の奴らの制限の破棄と|俺の知り合いの契約の破棄や」
薫は睨みつけるかのようにガラドラを見る。
その姿から怒りが若干こみ上げてきているのは明白だった。
「まず、一つ目や。Cランク以上に掛かっている制限解除やけど、大陸でレイディルガルドが一強でやってる事自体がかなりの反感を買ってるっていうのはわかるやろうか?」
「一強?……そんなことはないはずだ! それに、我らの一族はこの大陸の者たちをある程度管理する義務がある!」
「お前は本気でそう思っとるんやったら……かなり脳みそがおめでたい奴やな」
「なんだと!」
ガラドラは薫の言葉にイラつく。
一族に代々受け継がれてきたこの特殊固有スキルを否定されているような気がしたからである。
「全部悪いとは言わへん……。でもなぁ、そのスキルは使い方一つでかなりの人間の人生を左右する。それはわかるよな?」
「当たり前だ! だから、私がその道標を作ってやっているのだ」
「はぁ、なんでお前にそんなことをしてもらわなあかんねん。管理をするって中途半端にそういった奴らを拘束したら、どうなるかくらいわからへんのんか? それに、お前は神様にでもなったつもりか?」
「っ……」
薫は、「思い上がるのも大概にせいや」といった感じで言う。
ユリウスは、その言葉に俯く。
モーリスに言われ、特殊固有スキルを使い今まで以上に制限をかけている。
民のためにとやってきたことは間違ってないと思うが、薫の言葉にしこりのようなものを感じる。
ガラドラは、ユリウスに代わってからこの大陸全土がどのように変わったかをまだ把握しきれていない。
ユリウスは、嫌な汗を掻きはじめる。
若干だが、薫とガラドラの話の流れに食い違いが発生してきているからである。
「今の帝国のやり方やとかなりの穴がある。このレイディルガルド近辺や犯罪なんかにはかなり役に立っとるけど、ここから離れた地域は最悪な場所もある。冒険者から貴族になった奴らなんかが、元々貴族もしくは元大国の重役の奴らに嫌がらせを受けることが多いように思うんやけどな」
「そ、それは確かにある……。だから私はそのようにならないように、新たにレイディルガルドが中心となって4つか5つに分けて管理を任せようとしたのだ!」
「まぁ、レイディルガルドがいちいちでしゃばらへんでもええやろ。その地域を元々収めとった奴らの方がその土地のことをよく知ってるんやしな。そこの中できっちりと締め上げればええやん。まぁ、不正が行えんようにちゃんと上を置くことはせんとあかんけどな」
薫の言葉は、レイディルガルドが全大陸の主導権を握ることを完全に邪魔と言っている。
「では、そこから戦争になったらどうするつもりだ!」
「ならんように抑止力があるんやろうが……。小国でもそこら辺の防衛くらいはちゃんと考えるやろ。我々は中立です! なんて言って、その国民が安全なんて言うお花畑のアホがいるんやったら別やけどな」
退屈そうに薫はつぶやく。
「それに、迷宮の管理で手が塞がってる状況で戦争もクソもないやろ。それで国が滅んだことがあるんならなおさらやないかな?」
そう言って、薫はガラドラを見つめる。
奥歯を噛みしめるガラドラは、一度目を瞑ってから呼吸を整える。
「違う……私が言っているのは、レイディルガルドとシャルディランは現在戦争中のはずだ」
「ん? どういうことや?」
薫は、ガラドラの言っているのことの意味がわからない。
シャルディランは崩壊して、その領土のほとんどを没収し、今のレイディルガルドが君臨しているではないかと。
シャルディランの王を殺し、王族はもう1人しか残っていない。
「レイディルガルドが一強で大陸を納めていないはずだ! この大陸はレイディルガルド、シャルディラン、エクリクスの3つの勢力で成り立っている。それに現在はレイディルガルドとシャルディランは戦争中だったはずだ」
ガラドラはそう言いながら薫を見る。
薫は、その言葉を聞いてなんとなく背景が見えてきた。
ガラドラが眠っている間に、モーリスがどんどん政策を提案しそれをユリウスが受諾していた。
その中に、シャルディランも含まれていた。
皇帝一族の使える特殊固有スキルを使えば必勝だが、周りの領土を持っている貴族もしくは元大国の重役たちからしたら、レイディルガルドに対して当然不満が上がるのは明らかだ。
そういったものも全てモーリスが政策で握りつぶしたのだろう。
薫がそんなことを考えていると、ユリウスは、な汗を掻きながらソワソワし始める。
「おい、ユリウス! お前……、モーリスに言われた政策の中で心当たりがあるんやないか?」
「……」
俯き、何も言えないでいるユリウス。
ガラドラは、そんなユリウスの顔を見てまさかといった表情をする。
「お前……、その政策で後々どうなるかを考えんでやったな。差し詰めモーリスから言われたんやろ。これも帝国のためだとか、父親のためとかなぁ」
ユリウスは図星を突かれて何も言えないでいた。
モーリスは帝国軍師だ。
間違いを言うはずはないとそう思い込んでいた。
「ユリウス……まさか……シャルディランを」
「ぼ、僕がやったんじゃない! モ、モーリスが、やれば全てうまく行くって言ったんだ! だ、だから僕は悪くない!」
そう言って、後ずさりする。
ガラドラは悲しそうな表情をし、我が子を見つめる。
取り返しの付かないことをしてしまったということは明白だ。
いや、今現在シャルディランの民はどうしているのかということが気がかりである。
今からでもどうにか出来ないかと思うが、ガラドラは皇帝としての力量も器も先代に比べたら無いに等しい。
失策続きで、民にかなりの負担を皇帝になったときに味わった。
ユリウスにガラドラは何も言えないまま立ち尽くしてしまう。
そんなガラドラを薫は溜め息を吐きながら言う。
「ユリウス、お前は皇帝としてその政策を実行したんやろ? その結果がどんなんであっても全てを受け入れるのが皇帝やないんか? 大きな間違いを起こしたとしてもそうや。国のトップが本当はこんなことしたくなかったとか後から言うてええもんやない。成功しても失敗しても全ての責任を負うのが皇帝やないんか。そうじゃないんやったら、お前は皇帝をせん方がええわ」
その言葉にも全く反応がない。
いや、ユリウス自体には先ほどの言葉は突き刺さってはいるのだろう。
今現在ない知恵を絞り出しているようにも見える。
この状況を打開できないかということを。
しかし、それも崩れ去る。
「ユリウス、お前の失策だ。ちゃんと受け止めろ。私も沢山の失策を出してしまった。だから、これから償っていくんだ」
「お父様……」
ユリウスは目に涙を浮かべてガラドラを見る。
浅はかな考えをしていた自身が情けなくなる。
そして、ガラドラに抱きつき泣き始めるのであった。
「それで、話は戻るんやけど。契約の破棄をしてもらってもええやろうか? できるやろ? あんたのできる範囲なんやからな」
ガラドラは、大帝国レイディルガルドの一番の強みの全てである契約縛りを破棄しなければいけないということを突きつけられる。
なぜ薫が契約を使ってまでこれをしてきたかが伺える。
これは断ることの出来ない契約となっている。
断れば、ガラドラに魔力制限とスキル制限がかかる。
一生消えない拘束。
薫はこれを逆手に取って使用しているのだ。
目の前に出した契約書は薫の言葉に反応して白く光り輝く。
ガラドラは、奥歯を噛み締め決断する。
「わかった……。だが、犯罪を犯してミュンスへ送った者達まで解除はできん」
「いや、それは当たり前やん……。何が楽しくてそんなアホ共まで開放したらなあかんねん。そっちは今まで通り管理してくれんと困る。てか、勘違いしてるんやったらあれやしなぁ。俺が言ったのは、普通に冒険者や探索者をやってる奴らや。AからSに上がる奴らまで行動に制限掛けたら何も出来へんやろ」
薫は、そんなバカけたことをするわけがないだろと言わんばかりに呆れ顔をする。
はっきり言って、政治までは専門外であるがこういったことには考えがある。
それともう1つ薫の怒りを買う契約書があった。
「俺の知り合いに変な契約しとったからそれも解除やな」
「変な契約?」
ガラドラは薫の言葉に眉をひそめる。
「グランパレスにいるリースとビスタ島にいるワトラって2人やな。この2人は今回、迷宮熱の特効薬と病気の発見方法、病気の薬の発見方法を見つけた奴らや」
「!?」
ガラドラは、目を見開き驚く。
エクリクスですらまだそのような薬を開発できていないというのに、それに属さない者が発見して作ったということに驚きを隠せないでした。
世紀の大発見と言っても良い。
二人共が歴史に名を刻むレベルの偉業を成し遂げている。
「その2人に新たな薬をまた作ったときは、レイディルガルドを通さなければ売り出しも流通もしてはならないっていう契約を取り付けとったわ。どんだけ邪魔したいんや……。腐りきった契約とかそんなんいらへんねん」
「「……」」
ガラドラは、薫の言葉に何も言えなかった。
私欲を貪るためにそういった契約をしたのだろう。
多分であるが、表向きは賞賛と新たに爵位などを与えると書いてあり、その裏にはそういったことが明記されているのだろう。
ユリウスは、自身でそのことを理解している。
モーリスから言われてその契約書を作っていたからである。
その方が、民により早く確実に流通出来るからと言われてであった。
「こういったことをもしも他にもやっとるんやったら解除やな。お前らの私欲を満たすために医療が遅れるってことを理解してくれんと困るんや。俺も冬吸風邪の特効薬を作ったのにここで登録せなあかんとか面倒にもほどがあるわ」
「な……、冬吸風邪の特効薬もあるのか!」
「もうオルビス商会に流通は回してあるわ。はっきり言ってこれからどんどん患者は増えるんや。それで亡くなる人もおるんやからさっさとしてほしいのもあるが……。信用もくそもないお前らに認可してもらわんでもええ気さえするわ」
信用もないという言葉にガラドラはごもっともだといった表情をする。
完全に地に落ちているであろうレイディルガルドの信用。
ガラドラからユリウスに変わってからもっと悪くなっているであろう。
信用を取り返すことが困難な状況でもある。
「まぁ、その特殊固有スキルは使い方によってはいいんやけど、使ってるのがこうも不祥事を連発するんやからもうどうにもならんしなぁ」
薫は面倒くさそうに言う。
誰が管理したところで、悪用すれば災厄を招く。
毒にもなるし薬にもなる。
薫は溜め息を吐きながらどうしたものかと考える。
そんな時だった。
聞き覚えのある声がコテージから聞こえる。
「カオルさん、お久しぶりね」
「ははさま! おにぃちゃんだぁ~! おにぃちゃんがいるぅ~」
薫は、2人の顔を見てきょとんとしてしまう。
ディアラとニアがいる。
青と赤のオッドアイで、金髪ロング。
二人共、真っ白な修道服を身につけているのである。
「え? なんでここに居るんや? ディアラさんにニアちゃん」
「うふふ、グランパレスで少しの間契約が消えたから、そこを納めていた王族にちょっとしたお話をしてきたのよ」
「おう、そのお話って部分がめっちゃ気になるわぁ」
「あら、カオルさんみたいなことなんてしないわよ? ただ、ちょっと外に出てくるからその許可をもらったのよ」
「その許可貰った時に言った言葉がめっちゃ怖そうやな」
ちょっとからかうように薫はディアラに向かって言う。
ニアは、いつも通り話が終わるまでジッと周りの様子を窺うのである。
そんな中、ガラドラは青ざめて腰を抜かす。
元序列1位の最強の人物である。
「ディア姉、ゆっくり中で話が終わるまで待ってるって言ったじゃん」
「あら、アレスいたの?」
「俺が連れてきたんだから居るに決まってんだろ! って、そうじゃない! いつものパターンになってきてるのが嫌なんだよ! 次に言う言葉は確実に俺への嫌なアドバイスだろ!」
「もう……、久々に会ってもつれないんだから……。だから、六番目のお嫁さんも不満が出てくるんじゃないの! ちゃんと大事にしないと駄目って言ったでしょ!」
「!? 六番目って……なんでだよ! 帰った時にちゃんとアフターケアもしてきたぞ! 何が不満だんだよ!」
そう言いながら、ディアラは楽しそうにアレスをいじる。
実に楽しそうなのである。
「そうそう、話が脱線しちゃったわね」
「誰のせいだよ……。あ~! 俺ちょっと領土に戻ってくるからな!」
「いいわよ、アレスの役割はもう終わったから」
「ひでぇ~よ。でも、いつも通りのディア姉で安心する自分が嫌だわ」
そう言いながら、アレスはそそくさと空間を斬って姿を消す。
アレスが消えてからディアラはゆっくりとカオルに近づく。
「今の問題がある部分を私が解決してあげるわ」
「なんでもお見通しなのがまた怖いなぁ」
ディアラはウインクしながら薫に言う。
そんなディアラに薫はやれやれといった感じなのである。
「スキルの内容を1つ封印できるからそれをするといいわよ」
「そんなん出来るんか?」
「うふふ、私言ってたじゃない。いろいろと研究してるって」
薫はその言葉をよくよく思い出してみる。
たしかに言ってたなそんなことと苦笑いになる。
そんなスキルを持ってる時点で怖すぎである。
下手に逆らって『異空間手術室』を封印されたら死活問題である。
絶対に逆らわないでおこうと思うのである。
「とりあえず、先々代のときにするはずだったのに……私の旦那がさせてくれなかったのよ! もう、だからした方がいいって言ったのに……」
そう言いながら、ディアラは頬を膨らます。
なぜかニアまで頬を膨らませている。
ちょっとかわいい。
「あと、封印って言っても使えなくなるわけじゃないの。悪用できないようにするってだけよ。全部封印できたら私が最強じゃない」
「十分最強ですやん……。逆らいたくなくなるレベルや」
「あら、もう薫さんの方が純粋な強さでは私よりもちょっと強いくらいよ?」
「純粋ってのが引っかかるわ……。戦闘経験からしたらディアラさんの方が上ってことやんな?」
「当たり前じゃない。私を誰だと思ってるのかしら? 元時の旅団の副隊長してたんだからね。まだまだカオルさんには負けないわよ」
そう言いながら、ディアラは笑うのであった。
それから話もまとまり、ガラドラは制限を解くことを承諾する。
でなければ、全てのスキルに制限が掛かり大陸全土に不具合が生じる。
リース、ワトラの契約書と、それに準ずる者たちの契約書も破棄され、冒険者と探索者を縛る制約のみ解除された。
主にAランクからSランクに上がるときに生じる縛りの解除。
しかし悪意がある者も居るため、その中で不条理な殺しなどは禁ずるとしている。
これでも抜け道があるため変えたいが、変えるにも今からもう一度契約をするかといえば、誰もレイディルガルドの契約書をしないであろう。
今まで知らずに詐欺まがいな契約をしてきたからでもある。
それで助かっている者もいるため、一概には言えないが。
そして、全ての解除が終わってディアラはガラドラの目を見て自身のスキルを使う。
オッドアイに魔法陣が浮かびそれを見ていたガラドラは、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっていた。
そして、ユリウスにも同じスキルを掛ける。
薫は、完全固有スキルのことを言おうとしたら「大丈夫♪」と全てわかっているかのような言い方なのである。
「これで、安心して私のしないといけないことが出来るわ」
「ディアラさん何かしたいことがあるんか?」
「うふふ、ヒ・ミ・ツ♪」
そう言って、いい笑顔を向けるのである。
楽しんでいるようで、薫もまぁいいかなといった感じでディアラを見る。
途中、「ちゃんと約束守ってもらいますからね」と言われて、薫は病気になったら直してくれということを思い出す。
薫は、まかせとけと言って笑顔を作るのである。
その後は、ニアがやっと遊べるといった感じで薫に擦り寄ってくる。
相変わらず好奇心旺盛な女の子である。
ガラドラたちと話している間に、ニアは白い妖精たちと友達になったようだ。
ミィシャはそれを見てまたしても涙をほろほろと流していた。
まぁ、がんばれ。
マリーは流石に可哀想と思ったのか、ミィシャを慰めていた。
いや、あれはただ暇だったから撫でるといった感じにも見えたが言わないでおこう。
白い妖精たちはかなり早いスピードで、町の再建をしていく。
すると、ガラドラはやっとここが元シャルディランであることを理解した。
薫は、雰囲気が元レイディルガルドに似ているのかなとも思う。
水の都の水も瓦礫が吹っ飛んで陸になっていたため、見分けもつかないかなとも思うが。
これで、ひとまず契約等の話は終わりだなと軽く伸びをする。
「さて、ここからはちゃんと反省してもらわなあかんからなぁ。ちゃんと落とし前もしっかりさせようか」
「あら楽しそうね。私も混ぜてほしいわ」
「え? ディアラさんもするんか? やったら、俺はいらん気がするんやけど」
「その言い方だと、私が血も涙もない拷問をするみたいじゃないの! 怒っちゃうわよ!」
そう言って、楽しそうに言う。
これはかなりのストレスが今までたまっているなと薫は思う。
「それに、もうじき来るわよ……。Sランクの皆がね。いろいろと話し合わないといけないからね、カオルさん」
「は? なんやそれ……聞いてないんやけど」
薫は、ディアラの言葉に嫌な予感がするのである。
ふと、足元に大きな影が広がる。
そのまま薫は空中を見ると、そこには空飛ぶ船が薫たちの真上まで来ていた。
薫は、面倒くさそうなことが起こりそうだと嫌な表情を浮かべるのであった。
読んで下さった方、ブックマークしてくださった方、感想を書いて下さった方、Twitterの方でもからんでくれた方、本当に有難うございます。
はい、前回の話の改変ですが、この作品では二回目の話の流れの改変となっております。
昔から見てる方だと、どこで一度このような展開になってるのかがわかると思います。
Q、どうして話が変わったの? 説明はよ!
A、うん、申し訳ないの一言です。
これ以外にちょっと答えれません。
これからの展開を見て判断して頂けるとありがたいです。
恋愛然りです。
あと、最新話の投稿が遅れてしまい申し訳ないです。
感想で心折れたとかではなく、ただ本業が忙しく執筆に時間を裂けなかっただけです。
ツイッターでは、そういった感じのことを配信してますのでそちらで生存を確認して頂けると助かります。
感想も時間が出来次第返信していきますので、もう少々お待ち下さい。
次回は、10日以内で投稿できます。
あと、累計187位、50000ptの壁がまでもうちょっととかマジでここまでいくとは思いませんでした。
皆様本当にありがとうございます。
活動報告にて本日中にキャラクターのラフ絵を投稿しますので良かったら他のキャラクターも見ていって下さい。




