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クレハの病気

 コテージに移った薫とアリシアは、診察を開始する。

 まずは、持病を持っているとのことなのでそれを調べることにする。

 スノーラビィは、一時的にフーリの頭の上に避難していた。

 ちょこんと乗っかり、くてぇっとしている。

 フーリは、心配そうに見守る。

 何もできないフーリは、もっと薫からいろいろ聞いておけばよかったと思う。

 昨日の講習も、興味を持って知識を詰め込むため、頑張っていたが途中でパンクした。

 脳が途中で拒絶反応を起こしたのか、頭から煙を発しながらぺたんと机に突っ伏す。

 馬車の中で、ちょこっとだけ薫が教えてくれたがまだ理解するには程遠い状態だった。

 薫からは、少しずつでいいんじゃないか? と言われたが、どうしてもクレハの病気をフーリ自身でどうにかしてあげたいと思う部分があった。

 

 

「フーリから聞いとったけど、持病ってるって話やろ?」

「うん、お姉ちゃんは元々体が弱かったの。でも、今の薬で良くなった」

「どのような病気でしたか? 何か特徴はあるのでしょうか?」

「そうねぇ、咳をすることが多かったかしら……。そのせいで、中々訓練を受けることが出来なかったわ」

 

 

 そう言いながらクレハは顎に手を当てる。

 薫はアリシアと一緒に、クレハの病気を調べていく。

 アリシアの診察眼の訓練といってもいいだろう。

 薫は『診断』を使えば、直ぐに答えがわかる。

 だがそれは、答え合わせで使う程度にとどめている。

 多用しすぎるのは、自身の成長の妨げにしかならない。

 緊急事態などではない限り、そちらをメインに使うことはない。

 薫とアリシアは、そのままクレハにいろいろと質問をしていく。

 アリシアは、クレハの言った言葉の中で一つ疑問に思うことがあった。

 

 

「お部屋の中の方が体調が悪くなったのですか?」

「ええ、喉が締まるような感覚といったらいいのかしら……。外に居るときの方が少し楽ではあったわ」

「ふむ、なるほどなぁ」

「えっと、こんなので本当に病気がわかるの?」

「まぁ、ええから。今は答えてくれるだけでええねん。まずは、これが一番大事な診察になるんやからな」

 

 

 薫からそう言われて、クレハは歯切れの悪い返事をする。

 今まで、このような診察など受けたこともない。

 このようなことで、何がわかるのだろうかといった感じで不安になる。

 アリシアと薫は、真剣にクレハの回答を聞いて二人で病気を探していく。

 一つの見逃しが、病気への道筋を消してしまう。

 この前のプリシラのときような失敗をしないために、アリシアは慎重に一つ一つ聞いていく。

 段々、アリシアと薫が確信に迫る質問に切り替えていく。

 

 

「布団などは、ちゃんと日光に当ててますか?」

「え? それはしてると思うけど……。でも、密林の奥の村だから日光が余り当らないかもしれないわね。湿気も酷いときもあるし」

「咳などは、やはり夜の方が強く出たりしませんでしたか?」

「な、なんでそんなことがわかるの? アリシアさん、まるで、私の病気が何か知ってるみたいな質問よそれ?!」

 

 

 アリシアは、浮かれずに状況を整理しながら考える。

 いつもなら、「えへへ、そんなことないです」などと言いながら、アリシアはちょっと浮かれながら診察をして、見落としが出て診察を失敗したりする。

 成長したんだなと思い、薫はアリシアを見る。

 ちょっと考え込むアリシアは、大人っぽく見えて可愛かった。

 仕方ないね。

 薫は、もうあらかた病気の見当がついた。

 検査などで、アリシアにどのようになっているかを、あとで詳しく解説しながら一つ一つ理解してもらうかと思う。

 あとは、アリシアが答えを導き出せるかを見守っている状況。

 

 

「うーん、クレハさんもしかしたらですが……」

 

 

 アリシアは、今回確信に近いものを感じているが、前回のこともあり若干不安ありといった感じで病名を告げる。

 

 

「気管支喘息ではないかと思います。それも、発症原因は調べないとわかりませんが、ダニ、カビなどを呼吸で吸い込んで、体がそれに反応したアレルギー性の病気だと思います」

「?」

 

 

 クレハは、聞いたこともない病気にきょとんとする。

 薫は仕方ないかと思いながら一から説明をしていく。

 アレルギー性の気管支喘息は、気道がアレルゲンによって炎症を起こして、狭まり喘息を引き起こすもの。

 主に、ハウスダスト、ストレス、食品などといった物が原因で発症することがある。

 あと、現代でもまだ全て解明されていない。

 いろいろな要因があるとされ、未だにわからないことがある病気の一つ。

 気道は内側から、気道上皮、気道粘膜、平滑筋の三層で出来ている。

 気道上皮にアレルゲンが付着し、そこから体がアレルギー反応を起こして気道粘膜が炎症を起こす。

 炎症を起こすと気道粘膜が腫れ上がり、そのせいで気道が狭まり、ひゅーひゅーといった呼吸音がしたりする。

 クレハに説明を終えたあと、薫は答え合わせで『解析』を使い病名を調べる。

 見事、アリシアは診察でクレハの病名当てていた。

 薫も、もちろん正解していた。

 

 

「そ、そんな病気があるの?」

「ああ、その病気があんたの体を苦しめとったんや。あと、それの治療はまた厄介でなぁ。長期の療養が必要になるんやけどええか?」

「どのくらいなの? に、2週間くらい?」

「一月以上は確実やな。体の中に、前の薬の依存症が残っとるやろうからなぁ」

「もっと早く治らないの?」

 

 

 クレハは、早く治らなければ困るといった感じで薫に言う。

 しかし、そんな簡単に治る病気ではない。

 現代でも治すというより、抑える薬または喘息をコントロールすることが出来るようにする薬などがある。

 あとは、原因とされる食品などを、摂取しないなどといったことをしなければいけない。

 そうしていれば、普通に暮らすことが出来る。

 

 

「お姉ちゃん焦っちゃだめ。ゆっくり治すの!」

「は、はい……」

「うん、クレハお姉ちゃんえらいえらい」

「フーリ、ちょ、ちょっと恥ずかしいから……」

 

 

 

 フーリはクレハの頭を優しく撫でる。

 恥ずかしがりながら、クレハはやめるように言うがちょっと満足そうな表情をする。

 耳と尻尾があれば、絶対に振っているだろうなと思う。

 こんな感じで、ずっと安定して大人しければ良いのに……。

 フーリ限定というのがなぁ……。

 面倒にも程がある。

 薫はそんなことを考えながら次に移行する。

 

 

「そしたら、他の病気に発展してる可能性があるからもうちょっと調べるけどええか?」

「なっ!? 他にも、私は病気を持ってるの?」

「可能性があるってことや。副作用に厄介ものが付属してるからな」

「そう言えば、さっきもそんなこと言ってたわよね」

「発ガン性物質が入ってるんや。意図的に入れてるのかは、わからんけど体には毒でしかないからな」

「「ハツガンセイブシツ?」」

 

 

 クレハとフーリは、きょとんとする。

 首をゆっくり傾げながら言う。

 さすが姉妹、ピッタリと息の合った動きがちょっと面白い。

 

 

「それも説明せんといけへんか」

「ほ、本当にそんな病気があるの? なんかちょっと疑わしいわよ」

「どんな感じになるか見るか? 一つサンプルの映像があるけど」

 

 

 薫が言うサンプルは、グランパレスで治療したアルガスの映像だ。

 癌は癌でも大腸癌のサンプルだ。

 クレハは、どの癌になるかは検査してみないとわからない。

 ちょっと強気な態度でクレハは見ると言ったが、見た瞬間後悔した。

 痩せこけたアルガスの映像。

 そして、それを治すための手術シーン。

 手術が終わり薫が旅立つまでの間、定期的な診察の映像も入れてある。

 順を追って見たが、もう死んでもおかしくない状況から、薫の診察中に悪態をつきながら叫んでいるシーンが流れる。

 肌の色も明らかに治療する前より格段に良くなっている。

 悔しそうに表情を歪めながら、薫の治療方法をよく観察しているアルガス。

 為になるということが分かるからこそ、そのような行動を取っている。

 アリシアは、その映像を一度見ている。

 薫の説明付きで、事細かくなぜこのように治療するかなどをだ。

 

 

「私もこんな風に弱るってこと?」

「あの薬を飲み続けるとな。いずれ、なんらかの場所にがん細胞ができるやろうな」

「そのがんと言う病気に罹ると、どのくらい生きれるの?」

「人によって異なるが、長くはもたんやろうな。若い人に罹ると、進行が早いからちょっと厄介やねん」

 

 

 薫はそう言いながら、難しい顔をする。

 薫がそんな表情をするということは、それほど危ない病気だということが分かる。

 アリシアも、この癌の恐ろしさを知っている。

 発病して手術で取り除いても、ほんの少しその細胞が体内に残っていると、転移などで他の場所へと移動してまた再発すると薫から聞かされているからだ。

 フーリとクレハは、その癌の怖さを知らないため、またしても首を傾げてしまう。

 薫は、そんな二人を見てちょっと苦笑いになる。

 フーリは目をクリクリさせながら、クレハがその病気にならないようにするにはどうすればいいかを必死に薫に詳しく聞いてくる。

 ちょっと可愛らしいので、一撫でだけする。

 くしゃりと髪の毛を撫でると、くすぐったそうにする。

 

 

「ちゃんと、説明するからな。まずは、癌になってるかを調べへんことには始まらんから調べてこうと思う」

「薫様、お願い! お姉ちゃんを助けて」

「薫様、フーリちゃんのお姉さんを助けて欲しいのです」

「はいはい、ちょっと二人共落ち着こうか。ちゃんと見るからそこまで必死にならんでもええよ」

 

 

 薫は、そう言いながらクレハを見る。

 とりあえず、どの程度薬を服用していたかをクレハに聞く。

 

 

「大体でええわ。その薬を飲みだしたのはいつ頃や?」

「えっと、たしか、二年前くらいだったような……。帝国の治療師にもっといい薬があると言われて、今まで飲んでいた薬を更に改良したものと言ってたわ」

「なるほどなぁ。二年か……。依存症的にはちょっと長いなぁ。ちょっと体に魔法かけるからじっとしといてくれるか?」

「な、わ、私に触るつもりなの?!」

「触らんでも使えるから……。面倒くさいやっちゃなぁ……。ほんまに、フーリに言うで」

「……ご、ごめんなさい」

「お、お姉ちゃんどうしたの??」

 

 

 薫の一言で、完全にクレハはおとなしくなる。

 それも異常なほどに早かった。

 シュタッと立ち上がったが、薫の言葉にしゅ~っとその場に座り込むクレハにフーリはびっくりするのである。

 しょぼんとした表情で、クレハは薫を見る。

 言い返せないこの魔法の言葉に、もはや戦意喪失している状態となる。

 クレハがおとなしくなったところで、薫は癌が進行しているかを調べにかかる。

 発がん作用の効果が、どの程度ミズチ一族もとい鬼人族の体に進行していくのかはわからない。

 人間との違いもある。

 特に亜人の者は、人間に比べて免疫力などが高い場合が多いことがわかっているからだ。

 薫は、まずクレハの体に魔法を使う。

 

 

「医療魔法――『FDG・ベクトル1』」

 

 

 クレハの体が一瞬、青白く光る。

 暖かく、全身を包み込まれるような感覚に陥る。

 検査をするため、FDG(ブドウ糖に近い成分)をクレハの体内に投与する。

 現代であれば、点滴もしくは錠剤などで投与することになる。

 そして、それをしてから大体30分から1時間の待ち時間が必要になる。

 全身に行き渡るまでの時間が必要になるからでもあるが、薫の医療魔法はそういった待ち時間が必要無い。

 掛けた瞬間に全身に浸透していく。

 経験したことの無い感覚と聞いたことの無い魔法にクレハは驚く。

 

 

「い、いりょう魔法? そ、そんな魔法聞いたこと無いわよ」

「大丈夫、お姉ちゃん。薫様が助けてくれるから。ね」

 

 

 フーリは、そう言いながらビシッとサムズアップをする。

 なんとも言えない良い笑顔でクレハを見る。

 そんなフーリの表情を見たら、クレハは一瞬で魅了されてしまう。

 何と言っても頬を突きたくなるようなもち肌。

 ほんのり桜色に染まる頬をつんっと突けば、ぷるんと吸い付き、自身が幸せになれるだろうと思ってしまう。

 クレハは、そんな衝動を抑えながら薫の治療を受ける。

 治療を受けていなければ、飛び付いて抱きしめて、撫で撫でしてあげたいと思ってしまう。

 クレハは、そっと薫の方を向き直ると、若干呆れ顔で見られていることに気がつく。

 心を読むな! と言った目線を薫にぶつける。

 薫は、その目線を浴びながらからからと笑う。

 

 

「それじゃあ、次に移るけどええか?」

 

 

 クレハは膨れっ面で頷く。

 ジト目で、じっと睨みをきかせながらである。

 薫は、そんなクレハを完全にスルーし、次に必要なことをしてもらう。

 

 

「そこに、仰向けで寝て横になってくれ」

「わ、わかったわよ……」

 

 

 そう言いながら、クレハは薫の指示通り仰向けになる。

 大きな胸が、やたらと主張してくる。

 若干だが、クレハのほうが大きい。

 

 

「そしたら、調べるからじっとしとくんやで」

「ぷいっ」

 

 

 そう言いながら、横を向くクレハ。

 そうすると、フーリは心配そうにクレハを見つめる。

 心配で心配でたまらないといった表情で、クレハを見るだけについつい笑顔を作ってしまう。

 シスコンの性である。

 

 

「医療魔法――『PET検査・ベクトル1』」

 

 

 金色にクレハの体が光る。

 そして、その調べた情報が薫のステータス画面に映し出される。

 PET検査とは、陽電子放射断層撮影という意味でポジトロン・エミッション・トモグラフィーの略称で言われる。

 癌を見つけるための検査で、現代でもよく使われるもの。

 癌は基本、腫瘍や体の不調などが起きてから検査することが多い。

 PET検査は、腫瘍などが出来る前の初期状態の時に見つけることが出来る。

 

 

「な、なにこれ……」

「ほら、じっとしとかなアカンやろ」

「……」

 

 

 薫の注意にクレハは、じっとして動かなくなる。

 相変わらず、不機嫌な感じは消えない。

 情報が全て整ったら、薫はその情報を1つずつ確認していく。

 アリシアも薫のステータス画面を覗きこむ。

 体を輪切りにしたような青い中に、部分的に緑、黄色、赤へと着色された部分が映る。

 色が変わっている部分は、FDGが多く吸収された部分を示す。

 がん細胞が、正常な細胞よりブドウ糖を吸収しやすいという特性を持っているため、色も変わる。

 そのことを、1つずつ説明していきながら見る。



「これは……。癌は見当たりませんね……」



 アリシアは、首を傾げながらそう言う。

 薫のステータス画面を見ながら、ちょっと自信なさげな言い方をするのである。

 それも仕方がない。

 癌と思しき物が見えない。



「そうやなぁ。PET検査だけじゃわからんからMRIとCT検査もやってみるか」



 そう、PET検査も万能では無い。

 これ一つでは、癌を見つけることが出来ないこともある。

 この検査は、初期の癌を見つけることができるが、判定が困難な部分もある。

 胃や食道の消化器系粘膜に発生するごく初期の癌や、小さながん細胞が散らばって存在する場合。

 糖を必要としない癌細胞、炎症を起こしている部分は、FDGが集まりやすいために見分けがつきにくい。

 それと、元々多く糖が消費する部分として、脳や心臓、蓄積しやすい部分は肝臓、尿道、膀胱などがある。

 これらが見つけることが困難と言われる部分になる。

 だから、他の検査と併用してすることによってより確実に分かるようにする。

 薫は、CTとMRIを医療魔法で使いその情報を先ほどのPET検査の情報と重ねる。

 しかし、何も癌と思える物は発見できなかった。

 薫は、そこで一つPET検査で見つけれない癌を一つ思い浮かべる。



「最後に、内視鏡検査だけしとこうか」

「薫様、胃ですか?」

「ゼロと決まったわけやないからな」



 薫はそう言って、クレハに浴衣を少し緩めるように言う。

 クレハは、渋々薫の言う事を聞いて帯を緩める。

 そして、仰向けから横に向いてもらう。



「医療魔法ーー『消泡剤・ベクトル1』、医療魔法ーー『抗コリン剤・ベクトル1』」



 薫葉が魔法を執行すると、青白くクレハの体が光る。

 消泡剤は、胃を綺麗にする物。

 胃の中には泡があるため、それを消す役割がある。

 抗コリン剤は、胃の運動を止める役割がある。

 準備が完了したら、薫は医療魔法ーー『内視鏡検査・ベクトル1』を使う。

 普通の内視鏡検査の場合は麻酔を使うが、薫の医療魔法の内視鏡検査はチューブを使わないため、麻酔は使わない。

 青白い空気のような物が口にはいるため、マウスピースを咥える事もない。

 クレハの口にスーッと青白い空気が入っていく。

 なんとも感じないため、クレハはきょとんとしている。

 薫は、胃まで内視鏡を進めていく。

 ステータス画面に、クレハの胃の内部の映像が映し出される。 

 薫とアリシアは、その映像をくまなく見ていく。



「か、薫様、ここに周りの色とは違うしこりが見えます」



 アリシアは、そう言いながら指摘してくる。

 薫もそれを確認し、内視鏡を操作する。



「ああ、初期段階やけど、胃にあるな」

「か、薫様、お姉ちゃんは大丈夫なの? しゅ、手術が必要なの?? もう……手遅れなの」



 フーリは、そう言いながらちょっと涙目で薫を見る。

 不安でたまらないといった感じがしみだしている。

 フーリの反応を見て、クレハも不安になる。

 尋常では無いくらい、フーリは取り乱しているからである。

 薫は、クレハの内視鏡を抜き取り魔法を解除する。



「え? ど、どういうことなの? わ、私は、あの映像の人みたいになるの??? やだ、やっとフーリに会えたのに……。もう、死ぬの……。やだよぉ……」

「ああ、もう……、ちょっと落ち着いてくれへんかな。ちゃんと一から説明するからな。フーリも、そんな取り乱したら、お姉ちゃんが不安がるやろ」

「うう、ご、ごめんなさい」



 そう言いながら、ほろほろと大粒の涙が溢れる目をごしごしと擦る。

 そんなフーリをアリシアはゆっくりと宥める。

 少ししたら落ち着きを取り戻す。

 それを確認してから、薫はクレハとフーリに病状を説明していく。

 胃がんという病気は、胃にがん細胞が出来てそこからどんどん進行していく。

 日本人の死亡原因の中で第二位としてもあげられる病気でもある。

 進行は、胃壁を浸潤していく。

 胃壁の構造は、粘膜層、粘膜下層、筋層、漿膜下層、漿膜となっている。

 そして、胃がんの進行度はステージⅠからⅣまである。

 ステージⅠは、粘膜層から粘膜下層までの間で進行していることを言う。

 この状態であれば、内視鏡手術で治すことが出来る。

 そして、生存率も約95%と高い。

 そこから、1つずつ胃壁の層を下に深く浸潤していくとステージもあがる。

 最後のステージⅣは、生存率約14%となる。

 いかに早く見つけるかが鍵と言っても良い病気のひとつ。

 定期的に、胃カメラなどをしている人は、その時に見つかることがある。

 クレハは、ステージⅠに分類される。

 それも、かなり小さいので命に別条はない事を説明する。

 そうすると、フーリと抱き合ってわんわん泣くのである。

 死ぬかもしれないと思っていたのだろう。

 あの映像を見ただけに、最終的にあのようになって、若い年でフーリと別れを告げなければいけないと思うとそうもなってもおかしくない。

 薫は、優しく「治るから安心してええよ」と言うと、少し心を開いたのか睨むのをやめて「絶対治してよ」というのである。

 ちょっと表情が泣いていただけにクシャッとしている。

 歳相応といったらあれだが、今までのつんつんとした感じはなかった。



「とりあえずは、今飲んどる薬はもう飲んだらあかんからな」

「お姉ちゃん、絶対ダメ!」



 薫が言ったあとに続いて、フーリが言う。

 そして、手を胸の前で交差させてペケマークを作る。



「絶対にもう飲まない。でも……、それに変わる薬ってあるの?」

「それは問題あらへんから。とりあえず……」



 薫はそう言いながら、解析を掛けて薬の構成を出していた。

 異世界産で作れるように調整した物。

 それを三点ほど手の平から金色に輝き生成される。



「「え゛?」」



 フーリとクレハは、ありえないものを見たかのような反応をする。

 無から有を生むことはありえない。

 素材を集め、それを調合してなどの工程をしなくては作ることが出来ないのが常識。

 しかし、薫はそのようなことを一切なしで薬を作りだした。



「説明するで? この粉末の薬がこれから毎日服用する薬や。ほんで、こっちの薬は、吸入する薬や。吸入用は、気管が腫れて息がしにくい時に口に当てて呼吸するんやで」



 何事も無かったかのように説明をしていく。

 唖然とした二人は、若干空返事ぎみになるのである。



「ほんで、手術をする前に、まずは冬吸風邪を治してからやな。医療魔法の『内視鏡』は、映像のみしか出来へんからなぁ。まぁ、万能やないからしかたないっちゃしかたないんやけど。それから、この錠剤を三日間飲んでもらうからな。まぁ、俺も含め全員やけどな」

「薫様、私も飲むの?」

「ああ、飛沫感染するからな。さっき咳しとったやろ? あれを少しでも吸い込んだら、体内でその菌が体の中で活発に動き回るんや。あとは、免疫が低下した時にガツーンとやられて冬吸風邪の発病というわけや」

「薫様が言っていたマスクというものを作ったらいいと思うのですよ」

「ああ、最低限は病気の予防とか考えんとなぁ」



 薫はそう言いながら、顎に手を当て考える。

 ついでに、手に持っていた冬吸風邪の特効薬を口に含む。

 コテージのテーブルの上のコップに水を入れて、一口飲んで流し込む。



「さすがに、このままこの場に留まるのもあれやから、街へ移動するかな」

「スパニックを目指すのですよね? 薫様」

「ああ、そのつもりや。戻ってもええけど、冬吸風邪を向こうの街で流行らせたくないってのがでかいかな」



 そう言いながら、薫は椅子に座る。

 薫が作り出した薬を三人は飲み、一息つく。

 話し合いが終ったところで、スノーラビィがむくりと体をフーリの頭から起こす。

 蹴伸びのような格好をとってから、しっぽをふりふりさせて、ぴょんとフーリの頭から降りる。

 そのままアリシアの肩までよじ登り、くてぇっとまた定位置で落ち着くと言わんばかりにリラックスしだす。

 アリシアは、そんなスノーラビィの体を優しく撫でるのであった。

 すると、



「か、薫様! スノーラビィちゃんの毛が……」

「お! 生え変わりかな?」



 そう言いながら、スノーラビィを見る。

 アリシアが撫でたところのピンク色の毛がスルリと拔けて下から白い毛がふんわりと出てくる。

 フーリとクレハも珍しそうにその光景を見る。



「スノーラビィちゃんの毛……まっしろ」

「ピンクラビィじゃなかったの? この子」

「えへへ、なんと凄く珍しいスノーラビィちゃんです。ピンクラビィちゃんの仲間なんですよ」



 屈託のない笑顔でクレハに言うアリシア。

 とても大好きなのがよくわかる。

 それに、ちゃんと懐いているのもまた珍しい。

 完全に放し飼いで、ピンクラビィを飼うことなど不可能とクレハも思っていた。

 実際に完全放し飼いで飼っているのは、アリシアとビスタ島にいるシュリだけである。

 クレハは、くてぇっとしているスノーラビィの頬をつんと突くと、前足でちょんちょんと動かし、邪魔と言った感じの仕草をする。

 ちょっと面白いと思ってしまう。

 フーリはそんなクレハを見てニッコリと笑顔を浮かべるのであった。

 その後は、朝食の際にまたクレハが薫にぶーぶーといちゃもんをつけるが薫の「フーリ! あのなぁ……」で、直ぐさま立場をわきまえてぺこぺこするのである。

 朝食をさっさと済ませて、薫たちはスパニックへと出発するのであった。


読んで下さった方、ブックマークしてくださった方、感想を書いて下さった方、Twitterの方でもからんでくれた方、本当に有難うございます。

めっちゃぎりぎりで申し訳ない。

仕事の方が多忙のため、このようになってます。

もう少ししたら、楽になるはず……。

はい、次回も一週間以内の投稿を頑張りたい。

ではー

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