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自由への罠

 クレハは手術後の夜中に覚ますと、フーリが手を握ったまま眠っている姿が最初に目に入る。

 

 

「おねぇちゃん、早く元気に……むにゃむにゃ」

 

 

 そう言いながら、眠っている。

 多分ずっと起きていたのだろう。

 起きたのは夜中だったから仕方がないかと思う。

 優しい笑顔で、フーリの頭を撫でる。

 そして、そっとフーリを自身のベッドに抱き上げて寝かせ一緒に眠るのであった。

 朝起きると、フーリはなぜ自分がベッドで寝ているのだろうと首を傾げていた。

 クレハは、起きていたが寝たふりをして、ちょっと謎といったフーリの表情を楽しむのであった。

 フーリの頭から煙の出てきたところで、クレハは起きていることを言いネタばらしをすると、ギュッと抱きしめられて「よかった……」と言いながら、それ以上何も言わずに強く強く抱きしめるのであった。

 その日、アリシアが部屋に来ると、フーリは満面の笑みを浮かべ出迎える。

 薫からの引き継ぎで、薬と食事をいつから取っていいのかを告げる。

 クレハは、薫自身がなぜ来ないのかが疑問だった。

 

 

「カオルさんは? 一番にからかいに来そうなのに来ないわね? 性格がひん曲がって、ここに来ることすら面倒になって忘れてるのかしら」

 

 

 クレハの言葉にフーリが口を開く。

 薫の治療で使った固有スキルのリスク。

 完全に把握しているアリシアは、フーリの簡略化したほんの少し誤りのある内容で、薫が不利になることはないと思いそのまま説明に口出しをせず聞くだけにする。

 

 

「嘘……。でも、あの魔力量の消費ならあり得るのかも……」

「薫様は、そこまでしてお姉ちゃんの病気も私の病気も治してくれたんだよ。だから、あまり薫様を悪く言わないで……」

「うわあああ、フーリごめんなさい。お姉ちゃんが間違ってたの」

「薫様に謝らないと意味ないよ」

「うぅ……。わかった」

 

 

 しゅんとしたクレハを見て、アリシアはどちらがお姉さんなのだろうかと思うのである。

 フーリの言うことは絶対なのだろうかと、首をかしげる。

 それから、クレハにアリシアは薬の説明をして、服用してもらう。

 何度か、クレハは薫に会えるかと聞いてきたが、アリシアは今は難しいとだけ言ってやんわりと断る。

 そして、3日が過ぎる。

 丸3日で、薫の魔力は回復し、普段通り動けるようになった。

 アリシアの魔力供給の力は大きい。

 そして、ここ数日なんとアリシアは早起きが出来るようになっていた。

 1日坊主ではなかった。

 これは、大きな成長だ。

 などと考えながら、薫はソファーに座りラックスティーをゆっくりと飲む。

 アリシアも一緒にのほほんとした表情でスノーラビィとじゃれていた。

 薫は、アリシアが丹精込めて入れてくれたので、味わいながらのほほんとしていると、ドアをノックする音が聞こえる。

 薫が返事をすると、入ってきたのはクレハだった。

 ちょっと、申し訳なさそうにしながらゆっくりと薫に近づいてくる。

 そして、薫を目の前にして、スッと頭を下げる。

 

 

「病気から救っていただき有難うございます。フーリから聞いたの。あなたが使った固有スキルは、かなりハイリスクだって……だから……」

 

 

 クレハが最後まで言う前に、薫はそれをかき消すように言う。

 

 

「ありがとうだけでええよ。それ以外は、俺が勝手にやったことやからな。まぁ、ハイリスクって言えばそうなるけど。でも、それで患者が喜ぶんならええと思ってやっとる。これから、思う存分フーリと人生楽しめよ。お姉さん」

 

 

 薫はそう言ってからからと笑う。

 クレハは、カーッと赤くなる。

 薫は、なぜクレハが頬を赤らめているのかわからなかった。

 その後は、クレハは、二、三回悪態をついて薫に「バーカバーカ! 死んじゃえ」と言って扉をバタンと閉めて出て行ってしまった。

 どうなってるんだと思いながら、ふとアリシアを見ると、ちょっと尋常ではない汗を掻きながらそそくさと部屋から退散しようとしていた。

 薫は、笑顔でアリシアの首根っこをひょいっと掴みベッドにちょこんと乗せる。

 カタカタと震えるアリシア。

 

 

「お、怒ったりしませんか? 怒らないのなら言います。お、怒るのでしたら言いません」

「お口、ミッ◯ィちゃんにして言うとるけど、どないなことは吹き込んだんや? 場合によってはお仕置きが必要やなぁ」

「ぴぇ〜!?」

 

 

 アリシアは、本気のトーンの薫に恐怖して洗いざらい全て吐くのであった。

 スノーラビィは、そそくさと隣の部屋に退散して、フーリの頭の上に乗ってリラックスモードでいた。

 後で慰めようといった感じで、ぐてぇっとする。

 アリシアは、ちょこんと床に正座して、涙目を浮かべていた。

 薫は、溜め息を吐きながら頭を抱える。

 フーリの誤ったリスクの話で、若干だが話がややこしくなっている。

 止めなかったアリシアは、今回罪はない。

 本当のことを言えば、魔力欠乏症時にクレハから奇襲でもされたらたまったものじゃない。

 そんな時に対処したら、魔力の制御が甘く地形が変わるレベルでは済まないだろう。

 妖精の国での経験上かなりの差がある。

 そして、リスクの内容だが何やらフーリは体にかなりの負担がかかると言っていたらしい。

 それもかなり大げさにだったとか……。

 確かに負担はかかるがただの魔力欠乏症だ。

 寝ていれば、勝手に一週間で回復する。

 それを、自身の身を削ってまで助けてくれたと言ったとなると……。

 面倒なことが増える。

 増えてほしくないのにガスガスと増えていく。

 ちょっと危ないシスコンさんが顔を真っ赤にしてくるとか……。

 ちょっとマジで勘弁して下さいよ。

 そんなことを思いながら、薫はアリシアの正座を解かせて自身の膝に乗っける。

 足がビリビリしているのか、ピンっと足を伸ばしぷるぷる震える。

 ちょっと可愛いので、ついつい意地悪をしたくなってしまう。

 しかし、今はそのようなことをしている場合ではない。

 だが、本当のことを言うわけにもいかず薫は溜め息を吐くことしか出来ないのであった。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 クレハが部屋に帰ってくる。

 ちょっと不機嫌で、ムスッとした表情になっていた。

 フーリはスノーラビィを手の上で歩かせ、右手左手と交互に前に出して永久ランニングマシーンを作っていた。

 ちょこちょこ歩くスノーラビィは、前に進まないことに気が付かず頑張って歩く。

 それを楽しそうにフーリは見つめていた。

 クレハも、そのちょっとおもしろい光景をフーリの横に座り見る。

 スノーラビィがやっと違和感を感じたのかピタリと止まり、くるりとフーリの方を向く。

 フーリは何くわぬ顔で他の場所へと目線を持っていく。

 アリシアなら確実にバレていただろう。

 フーリはあまり顔にそういったものは出ない。

 スノーラビィは、首を傾げてまたゆっくりと歩き出す。

 からかい過ぎると、たらいが落ちてきそうなのでフーリはこの辺でスノーラビィを開放する。

 床を歩き始めた事に気づき、そのままとぼとぼと歩きベッドの上にぴょんと乗り毛づくろいを始めた。

 

 

「可愛い。癒し系」

「うん、愛くるしいと言われるだけのことはあるわね。フーリには負けるけど」

 

 

 そう言いながら、フーリとクレハはスノーラビィを見つめる。

 クレハは、思い出したかのようにアイテムボックスから一枚の豪華な紙を取り出す。

 

 

「うふふ、これ、フーリ何かわかる?」

「?? 何? それ」

 

 

 そう言いながら、じっとクレハの手に持つ紙を見つめる。

 内容を読んでいくと、そこにはミズチ一族の制約と契約の書と記してある。

 ちゃんと大帝国の皇帝の名前と魔印が押されてある。

 

 

「お、お姉ちゃんこれ……」

「そうよ。私達が自由になるための契約と制約の書よ」

 

 

 そう言いながら、ゆっくりと微笑む。

 紙に書かれている内容は、

 

 

 1つ、ミズチ一族は、一族の村から帝国の依頼なしでは出てはならない。

 門外不出の絶対的な能力を持つからである。

 ただし、能力を失くした者は例外とする。

 2つ、帝国に逆らうことは出来ない。

 違反した場合は、強制的に能力封印が発動する。

 発動すると、Cランクまでの能力に下がる。

 そして、処分対象の烙印が押される。

 3つ、一族の強さは、15歳で最低でもBランク以上の強さを保有していなくてはならない。

 達していない者は、処分対象とする。

 4つ、ミズチ一族の住む村の迷宮は攻略してはならない。

 違反すると、一族全員に能力限定封印がかせられる。

 一族ではない者が攻略した場合は、その者を殺すこと。

 そして、新たな場所が見つかるまで能力は制限がかかる。

 


 このように書かれてある。

 そして、クレハが自身の魔力を流すと五つ目の内容が浮かび上がる。



 5つ、族長クレハ・ミズチは、フーリ・ミズチに自身の一生を捧げる。

 死した妹とどこかでもしも出会えたなら、全ての契約という名の鎖を全て外すことが出来る。

 フーリ・ミズチが自由の身であることが条件。

 上記の二名以外は、全ての能力を封印され処分対象とする。

 

 

「お姉ちゃん、この5つ目って……」

「ええ、この用紙に細工したの。入り知恵は、ザルバックよ。見つかっても、こういう言い回しならわからないでしょ。うふふ、あとはフーリを殺せって言った一族全員の処分よ。フーリにあんなことして、タダで済むと思わないでよね」

「お姉ちゃん、大胆……」

「あと一つ目の契約もフーリはほとんど能力を使えなかった。だから違反に入ってないの。こんな契約なんて穴だらけなのよ。普通はあんな密林をDランク以下で彷徨うなんて自殺行為だったからね」

「あのときは必死だったから……。お姉ちゃんの道具のおかげでもある」

「でも……、大きな怪我したのよね」

「平気、薫様が治してくれたから」

 

 

 そう言ってフーリは笑顔を作る。

 だが、フーリは疑問に思う。

 5つ目は、今現時点で達成している。

 なのにクレハはその契約書の破棄をしてない。

 どうしてだろうと思う。

 

 

「なんで破棄しないんだろうって表情ね」

「えへへ、バレバレだった」

「簡単よ。二重契約と条件に引っかかってて破棄できないの。今、フーリはカオルさんと奴隷契約をしているから」

 

 

 フーリは、思い出したかのように、なるほどと言った感じでぽんと手を叩く。

 クレハはその行動に抱きしめたくなる衝動をぐっと抑えて話を続ける。

 

 

「でも、カオルさんのことだから、簡単にはフーリを手放さないと思うわ……」



 渋い表情でクレハは顎に手を置き言う。



「そう? 前にこういう書類みたいなの嫌いって言ってたよ?」

「わ、わからないじゃない! フーリは物凄く可愛いのよ。男の人なんて皆狼なんだかね」

「オオカミさん?」

「そう、フーリがトコトコ歩いてると後ろからパクっと食べられちゃうんだから」

「ばくっと?」

 

 

 クレハの言ってる意味がわかってないのか、お目目がくるくると回り出す。

 薫がクレハの言ってるオオカミさんなら、もうとっくの昔に食べられているのではないかとフーリは思う。

 なんとか理解しようとするが、余計にわからなくなったのだろう。

 クレハの話は、性的欲求の捌け口にするつもりだということ言っているのだが、ストレートに言うと恥ずかしいというので言い回しを変えていたことが原因である。



「お、お肉が付いてるから? 薫様は、私をぷくぷくと太らせてから食べちゃうってこと?」



 何やら話が違う方向へと進んで行っている。

 フーリは、お腹のお肉をプニッと摘む。

 決して太ってはいない。

 どちらかというと引き締まっているといった分類に入る。

 運動量が異常であるが故に、全く太ってはいない。

 クレハは、話が噛み合わないので仕方無しにど直球で言うと、フーリはポンっと顔が赤くなった。



「ど、奴隷だからしなくちゃいけない! 私、薫様に何も返せてないから」

「うわああ、止めなさいフーリ! あなたの柔肌をあの男に見せるなんて断固反対よ!」

「お姉ちゃん離して! やっと役に立てる! 今直ぐ薫様として来る!」

「早まっちゃダメ! そういうのは好きな人とする者なのよ!」

「大丈夫。私、薫様に好きだから。お姉ちゃんそこどいて」

「そい!」

「あう……」



 ついつい手刀で、フーリを気絶させるクレハ。

 クレハは、やってしまった感が半端ではない。

 ぽてんとベッドに倒れこんだフーリを見て、どうしようと思いあたふたとしてしまう。

 そっと、布団に寝かせて夢だったことにしようと思うクレハ。

 そう、今までの会話は夢だった!

 完全犯罪をやってのけたかのような表情になるが、若干一匹がジッとクレハを見つめる。

 見てはいけない者を見てしまった目撃者? だ。

 スノーラビィは、ゆっくりと後ずさりする。

 クレハが次に何をして来るかわからない。

 手に汗握る? そのような心理戦を一人と一匹で繰り広げる。

 先に動いたのは、スノーラビィだった。大きくジャンプし、ドアノブに着地したタイミングでガチャリと開けピューッと脱兎のごとくクレハ達の部屋から逃げ出した。

 クレハは、スノーラビィに逃げられてしまったが、仕方がないかと思いその場で座る。

 スノーラビィが、人と話などできないと思い、余計な情報が流れないとする。

 一先ず、これからどうするか悩む。

 フーリに、いらない知識を入れてしまったせいで、薫にアクションを起こす可能性がある。

 記憶をどうにかできないだろうかと悩みながら、頭を抱えるのであった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 その日の夜。

 横の部屋が妙に騒がしい。

 防音の魔法が掛けられているが、壮大に騒げば若干だが耳をすませると聞こえる。

 薫は、姉妹ではしゃいでいるのだろうと思いながら、ペンを走らせる。

 冬吸風邪の予防や診察の仕方、症状や精製方法、薬の量などだ。

 大人と子供では、若干だが量を減らさなければいけない。

 そのような注意事項を書き出して、どこの治療師でも冬吸風邪の治療を受けられるようにする。

 アリシアは、最初頑張って薫と一緒にその作業をしていたが、眠気に勝てずテーブルに突っ伏し、規則正しい寝息を立てていた。

 スノーラビィは、薫の走らせるペンに釘付けになり、ペンの動きに合わせて体が動く。

 ちょっと面白いと思う。

 すると、いきなりスノーラビィの体が光り出す。

 この感じは、一度経験がある。

 スノーラビィを中心に、魔法陣が展開される。

 スノーラビィは、ピンと耳を立ててその魔法陣から離れる。

 すると、にゅるりと見覚えのある耳がその魔法陣から出てくる。



「こんばんは〜! 診察を受けに来ましたぁ」



 小さな声で、白のワンピースのような寝間着を着たプリシラが、元気一杯に挙手をしながら魔法陣から這い出てくる。

 もう二回目だから驚かない。

 ピンクラビィ40匹も次々と魔法陣からしゅつじーん! と言った感じで出てくる。

 ピンクの悪魔襲来……。

 そして、最後に薄い赤色のパジャマを着たサラマンダーと、色違いで青色のパジャマを着たウンディーネがその魔法陣から出てきた。



「夜分遅くにごめんなさい。プリシラ様がこの時間じゃないと危ないと言ったものですから……」



 ウンディーネは、そう言いながら申し訳なさそうに頭を下げる。

 アリシア対策だから仕方がないかと思い、薫は「ええよ」と言い、ウンディーネに頭を上げさせる。

 薫は、仕方がないと思いプリシラの定期診察をしていく。

 ほとんど問題は無い。

 ちゃんと言いつけは守っているようだ。

 薫は、ちゃんと言いつけを守っていたプリシラの頭を撫でる。

 プリシラは、「あー、幸せです。これを一生して頂きたいです」と言いながら頬を赤らめながら言う。

 それを見ていたピンクラビィ達は、皆ゴクリといった生唾を飲むような音をだす。

 正直怖いとしか言えない。

 薫は、恒例行事と化さなければいいなと思いながら、一匹ずつ撫で転がしてお帰り頂く。

 前回のこともあり、ピンクラビィ達は対策を練って来ていたようだが、薫の撫で転がしの前では、なす術もなくいいように転がされて妖精の国に繋がるゲートにホールイワンするのであった。

 40匹全てがお帰りした後、薫は残っている三人を見渡す。

 プリシラは先ほど撫でたのに、又してもらうために順番待ちし「私の番です。早く!」と言わんばかりに耳をぴょこぴょこさせる。

 サラマンダーは、誰かを探しているのかベッドの中や隙間などを隈なく探していた。

 ウンディーネは、保護者のような表情でプリシラとサラマンダーを見る。

 なんともおかしな光景に、薫は溜め息を吐く。

 小学生が保護者で、大人が子供と言った感じだからだ。

 薫は先ず、プリシラに待てと言って待たせる。

 プリシラは、名犬のようにピンと耳を立て正座待機する。

 そのまま薫は、しょぼんとしたサラマンダーに話しかける。



「フーリ探しとるんか?」

「うん」

「フーリは、今隣の部屋や。多分まだ起きとるやろうから、会ってくるとええんやないやろうか」



 薫はそう言って笑顔作ると、サラマンダーは嬉しそうな顔になり、パタパタと走りながら隣の部屋へと向かっていった。



「カオルさん、優しいですよね〜」

「前、フーリが会えなくてしょぼんとしとったからな。それと、次来た時は言うって約束もしとったし」



 そう言いながら、薫は笑うのである。

 そうしている時、何やら待て状態のプリシラとスノーラビィが話をしていた。

 スノーラビィが、「きゅきゅきゅーきゅきゅ!」と言うと、プリシラは肩を震わせながら今にも笑い転げそうな感じで耐えていた。

 薫は、まあいいかといった感じで、ウンディーネと話をする。

 比較的、この中で最も常識のある子だ。

 しかし、先ほどのスノーラビィの会話が聞こえたのか、ウンディーネは頬を染め口元に手を当てチラチラと見てくる。

 薫は、この時点で自身のことで知らない内に何か起きていると推測できる。

 聞きたく無いと思う半面、聞かなければ対処出来ないという面倒事。

 薫は渋々ウンディーネに聞く。



「何やら……クレハさんという方が、フーリさんに……その奴隷の奉仕を教えてしまったらしいです。あ、……えっと……よ、夜の方です」



 恥ずかしいと言った感じでウンディーネは、顔を手で隠す。

 その行動からすると、内容を知ってるということですよね? その容姿でその発言はアウトですよ。

 その後、クレハの契約書と奴隷契約の解放などの情報を聞いたが、最初のインパクトが強過ぎてかなり薄い存在感になっていた。



「……ああ。めんどくせー。一気にいろいろ来すぎやで……、もう何も考えないでそのまま夢オチにして欲しい気分や」



 そう言いながら、ソファに体を預けて目頭を押さえ眉間にシワが寄る。



「うーん、私の加護でも追いつかないレベルでごりごりと削れてます……」

「精神的に滅入るわ……」

「私が一肌脱ぎましょうか?」

「……その容姿でそう言う言葉はなしでお願いするわ……。はぁ……」



 薫は、どうするかなと考える。

 フーリは、どうとでもなるがクレハが面倒臭そうと思う。

 ここで、アリシアが起きてたらと思うとゾッとする。

 修羅場である。

 スノーラビィをこっちらにぶつけて来そうで怖いのである。

 プリシラのアリシア対策のおかげで助かっている。

 今はグッジョブ! とでも言っておこう。

 そんなことを考えていたら、扉が勢い良く開く。

 薫は、フーリか? クレハか? と思いバッと扉の方を向く。

 そこに居たのは、サラマンダーだった。

 ホッと胸を撫で下ろす。

 しかし、最高の笑顔でなぜかこちらに一直線に飛んでくる。

 薫は、反射的に飛び込んできたサラマンダーを抱きとめる。

 なぜ、このような行動をとってるかわからない。

 次の瞬間。



「カオル捕まえた!」

「……ああ、そういうことか」



 フーリの仲間についたなと思う。

 今直ぐにゲートへ放り込んでしまったほうがいい気がする。

 薫は、サラマンダーの服を引っ張るがびくともしない。

 Aランクまで上げてしまったが故の、溢れんばかりのパワーに服が破れてしまうため薫は手を離した。

 そのまま次に来る者を待つ。

 次に入ってきたのは、パジャマ姿のフーリだった。

 服装は若干はだけている。

 そして、付属品が引きずられて来ている。

 フーリのお腹に手を回して必死に止めようとしているが、ずるずるとクレハは引きずられていた。



「薫様! 私がごほ……」

「はい、ストップ。もう話は聞いてるからええわ。フーリはっきり言っておくけどなぁ……。そういうので返されても困る」

「うっ……でも、何も返せてない……」

「別に返してくれとも言ってもないし、そういったことは、心から好きな人とするもんや」

「……」

「まだ、そういったことがわからんのんやろ?」



 薫の言葉に、フーリはこくんと頷く。

 クレハは、ちょっとびっくりした感じで薫を見る。

 溜め息混じりに、「こいつは、俺をどんな男やと思っとるんやろなぁ」と思いながら、薫はアイテムボックスから奴隷契約書を出す。



「これは、ただの紙や。人の人生をこんなもんで縛る権利はない」



 そう言って、薫はその契約書をビリっと破り捨てる。

 フーリは、それを見てしゅんとする。

 もう、自分はいらない子なんだと思うのである。



「勘違いしてほしくないんやけど、フーリとは旅の仲間として頼みたいと言ってるんや。いらん子とか思って、勝手にしょぼくれとるんやないやろうな?」

「え?」

「これで対等ってことや。最初にも言ったやろ? アリシアの友達にもなってくれってな」

「……う、うん」

「フーリは一緒に旅したくないんやったら別にそれは止めへんし」

「いや。お礼できてないもん」

「なら、一緒に旅しょうか」

「うん」



 そう言って、フーリは笑顔を作る。

 薫もそれを笑顔で返し、頭を撫でるのであった。

 サラマンダーはきょとんとした表情で力が弱まっていた。

 薫は、すかさずひょいっとサラマンダーを引き剥がしてフーリに渡す。



「ふぅ……。これでひとまず一件落着やな……」

「本当に良かったわ……」



 そう言いながら、クレハはホッとする。



「何をホッとしとるんや?」

「え?」

「お姉さん? あんたが今回の原因作ったんやろ?」

「……は、はい」

「じゃあ、フーリの分もお仕置きが必要やな」

「へ?」



 ちょっと抜けた返事をするクレハ。

 何をされるかわからないクレハは、周りの人たちの反応を見る。

 皆、一斉に目線を逸らした。

 プリシラ、サラマンダー、ウンディーネは、そそくさとゲートへと足を運びだす。

 先ほどまで、撫でて~と言った感じだったプリシラは、無表情ですたすたと歩いているのだ。

 どれほどのことが起きるのかが予測できないクレハは、震えながら笑顔の薫を見つめるのだった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 スパニックの朝。

 アリシアは、心地良い鳥のさえずりで目を覚ます。

 テーブルに寝てしまったが、ベッドで寝ている。

 薫が運んでくれたのかと思う。

 横には眠っている薫。

 起こさないようにして、アリシアは布団を出る。

 すると、ソファにフーリが眠っている。

 なぜこんなところにいるのだろうと思うが、もう一人フーリの膝枕で啜り泣くクレハの姿があった。



「ど、どうしたのですか?」

「……ごめんなさい」

「え?」

「も、もう悪いことはしないから……。真人間になりますから……お仕置きはやだ……」

「……」



 アリシアは、夜遅くに何かしらあったのだろうと思う。

 薫が起きたら聞いてみようかなと考えながら、一旦洗面所へと行く。

 顔を洗って、目を覚ましてからタオルで顔を拭きそのまま部屋へと戻る。

 クレハは、若干トラウマ化したのだろうか、ちょっと心配になる。

 しかし、その心配はアリシアの予想通りになり、クレハはトラウマになってしまっていた。

 弱点が1つ増えることになる。

 クレハの啜り泣くのは、お昼まで続いた。

 やっと普通に戻ったクレハは、フーリの後ろに隠れて薫と話をする。

 相当だな……やり過ぎたか? と思うレベルであった。

 もう一度、契約内容などをアリシアを含めて話してもらう。



「ほんで? 帝国の制約と契約の書は、これで解放されるんか?」

「そ、そうなると思う……」

「あのなぁ、悪いことせん限りはなんもせんから」

「……」

「会ってから、俺がクレハさんに嘘ついたことあるか? 信用ないならいろいろと今ここで吐いてもええけど」

「……ないです」

「宜しい」



 薫は、すっきりとした表情で話を進めていく。

 アリシアは、薫が何を言ってるのだろうといった感じで見守る。

 ただ、何か隠し事でもあるのかなと思う。



「じゃあ、今から契約を破棄するね……」



 そう言って、クレハはテーブルに契約の書を置いて手でそれを抑える。

 そして、魔力を流しながら言葉を紡ぐ。



「吾、ミズチの長……。契約の破棄を命ずる。帝国の鎖を解き放て!」



 そう言うと、赤いクレハのオーラが契約の書に纏わり付き、そのまま炎のように燃え上がる。

 その瞬間薫はゾクッと嫌な感じがする。

 契約書に新たな文字が浮かび上がる。

 クレハは、目を見開きその文章を見た瞬間手が勝手に動く。



「フーリ逃げて!」

「え?」



 クレハの言葉に反応できず、フーリは一瞬でクレハが具現化した炎鬼に捕まる。

 燃え上がるような赤い魔力がほとばしる炎鬼。

 フーリは苦しそうに炎鬼の手の中でもがき苦しむ。



「なんで……。おねぇ……ちゃん……」

「違うの……違うの! 違うの! やだ、なんで……勝手に動かないで!」



 クレハの体の後ろに、何か闇に溶け込むかのようなドス黒い骸骨のようなものが現れるのであった。


読んで下さった方、ブックマークしてくださった方、感想を書いて下さった方、Twitterの方でもからんでくれた方、本当に有難うございます。


後もう少しで、総合評価が40000ptですって昨日言ったのですが……。

なんか本当に有り難うございます。

本日、総合評価が40000pt突破しました。

これ以上は、感無量ラインですので、のんびり伸びていってくれたらいいなという感じです。

そして、達成しまいしたので本日連日投稿します。


はい、次回も一週間以内の投稿を頑張ります。

体に無理はさせないレベルでですけどね。

ではー

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