制約と契約のからくり
真っ白な部屋の特殊な額縁に入れられた契約書が真っ赤に燃え上がる。
辺り一面に、その同じようにたくさんの額縁が置かれてある。
それを見る二人の姿があり、1人は小学高学年のような小さな男の子で、その真っ赤に燃え上がる契約書を見て涙を流す。
黒髪で、男の子にしては髪の毛が長く、パッと見女の子と間違えるほどの美形。
帝国の紋章の刻まれた一級品のマントに、王冠を頭にかぶっている。
翡翠色に輝く目は、ほんのり充血していた。
もう1人は、その男の子の斜め後ろに立ち、ようやく裏切ったかと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる。
脂汗で額はテカテカとしていて、お腹が出てだらしないが法衣を着てその部分を隠している。
エルフの特徴であるピンとした耳が、顔の肉で若干埋もれていた。
「ユリウス皇帝、私の言った通りでしたでしょう……。あの女は、何か隠している可能性があると……」
「うぅ……。どうして……。僕に皇帝としての素質が無いからですか……」
「何を仰ってるのですか! ユリウス皇帝は、ガラドラ皇帝が病で動けない今、この大陸がまた戦火の渦にならないように必死にやってきてるではありませんか。私、モーリスはユリウス皇帝の側でずっと見てきましたからわかります」
ユリウスは、モーリスの言葉に不安が少し和らぎ、涙で濡れた頬を袖で拭い表情を引き締める。
「モーリス、これからどうすればいい?」
「はい、ユリウス皇帝。私の固有スキルと、ユリウス皇帝の先代から受け継がれし特殊固有スキルで縛ってる状態です。もう、何もせずとも勝手に解決出来ます。全て、私の掌の上で御座います」
そう言って、ユリウスの前で跪き深く頭を下げる。
「そうか……。流石、モーリスだね。父上の右腕と言われた賢人だから僕は安心して頼れるよ」
そう言いながら、ユリウスは微笑む。
モーリスは、頭を下げたまま悪魔のような表情をし「無能な傀儡皇帝」と小さな声で言うのであった。
モーリスは、表情を裏に隠し立ち上がると、ユリウスにこれからミズチ一族の次の族長候補になるであろう人物を帝国に呼ぶ書類の発行をお願いする。
ユリウスは、「わかった」と言って真っ白な部屋からマントを揺らしながら出て行った。
モーリスは、その部屋に残り終え上がる契約書を見つめる。
「しかし、なかなかしぶといようだな……。まぁ、その内処分するだろう。なんたって、皇帝一族の特殊固有スキルだ。普通に使おうとすれば、糞みたいなスキルだがこの大陸全土のCランク以上の者に適応された状態なら話は別か……。先先代の皇帝にはなんと礼を言えば良いのやら」
そのように言ってモーリスも部屋を出る。
出た先に、見覚えの無いメイドが居る。
モーリスを目の前にして、深々と頭を下げ少し強張った表情をする。
「あ、新しく、モーリス様の世話をするようにと言われましたニエルと申します」
「ああ、そうか……。前のメイドはアレだったか……」
そう言って、そのメイドを下から舐めるように何度も見る。
そのままモーリスは、ニエルの顎に手を当て気持ちの悪い笑顔を浮かべ、舌なめずりをした後「お前は、私を満足させてくれるのか?」と言う。
メイドは、顔が青ざめカタカタと震えながら頷くことしか出来なかった。
その表情に満足したモーリスは、軽い言葉でメイドに「冗談だ。私の部屋の片付けを頼む」と言って背中をポンと叩く。
先程の悍ましい感じはなく、侍女はキョトンとしてしまうがそのまま足早に命をもらったのでモーリスの部屋へと向かう。
「盗み聞きは、あまり感心しませんよ。アレス」
「ん? バレました?」
「貴方ほどの存在感のある方が、いきなり気配を消されれば警戒もしますよ。元時の旅団の切り込み隊長さん」
アレスは、モーリスに言われて楽しそうに笑う。
茶髪で、クセのある髪の毛が鬱陶しいのか耳にかけ、前髪は少し横に流している。
顔立ちもよく美形で、そして高身長と全てを兼ね備えたような男である。
しかし、軽装でそこら辺にいる冒険者と変わらない服装だが、背中に差している歪な大剣が只者でないことを表す。
Sランク武器であろうその大剣は、生きているかのようにオーラを放って周りを威嚇する。
「ああ、懐かしいコミュの名前出さないでくださいよ。帝国を一度落としたこと思い出したじゃないですか」
そう言いながら、アレスは笑顔のまま凄まじく重い威圧を放つ。
モーリスは、少し嫌な顔をしたあとにアレスを平然と睨む。
「ここでは、条件が揃わなければSランクの能力は使用禁止です。わかっているでしょうに……」
モーリスがそう言うが、アレスは聞く耳持たず自分勝手に話し始めるが、内容は時に旅団の団長の話なのである。
団長はこの大陸で最高の人と言わんばかりに、楽しそうにでも遠い昔のような感じで言う。
「あんたらからしたら、たった四人に帝国潰されたなんて汚点でしかないもんな。こっちは制限付きのAまで、そっちは制限無しのSランク。それで、ズタボロとは……。天下の大帝国の力はこの程度かと……。団長はがっかりしてたしね。ただ、強者を囲うだけための制限とか俺に喧嘩を売ってるのか? て言ってさ。途中、可哀想になって止めたんだからな。仲間に対して相当な甘い人だったよなぁ」
「……あの男は、はっきり言って化け物だ。私は、初めて恐怖というものを感じたよ。300年生きるが、本当の化け物は会えばわかる。本能で逃げろと言われるからな」
モーリスは、額の脂汗をシルクの小さなタオルで拭き、アレスのどうでもいい話を聞いているが、はっきり言って面倒だと言わんばかりに段々返事が軽くなる。
それに気付いたのかアレスは、思い出したかのようにモーリスに言う。
「なぁ、最近、俺の出撃無くね? 暇潰しに強い奴と戦えるからって言うので、ここに来たのに朝から晩までどうでもいい書類仕事を押し付けてないか?」
「そんな事はない。その内厄介ごとがあれば貴方に頼むから安心しろ」
「出来るだけ早めで頼む。でないと、その内帝国のSランクに手出しそうだからさ」
「はぁ……。わかったちゃんと用意しよう」
モーリスは溜め息を吐き、アレスの目の前から歩いて去る。
どうやって、アレスをここに止めるかを考えながらであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
骸骨のようなどす黒い影がカタカタと笑い、この状況を楽しんでいるかのようにクレハの後ろで部屋にいる全員を見下ろす。
クレハは、自身の体の制御が効かずただ涙声で叫ぶことしか出来なかった。
炎鬼に捕まったフーリは燃え上がる炎に焼かれ「熱いよ……。お姉ちゃん……助け……て」そう言いながら、フーリの表情は苦痛に歪んでいく。
炎の耐久を持つフーリだが、クレハの操る炎鬼の炎には耐えれていない状態で、きれいな肌は少しずつ焼けただれていく。
ランクの差が開き過ぎているためである。
「やめて! な、なんで勝手に……体が……。フーリを傷つけないでよ! やだ……やめてよ……」
そう言って、涙を流し消え入りそうな声になっていく。
その瞬間、フーリを掴む炎鬼の腕がスパッと斬り飛ばされ、部屋の壁に当たりぼとりと落ちて砂のように消える。
「医療魔法――『電気メス・ベクトル5』」
「かお……る……さん……」
薫の手から青白い稲妻が迸ばしり、バリバリと音を立てる。
そのまま、薫は今起こっている状況を驚き目を丸くしているアリシアに大声で言う。
「アリシア! 窓を開けてくれ! 開けたら即座に屈むんやぞ!」
その声にびくっと反応して、即座にアリシアは行動に移る。
瞬時にソファーから飛び出し、アリシアは窓をバタンと開ける。
開けた瞬間、後ろで大気が揺れゾクリと背筋に冷たい汗が流れる。
アリシアは、そのまま条件反射的にパッと頭を抱え体の体勢を低くして伏せる。
その体制をとった瞬間、物凄い風圧で何かが外へと飛んで行く。
ひょこっと飛んできた方を見ると、薫が回し蹴りをした格好で立っていた。
床に、靴の回転で真っ黒に焦げた跡が残り、白い煙をたたせる。
木が焦げたかのような香りが辺りを漂う。
炎鬼は、薫に蹴られた瞬間の空圧に耐え切れずに崩壊して砂に変換されていた。
クレハの体は炎鬼を失ったため、そのまま自身でフーリの命を刈り取ろうと動き出す。
「いや……、止めてカオルさん! 私を殺してでも……早く! でないとフーリが!」
「っ……」
そう言って、クレハは魔力強化をしてフーリに凄まじいスピードで迫る。
腰に隠していた黒いナイフを手に持ち、床に倒れて痙攣しているフーリに突き立てようとする。
フーリの心臓にナイフが刺さる寸前で、薫はクレハの持つナイフを素手で掴み止める。
ナイフを掴んだ手から、薫の血がフーリの胸にぽたぽたと落ち、服へと染み込み真っ赤な赤い花びらのように広がる。
薫は痛みを堪え、ナイフを持ったクレハの肩を掴み一瞬で関節技を決め制圧する。
普通なら、この技で完全に制圧できるが、今のクレハは止める事ができず、薫は炎鬼の再召喚しフーリに攻撃するのを防ぐため、クレハに「両腕を一時的に折るけど我慢せえよ」と言う。
クレハは、薫の言葉に「お願い……早く……」と言って了承した瞬間、薫は抑え込み綺麗に両腕を折る。
歯を食いしばり、悲鳴を一言も上げずに耐え、これでフーリを殺さなくて済むと思うのである。
「アリシア! フーリの治療を頼む」
「わ、わかりました」
アリシアは、痙攣しているフーリに近寄り、火傷の状態を見て、即座に薫に細かく伝達する。
薫は、アリシアでも治せると判断しスノーラビィに言う。
「スノーラビィ、プリシラに伝達してゲートを開いてくれ。フーリを妖精の国へ送る。でないと殺されるからな!」
「きゅっきゅ!」
ビシッと敬礼でもするかのようにピンと耳を立て、そのまま10秒足らずで魔法陣が出現する。
ゲートから、にょきっとプリシラの耳が出し恐る恐る顔を出すと、アリシアにプリシラは「早く早く! こっちです!」と呼ぶ。
アリシアは、フーリを優しく抱き上げゲートに飛び込んで、ずずずっと沈んで消えた。
もう一度、プリシラが顔を出して薫に言う。
「カオルさんは?」
「俺は、クレハをどうにかせんとあかんから残る。フーリの治療は、アリシアが治せるからそっちで頼むわ。連絡はスノーラビィでする。ええか?」
「わ、わかりました。つ、通訳でウンディーネを連れてって下さい」
「ああ、わかった。ウンディーネがこっちきたらゲートを閉じるんやぞ」
「らじゃ〜!」
そう言うと、ゲートから青い水のようなロングヘアの小さな女の子が現れる。
水の羽衣を身に纏い、精霊の羽をぱたぱたとさせながら動かし、宙を飛びスッと着地する。
その瞬間、ゲートはスッと消えた。
消えた途端に、クレハの動きがピタッと止まる。
これを見た薫は、距離に制限があるのではないかと推測できた。
「クレハさん? 大丈夫か?」
「わ、わたしが……。フーリ、フ、……ころ……し」
目から段々生気が失われていくクレハを、床から剥がして壁にもたれ掛けさせる。
自身のした行為が、相当な精神的ダメージをおってしまっていた。
「あかん! ウンディーネ、この前俺にした加護をクレハに! 完全に精神が逝きかけとる! このままやと自殺しかねへん」
「わ、わかりました」
薫は腕の骨折を治し、ウンディーネは自身の加護を付与するが、全く効果が見られない。
クレハは、「わたしが……いなければ……」などと言いながら、側にあるナイフに手を伸ばし始める。
薫は、そんなクレハの顔を両手で優しく掴み自身に向ける。
全く反応せず、涙でくしゃくしゃな表情のまま薫の方を向くが、瞳に薫は写ってないかのような感じで見つめる。
もう、全てが壊れてしまったかのように、反応することができない状態のクレハに薫はゆっくりと口を開く。
「フーリはな……」
クレハにほんの少し反応する。
フーリという単語にではあるが、薫は話を続ける。
「フーリは、こんなことで……クレハさん、あんたを手放したりはせえへんやろが……」
「きず……つ……から」
掠れた声で、途切れ途切れだが反応を示し始める。
「それは、あんたの意思でやったんちゃうやろ」
「わた……、ぜんぶ……なくな……」
「何1人で全てが終わったかのようにしてんねん! フーリの姉ちゃんやろ? フーリが一番憧れる最高の姉ちゃんやろ? 何やとんねん!」
「あえ……ない……も……」
「フーリは死んでへんやろ! 俺に会ったときのあの必死さはどこ行ったんや! 関係が壊れたんなら修復せえや! それくらい姉妹やろがぁ! できへんとか言わせへんぞ! あんたがどれ程の思いでここまでやってきたや? こんな簡単に諦めるんか?」
「あきらめ……れない……でも」
「俺は、たったそんだけの思いのために治療をしたんちゃうぞ! 命賭けてフーリもあんたも助けたる言うたやろう? こんなところでへたり込んでないで、これからどうするかを考えるんが一番やらなあかんことやろうが!」
「……いまの、わたしじゃ……」
「なら、俺に頼めばええやろう。全部ひっくるめて面倒みたるわ」
「……」
薫の最後の言葉に、クレハの目に生気が少し戻ってくるが、まだ安定してないようだった。
精神的な問題上、何か良からぬ病気が発症するかもしれないため、目を離せない。
そのため、一緒に行動は出来ない以上、フーリは妖精の国で待機ということになり、フーリに何かしら問題が起これば自身が妖精の国へ行って処置しなければならない。
薫は、最善の策を1から組み立てて行き冬吸風邪はアリシアに任せるかと思う。
薬や対処方法に診断は、側でずっと見てきていることからこの病気に対して1番の適任と言える。
頼めばアリシアは、即オッケイを出しそうだなと薫は思った途端に笑みがクスリと漏れる。
そして、フーリとクレハが普通に会えるようにするために薫は帝国を締めに行くことを考える。
仲間に手を出したことで、面倒なことを増やしたという罪を清算してもらうかと思うのだ。
そんなことを考えていたら、ウンディーネが「きゃー♪」といった感じで、両目を両手で隠しちょっと隙間を空けてこちらを見ている。
スノーラビィも、「きゅー♪」と言いながら、耳をへにょらせ片目を隠してもう片方をちらっとずらして見てくる。
若干、腹立たしい光景でもあるが今は置いておこうと思う。
しかし、スノーラビィが何やらウンディーネに話をして、ウンディーネが通訳をし始める。
「妖精の国のアリシアさんからです。ほ、惚れ直したのです。カッコいいのですカオルしゃま! だそうです」
「……おい、まさかとは思うけど実況中継しとったんちゃうやろうな? あ゛ん?」
薫の言葉に、スノーラビィがピクリと反応する。
異常にぴきょぴきょ動く耳に、あからさま過ぎる「き……ゅ〜」という鳴き声で、薫は確信する。
アリシアが育てたことにより、飼い主似てしまったのかと思う薫は、ゆっくりと闇落ち堕天使と言っても過言ではない表情を向ける。
とても歯向かったりできないレベルで怖い表情です。
「わ、わたしは知りませんでした! ウンディーネは良い子ですカオルさん」
「きゅっ!?」
薫の怖さに、ウンディーネは手の平返しの裏切りにより、スノーラビィは窮地に陥る。
そんなときに、プリシラからのメッセージが入って来る。
「きゅ……きゅっきゅー」
「え!? あっ……。た、タイミング最悪ですよ……プリシラ様……」
ウンディーネとスノーラビィはコソコソと小声で会話をする。
しかし会話中に、薫は一人と一匹の頭をガッチリとホールドして、たった一言「言え」と言うと、ウンディーネは最新で入ってきたプリシラのメッセージを大粒の涙を目尻に浮かべ言う。
「は、早くこちらに実況をー!! はーやーくー♪ 一字一句間違えることなく伝達よろしくです〜! だそうです……」
薫は、その言葉を聞いた瞬間ぼそっと一言口ずさむ。
「プリシラ、撫で無しな」
その言葉をスノーラビィは、メッセージとして送ったのだろう。
即座に返信が返ってくるが、薫はまったくもって聞く耳を持たずにさっさとクレハの方を向く。
ぐしゅんとした表情のまま、ずっと薫の方を向いていた。
とりあえず、落ち着きは取り戻しているようなので、薫はそのままベッドへと移動してもらおうとするが、動こうとしないので薫は軽く一息吐いてから抱き上げてベッドへと向かう。
とても軽く、抱き上げて移動してる間ずっとこちらを見つめてくる。
先ほどの流れがなければ、ウンディーネとスノーラビィがからかいで何かしら言ってきただろうが、今は目を点にしてお口チャック状態である。
薫は、クレハを寝かせてから手で目を瞑らせたら少しすると、眠ってしまった。
そのまま薫はテーブルに置かれた契約書を見つめる。
真っ赤に燃えるように文字が浮かび上がったままの状態で用紙は燃えることなくそこに存在し続けている。
ドス黒い骸骨は消えていたが、あれが何だったのかがわからないため、薫はソファーに座りテーブルに置いてある契約書に手をかざして『解析』を掛ける。
すると、この契約書にどのような効果が付いているかが表示される。
【制約と契約の書】
・用紙、カルード紙(最高級)
・効果、書かれたものに強制力を発揮する。
・内容は、下に書かれたもの。
1つ、ミズチ一族は、一族の村から帝国の依頼なしでは出てはならない。
門外不出の絶対的な能力を持つからである。
ただし、能力を失くした者は例外とする。
2つ、帝国に逆らうことは出来ない。
違反した場合は、強制的に能力封印が発動する。
発動すると、Cランクまでの能力に下がる。
そして、処分対象の烙印が押される。
3つ、一族の強さは、15歳で最低でもBランク以上の強さを保有していなくてはならない。
達していない者は、処分対象とする。
4つ、ミズチ一族の住む村の迷宮は攻略してはならない。
違反すると、一族全員に能力限定封印がかせられる。
一族ではない者が攻略した場合は、その者を殺すこと。
そして、新たな場所が見つかるまで能力は制限がかかる。
裏内容、5つ、族長クレハ・ミズチは、フーリ・ミズチに自身の一生を捧げる。
死した妹とどこかでもしも出会えたなら、全ての契約という名の鎖を全て外すことが出来る。
フーリ・ミズチが自由の身であることが条件。
上記の二名以外は、全ての能力を封印され処分対象とする。
ユリウス、モーリス混合最上契約。
上記の裏内容、もしくはなんらかの形で破棄した場合、ユリウスの特殊固有スキル『皇帝の契約と呪縛』、モーリスの固有スキル『死神の操り人形』が発動し、クレハ・ミズチが始末する。
術者名、ユリウス・アインルド・レイディル、モーリス・ジュディアル。
薫はそれを見て溜め息を吐く。
裏の裏を突かれていたのかといった感じで、自身のステータス画面を見ながらその能力を調べる。
すると、面白いことがわかった。
まず、固有スキル『皇帝の契約と呪縛』は、紙の質によって拘束できるレベルが分かれるとされていた。
なので、このようにクレハの重大な契約書は最上級の紙が使われていたのかと思う。
そして、宿屋やギルドなど様々な場所でこのスキルが付与した用紙が使われている。
契約主とで魔印を使った契約は、今では一般化しているし、安全性が優れているとして大陸全土で使われている状態となっている。
原産は、大帝国【レイディルガルド】であった。
しかし、契約をしなければ全くの使いものにならないスキルであることも事実。
だが、冒険者、探求者ギルドは帝国が運営するギルドで、Cランク以上になったときの報酬として、領土などの契約書にこのスキルを付与した最高級の用紙で契約してしまえば、のちのちSランクになったときに自動的に契約で縛れるといった寸法のようだ。
最後に、契約内容で自害などの強制力のある契約は出来ないとされる。
薫は、自身のCランクの契約書を取り出し、隣に置き用紙の質を見るが、明らかに宿屋で契約した紙と同じものである。
ザルバックから用心しろと言わていただけに、調べていたが契約も制約も無い紙だったから気にもしていなかったが、1度クレハの契約書を調べておけば、未然にこのようなことは防げたのではないかと思うと苛立ってくる。
「全く汚い手口やなぁ。これもう詐欺やん……。ほんで、もう一個はどんな能力や」
そう言って、薫はもう一つのスキル『死神の操り人形』を調べる。
支配系のスキルで、死神が体を乗っ取り対象を殺するまで動き続けるというものであった。
特に面倒だと思うのが、四肢をもがれても這ってでも遂行しようとするという点。
そして、対象が5km圏内にいる場合、自動感知で動く。
なお、乗っ取られた者は抗うことは出来ないが、全体的に能力は落ちる。
このスキルを発動するには3つの条件がある。
例外は、『皇帝の契約と呪縛』に乗せることによって、条件無視で使用可能。
解除方法は、術者の解除か死亡のみと書かれてあった。
薫は、ドルクの使っていた上位互換だろうかと思うが、厄介なのは解除方法だなと思う。
気絶などでは解除されない。
どうするかと思いながら、ステータスを閉じる。
真っ赤に燃える契約書に苛立ったのか、薫はその契約書を拳で殴るが、全くびくともしないで下のテーブルが真っ二つに割れる。
すると、スノーラビィが「きゅーきゅー!」言いながら飛びついてくる。
なにかと思い、ウンディーネに通訳をしてもらう。
「え、えっと、フーリさんからメッセージを預かってるので通訳しますね。ちょっと遅くなりましたけど……。薫様、有り難うございます。私は、大丈夫だから、お姉ちゃんのこと宜しくお願いします……。だそうです……」
「はぁ、本当にこの姉妹は……ったく」
「きゅっきゅー!」
「ん? なんか言っとるけど、他になんかあるんか?」
「……え、えっと、実況を聞いていたみたいです……」
「……」
薫の表情がまたしても鬼のように豹変していく。
ウンディーネは、スノーラビィに言わなくてよいこと言わさないでよ~! と言わんばかりに見る。
苛立つ薫だが、どこにぶつけて良いかわからず、大きく溜め息を吐く。
丁度、その瞬間にドアをノックする音が聞こえたので、薫は苛立った表情のまま移動してドアを開けると、そこには宿屋の受付の老人が肩で息をしながらスッと頭を下げるのである。
その瞬間、薫は「あ!」っと言って申し訳無さそうな顔をする。
異常な威圧をぶっ放して、部屋を壊していたことをすっかりと忘れていたからである。
薫は、全額ポケットマネーで支払って老人にペコペコと謝る。
老人との謝り合いをしている姿を見て、ウンディーネはくすりと笑うのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜〜〜〜〜〜
妖精の国の古城。
がっくりと肩を落とし、謁見の間の王の椅子(折りたたみベッド)で、プリシラはもうやる気が出ませんと言わんばかりにピンクラビィの耳をへにょ~んとさせる。
お目々が点になり、もう生きていけないですと言わんばかりに涙を浮かべる。
周りのピンクラビィ達は、必死にプリシラを元気づけようとするが、それでは回復しないようだ。
「私の撫で撫で幸せ計画……崩壊。撫で撫で……無し……ガク」
プリシラは、そう言った後にピクリとも動かなくなった。
アリシアとサラマンダーは、そんなプリシラを揺すってみるが、お口からエクトプラズムを出して放心状態になっているのである。
「あ、アリシアお姉ちゃん、プリシラ様を助けて!」
「か、完全に手遅れです。私には治せません」
アリシアは、そう言いながら苦笑いになってしまう。
薫の撫で無しは、プリシラには精神的ダメージがマッハだったようだ。
自身も実況中継を楽しんでいただけに、ちょっと心が痛いといった感じになり、「これから、挽回すれば撫でくり回してもらえるかも」とボソッと口に出すと、プリシラは一瞬で復活してむふーっとやる気満々になるのである。
「汚名挽回しますよ〜!」
「お、汚名は返上してください! それだと、もっと悪い方向に行ってしまいます」
「きゅっきゅきゅー!」
「ちょ、ちょっとプリシラさん聞いてください」
ぴょんと跳ねながら、王の椅子の背もたれをパタリと倒してベッド状態にし、ピンクラビィ達と作戦会議をし始めるのである。
アリシアは、元気になったので良いかといった感じでプリシラ達を見つめる。
アリシアは、そのままフーリの下へとサラマンダーと一緒に向かう。
謁見の間の端に、アリシアコレクションのピンクラビィクッションを複数敷き詰めてベッドを作ってある。
そこで、フーリはちょこんと体育座りをして、火傷を負っていた箇所を手の平で撫でながら小さく溜め息を吐く。
「フーリお姉ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫。心配かけてごめんね」
「一時は、どうなるかと思いましたがよかったです」
「アリシアちゃんも、心配かけてごめんね」
そう言って、小さな溜め息を吐く。
実況を聞いてから、フーリの様子が少しおかしいとアリシアは思う。
何もなければ良いなと思いながら、アリシアはフーリに少し休むように言うと、フーリはそのままの状態で、コロンと寝っころがりピンクラビィ毛布を被る。
邪魔になら無いように、アリシアはサラマンダーを連れてその場を後にする。
アリシアとサラマンダーが去った後、フーリは自身の左胸の上に手を置き、「薫様のこと考えると、心がもやもやする……なんで?」と言いながらクッションに顔を埋めるのであった。
読んで下さった方、ブックマークしてくださった方、感想を書いて下さった方、Twitterの方でもからんでくれた方、本当に有難うございます。
えーっと、前回の祝砲から未だにptが伸びてますが、マジで感無量でございます。
まさか、こんなにあっさり目標を突破した後に、まだ伸びていくなんてなんと言ってよいかわかりません。
本当に読者の皆様有り難うございます。
はい、次回も一週間以内の投稿を頑張ります。
体に無理はさせないレベルでですけどね。
ではー




