表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/95

薫、帝国兵ボウリングでストライク! 帝国崩壊のカウントダウン3

 まだ朝日が登らないスパニック。

 ピンクのフード付き白衣を着たアリシアはパナン夫人の住む屋敷へと来ていた。

 検査キットを渡していた門番の人にアリシアは問いかける。

 

 

「あ、あの、結果を聞かせてもらえますか?」

 

 

 心臓の音がドキドキとして、今にも張り裂けそうなそんな様子のアリシア。

 スノーラビィは、まだお眠なのかアリシアのフードの中で丸まって寝息を立てている。

 

 

「はい、旦那様から結果を貰っております。こちらですが……。色は変わっておりません」

 

 

 門番の男は、検査キットの瓶を取り出し見せる。

 アリシアはそれを見て、ゾクッと背筋に冷や汗をかく。

 

 

「ということは……。冬吸風邪ではないってことです。早く診察しないと大変なことになるかもしれません……どうしたら……」

「旦那様は今日はおられます。私から取り次ぐことが出来ます。パナン夫人に会うとまたもめると思われますから。薬が効かなくて、現在寝る間も惜しんで介抱しております。体を休ませるために、少しですが娘のククリお嬢様から離すことが出来ます。その時を狙って診察をしてもらえますか?」

「わ、わかりました。え、えっと、いつごろ伺えばよろしいですか?」

「そうですね……。こちらで準備が整い次第1人伝令として向かわせます。オルビス商会の方へ向かわせればよろしいですか?」

「は、はい。よろしくお願いします!」

 

 

 アリシアは、門番の男と打ち合わせをして一旦宿屋へと戻った。

 胸の高鳴りが止まらない。

 冬吸風邪ではなかった。

 これは、それと症状の似た病気であることは違いない。

 とするならば、今から色々と病気をピックアップしていかなければならない。

 アリシアは、所有するスキル『記憶の図書館(メモリアルライブラリ)』を使う。

 目を瞑り、体が青白く光輝き始める。

 リースから貰った病気の症状などが書かれた書物を薫が分かる範囲で全て事細かく記したものを探す。

 真っ白な空間に、ものすごい量の本が詰め込んである本棚が現れる。

 それも何列も現れる。

 治療や病気に関するものなどは分けられてある。

 早々に見つけるとそれを手にする。

 するとアリシアの頭の中にその情報が物凄い勢いで入ってくる。

 意識を集中しながら、アリシアは病気の症状で似たものを探す。

 時間は限りがある。

 8時からオルビス商会で治療院を開く。

 それまでの間にできることをするのであった。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 レイディルガルドの正門。

 朝日が登りだした頃。

 まだ、冒険者や商人なども動きだしてない時間帯。

 門番達は呆気にとられ、口をポカーンとしていた。

 なぜそのような表情をしているのか、それは目の前でありえない光景が広がっているからだった。

 遠くから、川を遡りながら10m級の津波のようなものがこちらへと向かってくる。

 その上には、船のような物があり人を運んでいるのである。

 川の流れに逆らいながら登ってくるなど自然現象としてはありえないことのため、皆が皆動揺しているのである。

 直ぐ様門番達は門内へと避難して、衝撃に備える。

 しかし、いつまで経っても衝撃は来ない。

 代わりに、なんとも気の抜けた声が聞こえてくるのである。

 

 

「も、もう無理ですぅ……。ぎもぢわるいですぅ……」

「よう頑張ったな。もうゆっくりしときや」

「はい……」

 

 

 ウンディーネは、薫から体力回復魔法と魔力を貰う。

 そのままぽふんとフィリスの胸に倒れこんで顔が埋もれる。

 真っ青になったウンディーネは、何度も深呼吸をしながら体調を整えだす。

 完全に船酔いで気分が最悪になっている。

 フィリスは、愛くるしいウンディーネをギュッと抱きしめてしまう。

 母性本能が働いたのだろう。

 優しく背中をさすっていた。

 

 

「ほしたら、2人はフード被っとき。なんかあったらウンディーネがどうにかしてくれるからな。あと、あんまり動かんでくれよ………。捕まったとか洒落にならへんからな」

 

 

 薫の言葉に、ラケシスとフィリスはこくんと頷き急いでフードを深くかぶる。

 このレイディルガルドではラケシスの顔は知り渡っている。

 元がシャルディランであるから仕方がない。

 多くのシャルディランの者達が今も暮らしている。

 そんな話をしていたら、門番がこっそりとこちらを覗こうとしていた。

 津波が川を遡るという訳の分からない状況に、パニックになっていたからだった。

 そして、薫と目が合い津波がないことを確認してから姿を現す。

 

 

「貴様! 先ほどの津波はお前たちのしわざか!」

「ん? だったらどうだっていうねん。なんも壊しとらんし、誰にも迷惑かけてへんやろ?」

 

 

 なんとも思ってない感じでそれに返す。

 だから、門番も言い返せない。

 門を壊されたのではなく、ただ死ぬほどの恐怖を味わっただけなのだ。

 だが、それでも気がすまないのだろう。

 青筋を立てて、薫に近づいてくる。

 薫の後ろにギュッと白衣を持って隠れるクレハ。

 ピンクラビィは、薫の肩の上で偉そうにピンと耳を立てている。

 ちょっとドヤ顔なので、薫は耳を折りたたんでこねる。

 直ぐにほっこりした表情で、ぐったりとしたピンクラビィは薫の肩にちょこんといつものように乗っている状態になった。

 

 

「そんな態度をとっているとこの街には入れないからな!」

「ああ、かまわへんよ……。そうや、お前は元シャルディランか? それともレイディルガルドか?」

「あん? レイディルガルドに決まってんだろうが! あんな虫けらの民と一緒にするな! もう王も居ないやつらが、今も魔法機関部門を任されている事自体がありえん。まぁ、アルバの処刑でもうあいつらも変な気をおこさないだろうよ。これからは、物のように扱われるだろけどなぁ」

 

 

 そのように言いながら、大きく笑うのだ。

 その言葉にラケシスは今にも殴りかかりそうになるが、腕を掴みフィリスが止めている。

 悔しそうな表情で、自身の父親の死を残酷な形で知る。

 一歩遅かった。

 助けれたかもしれないのにと思うと、悔しくて仕方がない。

 そして、目の前で愚弄されるアルバのことに対して我慢ならなかった。

 門番の後ろからもう数人出てくる。

 薫は同じようにレイディルガルドかシャルディランかの問を聞く。

 目は全く笑っていない。

 薫の後ろ姿だからラケシス達は気がついていない。

 今までとしゃべるトーンが一段低くなり、薄っすらと纏うオーラが揺れていることに。

 クレハはそれに気が付き、ゆっくりと薫の白衣を離す。

 門番は槍を片手に薫に向けて突き出す。

 

 

「レイディルガルドとかシャルディランとか関係ないだろ! お前はこの門から一歩たりとも中に入ることは許さん! 俺に舐めたことしやがって、後悔させてやる」

 

 

 そう言って、ニタリと笑う。

 後ろの奴らは、またかよと言った感じでヘラヘラ笑っていた。

 何度もこのようなことがあったのだろう。

 毎度のことといった感じだった。

 門番から許可を貰わないと中には入れない。

 このレイディルガルドではそのようになっている。

 これは、現皇帝が決めたことだった。

 犯罪を犯した者や、この国に危害を加える者を絶対に入れてはならないとしていた。

 門番も精鋭を使っている。

 Bランクの者をリーダーとしてCランクの者が3、4人付けられている。

 Cランクの者も、Bランクに上がれるか上がれないかの者たちを揃えてある。

 この門をくぐりに来る者で、Aランクの者などなかなか来ないというのもある。

  だから、このように強気なのだ。

 自分より弱い者を上から見下したりする。


 

「どうした? 土下座でもして中へ入れてくださいとでも言ったら通してやってもいいぞ?」

「ああ、その心配はないわ。勝手に入らしてもらうからな。やから……その汚い面をさっさとどけろや」

「んだとコラ~!!!!」

 

 

 そう言って、薫に向かって槍を俊足で突き上げる。

 隙の全くない動作で薫の心臓目掛けて一直線だった。

 完全にとらえたと思いほくそ笑むが、全く手応えがなかった。

 次の瞬間、顔面に強烈な衝撃が走って暗転した。

 気が付くと、地面が上下反転し体が木にめり込んでいた。

 門番は腕や足をを動かそうとするが、感覚的に完全に折れている。

 身動き1つ取れなくなり、次に激痛が走る。

 遅れて痛覚が回復した。

 その痛みで一瞬にして白目をむき意識を失う。

 

 

「ああ、お前らもやるんやったら相手になるけどどないするんや?」

 

 

 笑顔だが、悪魔にしか見えない。

 呆然と立ち尽くす門番達。

 薫の言ってることが全く頭に入らない。

 先ほどの門番の攻撃は、完全に見切れないレベルの突きだったからである。

 薫を倒すビジョンしか浮かばなかった者達は、目を大きく見開きありえないものを見るかのような表情になる。

 門番の突きをぎりぎりのラインで避けたあとに、体を回転させて回し蹴りを顔面にカウンターでぶち込んでいたのだ。

 門番は回転がかかり、物凄いスビードで湖に着水したが、勢いが強く水面を水切りのように何度も飛び跳ねながら20m先の大木にぶち当たった。

 今までほとんどこのようなことなどなかった。

 門番の強さを知っているため、強い者には普通に対応するが、弱い者などにはでかい顔をしていたのだ。

 その代償が今来た。

 薫にそのようなことをしてただで済むはずはない。

 それでなくても現在怒りがマックスの状態で目が笑っていないのに、このようなどうでもいいことで手間を取らせるのがいけない。

 アリシアが居たら、確実にクレハと同じようにソッと一歩薫から離れるだろう。

 確実に何かしらの行動をとるため、引っ付くようにしていたら危ないと思うからだ。

 ピンクラビィは回し蹴りのカウンターの時に、振り落とされそうになりながら必死に白衣に引っ付き、「きゅ〜!?」と鳴きながらパタパタとお尻を浮かせていた。

 

 

「い、いや、と、通っていいぞ……」

 

 

 冷や汗を掻きながら、頑張って笑顔を作りそう言う門番達だがもう遅い。

 そう言った者は、次の瞬間地面に頭から突っ込んでピクピクと痙攣している。

 高そうな兜は薫の手によって変形していた。

 残った門番達は声にならない悲鳴を上げ逃げ出した。

 

 

「誰が逃げてええ言うたんや? お前ら全員叩きのめさな気が晴れへんのんやけどなぁ」

 

 

 そう言って、走って逃げようとする残りの2人に凍えるような威圧をぶつける。

 一瞬で身動きがきかなくなり、歯をガチガチと震わす。

 ゆっくりと薫はその2人に近づいていく。

 そして、門の天井へと首根っこを掴み突き刺す。

 天井で頭だけが埋もれて、ぷらーんと吊るされる形になった。

 

 

「とりあえず、これで少しすっきりしたわぁ。ラケシスもこれでええやろ?」

「「……」」

 

 

 そう言いながら、両手をパンパンと払う。

 一瞬のことにラケシスとフィリスはあんぐりとする。

 瞬殺とはこのことかといった表情なのだ。

 Bランクの猛者が、軽々とまるでおもちゃを壊すように簡単に無力化される。

 

 

「あ、あれは生きてるのですか?」

「ああ、条件反射やろうなぁ。一応それなりの奴らやったんやろ。死ぬって思ったから、攻撃を受ける前にちゃんと全ての魔力を魔力強化に当てて守っとったで。まぁ、その倍の威力をぶち込んだから回復に時間かかるやろうけどな」

 

 

 ラケシスは、その言葉にもう考えるのをやめようと思うのであった。

 フィリスもウンディーネを抱えて、薫の強さに段々恐怖を覚えてくる。

 隠れ家の時に強さを見ていたが、それどころではない。

 完全に人間の領域を逸脱しかけている。

 Sランクと言われてももう驚かないだろうと思う。

 

 

「そういえば、この街にもオルビス商会はあるんか?」

「は、はい、この街にもあります。支店ですけど」

「そうか……。じゃあそこには迷惑かけんようにせななぁ」

「え? どういうことですか? お知り合いですか?」

「ん? ああ、俺の嫁さんの父親の店やからな」

「「え゛!?」」

 

 

 もう驚かないと思っていたが、まさかオルビス商会の娘の夫だったことに大いに驚く。

 大陸一の最大商業コミュニティ。

 最新の迷宮熱の治療薬などをいち早く大陸全土に流通させたり、独自の商人ネットワークを持つ。

 オルビス商会の傘下に入った商会は末代まで安心と言われる。

 下手な貴族や王族などよりも莫大な資産を持つ。

 薫は後にわかったことだが、1000万の治療費はそこまで痛い出費ではなかったらしい。

 さすがに億単位の治療費だったら、きついと言ったかもしれないとカインから言われた。

 だが、カインの表情は全く変わることがなかったことから、それでも痛手ではなかったのだろう。

 恐ろしい財産を保有していることが伺える。

 

 

「カオルさんはとんでもない方だったんですね……」

「いや、俺何もしてへんし。カインさんとサラさんの力でここまで大きくなったらしいからなぁ」

「ぎゃ、逆玉の輿ですよね! う、羨ましいですよ!」

 

 

 額に手を当てるラケシスに対して、フィリスは興奮気味に言うのである。

 薫はとりあえず、このレイディルガルドのオルビス商会へと向かう。

 そこでラケシスとフィリスを保護してもらえるかを聞くかなと思うのであった。

 悲惨な姿になった門番を放置して、門をくぐっていく。

 ラケシスは、薫に対して遅くなったが「ありがとう」と言うのである。

 先ほどアルバを愚弄した者を完膚なきまでに叩きのめしたことへの感謝の言葉を言う。

 薫は、「気にせんでええよ」と言って軽く手を上げるだけなのであった。

 歩き始めると、クレハはちょこんと薫の白衣を握る。

 とことことちゃんと付いてきているのである。

 ピンクラビィは振り落とされそうになったことから、胸ポケットに体を滑り込ませて頭と耳を出してジッとしていた。

 そこまで邪魔にならないから良いかと思う薫なのであった。



 レイディルガルドのオルビス商会の中。

 応接間へと案内されていた。

 皆ソファーに座って、目の前の男は薫の冒険者カードを見て、丁寧なお辞儀をする。

 白髪交じりの男。

 真っ黒のスーツに青のネクタイをし髭を生やす。

 頭に大きな角を生やしており、魔族の者なのかなと思う。

 目は切れ長で、瞑っているかのような感じであった。



「レイディルガルド支店、オルビス商会を預からせて頂いておりますトゥーリィと申します。噂はよく聞いております。カオル様ですね」

「ああ、今回ちょっと迷惑かけるかもしれへん。まず、それを伝えに来たんや」



 それを言うと、眉をピクンとあげて細めていた目が薄っすらと開かれる。

 翡翠色に輝くその瞳には魔法陣が刻まれ、何かを見通すようなそんな感じがした。

 ディアナのような感じとは違い、もっと鋭いといった方がいいだろう。

 顎に手を当て、髭をさすりながら言う。



「フードを被っていらっしゃる2人はシャルディランの方ですね。それもラケシスさんと思われますが違いますかね? それにその黒髪少女はミズチの民ですか……」



 その言葉に、ラケシスとフィリスはビクッと背中に冷たい者を感じる。

 フードを被り、顔を隠しているにも関わらず見事に正体を言い当てられたからである。

 そして、ずっと一緒にいたクレハがミズチだという事に驚愕するのである。



「ああ、すいませんね。私はちょっと心配性でしてね。隠し事を嫌います。一族のさがというやつですよ。ですので、身構えないでください。まぁ、この性格が買われてオルビス商会の傘下に入れて頂きましたから」



 そう言って、笑顔を作る。

 薫はなんとも思わずに「気にしてへんよ」と言い、話を続ける。

 ラケシスとフィリスは薫に説明を要求したくなる。

 クレハがミズチという事は、命を狙われかねないからだった。

 しかし、面倒といった感じでラケシスの方を見ずに話を進める。

 なに1つ隠さずにこれから行う事を言うと、トゥーリィは驚きもせずに何度も頷きくすりと笑う。

 まるで、薫の強さがわかっているような感じなのだ。



「隠し事を嫌うって言うとったから、隠さず話したんやけど驚きもせんのんやな。まるで俺の強さを知ってる感じや。その目は相手の能力でも見通す感じか? トゥーリィ・グラハム(・・・・)さん」



 薫がそう言うと、今まで落ち着いた感じだったトゥーリィは目を見開き驚く。

 薫はスキルまで見通す事はできなかったのかと思う。



「いやはや、カオル様はお人が悪い。私と同じスキルをお持ちのようで……」



 その言葉にラケシスとフィリスもどういう事と言った感じで首をかしげる。

 種明かしは簡単だった。

 トゥーリィのスキルは、相手の名前とある程度の強さと所属しているコミュニティなどを見る事ができる。

 商人として、また良いスキルを持っているなと思う。

 オルビス商会を陥れようとする者達の嘘を暴く事ができる。

 嘘をついた者は、すぐにわかるといった感じだった。

 名前を偽ってもこのスキルがあればそれすら看破する。

 コミュニティもバレるため、その者の人生が終わる。

 ラケシスとフィリスは、それを聞いてやっと納得する。

 なぜ自分の素性がばれたのかがわかった。



「まぁ、そっちの探りはそのくらいでええやろか? ここから本題や」

「はい、大丈夫ですよ。概ね想像がつきますが、お二人の安全確保といったところでしょうか?」



 くすりと笑うトゥーリィ。

 薫は、話が早くて助かるといった感じで頷く。



「ああ、終わるまでの間や。護衛でウンディーネを付けとく」

「弱り切ってますけど大丈夫ですか?」



 ぐったりして、フィリスに抱えられるウンディーネにちょっと心配といった感じのトゥーリィ。

 大まかにしか強さを測れないため、ウンディーネの強さを見誤っていた。



「ウンディーネの強さはAランクくらいはあるから大丈夫や。それにこの街には水源が腐るほどありそうやからな」

「ほほう、これはまた規格外な強さをお持ちで……」



 そう言って、少し考えてから2度頷き了承する。

 薫は、そのままソファーから立ち上がり潰しに行くかと思う。

 クレハもそれにつられて立つ。

 ラケシスは、クレハについて聞きたいといった顔をしていたが、薫はそれ以上首を突っ込むなといった感じのオーラを出す。



「ぁ……」



 薫のそのオーラに言葉は出なかった。

 自分達は薫に頼んでここまで来させてもらった。

 最初からいたクレハに違和感を感じてはいたが、今まで触れることはしなかった。

 触れてはいけない気がしたからである。

 しかし、今は気になって仕方がない。

 フィリスを襲ったミズチ一族の女の子が、なぜ今ここに居るのか、接点はなんなのかラケシスは頭を悩ませる。

 弱々しい黒髪の少女。

 着物を着崩してきていて、力を入れればすぐに壊れてしまいそうな儚げな感じがする。

 とてもあの帝国の特殊部隊とは思えない。

 ラケシス自身でも倒せてしまいそうと思えるのだ。

 そんなことを考えていたら、一人の従業員が入ってきた。

 トゥーリィに耳打ちするとくすりと笑う。



「どうやら、何か騒ぎがあったようで……。門番が全員魔力を使い果たして倒れているとか……」

「ああ、あれから時間も経ったから気づかれたやろうな」

「では、そろそろ行かれますか?」

「そうやな。変な奴らが出てきてもあかんからな」


 そう言って、薫とクレハはそのままトゥーリィに軽く挨拶をしてオルビス商会を出て行く。

 ウンディーネは、少し体調が回復したのかお手手をあげてフリフリしながら見送る。



 外に出るなりなにやら大騒ぎになっていた。



「聞いたかよ! 門番がボッコボコにされたらしいぞ」

「聞いた聞いた。Bランクを主体とした一応精鋭よね」

「アルバの処刑の後だからやっぱりシャルディランの奴らの仕業かしら……怖いわ」

「宮廷治療師が派遣されたみたい。これをやった者は、この街に潜り込んでるってことだよね……。どうなっちゃうのかしら……」

「私……どうなるの。元シャルディランっていうだけで……また迫害を受けるの……やだよ……」

「巻き込まれる可能性がある! 一旦どこかに身を潜めよう。レイディルガルドの民が俺たちを襲うかもしれない。早く!」



 そう言って、逃げる人と門番が気になって野次馬根性で門へと向かう者がいる。

 帝国兵も大急ぎで走り回っている始末であった。



「これは……面倒いなぁ」

「……カオルさんの……行動が招いた」



 そう言いながら薫は頭を掻く。

 シャルディランの民の暴動と処理されると、レイディルガルドの街に住むシャルディランの民は、今まで以上に酷い仕打ちを受けるだろう。

 それは薫としてはあってはならないと思う。



「あ〜、レイディルガルドの民とシャルディランの民の区別付かんからなぁ。どうにかならへんかなぁ」



 そう言うと、クレハはちょんちょんと白衣を引っ張る。

 ジッとこちらを見つめながら言う。



「首に……首輪をつけられてるのがシャルディラン……」

「そういう情報は早めに欲しかったんやけど……。一々聞いてからブン殴ろう思うとったわ」



 薫の言葉にしゅんとする。

 クレハは小さな声で「聞かなかったから……」と言うのである。

 薫は苦笑いになりながら、クレハの頭をポンポンと撫でてから凍りつくような威圧を発動する。

 1人ずつ帝国兵にそれを掛ける。

 帝国兵にはシャルディランの民はいなかった。

 これ幸いと思いながら、ボディブローと蹴りで沈めていく。

 くの字になって倒れる者や、地面をえぐりながら転がる者などがそこら中に広がっていく。

 帝国兵がシャルディランの民に剣を向けていたからである。



「たく……帝国兵はクズしかおらへんのかいな……。腐りきっとるなぁ帝国はほんまに……」



 そう言いながら、イラつき殴り飛ばす。

 薫のその行動に青ざめるレイディルガルドの民。

 帝国兵に手を出すことは、殺されても仕方がないとされる。

 むしろ、今までそのようなことをして只で済んだ者はいない。

 薫は、んなもん知るか! といった感じでどんどん帝国兵を簡単に地面に沈める。

 住民には威圧を掛けていないため、いきなり帝国兵が動かなくなって薫が一撃必殺で倒していくように見えるのだ。

 ある程度帝国兵を地面に転がしたら、今回の主犯であることが証明されて帝国兵達は薫に向かって突進してくる。

 薫は鼻で笑うと、帝国兵達は目が血走って行きコケにされたと思って突っ込んでくる。

 薫は、クレハの手を引いてその場から走り出す。

 ものすごい勢いで追いかけてくる帝国兵を嘲笑いながら、追いつけそうで追いつけない絶妙なスピードでレイディルガルドの城へと向かうのである。

 途中、シャルディランの民が襲われそうなところを横蹴りでなぎ倒しながら、薫は不敵に笑うのである。

 そして、たった一言「うわぁ、雑魚やなぁ」で皆ブチ切れるのである。

 完全に手玉に取られていることに気が付かない帝国兵たちに、薫は単純すぎるやろと思う。

 城の門前に到着した時には、帝国兵の数は大変なことになっていた。



「人がゴミのようやなぁ……。現代でもこんなにいっぺんに人間が集まることなんて、正月とか何かのイベントくらいやろうなぁ」



 そう言って、城の門前の階段で座り込む。

 クレハは途中疲れたのか、薫の背中に乗ってきたのでそのままおんぶする形で移動していた。

 現在は、薫の背にピッタリと引っ付き肩に顎を乗せて帝国兵を見つめる。

 帝国兵達は、息を切らせながら追い詰めたぞと言わんばかりにこちらを睨みつけている。

 普通の者ならそれだけで腰が引けるだろう。

 威圧に当てられ、気を保つことすら難しい。

 だが、薫にそのような物など通用しない。

 何事もないかのように汗一つ掻かずに、涼しい顔をしているのだ。



「そんじゃ、こいつらから無力化するかなぁ。クレハさん、威圧とボウリングどっちがええか?」



 薫がそう聞くと、威圧よりも聞いたことのないボウリングを選択する。

 首を傾げながら、聞いたことのない言葉を口ずさむ姿はちょっと可愛かった。



「よーし、ほしたら一撃で何人倒れるやろかなぁ」



 そう言って、悪魔のような笑みを浮かべて立ち上がる。

 クレハは、そっと横に来て体育座りで帝国兵の最後を見届ける。

 そして、全ての帝国兵に向けて凍え死ぬのではないかと言うくらいの威圧をぶち当てる。

 アドレナリンが大量に分泌していた帝国兵は一瞬でそれが消えてしまう。

 1人1人にしか威圧を放たなかったため、薫の力量を見誤っていた。

 纏う魔力も薄っすらとしたものだったから仕方がない。

 先程まで追っていた者の纏う魔力量ではない。

 狩りをする側から一瞬で狩られる側へと変わったのだ。

 一歩も動けずに、歯をガチガチと震わせ青ざめていく。

 脂汗が額から滲み出て、今直ぐにでもこの場から逃げ出したいと思うのだ。

 薫は、そのまま足に魔力を集中させて水平になぎ払うように蹴りを放つ。

 ピンポイント強化で、大気が圧縮されズドンと音が街中に響く。

 一瞬音速を超えたのだろう。

 薫はそんな手応えを感じた。

 空気が波打大量に集まった帝国兵は宙に舞う。

 ちゃんと魔力強化をしたのだろうが、完全に身動きが取れない状態までのダメージを与えている。

 それはどんどん奥へと全く衰えることなく突き進み、集まった全帝国兵は地面にあっけなく突っ伏した。



「ストライク! これ何点やろうなぁ」



 そう言って、からからと笑う。

 クレハは、一撃で全帝国兵を吹き飛ばすとは思ってなかったのだろう。

 小さく拍手をしながら薫を見るのである。



「さて……。こっからやな。クレハさんは戦力外やし、これから中は強い奴がおるやろうから離れたらアカンで」

「……ん」



 こくんと頷いて、薫の白衣を掴む。

 そのまま薫は重い城の門を蹴り飛ばして、宣戦布告をするのである。

 分厚い門がまるでベニヤ板のようにくるくると宙を舞い、城の中腹へと突き刺さる。

 そして、中に入ると獣人の鎧を着た騎士が仁王立ちで待ち構えていた。



「今朝の騒ぎはお前か?」

「だったらなんや。そっちから先に手出してきたんやで? それに、ちゃんと教育した方がええんやないか? お前んとこの兵士は市民を簡単に手をかけるクズしかおらへんぞ」

「……」



 薫の言葉に獣人は、言い返すことができないでいた。

 本当のことを言われたのだから仕方がない。

 少し済まなそうな表情になるのを見ると、薫は意外とこの獣人は話のわかるやつなのだろうかと思う。



「それに関しては、何も言い返せん。だが、この帝国を攻めてくるのならお前は敵でしかない。ここで死んでもらう。覚悟はできているのか?」

「死んでもらうねぇ……。まだまだやらないけへんことが沢山あるんでなぁ。こんなところで死ぬ気はあらへん。それになぁ、俺の仲間に手出したことを後悔させたるからな……。逆にお前ら覚悟はできとるんやろうなぁ」



 薫の酷く冷たい目線と威圧が獣人と城全体を支配していく。

 完全なる強者の絶対的な力に抗う者達は、皆表情を顰め逃げたいという気持ちを抑えこみ、魔王と対峙する勇者にでもなったかのような錯覚を覚えるのであった。


読んで下さった方、ブックマークしてくださった方、感想を書いて下さった方、Twitterの方でもからんでくれた方、本当に有難うございます。

ptが増えていってて嬉しいですね。

感無量です! 読者の皆様有難うございます。

それと、書籍版のイラストレーター様が決まりました。

誰とはまだ公表できませんが、とても素晴らしく可愛いアリシアを書いていただけそうです。

ラフが今から楽しみですよ(´∀`*)テヘ


そして遅れました申し訳ない!

昨日投稿したかったのですが、完全に時間配分間違えてしまい脳がパンクしました。

一日中書き続けると人間全てを投げたくなるんですね……。

次回は本当に早めに投稿したいなぁ(遠い目


はい、カウントダウン3です!

おい!! あんま進んでねーぞ! って言うコメントは無しでオナシャス。

次回はSランクの者との対戦です。

薫の強さが鬼です!

果たして、帝国はどうなるのか!? か、カウントダウン? いやいや、まだわからないですよ? 不発弾かも知れません^q^

はい、次回も頑張って書いていきますのでよろしくお願いします。

ではでは!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ