頑張るアリシアとラケシスとの再会
嵐のように過ぎ去った最初のの患者さん。
机の上には、10000リラが置かれてある。
アリシアは、治療院内でぽつんと立ち尽くしてしまっていた。
スノーラビィも、きょとんとした表情を浮かべ、どうして良いかわからずオロオロとしていた。
そんな時だった。
バタンと勢いよくアニスが治療院に入ってくる。
「ア、アリシア様、先ほど大きな音がしましたけど大丈夫でしたか?」
「は、はい、大丈夫です。でも……ちゃんと診察が出来ませんでした」
少し、しょぼんとした表情でアニスに言う。
どうしようといった感じで、物凄く不安そうな表情をし今にも泣いてしまいそうなのである。
しかし、アニスは笑顔を作りアリシアに向かって微笑む。
「アリシア様、最初から上手くいくなどなかなかありません。失敗など普通です。私なんて初めて商人になった時に大失敗をしましたよ」
そう言って、大きく笑いながら話すのである。
驚異の記憶力を過信して、客の発注した物を届けたが、そんな物頼んでないと言われ多額の負債と在庫を背負うことになった。
安易な考えで、契約書に商品の個数を書いてなかったりと自業自得な部分もあった。
だが、それでも失敗を恐れずに前へ進んだ結果、上手く歯車が噛み合い軌道にのることが出来たという。
のちに分かったことだが、発注した客は敵対していた商人の刺客だった。
自分より良い立地に、ポンと出てきた商人が商売を始めたのが気に食わなかったということだった。
その後は、その商人の店は噂が流れて商売が出来なくなり、店をたたんだ。
ようは、失敗を恐れずに頑張れと言いたいのだろう。
アリシアは、不安だった表情を引き締めアニスを見る。
「ア、アニスさん、先ほどの患者さんは誰かわかりますか?」
「ふふふ、はい、わかりますよ。あの方は、パナン夫人です。娘さんがやっと出来たため、かなり過保護に育てられているとかで有名な方です。ちょっと娘さんに関わることに対しては、異常な行動を取ってしまってると言われてますが、普段はとても優しい夫人なんですよ」
「そうだったのですか……。では、その方の家に行ってきま……」
「す、すいません! ここで冬吸風邪の薬を売ってくださると聞いてきたのですが……。出来ますか?」
そう言って、20代の女性が入って来た。
新たな患者にアリシアは表情を笑顔に変える。
ひと段落したら、パナン夫人の下へ行こうと思う。
先ずは、目の前の患者さんと思いアリシアは患者を席に誘導する。
アニスは、必死に頑張るアリシアを見て、「1人お手伝いする人を付けますね」と言って、治療院を後にするのであった。
これは、護衛も兼ねているのだろうなとアリシアは思い、アニスに感謝するのであった。
「では、病気が冬吸風邪かどうかを調べますね」
「え? 冬吸風邪だと思うのですが……」
「勝手な思い込みで、他の病気でしたら大変なことになります。薬も効かなかったりしますので、調べさせて下さい」
「わかりました」
患者の了承を得ると、検査キットを取り出す。
現代医学で言うインフルエンザかどうかを調べるために使う迅速診断法である。
薫は、それの冬吸風邪版を作っていた。
患者に口を開けてもらい、アニスに頼んでおいた綿棒のような物をを取り出す。
「今から喉の拭い液(検体)を取りますね」
「は、はい。そ、それは必要なことなんですか?」
「はい、これで冬吸風邪かがわかりますから」
初めてこのような検査をするため、不安でたまらないといった感じがアリシアにも伝わってくる。
アリシアは笑顔で、「大丈夫ですよ」と言いながら、口を開けている患者の喉に綿棒の先でちょんちょんと動かして検体を取る。
「はい、これで終わりです」
「あ、え? 終わりですか?」
「はい」
そう言って、検査キットの中の小瓶を取り出す。
青い液体の入った小瓶の蓋を開け、中に先ほどの綿棒を入れて混ぜる。
「このまま少し置きます。赤色に変わると冬吸風邪です。色が変わらなければ、別の病気になります」
「まだ青のままですね」
「ちょっと時間が掛かります。えっと、現在1人でお住まいですか?」
「いえ、夫が居ます」
「でしたら、旦那さんもこの検査をしてもらった方が良いかもしれません。もしかしたら、感染しているかもしれませんから」
「夫もですか……」
そう言って、話をしていると綿棒を突っ込んだままの小瓶の液体の色が赤く変わっていた。
アリシアはそれを確認してから話す。
「冬吸風邪で間違いなさそうです。あなたのお薬と、旦那さんの検査キットを出しておきます。やり方は先ほどと一緒です。あと、間違っても薬を2人で服用などはしないでください。女性と男性では分量が違いますから、効き目が出ないことがあります。ですので、旦那さんの結果が、赤色の場合はこちらにもう一度来て下さい。お薬を処方しますので」
「わかりました」
「薬は、朝と晩に服用して下さい。それを5日分です。3日くらいでほとんど気にならないくらい回復しますが、それでも薬はしっかりと最後まで飲んでくださいね。薬を途中で飲むのを止めると、また再発してしまいますから」
「そんなに早く治るんですか?」
「冬吸風邪は、小さな生物が体の中で悪さをしているんです。その悪さをしている小さな生物にだけ殺す効果がある薬ですから」
「そうなんですか……。知りませんでした」
アリシアは、わかりやすいように患者に説明をする。
細菌やウィルスなどまだワトラの研究が公開されていないため、一般人はそのような知識はない。
むしろ、今回ワトラの研究は世紀の大発見レベルのことをしている。
今までの常識を根底から覆すそんなレベルだ。
そして、病気を治す薬作りの第一歩と言える。
ワトラもそのことについては、重々承知だった。
だから、薫に本当にいいのかと何度も問い詰めたが、軽い返事で「面倒いからよろしくな」の一言で、ワトラの研究のたりない要素をこれでもかと詰め込んだ論文を手渡されている。
アリシアもそれには目を通して記憶させているが、薫の偉大さを再確認できる代物なのである。
「では、料金は3000リラです」
「え? 安い!?」
「え? や、安いでしょうか? 薫様からこの値段でと言われてるのですが……」
「い、いえ、私達は嬉しいのですが……。大丈夫ですか?」
心配そうに見つめてくる患者にアリシアは笑顔を向ける。
誰でも等しく手頃な料金で治療できるようにと言うのが、薫から言われていることだった。
だが、手術などはこれには当てはまらない。
現在、薫にしか治すことが出来ない病気があり過ぎるため、薬で治せるものは安価に治せない特殊なものは高価にとしている。
薫にしか治せない病気の代価が新たな研究施設やSランク武器などと、金額にするととんでもない料金でやっている。
そこら辺は、薫のさじ加減でいくらでも変わる。
法外といえば法外だが、その者に対して出来ないという範囲から逸脱した請求はしていないのである。
「はい、3000リラです」
「丁度ですね」
アリシアは、患者からお金をもらう。
すると、スノーラビィもお手伝いとばかりに、薬の入った袋を頑張って引きずりながらアリシアの下まで持ってくるのである。
ちょっと微笑ましい光景に患者も笑顔になる。
アリシアは、スノーラビィから薬の入った袋を受け取り、それと一緒に検査キットも中に入れる。
「旦那さんの検査キットも入れてあります。それと、外から帰ったら、手洗い、うがいをしっかりして下さい。予防にも繋がりますから」
「はい、有難うございます」
「では、お大事に〜」
「きゅ〜」
そう言って、患者を見送るのであった。
2人目にして上手くいって、スノーラビィと小さくハイタッチをする。
少し自信が付き、アリシアはこの後も頑張って診療を続ける。
気難しい患者も居たが、アニスがこちらに回してくれた従業員のおかげで事なきを得た。
その従業員は、冬吸風邪に罹っていた者であった。
薫の薬で回復して、現在は元気ハツラツといった感じなのである。
会った当初は何度もお礼を言われたが、薬を作ったのは薫であってアリシアではないためちょっとどう対応してよいかわからなかった。
しかし、薫を神のように崇めているので悪い気はしない。
でも、薫本人がここにいたら絶対に否定するだろうなと思う。
アリシアは、ちょっと苦笑いになりながらも診療を続ける。
ようやく患者の列が途切れた。
いろいろな治療院が薬を販売しているみたいだが、これほど多くの患者が来るとは思っても見なかった。
ずっとなぜだろうと思っていたら、手伝ってくれた従業員が答えを教えてくれた。
「私ともう一人で昨日宣伝しておきました」
「そ、そうだったのですか!? あ、有難うございます」
アリシアは、この言葉でなぜ多くの患者がこのアリシア治療院に来たのかを理解した。
この2人が冬吸風邪に罹ったことをオルビス商会は公表していたからでもある。
最大級の商店として、そのような病人を働かせてませんということをアピールするためと、病気はその2人でシャットアウトしているということを言っている。
現在働いているのは、皆病気には罹っていないということを表して、安心してオルビス商会での買い物が出来るとしている。
そして、その2人が休んで6日目にして元気に働いているということは、完全に治ったことを意味している。
冬吸風邪はだいたい発症してから2週間は病で動けなくなる。
その2週間で死ぬ者多くいるのが現状だった。
致死率が高い病としてかなり有名な病なのである。
アリシアは、今日診察した患者さんのカルテに筆を走らせる。
「ふぅ……。終わりましたぁ」
終わったのは夕方であった。
アリシアは、ホッと一息吐くと椅子に持たれてラックスティーを一口飲む。
「薫様は凄いですよ……。まったくお疲れモードにならずに、皆をしっかり診察してました……。私はお疲れモードで途中から危なかったです」
そう行って、ちょっとうとうとしてしまうのである。
スノーラビィは、少し早めにアリシアの頭の上でぐったりとしていた。
体力とお腹がすいたと言わんばかりに、耳をへにょらせているのである。
「アリシア様、お疲れ様です! 今日の営業はおしまいですよ」
「えっと、もう患者さんは居ませんか?」
「はい、もう大丈夫です」
そう言って、アニスは笑顔を浮かべる。
しかし、アリシアは薫ならここから来れないであろう病人のところへ行くのだろうなと思う。
どこからあの行動力と体力が出てくるのだろうと思う。
そういえば、かなり前に皆は無理だけど、自分の出来る範囲では頑張りたいと言っていたなと思い出す。
アリシアは、もうひと踏ん張りと言わんばかりに立ち上がる。
そして、パナン夫人の下へ行かないとと思うのであった。
「アニスさん、パナン夫人のお家はどこにありますか?」
アリシアは、今日最後の仕事と思いながら聞くのである。
すると、アニスは紙に地図を書いてアリシアに渡す。
それを見て、アリシアは笑顔でアニスに頭を下げる。
下げられたアニスは、「とんでもない! 頭を上げてください」とちょっと慌てた感じでアリシアに言う。
それでも、感謝の気持ちを込めてもう一度下げると、アニスは恥ずかしそうに頑張ってくださいというのであった。
アリシアは、アイテムボックスに検査キットと薬を数点押しこむ。
そして、その他にいる物がないかを見渡すのである。
特に今のところはないかなと思ってアリシア治療院を出る。
そして、従業員の皆にあいさつをしてとことことパナン夫人の家へと向かう。
貴族区域の中間に位置するパナン夫人の豪邸。
アリシアとスノーラビィは、その大きさに圧倒されながら玄関へと向かう。
スノーラビィは、上をクイッと向いた瞬間一瞬ころんとアリシアから落ちそうになる。
三階建てのレンガ造りで警備は万全といった感じなのである。
門番もしっかりと配置してある。
領主の警備と比べたらそこまでとは言えないが、普通の貴族の屋敷に比べたら多い方だった。
アリシアは、意を決して門番にパナン夫人に取り次いでもらう。
今日あった出来事を離して、もう一度ちゃんと調べさせてほしいということを言う。
門番は、ちょっと申し訳無さそうな表情をして「一応取り次いでは見ますのでお待ち下さい。多分ですが、難しいかもしれませんが」そう言って、豪邸の中へと姿を消す。
アリシアは、何度も深呼吸をして門番が帰ってくるのを待つのであった。
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古城の中の謁見の間。
ピンッとピンクラビィの耳を立て、外の世界の情報をピンクラビィ達から受信しているのである。
「プリシラ様、お暇なの?」
「あら? ドリアード、私が暇をしているように見える?」
「うん」
ポーッとした表情で頷くドリアード。
140cmの小柄な女の子である。
胸は大きく、例えるならグレープフルーツが2つといったところだが、プリシラよりかは少し小さい。
金髪のロングヘアで、頭の上に花と葉っぱを編み込んだサークレットのようなものが付いている。
腰に長剣をさし、ドレスアーマーを着込んでいた。
「わ、私は今大切な情報収集をしているのです。ひ、暇ではないですよ」
「……」
「む、無言でジッと見つめるのは禁止です!」
「あ、ちょっと寝てたの」
「あなたって子は……。見回りはどうでしたか?」
「いっぱい冒険者がいたの」
「あら、頑張ってらっしゃるのですね」
「でも、レイアドラゴンも出てきたからちょっと難航中なの」
「まぁ、でも大丈夫でしょう。こちらに被害がなければ出る必要はないですから」
プリシラはそう言って、耳をぴょこぴょこさせる。
今のところ全く問題ないため、のほほんとしているのである。
水の精霊がふわふわと小さなカップを持ちプリシラの下へと飛んでいき、魔法で生成されたお水をカップについでいく。
それをプリシラは手で持ち、水の精霊にお礼を言ってから口をつける。
「うん、やっぱり美味しいわね」
「もう1個報告があるの」
「続けて……」
「フーリちゃんとサラマンダーちゃんが、訓練してくるってこの妖精の国をとことこ出てってたの」
「……え?」
「泉に向かって、れっつごーしたの」
「な、何考えてるんですかあの2人は!」
「一応止めたの……。でも、サラマンダーちゃんが大丈夫って言ってたの」
「カオルさんになんて報告したらいいのですか! フーリさんは、ミズチ一族なのよ!」
「聞かなかったの。仕方ないの」
「うぅ……。せっかく治った頭痛がまた再発しかねません……」
「大丈夫なの?」
「は、早く連れて帰ってきてください。何かあってからでは遅いのです」
「りょうかいなのぉー!」
そう言って、とことこ歩くドリアード。
歩くたびに胸が揺れて動きにくそうなのである。
プリシラは、頭を抱えながらどうしようと思いながらその場でウロウロするのであった。
妖精の国から少し離れた泉。
ほとんど明かりなども無いが、フーリとサラマンダーはそんなの関係ないといった感じで素早く移動をしながら魔物を倒していく。
フーリは、炎鬼を操り魔物を叩き潰して消滅させる。
肌寒い風が肌を撫でるのに、フーリは額に汗を掻き必死に何かを必死で紛らわすといったような感じになっていた。
サラマンダーは、そんなフーリを心配そうに見つめながらフォローを入れていく。
Cランクのフーリでは、まだまだ倒すのに時間のかかる魔物などはある程度ダメージを負わせているのである。
「フーリお姉ちゃん、なにか悩んでるの?」
「わからない……。何かもやもやするから」
そう言って、どんどん闇の中を進んでいく。
そんな時だった。
空中から真っ赤な目がギラリと光る。
そして、次の瞬間物凄い風圧とともに飛来する。
「レイアドラゴン……」
「フーリお姉ちゃんは下がってて」
「大丈夫、時間がかかるけど倒せるから」
そう言ってちょっと無茶な行動を取ろうとする。
しかし、そんなフーリが一歩踏み出そうとした時、足元の草に足を取られる。
一瞬、何が起こったかわからずに動揺する。
力を入れても全く外れることがなく、まるで何か鋼鉄の足かせでもつけられたのではないかと錯覚する。
そして、追撃とばかりに手足を縛り付けるように植物達がフーリの体を締め付けていく。
身動きの取れないフーリは、なす術もなく拘束され、この奇妙な術を使った者に命を取られると思うのである。
サラマンダーは、フーリが捕まっていることに全く気が付いておらず、レイアドラゴンと対峙している。
もはやここまでかと思った時、背後の草むらがガサゴソと揺れる。
新手の魔物かと思いフーリは後ろを見ると、そこには見知った者がちょこんと立っていた。
「ど、ドリアードちゃん?」
「プリシラ様から帰ってくるように言われたの」
「え、えっと、れ、レイアドラゴンが!」
「大丈夫なの」
そう言って、ドリアードの体が緑色に光り輝く。
両手をそのまま地面へとつけると、そこから一瞬にしてどデカイ魔法陣が展開される。
サラマンダーはギョッとした表情に変わり、大急ぎでその魔法陣から離脱しフーリの下へ戻る。
「固有スキルーー『樹海の監獄』」
そう言った瞬間、空中で優越感に浸っていたレイアドラゴン目掛けて木々が物凄いスピードで伸びていく。
いきなりのありえない木々の動きに、レイアドラゴンは反応できずにそれに足を絡みつかれて捕まる。
そして、そのまま木々に翼まで絡みつかれて飛ぶことが出来なくなり、呆気なく地面へと落下するのである。
必死に木々を引きちぎろうとするが、全く外れずにどんどん絡まっていく。
そのままレイアドラゴンの体中にまとわり付いた木々は、どんどん成長していき大木へと変わる。
その過程で、レイアドラゴンは身動きが取れずに、太くなる木に前後から凄まじい力に圧迫され体中から血しぶきを上げて絶命する。
「はい、終わりなの」
ちょっと眠そうな表情で地面につけていた手を離して、ぽんぽんと手についた土を払う。
「ドリちゃん、私も巻き添いする気だったでしょ!」
「サラちゃんなら燃やせば回避できるの。だから大丈夫なの」
「絶対大丈夫じゃないよ! 加護付きだとたまに燃えないもん。ぺちゃんこにされちゃうよ」
「サラちゃんなら余裕なの」
「その大丈夫が、どこから来たのか気になるよ」
ぷくーっと頬を膨らませて、そう言うサラマンダーだが、今にも眠ってしまいそうな表情で大丈夫なのと繰り返すドリアード。
段々話が噛み合わなくなる。
夜も更けて来ているのだから仕方がないかとサラマンダーは思う。
そう言えば、フーリが静かだなと思い、ふとフーリの方を見るとコロンと草で出来た繭が転がっていた。
ピクリとも動かず、サラマンダーは嫌な予感がしたのか急いで繭を破り中のフーリを救出する。
ぷるぷる震えながら表情が青くなっていた。
新鮮な空気を何度も深い深呼吸で体に酸素を取り込む。
「く、苦しかった……」
カクンとフーリはその場で力尽きる。
それを見て、サラマンダーは物凄い剣幕でドリアードに言う。
「ドリちゃん! 密封したら死んじゃうでしょう! 空気を入れる穴くらい作ってよ」
「忘れてたの。てへ」
「てへ。じゃないよ! フーリお姉ちゃん、あともう少しで息を引き取っちゃうところだったよ!」
「でも、これで無茶はしないから結果オーライなの」
任務完了といった感じでお目々を擦るドリアード。
サラマンダーは、ちょっと抜けてるドリアードに溜め息を吐き、フーリをおんぶして妖精の国へ帰還する。
ドリアードは大きなあくびを一つして、トコトコとサラマンダーがちゃん寄り道しないかを見ながらあとを追う。
ドリアードは、歩くたびに揺れる胸をちょっと気にしながら歩くのであった。
そんなドリアード達を息を殺して見る3人組がいた。
「あれって……上位精霊ですよね」
「見間違えでは無いはず……。レイアドラゴンをあっさり倒すなんて……Bランクの私達には不可能よ」
「金髪ロリ巨乳とか……。最高のパフォーマンスを引き出した僕にとっては女神じゃないですか! ぜひ我々の仲間になってもらいましょう!」
「あなたのその言動は完全に犯罪者ですね」
「でも、激レアな自然を操る固有スキルがあれば、『三又の牙』の名をもっと轟かせることが出来るかもしれない……」
「っ……。たしかに、龍槍の華姫に一歩遅れを取ってる形ですからね。交渉だけでもして見る価値はありそうですね」
そう言って、三人組はトコトコ歩くドリアードと距離を取りつつ後を追うのであった。
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木々が生い茂る中をゆっくりと進む。
すると、ひらけた場所に出る。
そこには、元々何か大きな屋敷があったのではないかと思わせる跡地があった。
目の前は桟橋などが取り付けられた泉があり、手入れなどは全くされていないので自然と同化してしまっている。
「これは……人の手で燃やされたって感じやなぁ」
「はい、レイディスガルドによってこのようになりました……。昔は、ラケシス様達の避暑地として活用されていた場所です」
「なるほどなぁ、ほんで? 隠れ家はこの近くなんか?」
「はい、ここから少し奥に進むと地下に繋がる入り口があります。王家にしか知らされていないのと、魔法大国でしたから発見されないように魔法も掛けてあります」
「見つかることはないっちゅうことやな」
「ですが、いつバレてもおかしくないと思って行動しないといけません。現在、捕まっているアルバ様がもしもこの場所を言ってしまわれたらと思うと……」
「契約と制約を使えば簡単に吐きそうやな」
「……」
薫の言葉にコクンと頷くフィリス。
薫は、皇帝もしくはその側近が頭の働く者ならば、上手いことを言ってアルバに契約書にサインさせ裏で言うことに答えろという物を潜りこませれば簡単に吐くだろうと思う。
まぁ、本当に最悪なのはもうそれを執行されていて、昨日会ったミズチ一族が動いている可能性もある。
念には念を入れての行動をする者なら厄介極まりない。
そんなことを考えていたら、背中に乗っかるウンディーネがうめき声を上げる。
「頭がふあふあです……。うっぷ」
「よう頑張ってくれたな。もう少しやから頑張るんやで」
そう言って、薫の肩に顎を置いた形でおんぶされているウンディーネは、小さな声で「うん」というのである。
大急ぎで川を遡って【シルフル】まで行き、そこからまた西へ続く川があったため、それを利用して猛スピードでここまで来た。
限界ギリギリまで船酔いを我慢したせいで、グロッキーモードへと入って現在は薫におんぶされて落ち着いている。
その横でクレハもちゃんといる。
しっかりと白衣を持っている。
「なぜか、カオルさんはお父さんのように見えます」
「こんな大きな子供二人も居らへんのんやけど……。滅多なこと言わんでくれへんかなぁ」
フィリスは、薫におんぶされるウンディーネとその横でちょこんと白衣を掴むクレハを見てそう思ってしまっていた。
ちょっとおもしろい光景なのだろうと思う。
はたから見ればな……。
してる本人は、もういろんな意味で一杯一杯になりそうな感じなのである。
2人に気を回しながら、周囲の警戒と威圧をかけて何事もなければいいがと思ってはいるが、気の抜けない状態がずっと続く。
溜め息を吐きたくなる気持ちをグッと抑える。
そして、ようやく薫達は隠れ家の場所へと着く。
「ここです。ちょっと待って下さいね」
そう言って、フィリスはアイテムボックスからペンダントを取り出してかざす。
すると、ペンダントが光りながら目の前の岩場がスッと横にスライドする。
地下への入り口が開いた。
「この中です。行きましょう」
そう言ってフィリスは急いで駆け込んでいく。
早くラケシスに会いたいのだろう。
自分は生きていますと報告をするために、薫達より早く階段を駆け下りていく。
薫達もそれに続いて中へと入る。
階段をゆっくり降りていく時に、足元で何か動くものを発見する。
「なんや、ネズミか」
「ちょっと、ここは空気が悪いですカオルさん……。うっぷ」
「地下に行くんやからそら悪くなるやろ」
「気分も底に向かっていきそうです……。うっぷ」
ウンディーネは、そんなことを言いながらギュッと薫にしがみつく。
大きな胸が背中に当たり、形を変える。
無意識なのだろうが、あまり引っ付いてほしくないと思うのである。
薫は、クレハのアレルギーが発症しないようにこの地下に、滅菌、除菌の魔法を使ったあとに無菌室をかける。
これでクレハも大丈夫と思っていたら、地下の部屋からフィリスの叫ぶ声が聞こえてる。
かなり焦っているのがわかった。
「ラケシス様! しっかりしてください!! ラケシス様!」
薫は、どうしたのかと少し足を速める。
階段を降りた先の部屋に入ると、5畳くらいの小さな部屋に必要最低限の物しか置かれていない質素な部屋であった。
ベッドで横たわる人物にフィリスは何度も大きな声で話しかけるが反応が鈍いようだった。
薫は、ウンディーネをおんぶしたままラケシスに近寄る。
薄暗い部屋でもわかる綺麗な人。
翡翠のような淡い色の髪の毛は少しくすみ、白い肌なのか熱を持っているのがすぐに分かるくらい赤く火照っている。
服装は、王族とは言えない服装であったが、多分フィリスと交換したためであろうと思う。
フィリスは薫に詰め寄ってくる。
「カオルさん! いえ、薫様! どうか……。もう一度お助けください……」
薫の白衣を弱々しく掴み、懇願する。
大粒の涙を流しながら、もう頼ることの出来るのは薫だけと言っている。
そんなフィリスを見て、頭をポンポンと叩いてから、弱ったウンディーネをフィリスに預ける。
崩れた白衣をピシっとさせて、薫はラケシスへと近づいて行く。
薫は、そのまま「治療中に騒いだら治療をやめる」とだけ言ってラケシスの前に立つ。
「これは……。冬吸風邪やろうか……」
そっとラケシスの額に手を当てる。
かなり高い体温でびっしょりと汗を掻いている。
息も荒く、脱水症状になる危険性もあると重いその処置をしようとする。
「と、冬吸風邪!? く、薬がまだ開発されて無い病気ではないですか……」
「大丈夫やから。それに、まだそうと決まったわけやあらへんから」
薫が病名を言っただけで、フィリスが取り乱す。
しかしその時、ラケシスの胸元に一瞬赤みのある水泡が見えた。
光源が少ないため、一瞬見間違いかと思ったが薫は再度確認するためラケシスの服を脱がそうとする。
その行為に、フィリスは目を見開き怒りを露わにする。
主人に何をする気だと言わんばかりに、飛び出そうとする体をウンディーネが抑える。
「カオルさんはそのような方ではないです。だから信じてください」
「だ、だけど! ラケシス様の裸を……」
「私もカオルさんの治療の時、何度もこのようなことで怒ったことがあります。それもここ数日間で何回もですよ……。でも、最終的には、ちゃんとした検査のためだったり、治療のためでした。だから、信じでください。でなくては……、カオルさんは治療をやめると思います。そうなると……あなたのご主人様はおそらく助からないです」
「っ……」
ウンディーネの弱り切った声で真剣にしゃべるため、今回だけと言って薫の治療を見守る。
しかし、手がせわしなく動いているのは仕方がないのだろう。
薫は、後ろでのやり取りを背中で感じながら、真剣な目で検査を続ける。
ラケシスの上の服を脱がして、明かりを照らす。
真っ白な肌でほんのりと膨らむ胸に目をやると、右胸の位置に赤い水疱が無数に存在した。
それを確認して、薫は目の色を変える。
「これは冬吸風邪やないわ……。別の病気や!」
読んで下さった方、ブックマークしてくださった方、感想を書いて下さった方、Twitterの方でもからんでくれた方、本当に有難うございます。
はい、今回もちょっと質問です。
SSを入れようかと思うのですがどうでしょう?
時系列に沿って入れるとすると、差し込む形になります。
前回の砂糖マシマシなワトラとカールの話も、元々はSSでしたので……。
あと、意外と反応がよかったので、ちょこちょことSS単品で差し込んでもよいでしょうか?
次回も頑張って書いていきますのでよろしくお願いします。
 




