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寄り道確定!? と懐かしの再会

 コテージの中で静かに眠る一人の女性を見つめる。

 服を洗って現在乾かしている状況のため、分厚い毛布に包まっているだけである。

 ピンクラビィは、そんな眠っている女性の頬をツンツンと突きながら目を覚まさないかなといった感じで見つめるのである。

 薫とウンディーネとクレハは、一旦食事の準備で今はコテージの外で作業をしている。

 まぁ、クレハに至ってはただ薫の後ろを追いかけて行っているだけなのだが。



「きゅ、きゅ」

「……」



 全く反応がないため、諦めたのかその女性の頬の横で丸まりお昼寝をし始める。

 コテージの中は暖かく、心地良い空間になっているため目を瞑れば直ぐに睡魔が襲ってくる。

 ウトウトとしていたら、急に女性が飛び起きる。

 体を震わせながら、辺りを見回すのである。

 ピンクラビィは、起き上がった拍子にできた枕のくぼみにコロリンと転がり落ちていく。



「こ、ここはどこ?」

「きゅ〜」

「え?」

「きゅ?」



 互いに見つめ合う。

 ピンクラビィは、ジッと見つめ続けているとその女性はある事に気がつく。

 ピンクラビィに魔拘束具がついていないのだ。

 表情が見る見る青くなっていく。

 幸運吸収能力を持つため、下手な刺激は絶対に当てられない。

 ゆっくりと刺激しないように後ずさりしながら距離を取ろうとするが、ピンクラビィはトコトコと後ろに下がった分だけ追ってくる。

 悪びれた様子はない。

 ただ単に、薫から「見守っておいてくれ」と言われたからそうしているだけなのである。

 ちゃんと出来たら、撫で撫でがあるのだからついつい頑張っているだけなのである。

 女性は毛布がはだけ、肌が露わになっていることすら忘れている。

 本気で怖がっているのだ。

 耳をぴょこぴょこしながら、そのままトコトコと女性によじ登って肩まで上がると休憩といった感じでぐてぇっとする。

 女性は、涙目のまま動くことすら出来ずに動きがピタリと止まる。

 今にも意識が飛びそうなそんな時だった。



「クッキー出来ましたよぉ〜」



 そう言って、ウンディーネがコテージに入ってくる。

 ピンクラビィは、その言葉を聞いた瞬間ぴょーんと飛んでウンディーネの胸に飛び込む。

 早く早くと言わんばかりに「きゅー」っと鳴くのであった。



「って、あれ、め、目を覚ましたのですか?」

「た、助かりましたぁ〜」



 そう言いながら、ポロポロとその場で涙を流すのである。

 なぜ泣いているのかわからず若干困惑するウンディーネ。

 とりあえず、薫に報告しようと思いながら、女性にそのままここにいるようにと言って一旦コテージを後にする。



 ウンディーネから目を覚ましたことを聞いて、薫はコテージにやって来た。

 お粥をちっちゃな土鍋のような物に入れお盆に乗せてである。



「気が付いてよかったわぁ。お腹減ってへんか?」



 薫はそう言ってお粥を女性に差し出す。

 おどおどした様子で、こちらを見てくる。

 薫は、それもそうかと思いどういう状態でここにいるのかを話すと、ペコペコと頭を下げるのである。

 茶髪のロングヘアは後ろで束ねてあり、謝るたびにふわふわと動く。

 目の色は緑で、翡翠のように綺麗だった。

 出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでいる。

 衣服は、ウンディーネの水の羽衣を精製してもらい現在はそれを着ている。



「助けて頂き有難う御座います。私は、フィリス・マキシマスと言います」

「かまへんよ、俺は薫や。それより何で川から流れてきたんや?」



 ことの発端は、なんなのだろうといった感じで聞く。

 馬車の壊れ方からして、誰かに襲われたのではないかと薫は予測する。



「はい、実は……」



 そう言って、フィリスは話し始める。

 なぜこのように川に流されていたか、それは囮として主人の命を守るためだったと言う。

 主人の名はラケシス・ド・シャルディラ。

 そのラケシスに使えるたった1人のメイドであった。

 元シャルディランの者たちが密かに帝国を内部から潰すために動き回っていた。

 その首謀者は、ラケシスの叔父であるアルバ・ド・シャルディラである。

 国が滅び、教育機関など重要人物は全て帝国に吸収された。

 その者たちが、アルバの声でまたシャルディランを復活させるために動いているのをラケシスは止めるために動いていた。

 ラケシスは帝国に計画がバレているかもしれないと言うことを何度も知らせたが、それは聞き入れられなかった。

 そして、結果的に作戦は失敗に終わった。

 全て帝国側に筒抜けで、裏で動いていた者は作戦開始の合図と共に制圧された。

 アルバは何も出来ずに捕まり、処刑を待つばかりとなっている。

 失敗に終わった理由は、モーリスが先手を打っていたからであった。

 契約と制約の更新の時に、新たな制約を入れていた。

 なぜこれがわかったかというと、1人逃げ帰れた者から伝えられたからだった。

 しかし、それも罠でシャルディラの生き残りのラケシスを殺すためにあえて逃した。

 2度とこのような反乱が起こらぬように、血族を根絶やしにするために打って出ていた。

 ラケシスは、生き残りが伝えたことにより罠であることを看破し、対処を取ろうとしたのだがフィリスがそれを制した。

 一族最後の生き残りになるであろうラケシスが殺されれば、民の心が折れてしまうからだった。

 ラケシスは、苦渋の決断によりフィリスが提案した作戦を決行することにした。

 作戦は、ラケシスの影武者として死を偽装するというものだった。

 魔法で、ラケシスに顔を似せることでそれを可能にする。

 最後まで、自身が出ると言っていたが周りの者に止められ別れた。

 ラケシスは、1人で一旦身を隠す。

 場所は、シルフルより西の森。

 旧シャルディラン時代に王族しか知らない隠れ家がある。

 作戦が上手くいけば、ここに来るようにと言われていた。



「なるほどなぁ。まぁ、そうなることは想定内やろ。俺でもその力あればそうするわ」

「……はい。ラケシス様もそう言われてました」

「アルバって人は、血が上りやすいんか……。考え付くだけのデメリットを捻れば、この事態は回避できたやろうに。むしろ逆手に取ることすらできるのにな」



 薫がそう言うと、ちょっと表情が暗くなる。

 そこまで回らないくらい切羽詰ってたのかと思う。

 いろいろと難しい部分もあるのだろう。

 そんなことを考えていると、きゅーっとお腹が鳴った。

 そう言えば、お粥を持ってきてお預け状態だったのを忘れていた。

 フィリスは、赤面した顔を両手で隠し、穴があったら入りたいと言わんばかりに小さくなる。

 冷めてないだろうかと思い土鍋を触ると保温機能が付いているようだった。

 流石、料理キットシリーズのグレード5つ星。

 至れり尽くせり機能がふんだんに使われている。

 フタを開けるとふわっと出汁の匂いが広がる。

 溶き卵で米粒をコーティングしてあり、食欲を増す。

 梅干しに似た物があったため、薫はいろいろと購入していた。

 それをちょこんと中心に乗っけている。

 フィリスはスプーンですくい上げ、数回息を吹きかけ冷ました後に口に運ぶ。

 頬張った瞬間、なんとも言えない幸せそうな顔をするのである。

 海藻の干物のコクと卵のまろやかさが口いっぱいに優しく広がる。

 ほんの少し塩を加えているので、それがアクセントになっている。

 梅干しを少し崩して食べると、また違った味になる。

 フィリスは、パクパクと夢中で食べるのである。

 そんなフィリスを見ていて、食べたいなといった表情をするウンディーネ。

 薫は、「ちょっと多めに作ってるから食べてもええよ」と言うとパァ〜ッと明るい表情になる。

 もう日が落ちて暗くなっているので、薫はクレハとウンディーネの食事も食べさせるかと思うのである。

 クレハは、全くお腹は減ってないという感じでジッと薫の後ろに座り、相変わらず白衣を掴んだまま離してはくれないようだ。

 とりあえず、助けてしまったのでシルフルの西にある隠れ家まで送り届けるかなと思う。

 一緒に居ても、これから帝国へ殴り込みに行くため足手纏いにしかならないだろう。

 だったら、大人しく隠れ家で主人のラケシスと一緒に居て貰った方がこちらとしても動きやすい。

 そんなことを思いながら薫は一旦外に出て、料理キットで野菜と肉団子をまだお米を入れてない出汁に加え、コトコト煮た後にお米を入れて雑炊にする。

 味は申し分ない。

 ウンディーネも頬に手を当て、たまらない旨さと言わんばかりに唸る。

 クレハは、やはりあまり食欲が無いようだった。

 少しずつでもいいから、栄養を取って欲しいと思うが、無理をすると戻したりなどしてしまいそうなので最低限栄養のある物を使って薫は料理をしていく。

 残った物は、ピンクラビィがジッと待ち構えているのである。

 お昼に、クレハが残したサンドイッチをクッキーを食べたあとにも関わらず、一口食べたら止まらないといった感じで薫の料理にどハマりしてしまっていた。

 これは絶対に、ふっくらお饅頭のように太ってしまうだろうなと思いあまり与えないでおこうかと思うのであった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 宿屋の一階の食堂で、アリシアとスノーラビィは夕食をとっていた。

 周りは賑やかなのだが、アリシアは元気が無い様子で溜め息を吐く。

 心配そうに見つめてくるスノーラビィの首元を擽るように撫でる。



「きゅ、きゅ」



 撫でられる度にコロコロと転げるスノーラビィに、ようやくクスリと笑うアリシア。



「駄目ですね。薫様やフーリちゃんが居ないだけで、これ程心細くなるとは思いませんでした」

「きゅー!」

「そうですね。スノーラビィちゃんが居るだけで凄く心が安らぎます。もしもスノーラビィちゃんも居なかったら、私は不安で押しつぶされてました」



 そう言いながら、クリームパスタに手をつける。

 パスタの横には、サラダの盛り合わせとドライフルーツクッキーが置いてある。

 スノーラビィは、元気を少し取り戻したアリシアを見て安心したのか、ドライフルーツクッキーを1枚お皿から持ち出し、両手で掴んだままカリカリと食べ始める。

 アリシアもフォークとスプーンで綺麗にパスタを絡め取って口に運ぶ。



「美味しいですね」

「きゅ〜♪」



 そう言いながら、スノーラビィと一緒に食事をするのである。

 そんな時だった。



「これはこれは、可愛らしいお嬢さん。お一人でしたら私と食事でもいかがですか?」



 そう言って話しかけてくる人物がいた。

 冒険者か探求者であることは間違いない。

 防具一式はかなり高級そうな物を装備している。

 その男の後ろでニヤニヤした男がもう2人いて、少し嫌な感じがする。



「君、治療師だよね? よかったら僕のパーティに入れてあげてもいいよ」



 アリシアは、この人は何を言ってるんだといった感じで思うが、今まで薫が側に居たことによってこのようなアホの輩共を排除していた。

 今は居ないため、このような者が集まってきてしまった。

 この宿屋は、高級なのでそのような者はいないと思っていたが、お金を払えば誰でも泊まれるのだからこのような人もいるかと思う。

 スノーラビィは、そそくさとアリシアのフード付き白衣のフードに潜り込む。

 薫が出発する際に、ピンクラビィの希少種なので狙われやすいからちゃんとアリシアに引っ付いておけよと言われていたからだった。



「大丈夫です。それに私は忙しい身ですから」

「そんなことを言わずにさぁ」



 そう言いながら、アリシアの肩に手を置く。

 トルキアでこのようなことをしたら、即首が飛ぶのではないかと言われる行動をしてくる。

 アリシアは、身震いがし気持ちが悪いと思ってしまう。



「僕たちは、Bランクの冒険者だ。治療師が居なくて困ってるんだよ。ほら、年間に払うお金も馬鹿にならないだろう? こっちが持ってあげるからさ、いいだ……」



 最後まで言葉を言う前に、アリシアの威圧が3人の冒険者を襲う。

 肩に触れていた手は反射的に離れていた。



「触らないで……」



 場の空気が一瞬にして凍りつく。

 話しかけて来た男の後ろに居た2人は、アリシアの威圧によって泡を吹いて倒れてしまった。

 ガチガチと歯を震わせながら、後退りし始める男。

 そんな時だった。



「あれ? アリシアさん?」

「お! 本当だ。アリシアちゃんじゃん」



 聞き覚えのある声が聞こえる。

 振り返るのそこにいたのは、カールとワトラであった。

 獣耳を生やした2人。

 カールは軽装で俊敏さ重視といった感じで腰に長剣を差している。

 喋ると残念なイケメンさんだ。

 ワトラは栗色の髪の毛で、後ろで結び癖毛が広がらないようにしている。

 今まで背丈に合わない白衣を着ていたが、現在はちゃんと合ったものを着ている。

 可愛らしく頬にチークを塗ってほんのりピンクになっていた。



「ど、どうしてカールさんとワトラさんがここに居るのですか?」

「ワトラの付き添いだよ。帝国に1人で行かせれないだろう? 1人で歩かせたら迷子になりそうじゃん」

「はぁ?」



 カールの言葉にワトラは一気に不機嫌になる。

 しかし、ワトラはブルグとビスタ島しか知らないため、カールの言う通り迷子や人攫いに遭ってもおかしくない。

 治療師は基本一般職以上にお金を持っているイメージが強いためでもある。



「僕の付き添いとか言って、行く街で毎回酔い潰れるまで飲んで迷惑かけてるのは誰だよ!」

「誰だよ……。そんな奴いるなら見てみたいな」



 カールのそっぽ向いて素知らぬ顔で言ったため、ワトラは今にも殴りかかりそうな勢いでいるのをアリシアは必死で抑える。

 お店の中での騒ぎはできれば避けたい。

 薫の弁償金額が凄まじかったのもある。

 あれをもう一度食らうと破産してしまいそうだからだった。

 ワトラを落ち着かせて、アリシアは話をする。



「て、帝国に行かれてたのですね」

「うん。論文だけじゃわからないって言ってきたから、仕方なしだよ。エクリクスのダニエラ様だったら話は早いのに、帝国って自分たちが理解しないと気がすまないのか、こっちの苦労が増えるだけだったよ。エクリクスと共同出資で研究機関を作ることにはなったけど、なんか面倒事が増える一方というか……。さっさと研究したいのに出来無いからかなりのストレスだよ」



 ワトラは溜め息を吐きながらそう言う。

 本当に面倒なのだろうなというのがひしひしと伝わってくる。



「で? この転がってる冒険者どうするんだ?」

「あ!? 忘れてました」

「薫と同じようなこと言い始めてるなアリシアちゃん」

「そ、そうでしょうか?」

「興味ないものにはとことん興味ないもんなあいつ」



 そう言いながら、カールは目を白黒させている冒険者に目をやる。

 脂汗を掻き余裕のない表情になっている。



「1つ忠告しておいてやるか。このお嬢ちゃんに手出したら多分命がないと思ったほうがいいぞ。なんたって、今噂されてる非公式Sランクの治療師の嫁さんだからな」

「なっ!?」



 カールの言葉に、表情が青くなっていく。

 周りの者で知っているものがいたのだろう。

 まさか、このスパニックに来ているとは思わなかったのか、小声で教えている様子がポツポツと見られる。

 カールとワトラは、完全に噂話に尾びれと背びれが大量についた話を聞いていたが、薫なら出来そうと言った感じでその噂を簡単に信じていた。

 むしろ、出来ないほうがおかしいだろと言った感じなのである。

 誠に遺憾である。



「治療師を仲間に入れたいのなら治療師ギルドに行くか、フリーの子を探すのがいいだろ。相手をよく知らないと本気で危ないと思うぞ。まぁ、あのゾンビアタックをやらされた身からすると、あれは規格外ということがよくわかるけどな」



 カールはそう言うと、嫌な思い出がフラッシュバックしたのか遠い目をするのであった。

 地獄を見たと言わんばかりの表情にワトラはちょっと苦笑いになる。

 薫の治療技術と戦闘力を一度近場で見ているだけに、なんとも言えないのであった。

 例えるなら唯一無二の存在と言ってもいいだろう。

 流行病から、まだ珍しい病まで薫は治すことが出来る。

 これは、アリシアが薫から作ってもらった教科書というものに書かれていた。

 あれは、完全なる国宝級の金額がついてもおかしくないレベルのしろものであった。

 アリシア曰く、基礎なのだそうだ。

 それを聞いて、ワトラは愕然した。

 自身のレベルでは到底追いつけることの出来ない知識量と治療術を持っていることがわかる。

 言うなら雲の上の存在。

 病気の治療で最先端を行くエクリクスでさえ、基礎すらできていない底辺と言えてしまう。

 ワトラは、絶対薫に追いついてみせると思うが、自身の生涯を使っても追いつける可能性は低そうだと思うのであった。

 ワトラがそんなことを考えていると、四つん這いになりながら冒険者は必死で逃げていっていた。

 冷たい目線でそれを見送る。

 アリシアは、もう冒険者達のことなど忘れているかのようにカールと話をしていた。



「カールさんとワトラさんは、どこに泊まれてるのですか? もしかして、ここでしょうか?」

「普通の宿屋に決まってるだろ! そんな金はない」



 胸を張って言うカールにワトラは冷たい目線を浴びせる。

 この飲兵衛がと言わんばかりの目線なのである。



「お酒飲むお金はあるみたいだよこの駄犬は」

「当たり前だろ! この街は、キンググレープをワインにしてかなり有名なところなんだぞ。飲まないなんてことは出来るわけ無い!」

「もういいよ。さっさと飲んで帰ろうよ」

「何言ってんだ! 飲み明かすに決まってんだろ!」

「ふざけないでよ! どんだけカールの介抱が大変なのかわかってるの」

「そ、そこら辺で放置しとけばいいだろ」

「肝臓が弱いくせに、僕の薬がないと死んじゃうかもしれないんだぞ!」



 本気で怒るワトラにカールはタジタジと言った感じでちょっと弱腰になる。

 薫からも注意を受けているし、ワトラは薫から薬の調合方法も教わっている。

 一番近くにいるだろうからと言って、薫は笑顔でレシピを開示していた。

 いろいろと見透かされているようで、ちょっとなんとも言えない感じになった。



「ば、晩酌程度で飲むから。だからいいだろ?」

「僕がちゃんと分量を見ながらじゃないと呑んだらダメ!」

「えー、すんげー少なくされそうで嫌なんだが……」

「うるさい! 駄犬はちゃんという事聞いとけばいいの!」

「わ、わかったよ」



 そう言いながら、やっとカウンターにつく。

 アリシアも座席を移動して、ワトラの横につく。



「仲が良いですね」

「「はぁ!? どこが!」」



 アリシアの言葉に、息ぴったりで言い返してくる。

 ワトラは、顔を真赤にしてちょっと必死なのが可愛いと思ってしまう。

 カールもまんざらではないようだ。

 良いカップルだと思うのだが、まだ進展はしていないようだった。

 時間の問題か、なにかきっかけがあれば引っ付くだろうなと思うのである。

 その後は、ちょっとアリシアもお酒を飲みながら三人で旅の話をしていた。

 Cランクになったことを言うと、カールは頭を抱えて落ち込んでいた。

 カールがCランクになるまで相当時間がかかったのだろう。

 あっさり追いつかれて、ピンと立っていた耳がぺたんと倒れていた。

 そして、先ほどの威圧の力量から、完全に抜かれていることはわかっているがなかなか認めたくない部分があったのだろう。

 やけ酒気味になりそうなカールをワトラが制御しながら、のんびりとしたペースで飲むのである。

 そして、スピカで空飛ぶ飛行船に乗ったことを教えてくれた。

 カールの所属するコミュニティ【蒼き聖獣】のコネで乗せてもらったらしい。

 試作品らしいが、かなり快適で帝国までさくっと行けたらしい。

 アリシアは、薫が帰ってきたら一緒に乗りたいなと思う。

 ワトラ達は、明日のお昼にはこの街を出るらしい。

 それを聞いて、ちょっと寂しいと思ってしまう。

 楽しい時間はあっという間に過ぎた。

 夜の10時にはお開きとなる。

 カールは、ちょうどいい感じで酔っ払ってワトラに引っ付いて絡んでいた。

 いつものことと言わんばかりに、ワトラはカールを連れて食堂をあとにする。

 途中、「この丁度手にフィットするのがいいんだよなぁ。やわらけぇ、ああ、やわらけぇ」や「ドサクサにどこ触ってるんだ! こら! やめろぉ!」などと言っていた。

 酒の力で進展しそうと思いながら、アリシアは笑顔で見送って自身も部屋へと戻った。

 部屋に戻り、スノーラビィをフードの中から探す。

 すると、隠れたままずっと眠っていた。

 フードをパタパタすると、コロンと出てきてお団子のように丸まっているのである。

 愛くるしいスノーラビィを見つめながら、アリシアは明日の準備を済ませ予習しながら不安を少しでも取り除こうとする。

 ほんの少し、夜更かしをしながら失敗しないように万全の体制を整えるのであった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 黒いローブを羽織り、白い面をした三人組がコテージを目の前に息を潜めている。

 手で合図を出し、いつ突入するかをじっと待っている。

 そんな時だった。

 コテージから白衣を着た男が出てきた。

 暗くて、表情までは見えない。

 見た感じ、そこまで強そうには見えない。

 その後ろにトコトコとついてくるパジャマを着た黒髪の少女がいる。

 男は、アイテムボックスを開いて料理キットを出してフルーツをミキサーに入れて砕いて何やら飲み物を作っていた。

 ほんのりと光量があるが、手元を照らすくらいしか明るくはない。

 隙だらけであったため、すぐさま手で突撃の合図が出る。

 即座に草むらから出た瞬間、重力が数十倍になったのではないかと思われる重圧に襲われる。



「なんかおる思うとったが、なんやお前ら……」



 低いトーンでそう聞いてくる。

 棒立ち状態で、全くに動きが取れないでいた。

 息ができずに、目を白黒させる。

 今までに味わったことのある中で1、2を争うほどの危険性のある重圧。

 その中で、リーダーなのだろう。

 なんとか唇を力いっぱい噛み、正気に戻して攻撃をしようとする。

 手に持つナイフを投げ、それを指から伸ばした糸のようなもので操る。



「ああ、ミズチ一族か……。そういや、帝国の暗殺部隊やったっけ」

「!?」

 白衣を着た男に正体もバレて、一瞬戸惑うが殺してしまえばどうということはないといった感じでナイフを変幻自在に操る。

 緑の液体のついたナイフは、毒が塗られている。

 かすりさえすればいいといった感じなのであろう。

 しかし、その攻撃は不発に終わる。

 白衣を着た男は、軽々と足でそのナイフを蹴り飛ばして信じられない速度で投げた男の頬をかすり、後方の木々をバンバンとえげつない音とともになぎ倒していった。



「う、嘘だろ……」



 どうなってるんだと言わんばかりに、目を見開く。

 他の者もそうだった。

 リーダー格の者の攻撃を蹴り一発で粉砕する力量を持つ者などなかなかいるものではない。

 Bランク以上の最強の集団と言われるミズチ一族ならなおさらである。

 次の瞬間、月明かりが川原をさした時、戦慄が走る。

 見覚えがあるとかそんなレベルではない。

 現ミズチ一族の族長の姿が見えるのである。



「ク、クレハ様……」



 漆黒の中でも月明かりで幻想的に揺らめく真っ黒な髪の毛。

 燃え上がるような真っ赤な目は、夜闇ですら見ることが出来た。

 威圧は、ここで一旦解かれてミズチの者達は自由になる。

 自由になったが、クレハに刃を向けるということは、命を無駄に散らすと言ってもいい。

 戦うことすら烏滸がましいレベルなのだ。

 そして、一緒にいるということは仲間として行動しているということがあげられる。

 もしくは、何かしらの任務中と言ってもいい。

 それを邪魔したとしたら、大変なことになりかねない。

 クレハが受け持つ依頼は最重要機密事項などがほとんどで、Sランクでしか任せられないものがほとんどである。

 私事もある程度はいっていることもあるが、大抵は許されている。

 現にフーリを闇市に流した一派の撲滅などが私事である。

 それ以外は、完全な極秘任務とされる。

 クレハは、ただミズチの者達をじっと見つめるだけであった。

 何も言わずに、何も瞳に宿さないそんな目線は、他のものからしたら邪魔するなということなのだろうといった感じで解釈された。



「カオルさん……」



 クレハは、怯えるように薫の後ろに隠れギュッと強く白衣を掴む。

 戦闘力ゼロとかしてしまっているクレハを戦わせるわけにも行かずに、どうするかと考えているとミズチの者達が口を開く。



「クレハ様、この近くで女を見ませんでしたか? シャルディラの紋章の入った服を着ているのですが」



 薫は、「おや? これはもしかすると」と思い悪知恵を働かせる。



「ああ、その子なら俺が最後を看取った。遺体は埋めて供養したけどなんかあったんか?」



 その言葉に、ミズチの者達は眉をひそめる。

 全くの知らない者がそのようなことを言っても信用出来ないといった感じなのだ。

 薫は、クレハの肩をちょんちょんと突き、口裏を合わせるようにする。



「なぁ、そうやんな」

「ん……」



 こくりと頷くクレハにミズチの者達はようやく納得する。

 そして、一旦膝をつきクレハに頭を下げ任務中に邪魔をしてしまったことへの謝罪をしてから一瞬で去る。



「ちょろいな」

「……」



 気配が全くなくなってから、薫は片側の口角だけを上げてそうつぶやくのである。

 完全にしてやったりといった感じなのである。

 普通なら、死体の確認でもするのだろうが、クレハが居たことによってそれが省かれたのだろう。

 それか、クレハが任務中と思って早々と切り上げたのかもしれない。



「しかし、ミズチ一族が動いてるとなるとクレハがここにいる情報も俺の力量も報告されそうやな。まぁ、軽くひねった程度やし問題ないか」



 そう言いながら、クレハと一緒に中型のピッチャーにフルーツジュースを入れた物を持ち、コテージへと戻るのであった。


読んで下さった方、ブックマークしてくださった方、感想を書いて下さった方、Twitterの方でもからんでくれた方、本当に有難うございます。


えーっと、書籍版の方の進みが悪く、あまり時間の取れない日々が続いてます。

なので、更新頻度を少し落としたいと思うのですが……ダメでしょうか?

週一以内更新を10日以内更新に変更してもいいですかね?

もちろん、早く出来た場合はポンポン投稿する時もありますが……。

どうでしょう。





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