アリシアのメモ帳と姉妹水入らず
スパニックへと着いた薫達。
城壁などはそれほど高くない。
街の作りは、石造りが主体であるがところどころに木造りの家も立ち並ぶ。
歴史があるのか、色はくすんで味のある色合いに染まっている。
街の人口は、約1万いるかいないかといった感じである。
人間と亞人がだいたい半々の街である。
そして、城壁の外は広大な果樹園が広がる。
ちょっと、今までにない分類の街でもある。
今まで田園などはあったが、このような一列に綺麗に並ぶ果樹園は珍しい。
どこまでも続くかのように見える。
それが何列も横に連なる。
見る者を圧倒するその広大な面積は、もはや芸術と言ってもいいくらいであった。
「凄い、綺麗」
「どれほどの収穫量があるのでしょうか……。広すぎるますよ」
「ほんまやなぁ。ここまで広いと、かなり大変な作業になるやろうなぁ」
「ここの名産品はぶどう酒なのよ。キンググレープを栽培している中では、この街が一番と聞いてるわ」
「ほほう、ぶどう酒か……。これは味見が必要やなぁ。ん? でも、冬に収穫できるんか?」
「スノーキンググレープは、冬にしか育たないの。だからそれは大丈夫よ」
「なんやクレハさんは詳しいなぁ」
「ふふ、それくらい常識よ。カオルさんは無知なのね」
そう言ってにやりと微笑みながら、口角を上げる。
このような小さな反撃をこの街に来るまでに何度もしている。
大きなことで衝突すると、薫は直ぐにフーリを呼ぶ。
なので、まったくもってこれ以上攻撃ができないというのもある。
薫とクレハの会話を、フーリはちょっと不思議な関係と言った感じで見ている。
嫌味っぽいことを言っているが、全く薫は相手にすらしていないからである。
むしろ、楽しんでいるようにも見えるのである。
フーリは首を傾げながら、わかんないといった表情をするのである。
「きゅ~!」
「スノーラビィちゃんどうしたのですか?」
スノーラビィは、その果樹園にたわわに実っているキンググレープを物欲しそうに見つめるのである。
一粒が親指サイズよりも大きい。
「だ、ダメですよ。あれは、この街の農家さんのです。あ、あとで買ってあげるのでもう少し待って下さい」
「きゅ? きゅー♪」
なんとか説得できたのか、スノーラビィは耳をぴんと立てて嬉しそうにアリシアの肩の上を飛び跳ねる。
喜びを表しているのか、アリシアの頬をすりすりと頬ずりしながら「きゅー!」と甘えてくる。
ふわふわな白い毛並みは、アリシアを至福の時へと誘う。
「こ、こら、だ、ダメなのですよ~。く、くすぐったいのです」
「きゅっきゅー♪」
そんなやり取りを薫は微笑ましいと言った感じで見つめる。
「一旦、宿屋を決めてから行動するとするかねぇ」
「薫様、どこにする?」
「どこでもええけど、さすがに下のランクにはもう泊まれへん体になってしもうたぁ」
薫はそう冗談ぽく言いながら笑う。
フーリは、どこでもオッケイといった感じで薫のそばで薫を見上げる。
屈託のない笑顔についつい頭をぽんぽんと撫でてしまう。
癖というのは怖いと薫は思うのである。
撫でリスト・極は、クレハには試してないが、あれが簡単に落ちるとは思えない。
よって、試すことは無いだろうなと思う。
いや、むしろ試したくもない。
こちらにデメリットの方が大きいのに、わざわざそこへと足を突っ込むなど愚の骨頂と言ってもいい。
そんなことを考えていたら、クレハが一度泊まったことのある宿屋があるとのことなので、そこへと向かうことになった。
アリシアも薫の横までとてとてと歩いて並んで歩く。
ちょっと、頬が赤いのは寒いからだろう。
りんごのように火照ったほっぺは、ちょっと突きたくなる衝動をかられてしまうのであった。
街の中心へと向かうとやはりというべきか、咳をしている探求者や冒険者が多い。
皆、治療院へと向かう途中なのか足取りが重そうにしている。
「くそー、なんでまたこの冬吸風邪に罹るんだ。夏に迷宮熱に罹ってるっていうのに……」
「仕方ないわよ。ほら、さっさと行きましょう。迷宮に潜れないんだからコミュニティーのお金を削ってどうにかやり過ごすしか無いわよ」
「ああ、迷宮熱の時みたいに特効薬が出回ったりしないかなぁ」
「あんなの奇跡みたいなものだから無理無理。それに、あのグランパレスの治療師は聖女のような心を持っているから、私達に薬を安く提供できるようにしてくれたのよ。普通なら独占して、高額で売りつけるに決まってるわ」
「そうだよな。リース様って女神だよなぁ。冒険者あっての職業とか言ってたらしいし」
「なかなかできないわよねぇ。平民出だからかしら? あ、でも、もう爵位を貰ってるから、私達が簡単に声をかけていい人ではないわよね」
「美人だって話だよな。あー、俺もグランパレスに行った時は、リース治療院で治療してもらいたいものだよ。エクリクスなんて、もう段々価値が落ちてるよな」
「そうですよね。あー、愛しのリース様、ひと目でいいから会ってみたいですね。噂によれば、またスタイルもいいとか……。治療費も格安で庶民の味方となれば、信仰する人たちも多いでしょうね」
「そうだよなぁ、はぁ、また、奇跡を起こすような出来事ってのは起きないものかなぁ」
そう言いながら、咳をしながらとぼとぼと歩く。
薫は、リースが女神化していることを耳にして、ちょっと苦笑いになる。
アリシアもまた、薫をつぶらな瞳で見つめる。
二人共、あのリースと言う人物を知ってるだけに、ちょっとなんと会話をしていいかわからないでいた。
終始、見つめ合う薫とアリシア。
お互いがちょっと苦笑いになるのは仕方がない。
おてんばというか、かなりせわしないリース。
そして、料理は壊滅的な物を提供する。
これは、薫談である。
たしかに、物静かにしていればかなり美人ではある。
喋ると、まぁ残念というかなんというかといった感じであった。
完全なる治療師馬鹿といってもいい。
そこが、リースのいいところでもある。
向上心が強く、庶民に対してかなり良心的な金額で治療しているといったこともでかい。
ある意味、冒険者からしたら女神と称されても、あながち間違いではないかなとも思う。
「リースって人は何をした人なの?」
「フーリ、リースって人はね。迷宮熱の特効薬を作った人よ」
「え? す、凄い人なんだね!」
「ええ、そうよ。帝国でもその功績をかなり大きく評価したみたいよ。毎年のようにこの大陸で流行する病気の特効薬だから」
「ねぇねぇ、薫様もその特効薬作れるの?」
フーリは、薫の技術であれば出来るのではないかと言った感じで聞いてくる。
薫は、なんと答えればいいのやらといった感じでフーリを見つめる。
リースに迷宮熱の特効薬の作り方を提供している。
しかし、それを言うとあとあと面倒と思うので、そこは言わなくてもいいかなと思う。
「作ることは出来るで、作り方はもう情報開示されてるからな」
「ふふふ、まぁ、他人の真似でしたら簡単ですものね」
「ああ、そうやな」
クレハの攻撃を華麗にスルーする。
しかし、薫の作る迷宮熱の特効薬はリースに教えた薬の約三倍の効力を持つ。
それを知ってるアリシアは、ちょっとムスッとする。
薫を侮辱するのは許さないとでも言わんばかりの表情なのである。
薫は、そんなアリシアの頭をそっと撫でる。
気にもしてないからといった感じである。
それに、面倒事が増えるだけだとも思えるからである。
「さて、宿屋はどこなんや?」
「ほら、あれよ。あの大きな建物がそうよ」
クレハは宿屋を指さしながらそう言う。
この街で一番高いであろうと思われる大きな宿屋。
石造りで作られた六階建ての宿屋。
どっしりとした作りで、国旗のようなものが飾られてある。
まさに高級ですよと言わんばかりの外装をしている。
周りの宿屋は、そこまでスペースを取っていない。
木造で作られてある建物が多い感じであった。
「そんじゃあ、部屋をとるかなぁ」
薫はそう言いながら、宿屋へと入っていく。
中は、赤い絨毯を敷き詰められたエントランスとなっている。
装飾品で飾られた壁。
どれも高級品と言わんばかりに主張している。
中は明るく、外の光源と殆ど変わらないくらいである。
カウンターには、その宿屋の制服なのかピシっとしたスーツのような物を着た受付が立っている。
落ち着きがあり、長年やってきたのだなというのが纏っているオーラでわかる。
白いひげを綺麗に整えてあり、営業スマイルを忘れない。
「先日はどうも」
「どうも、前回は急用のことで宿泊をお止めになったとか」
「ええ、でも、その急用はもう終わったの。だから、今回はゆっくりさせてもらうわね」
「左様でございますか。では、私達も存分にサービスさせていただきますよ」
「ええ、楽しみにしているわ」
クレハは、受付の老人とそのように話す。
終始笑顔なのは、フーリと一緒だからだろう。
「では、お部屋はどうされますか?」
「そうね。二部屋で」
「ランクはどういたしましょうか」
「もちろん一番上でお願いするわ」
なにやら勝手に話が進んでいるが、薫は気にせずにクレハに任せる。
どうせ、フーリと二人っきりになりたいのだろうと思う。
まぁ、姉妹二人でゆっくり話すのもいいかと思いながら薫はクレハを見る。
「では、最上階のお部屋を2つで宜しいでしょうか」
「ええ、それでお願いね」
「では、契約書に魔印を」
「はい、これでいいかしら」
そう言いながら、魔印を契約書に押す。
契約成立と言った感じでほわっと青白く光る。
「では、お部屋へとご案内しますのでしばしお待ちください」
「ええ、よろしくね」
そう言いながら、クレハはスキップしながらこちらへと帰ってくる。
そして、フーリの手を握ってクレハは言う。
「フーリ、今日は一緒に寝ましょうね」
「え? でも、いいの? 薫様??」
「ああ、かまわへんよ。せっかくゆっくり姉妹で居られるんやから、いろいろな話とかもいっぱいしたらええよ」
薫がそう言うとフーリはパーッと明るくなり、にっこりと笑顔になり「うん」と言ってクレハと手をつなぐ。
楽しそうでよかったと思いながら、薫はそんな二人を見つめる。
クレハは、ちょっと不思議そうな顔をする。
多分、いじわるで駄目とでも言うと思ったのだろう。
そんなことはしない。
むしろ、せっかく会えたのだからその時間を大切にしてほしいと思っている。
クレハは、軽い会釈をして薫を見る。
「アリシア、俺はそんなに鬼に見えるんやろうか?」
「な、なんのことでしょう……」
「おい、なんで目逸らしたんや? ちょっとお仕置きが必要なんやないやろうか」
「お、お仕置きなんていらないです! さ、ささ、早くお部屋に行きましょう! もうお疲れモードです! 今日はお昼寝をしなくては」
そう言いながらとてとてと歩くアリシア。
そんなアリシアを、薫はくすりと笑いながら最上階の部屋へと向かうのであった。
最上階の部屋に着くと、そこは見晴らしもよく辺り一面の果樹園が見渡せる。
「凄いのです。ニーグリルとはまた違った綺麗さですね」
「そうやな」
部屋も広く、クイーンサイズのベッドが2つ置かれている。
エントランスと同じ赤い絨毯が部屋に敷かれてある。
外が寒いのに、この部屋の中はほんのりと暖かかった。
窓も大きく、ソファーとテーブル、リラクゼーションチェアが置かれ快適に過ごせると言わんばかりの設備がある。
備え付けの小さな冷蔵庫のようなものがある。
その中には、瓶に水が入っていた。
勝手にとってもいいようになっているのだろう。
その他の飲み物は、ルームサービスと言った感じで運んでくれると言っていた。
アリシアは、ひょいとクイーンサイズのベッドに乗る。
そのまま、ころんと寝っ転がりベッドの快適さを確認する。
「ふかふかです……。眠くなってきました」
「きゅ~」
スノーラビィも一緒になって、ベッドのふかふか具合を確かめながら転がる。
飼い主に似るとはいうが、まさかここまで完璧に動きがシンクロするとは思わなかった。
少しすると、アリシアは丸まった状態で本当に寝てしまっていた。
薫はやれやれといった感じで、アリシアをそっと抱きかかえてちゃんとベッドに寝かせる。
ここ数日、いろいろと動いてもらっていたから仕方がないかと思う。
布団を掛けて、アリシアの頭を優しく撫でる。
すやすやと寝息を立てている。
その横にスノーラビィもそっと置く。
無防備な感じになっているため、簡単に捕まえられる。
薫は、そのままクレハの治療をどのように進めていくかを考えるのであった。
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薫たちの部屋の隣。
クレハとフーリは、ソファーに座って和気藹々と話をする。
「それでね、妖精の国でサラマンダーちゃんと仲良くなったんだよ」
「そうなの? よかったわね」
「うん、里に居たら絶対にこんな経験出来なかった」
楽しそうに話すフーリ。
うーんとね、えーっとね、などと言いながらである。
クレハもそんなフーリの表情を見て微笑む。
幸せな一時、いや、これから一生こうやって一緒に生きていける。
あとは、帝国の契約をどうにかすれば終わる。
そんなことを考えながら、フーリと話をする。
「お姉ちゃんはどうしてたの?」
「え? 私?」
「うん、いろいろなところを冒険したんだよね?」
「まぁ、したといえばしたかなぁ……」
ちょっと歯切れの悪い返答をする。
ほとんどが、フーリを探すために風景や街の様子などを覚えていない。
それ程に切羽詰まっていた。
大切な人がいなくなるということで、かなりのストレスを感じていた。
それも、生きてるかすらわからないという状況は、心にかなりの負担を掛けていたことも事実。
それによって、若干だが持病の間隔が早まったり、効果が効かなくなったりもした。
それをフーリに言うのもあれなので、適当に覚えてる範囲で話をする。
「そうね。この街からもっと北へ行くと【スピカ】という里があるの。そこで、面白い乗り物があるのよ」
「え?! どんなのなの?」
「うふふ、空を自由に飛べる乗り物よ」
「なにそれ! 凄い」
フーリはクレハの言った空飛ぶ乗り物に、興味津々といった感じであった。
クレハは、『ぶっ飛べスピカ32号』のことをフーリに教えると「乗ってみたい」などと言い嬉しそうに窓の外を見るのである。
自由に空を飛べるのは今のところ、エクリクスのダニエラくらいだ。
他にもいるにはいるが、人を運んだりなどという事はなかなかできない。
そして、圧倒的なスピードを出すことも出来ないのである。
出来るのは、ワイバーンを契約しているダニエラのみ。
だから、フーリはこのことを聞いて物凄くわくわくするのである。
「えへへ、薫様にこのことを言ったら多分行くって言う」
「もう……。フーリは直ぐカオル様って……」
「お姉ちゃん、ヤキモチ~」
「……」
そう言いながら、フーリはクレハをからかう。
すると、クレハはフーリを抱き上げベッドへとポイっと投げる。
ぽふんっと一度跳ねてぺたんと沈むフーリ。
服が若干はだけて、動きが悪くなる。
「お姉ちゃんを怒らせると怖いのよぉ」
「……は、はぅ」
「ふぅーりぃー!」
そう言いながら、クレハは笑ってるのである。
完全にじゃれあう気まんまんといった感じなのだ
クレハも続いてベッドへと飛んで行く。
うつ伏せでむくりと立ち上がり、逃げようとするフーリをガッチリと捕まえるクレハ。
そのまま、ぎゅっと抱きしめて動けないようにする。
「うわぁああ、お姉ちゃんはーなーしーてぇー」
「うふふ、だーめ」
そう言いながら、じたばたしながら笑っているのだ。
昔を思い出しながら、二人はその時間を楽しむのであった。
それから少してからのこと。
「……」
「どうしたの? お姉ちゃん」
覆いかぶさられているフーリの頬にぽたりと雫が頬を伝う。
それに驚きすっと振り返ると、クレハは涙を流していた。
「ごめんね……。早く助けに行けなくて」
「いいよ、気にしてない。それに会えたから……。平気だよ」
フーリは、抱きしめられているクレハの手にそっと自身の手を重ねる。
クレハの手は、ほんの少し震えていた。
本当に申し訳ないと思っていたのだろう。
自身の考えた計画が途中で失敗に終わったからだ。
直ぐに迎えに行くといったのに守れなかった。
しかし、確実ではないため、フーリは仕方ないと割りきっている。
「でも、フーリをいっぱい傷つけた……」
「そんなこと無いよ。むしろ、お姉ちゃんのほうが傷ついてる」
「私はいいの!」
「よくない! お姉ちゃんはわがまま。傷ついて苦しくてもそう言ってることが今までもいっぱいあった」
「うっ……」
フーリの強い口調にびくっと体が震える。
怒っていることは容易にわかる。
シーツを握る手は、強く握りしめている。
「お姉ちゃんは世界一強いの! でも、弱い部分もある。心までは強くすることは出来ないよ」
「……」
「だから、もう我慢しなくていいよ。私がいるから……ね。クレハお姉ちゃん」
フーリは優しい口調でそう言うと、緩んだクレハの手を取りそっと体勢を変える。
仰向けになったフーリは、クレハを抱きしめる形で優しく背中を撫でる。
クレハは、「ごめんなさい」と何度も謝る。
それに対してフーリは、「もう大丈夫だよ」と言って宥める。
その体勢のまま、クレハが泣き止むまでフーリはずっと撫でるのであった。
「お姉ちゃん一生の不覚……」
そう言いながら、クレハはどんよりとしたオーラを纏い言う。
体育座りで、ベッドの端でしょぼんとしている。
そんなクレハをフーリは強制的に自身の膝にぽふんと倒す。
鼻をすすりながら、目を擦るクレハ。
フーリは、そんなクレハの頭を優しく撫でる。
今回は、フーリが膝枕をして撫でている状態だった。
いつもとはちょっと立場が逆転している。
「で、でも、気持ちいいわね……」
「でしょ? 私は、クレハお姉ちゃんの膝枕が一番好き。ふわふわだから」
「もう、フーリったら……」
そう言いながら、嬉しそうにフーリの膝枕を堪能する。
今までしてばかりだったが、してもらうのというのもありだなと思う。
特に、フーリが言っていたふわふわといったことがなんとなくわかった。
最高に気持ちが楽になる。
そして、安心するのである。
「ほんと、ふわふわ……」
「え?」
「な、なんでもないわよ」
ついクレハは口に出てしまっていた。
焦って、口を手に当て恥ずかしそうにする。
「お、お姉ちゃん……。私、太った……?」
「そ、そんなことないわよ」
ちょっと詰まったのは、別れた後の体格から確実に健康体になっているということ。
胸も成長して、クレハ自身と変わらない大きさになっている。
まぁ、まだ少しクレハの方が大きいが。
「や、やっぱり太ったんだ……」
「ち、違うのよ。健康体にまで戻ったってことよ」
しゅんっと肩を落としたフーリを慌ててフォローするクレハ。
年齢的にかなり気にする年頃になったのだろうかと思う。
その時、ふとクレハは思う。
男か! と……。
赤い目が一瞬にして燃え上がる。
可愛い妹をたぶらかす男など焼き払ってくれる。
そして、クレハ自身が認める相手でなければ、到底付き合うなど言語道断と思うのだ。
「お肉ついた?」
そう言いながら横腹をぷにっと摘む。
ちょっと不安げな表情でクレハを見る。
その表情を可愛いと思ってしまうのはシスコンの性なのだろうか。
「ほ、ほら、フーリ、女の子は少しふくよかな方がいいのよ」
「そう?」
フーリは、ちょっと明るい表情になる。
「よかった。じゃあ、いっぱいレイアドラゴンのお肉食べれる。えへへ」
「……」
クレハの予想の斜め上の答えにちょっと呆気にとられる。
安心したのか、笑顔を浮かべながらクレハの頭を撫で撫でする。
クレハは気持ちよさそうに、そのまま幸せな眠りにつくのであった。
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アリシアが起きた時、珍しいものが目の前に飛び込んできた。
隣で、薫が寝ているのである。
今まで、魔力欠乏症時でしかこのような光景を見ることはなかった。
その時は、いつも苦しそうな表情をしている。
このように、スヤスヤと眠っているのは初めて見る。
アリシアは、そっと薫の前髪を触る。
母性本能をくすぐるのか、抱きしめたいという衝動に駆り立てられてしまう。
だが、なかなか大胆な行動が取れない。
少しでも動くと、今にも薫が起きてしまいそうな感じがした。
なので、そっと寝ている薫を眺めることにするのである。
「薫様……。あ、愛しております……」
ぽんっと顔を真赤にさせて恥ずかしさMAXになるアリシア。
今にも「はぅわあああ! きゃーー!!」っと頬に両手を当てて、叫んでしまいそうなそんな恥ずかしさでもあった。
出会った当時のあの感覚が蘇ってくる。
新鮮な間隔にアリシアは挙動不審になる。
そっともう一度薫の寝顔をじっと見つめる。
ドキドキが止まらない。
ここ最近はずっと大胆に行動をしていたが、勢い任せでやってきた。
改めて考えると、恥ずかしいことこの上ないことをやってきている。
アイテムボックスから一枚のメモを取り出す。
カリンメモ最新と書かれたハートマーク付きのメモ帳だ。
行ける時はゴーゴーなど、突拍子もないことが大量に書かれてある。
それをアリシアは「ふむふむ」等と言いながら見る。
「ね、寝ている時は、どのようにすれば……。や、優しく撫でるですね。ひ、膝枕は、ちょっとハードルが高いですね……」
そう言いながら、一旦メモ帳をポッケにしまってから、いざと言わんばかりに薫の頭を小さな手で撫でる。
さらりと一撫でする。
さらにもう一撫で。
撫でている内に、愛おしくなって仕方が無くなってしまう。
この感情を撫でることで薫にぶつける。
「な、撫で撫で……。撫で撫で……」
「……」
そこで一旦止めて、薫が起きてないことを確認する。
起きてないことを確認し終わると、アリシアはもう少しやってもと思いながら撫で始める。
小さな声で、薫に聞こえないように声を絞る。
「なーでなで♪ なーでなで♪」
「もうちょい上な」
「はい、わかりました♪ なーでなで♪ なーでなで♪」
「ああ、そうそう、気持ちええな」
「そうなんですよぉ♪ なーでな……!?」
薫は片目を開け、口元に手を当てくすくすと笑う。
「にゃあああああああ! 薫様起きてたのですか!? い、いつからですか!」
「いや、リズミカルになったとこからやから安心し」
「……」
顔を真っ赤にしながらぴょんと毛布をかぶり丸まってしまう。
しかし、おしりが隠れきれていない。
毛布の塊から「ふにゃああああ!」と声が聴こえる。
相当恥ずかしかったのだろう。
薫が、ふとベッドの端に見慣れないメモ帳を発見する。
「カリンメモ? 最新?」
「!?」
薫のその言葉に、アリシアはガバっと布団から飛び出して薫に飛びついて来る。
表情が必死だったため、薫はついついアリシアをキャッチして脇に抱える。
じたばたしながらアリシアは、「やめて下さい。見ちゃダメですぅ!」と言うのである。
薫は、中をパラパラとめくるとそこに書かれている内容の全体像が簡単に理解できた。
アリシアは、メモを見られてしまいくったりと力尽きた。
頭から煙を出しながらである。
「ほう、カリンと連絡とりあっとたんか? いや、サラさんとカインさんも絡んどるな」
「……」
「アリシアさん? ちょっと聞きたいことあるんやけど? ええか?」
アリシアは、観念したかのようにちょこんと座る。
両人差し指をつんつんと引っ付けながら目線をそらす。
「いつから、こんなメモを送ってくるようになったんやろうなぁ」
「え、えっと、ビスタ島でお手紙を送ったら、ニーグリルで手紙と一緒に……」
「ほうほう、良い嫁になるための行動ねぇ」
「ま、まだしてないことの方が多いですよ?」
「そうやなぁ、せんでええことまでしっかり書いとるなぁ」
薫はいい笑顔でアリシアを見る。
アリシアは「フーリちゃんヘルプミー!」と言わんばかりに目を泳がす。
しかし、隣の部屋まで念力は届かないようだ。
「手紙はビスタ島からならかなり時間がかかるはずやけど」
「た、多分、オルビス商会の緊急の連絡用を使ったのだと思います……」
「……」
そこまでして、このメモ帳をアリシアに届けたかったのかと薫は思う。
どうしようもない馬鹿親だなと薫は思いながら溜め息を吐く。
本当に……。
「そんなことせんでも、アリシアはちゃんとええ嫁さんしとるから安心してええよ」
「!?」
そう言って、頭をゆっくり優しく撫でる。
アリシアは、恐る恐る顔をあげる。
カオルと目が合う。
「自然体でええよ。無理してそんなことせんでも。素のままのアリシアが俺は好きなんやからな」
「きゅ~」
薫の言葉にぽてんと倒れるアリシア。
なんとも面白い生き物なのでしょう。
嬉しすぎたのか、笑顔でベッドに倒れ込む。
両手をパタパタしながら、何やら表現できない嬉しさを表現しているようだ。
スノーラビィは、そんなパタパタしているアリシアを見て首を傾げる。
今起きたばかりで、状況が把握出来てないようだった。
まだ寝足りないのか、立ち上がらずに匍匐前進のように枕の下へと進んでいき器用によじ登って丸まって眠るのであった。
その日、アリシアは笑顔が崩れることがなかった。
食事をする時も、お風呂にはいる時も終始満面の笑みでいるのであった。
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朝、奇跡が起こる。
薫が目を覚ますと、隣で寝ていたアリシアがいない。
一瞬ベッドの下にでも落ちているのではと思い両サイドを二回ほど見る。
一応、ベッドの下も確認したがアリシアの姿がない。
薫は焦ったが直ぐにアリシアは姿を見せた。
朝のシャワーを浴びていたのだろう。
バスルームのある部屋から、頭にタオルをかぶり髪の毛をごしごしとしながら満面の笑みで出てきたのである。
「薫様、おはようございます」
「ああ、おはよう……。アリシア、熱でもあるんか?」
「……」
アリシアは、薫の言葉にちょっとムッとする。
しかし、今までの起きれないという失態を重ねてきただけになんとも言い返せない。
「今日は、凄く目覚めが良かったんです」
「そ、そうなんや……」
「な、なんなんですか薫様! 本物ですか? っていう目線やめて下さい」
「ああ、すまんすまん」
薫はそう言いながら、アリシアの頭をぽんぽんと叩く。
ちょっと機嫌が良くなると、薫は今日の行動をアリシアに話す。
簡単に言うなら話題そらしだ。
「一応、まだクレハさんの冬吸風邪が完治してないから、この街の冬吸風邪をどうにかしようと思う」
「はい、それはいいことだと思います。ですが、どのようにするのですか?」
「たしか、アルビス商会の系列店ってこの街にあるやんな」
「はい、たしかあったと思います」
「そこから流すかと考えとる。その方が、皆疑わずに服用してくれるやろ? そのまま、噂が流ればこっちも動きやすいからな」
そう言いながら、薫は説明していく。
アリシアは、なるほどといった感じで薫を見る。
「でも、薫様が全面に出たほうが良いのではないでしょうか?」
「まぁ、そこは他の治療師達が五月蝿そうやからいろいろと情報を開示してオルビス商会でも流してもらうってことをする。独占すると、また面倒事に巻き込まれるからな」
「そうですよね。高額な値を付けて、病気の人の足元を見る人が出てくるかもしれません。そのようなことをしたら、なんのための薬かわからなくなってしまいますもんね」
そう言いながら、アリシアは胸の前に握りこぶしを作りグッとする。
「診察の練習も兼ねてやったらええよ。ちょっとこの街の領主に話でも付けてこようか」
「はい、無駄な争いをしないですむようにですね」
「そういうことや。じゃあ、アリシアはさっさと髪乾かさんとな」
「はぅ……。ひ、ひとりで出来ますよぉ」
そう言いながら、薫に髪の毛を乾かしてもらうアリシア。
気持ちよさそうにしながら、されるがままになるのであった。
その後は、二人共白衣に着替えて宿屋を出る。
フーリとクレハは、まだ寝ているようだったので、ドアの隙間に手紙を挟んで出た。
一応、受付の老人にも伝えるだけはした。
「さて、うまく行けば臨時で治療院を貸してくれるかもしれへんからな」
「病気の皆さんを助けましょー!」
二人は、そう言いながらスパニックの街を歩くのであった。
読んで下さった方、ブックマークしてくださった方、感想を書いて下さった方、Twitterの方でもからんでくれた方、本当に有難うございます。
現在、過労のためちょっといろいろと止まっている状態です。
前の話の修正もしたいのですが、本調子ではないので修正できてない状態です。
感想で書かれている指摘は、もう少し待っていただけると助かります。
それと、今回の話の誤字脱字の修正もですね。
次回の投稿は、問題なく一週間以内は出来ると思います。
多分ですが……
ではー次回をお待ちください




