表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/95

薫VSクレハ!?

 薫たちは、スパニックまで約60kmのところに居た。

 街道を外れて、川の流れる場所にコテージを張っている。

 

 

「えへへ、やはりこのお布団は最高なのです」

 

 ひらりとアリシアは広げる。

 ピンクラビィと同じピンク色の丸型ふわふわ布団。

 寝る者を暖かく包み込み、幸せな夢へと誘う魔性布団として売り出されてあった。

 アリシアは、自身のお小遣いで購入していた。

 

 

「アリシアちゃん、ピンクラビィ毛布私も入る」

「ふ、フーリちゃん、く、擽ったいですよぉ」

 

 

 二人は、きゃっきゃ言いながら就寝モードへと移行していく。

 スノーラビィは、ピンクラビィ毛布の上にころんと丸くなってもうおやすみモードになっている。

 規則正しく寝息を立てていた。

 しかし、アリシアとフーリが毛布の中で動き回ると、山と谷が出来るためスノーラビィはころころと転がってしまっていた。

 眠いせいか起きることはない。

 もう好きにしてと言わんばかりにころころと転がる。

 

 

「しかし、夕方に吹いた突風はなんやったんやろうなぁ」

「分からずじまいでしたね」

「うん、わからないまま」

 

 

 皆、突風の正体がわからないまま、自然現象と言う風にまとまった。

 それ以外に何か心当りがないから仕方がない。


 

「ほら、もう遅いんやから寝んと明日起きれへんやろ」

「「はーい」」

「うん、よろしい」

 

 

 そう言いながら、薫も布団をかぶり眠りにつく。

 その後も、アリシアとフーリはきゃーきゃー言いながらピンクラビィ毛布の中で騒いでした。

 絶対に朝起きれないだろうなと薫は思いながら、意識を手放すのであった。

 

 

 朝になり、薫は体を起こすとアリシアはなぜかこちらの布団にちょこんと入り腕に抱きつき眠っている。

 昨日、何時まで起きていたのかわからない為、今日はいつ頃起きるのかなと思う。

 幸せそうな表情で、ギュッと抱きついている。

 頬を突くと、「んっ、かおるしゃま……。愛しております……」などと言う。

 いったいどんな夢を見ているのやらと思いながら、薫はゆっくりとアリシアから離れる。

 離れると、アリシアは寂しそうな表情になったので、薫はピンクラビィ毛布の上で眠っているスノーラビィを回収して、アリシアの手の上に乗っける。

 表情が幾分和らいだので、これでいいかと思う。

 そのまま、薫はコテージを出る。

 伸びをして、体を左右に動かす。

 澄み切った空気を吸い気分が落ち着く。

 

 

「さて、朝食の準備でもするかな」

 

 

 薫はそう言いながら、アイテムボックスから料理セットを取り出そうとする。

 その瞬間、炎を纏った得体の知れない物体が高速で回し蹴りを繰り出し、薫の顔面を蹴る。

 ズドンと鈍い音とともに、砂煙をまき散らしながらぶっ飛んでいく。

 ぶっ飛んだのは、薫ではなく襲い掛かってきた者だった。

 

 

「朝っぱらから奇襲とはどういう要件や? ってか、あれってフーリと同じスキルじゃあ……」

 

 

 薫が殴り飛ばした物体をよくよく見ると、フーリが使う炎鬼にそっくりだった。

 という事は、これを操る者の見当がつく。

 固有スキル、それもこの世界で二人しか使えないというレアなスキル。

 

 

「ミズチ一族の族長クレハか……。また面倒いのんが出てきたなぁ」

 

 

 そう言いながら、薫は溜め息を吐く。

 ここ数日、朝からまぁ忙しいというか、面倒事のオンパレードで嫌気がさしていた。

 せっかくウンディーネから、気分が良くなるおまじないをかけて貰っても意味が無い。

 色んな意味で、ストレスマッハなのだ。

 そんな事を思っていたら、林から姿を現わす者がいた。

 

 

「話に聞いてた通り、意外と出来るようですね……」

 

 

 仮面をつけた女性。

 フーリと同じ髪色。

 面の目の部分から見える目は、燃え盛る炎を連想させる。

 服装は、真っ赤な赤色の着物で薫の知らない花の柄が縫ってある。

 着物も着崩してあり、動きやすいようにという感じだろう。

 

 

「とりあえず、俺狙われるような事した覚えないんやけどな」

「嘘よ! フーリを無理やり買い取ったんでしょ!」

「はい?」

 

 

 クレハの言葉に、薫はこいつ何言ってんねんと言った表情になる。

 完全に人の話を聞かないというか、思い込みが激しいというか……。

 

 

「あんたの言うてる事が、全く理解できへんのんやけど。俺は無理強いなんてしとらんし」

「マリーさん達から聞いてるんだから! フーリを美味しいご飯で釣ったって」

「……」

 

 

 薫は、今の言葉でマリーが厄介ごとをこちらにぶん投げた事を理解した。

 心の中で、カラフルピンクめ! と思いながら悪態をつく。

 まぁ、ゆくゆくは会う事になっただろうが、この出会いは最悪と言ってもいい。

 こちらが、完全に犯罪者扱いだ。

 そして、重度のシスコン。

 面倒にもほどがある。

 

 

「とりあえず、大人しくしてて欲しいんやけどなぁ」

「あなたの命で、清算して貰います」

「なんか、物凄い理不尽な清算方法やな……。しゃーない、どうにかしてみるか……。あと、これ全部終わったら、マリーに一発お仕置きが必要やな」

 

 

 薫はそう言って、クレハと対峙する。

 二人とも異常な魔力を纏いながら、睨み合う。

 先に動いたのは、クレハだった。

 魔糸を炎鬼に接続すると、一気に動かす。

 踊るように、炎鬼を操り薫に連撃を浴びせる。

 フーリとは比べ物にならないほど無駄な動きがない。

 普通の冒険者ならこれで確実に死んでいるだろう。

 しかし、薫はその全ての連撃をカウンターによって倍にして炎鬼に跳ね返す。

 一撃一撃がとてつもない威力のため、跳ね返る威力がありえない衝撃波として辺りを震わせる。

 数分撃ち合っただけで、炎鬼の装甲はボロボロになった。

 

 

「おかしいですね……。マリーからはAランクの冒険者と聞いてましたが……」

 

 

 薫はその言葉に、マリーは情報を少し改ざんしていることがわかった。

 だが、お仕置き免除とまではいかない。

 どんな刑を執行してやろうかと思いながら、薫はクレハと戦う。

 今度は、クレハと炎鬼二人同時での連撃。

 高速で動き、目で追うことが困難になりそうなレベル。

 そして、炎鬼以上に威力のあるクレハの攻撃を、薫は全く見ずに受け流しカウンターに乗せる。

 完全自動カウンタースキルのため、効果は絶大である。

 しかし、人型でなければ発動はしない。

 欠点もあるが、殆どの人間に対しては無敵と化す。

 その威力を炎鬼へと流して消滅させる。

 クレハは、薫の能力の高さを見て、顎に手を当て少し考える。



「ふむ、仕方ないですね……。なぶり殺す予定でしたが、そうも言ってられないようです。ごほ、ごほ。あ、あなたに敬意を払って全力で消してあげます」

「いや、ほんまに敬意とかへったくれもない事言うてるのに、気がつかへんとかやばいで?」

「だ、黙りなさい! 悪党の分際でそのような事を口にするなどあり得ません!」

 

 

 薫は、全力で来るクレハの余波で、アリシアやフーリが巻き込まれないだろうかと心配に思う。

 現に、かなりの余波がコテージにぶつかっている。

 下手すると、コテージごと飛んでってしまいそうでヒヤヒヤする。

 薫は、クレハの余波を自身の力でコントロールしながら、最小限の余波にしてコテージにダメージを与えないようにしている。

 そろそろ、完全に守りに入るか、さっさと眠って貰うかしないと、この街道共々大変なことになる。

 もう仕方ないかと思い、薫はとっておきの秘策に出る。

 クレハのお仕置きは後回しで、まずは取り押さえることが先決と思うからだ。

 引っかかるかはわからないが、クレハなら意外と引っかかりそうと思うが、どうなのだろうか……。

 

 

「紅蓮の焔の化身よ……我の前に現れろ! 完全固有スキル『傀儡人形ーー炎皇王・鬼神……」

「あ! フーリや」

「え!? どこどこ!?」

 

 

 完全固有スキルを途中で解いて、薫が見つめる方をキョロキョロしてしまうクレハ。

 まさか、本当に引っかかるとは思わなかった。


 

「隙あり」

「あっ……」

 

 

 薫に背後を取られ、そのままうつ伏せの状態に倒される。

 薫は、がっちり腕に関節技をきめる。

 身動きが取れず、クレハはぐったりする。

 魔糸を操るミズチ一族にとって、手を怪我するということは死を意味する。

 これは、フーリが言っていた。

 絶対に、このようなことになってはならないのだが、フーリを餌に使った結果、簡単に背後をとれて腕も人質に出来た。

 弱々しい声で、「卑怯者! 悪党!」などと言う。

 もうそれで結構です。

 とりあえず、このまま少し大人しくしててほしいと薫は思う。

 そう思っていたとき、若干だがクレハの呼吸器系統に違和感のある呼吸をしていた。

 薫は風邪かなと思いながら、これからどうするかと思いながら、片手で関節技をきめたまま考える。

 そんな時だった。

 目を擦りながら、コテージから出てくるフーリ。

 そのまま、川へ行って顔を洗おうとしていた。

 

 

「おーい、フーリ。お姉ちゃん捕まえたけどどないする?」

「?」

 

 

 薫の言葉にフーリは首をかしげる。

 それもそのはず、こんなところにクレハがいるなど想像もつかないからである。

 何度も目を擦りながら二度見をして、ようやくクレハと認識したのか、こちらに向かって走ってくる。

 フーリは、そのまま屈んでクレハの仮面をパッと外して顔をよく見る。

 薫は、もう大丈夫かなと思い関節技を外しクレハから離れる。

 

 

「フーリぃ……」

「クレハお姉ちゃん!」

 

 

 フーリは、ギュッとクレハに抱きつく。

 涙がほろほろと頬を伝う。

 本当に嬉しいのだろう。

 

 

「痛いところない? ちゃんとご飯食べてる? 病気はどう? いじめられたりしてない?」

「うん、薫様とアリシアちゃんがいるから何にも問題ないよ」

「ほ、本当に? 本当に本当??」

「本当だよ」

「む、無理に言わされてない? 言いたい事は、はっきり言わなくちゃ駄目なのよ」

「うん、手の痺れも治してもらったよ。あとね、顔とか体の傷も全部だよ。それからね、レイアドラゴンのお肉も食べた。すっごく美味しいの。あとね、あとね」

 

 

 屈託のない笑顔で楽しそうに話すフーリ。

 フーリと会話をしていると、クレハは薫に対してとんでもない間違いをしていたのではないかと思う。

 その瞬間、血の気がサッと引いていく。

 しかし、認めてしまえばそれは謝っても済まないレベルの事をしている。

 完全に悪党呼ばわりして、殺そうとしていた。

 マリーの時と同じである。

 謝らなければと思うが、なかなか声に出ない。

 フーリにバレたらどうしようと思う気持ちの方が大きいからだろう。

 

 

「お姉ちゃんどうしたの?」

 

 

 フーリは、目の泳ぐクレハを見つめてそう言う。

 尋常ではない大量の汗を掻くクレハ。

 目をキラキラさせながら、慕っている目線でフーリから見られると心が痛い。

 薫は顎に手を当て、何か面白そうなことを考える。

 ニヤリと片方の口角だけを上げ、クレハを見る。

 我ながら、あくどい考えがぽんぽん浮かんでくるなと思う。

 クレハは、嫌な予感が身体中に流れる。

 薫の表情は、完全に悪魔のように見えたからだ。



「フーリ、実はな。さっきいきなり……」

「うわああああああ、フーリなんでもないのよぉ~」

「?」

 

 

 クレハは薫のアロハシャツをつかみ、「(本気でやめて下さい! お願いします)」と眼力で訴えてくる。

 あまりの必死さに、これは嫌われたくないのだなと直ぐに理解できる。

 大変面白い光景に、薫は笑うのを必死で堪える。

 そんな二人を、きょとんとした表情でフーリは見つめる。

 

 

「薫様どうしたの?」

「な、なんでもないのよフーリ。ね、ね! カオルさん! ( お願いだから、本当に、本当にお願いします。嫌われたら、私はもう生きていけないです!)」

 

 

 なぜか、眼力で会話をしてくる。

 これ以上からかうと、あとが面倒臭そうというのと、こちらの交渉カードとして置いておきたいというのもある。

 確実に優位に立てるカードなだけにあまり多用はせずに、黙らせたいときに使うかと思う。

 薫は、いつもの笑顔でフーリに「なんでもないで」と言うと、「そう? わかった」と言って、クレハにべったりと引っ付き甘える。

 クレハは、完全に薫に弱みを握られる形になった。

 クレハの一番恐れるフーリの最強魔法『お姉ちゃん嫌い!』が発動するかしないかの瀬戸際だから仕方がない。

 その後は、猫を被ったかのようにおとなしくなる。

 いや、これが本来のクレハなのかもしれない。

 精神安定剤とも言えるフーリをぎゅっと抱きしめる。

 クレハは、自身のレジャーシートを地面に敷いて、そこに座る。

 フーリに甘えられて、デレっとしている。

 クレハの太ももを枕にして、フーリは至福の時と言わんばかりにご満悦な表情になる。

 

 

「やっぱり、ふわふわ。これが一番落ち着く」

「もう、全く変わってないんだから……。フーリ、それと私は太ってないんだからね。ごほ……」

 

 

 クレハはそう言いながら、優しい表情になる。

 薫は、若干咳をしているクレハが気になる。

 フーリの昔話を聞いていたとき、クレハは病弱であったと聞いていたのもある。

 しかし、クレハは、凄く顔立ちが整っている。

 美人だなと薫はついつい思う。

 だが、中身は完全に末期なシスコン女性。

 残念美人だなと思いながら二人を見つめる。

 そんな事を思いながら、アリシアが起きてこないなとふと思った瞬間、コテージからコンっという気持ちのいい音がする。

 少しすると、たんこぶが出来た頭を摩りながら、アリシアがコテージから出てきた。

 スノーラビィが肩に乗り、きゅーきゅー鳴いている。

 また、寝ている間にスノーラビィをモフり倒したのかなと思う。

 しかし、今回は少し状況が違った。

 なぜか、スノーラビィの方がアリシアのご機嫌をとっている。

 薫は、頭にクエッションマークを出しながら考える。

 しかし、答えは見えてこない。

 こちらに、とぼとぼと歩いてくるアリシア。

 何も言わずに、薫にぎゅっと抱きつきそのまま停止する。

 

 

「どないしたんや?」

「……」

「きゅ、きゅきゅ〜! きゅっきゅきゅきゅー!」

「いや……。スノーラビィ語はわからんから……」

「きゅ……」

 

 

 全く喋らず、アリシアは抱きついたまま離れない。

 スノーラビィは、何か必死で伝えようとしている。

 薫は、アリシアを宥めながら話を聞く。



「何があったんや?」

「今回何もしてないです……」

「ん?」

「何もしてないのに、スノーラビィちゃんからたらいを落とされました」

「ああ、何となく予想がついたわ……」



 薫は、スノーラビィの誤爆にアリシアが巻き込まれたと推測する。

 その場に居たわけではないが、たまに寝ていて誤爆することがある。

 そう言ったときは、薫がキャッチしたりしていた。

 いつもと立場が逆転しているのは、そのためかと思う。



「そういうときもあるやろ。アリシアも間違ったりするやろ?」

「はい……。でも、今回はたらいの角でした……。お目々の前に火花が飛んだのです」

「痛かったんやな。ほら元気だし」



 そう言いながら、たんこぶの部分に回復魔法を掛ける。

 腫れはひき、その部分を薫は優しく撫でる。

 ほんの少し元気を取り戻すが、精神的ダメージがでかいのだろう。

 しょぼんとした表情は、なかなか晴れない。

 こんなときに、使えない撫でリスト・極だなと思う。

 フーリは、そんなアリシアを見てひょこりと立ち上がり、アリシアの下へと向かう。



「アリシアちゃん、元気出して」

「はい……。元気なのですよ」

「ん〜、そうじゃない。あ、そうだ! こっち来て」

「え?」



 そう言ってフーリは、アリシアの手を引いてクレハの下へ行く。

 ここに来てアリシアは、初めてクレハが居ることに気がつく。

 わたわたとしながら、アリシアはぺこりとクレハに挨拶をする。

 ショックの大きさで、視野が狭まってしまっていた。



「私の特等席! 貸してあげる!」

「え?」



 そう言いながら、フーリはクレハの太ももをぽんぽんと叩く。

 アリシアは、良いのだろうかといった感じでクレハを見る。

 フーリと一緒で、顔立ちも良く美人。

 女性のアリシアでさえ、吸い込まれそうなほど綺麗と思ってしまう。

 アリシアよ、騙されてはいけない。

 そのクレハは、末期のシスコンだ!



「よ、宜しいのですか?」

「フーリと仲良くしていただいてるアリシアさんですよね。構いませんよ」

「ほら、アリシアちゃん早く早く」



 最高の寝心地と言わんばかりに、アリシアをクレハの太ももに寝かせる。

 アリシアは、ちょこんと「お邪魔します」と言いながら、クレハの太ももに頭を乗っける。



「どう? 気持ちいいでしょ? ふわふわなの!」



 いつもは、ここまではしゃいだりしないフーリだが、珍しく今日は鼻息を荒くして言う。

 確かにふわふわで、寝心地は抜群に良い。

 そしてここで、止めの優しく頭を撫でられるとなんとも言えない幸福を味わう。

 あまい花の香が、リラクゼーション効果をもたらしているのか、とろんとしてしまうのである。



「な、なんでしょうか!? この幸福感! 凄いのです」

「フーリとお友達になってくれてありがとう。細やかですけどお礼も兼ねてです」

「ふわふわなのです」

「ふわふわだよね」

「もう……。二人してそのようなこと言わないでくれますか?」



 クレハは、そう言いながら笑みを浮かべる。

 アリシアは、なんとか精神的ダメージから回復した。

 そんなときだった。

 クレハの呼吸音に違和感を感じる。



「クレハさん、病気ですか?」

「え? ああ、元々持ってる持病があるのよ」

「だ、大丈夫なんですか?」

「ええ、薬を飲めば直ぐに良くなるから」



 そう言って、クレハはアイテムボックスから小瓶に入った薬を取り出す。

 それをアリシアに見せながら言う。

 薫は、その薬に『解析』こっそり掛ける。

 クレハとの距離があるが、スキル効果が届いた。



【雷光蟲の結晶粉末】

 ・成分、雷光蟲の化石

 ・効果、免疫力微増、体内殺菌作用・最上級

 ・副作用、強い眠気、発がん作用あり、依存症の危険あり。



 これを見て、薫は即座に飲むのをやめるように言う。

 クレハは、何を根拠にと言った感じで薫を睨む。



「こ、これがなければ、私は戦うこともできないのよ! これから、フーリを守らなくてはならないのに飲むなというの!」



 苛立ちを隠しきれず、ちょっと荒い口調で言う。

 せっかく自身の持病を抑える事の出来る薬を手に入れたのに、飲むなと言われればそうなるかなと薫は思うが、副作用の発がん作用と依存症はさすがに見逃せない。

 飲み続ければ、いずれ癌になる。

 そして、若い内に命を落とすだろう。

 まずは、どのような持病を持っているかを調べる必要がある。

 どのくらいの期間飲んでいて、癌が発病しているのかも見なくてはならない。



「言うとくぞ。フーリと長く楽しい人生送りたいんならその薬は飲むな。その薬の副作用で強い眠気の他に、罹ると厄介な病気につながる作用がある」

「なっ……」



 先ほどとは違い、大真面目な表情と声のトーンで薫は話す。

 薫の言葉にクレハは驚く。

 この薬は、まだどこにも出回ってない代物。

 作ったのは、帝国の治療師。

 精製方法も極秘とされ、クレハはそこから仕入れて服用している。

 なぜ、見ただけで薬の作用までわかるのか不思議でならない。

 当てずっぽうで言って、嘘を吐いているのではないかと疑いたくなる。



「か、薫様、お姉ちゃん大丈夫なの?」



 フーリは、薫の言葉を聞いて大慌てといった感じであたふたする。

 アリシアは、未だに膝枕をしてもらってる状況だが、ちょっと体勢を変えて胸に耳を当てる形で引っ付く。



「早くしたほうがええのは確かやな」

「し、信用出来ないもの」

「お、お姉ちゃん、薫様は凄いんだよ! 私の病気も治してくれたの。だから大丈夫だよ」

「で、でも……」



 フーリにも言われ、板挟み状態になる。

 そんな時だった。

 アリシアがクレハから離れて薫に言う。



「薫様、ちょっとクレハさんの呼吸音がおかしいと思って聞いてみたのですが……。た、たぶんですが、冬吸風邪(とうきゅうかぜ)の症状が出てると思います」

「え?」

「ほう」



 アリシアは、ちょっと不安そうな表情でそう言う。

 薫は、アリシアもクレハの呼吸器の異常に気がついたことに感心する。

 現代で言うインフルエンザだ。

 この異世界では、冬に呼吸をすると咳が出ることから、風邪に似た症状として冬吸風邪と言う。

 現代では、薬も充実しているため亡くなる人は少ない。

 例外はある。

 突然変異したインフルエンザは、抗体が無く死に至るケースもある。

 薬がなく隔離などをして、周りに感染させないようにしなければならない。

 異世界では、突然変異などというのは今のところ無いが、いつどのようになるかなどはわからない。

 なので、それを解決できる機関は必ずいることにはかわりない。



「まぁ、信用ないのは知っとるけど、とりあえず騙されたと思って一度治療したらええやん。それで治れば儲けもんやろ?」

「むっ……。た、たしかにそうだけど……」

「お姉ちゃん……。お願い」

「うっ……。わ、わかったわよ。い、一度だけよ……」

「一度で十分や」

「薫様なら大丈夫です。なんたって最高の治療師ですから」




 フーリの涙目でうるうるな訴えに勝てずに、クレハは了承する。

 薫も一回で確実に信用を勝ち取る気満々で治療に入る。

 持病のことも気になるし、資料になかった病気も出てくるだろうと思う。

 先々で、役立てる足掛けになればいいかなと思いながら、薫は一旦クレハをコテージに連れて行くのであった。


読んで下さった方、ブックマークしてくださった方、感想を書いて下さった方、Twitterの方でもからんでくれた方、本当に有難うございます。


質問に答えて頂きありがとうございました。

また、質問などをあとがきに書くことがあります。

その時は、宜しくお願いします。


次回も一週間以内の投稿を頑張りたいです。

ではー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ