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新たな仲間!? スノーラビィ?

 妖精の国。

 薫の魔力欠乏症は、アリシアの魔力補給とドルクが大量に持っていたMP回復アイテムを使い3日で回復した。

 その間、アリシアから「安静にしていないと、め! なのですよ!」と言われコテージから一歩たりとも出られなかった。

 そして、アリシアに思う存分餌食になる。

 天使のような笑顔で迫ってくるアリシアにコテージで看病? された。

 これは、仕返……お返しをしなくてはならない。

 調子づいたあの表情を完全に崩したくなる。

 ここ3日で、アリシアはツヤツヤになっていた。

 こっちが体調の悪い時に好き勝手しやがって……。

 

 

「薫様、もう大丈夫ですか?」

「ああ、アリシアのおかげで助かったわぁ」

「えへへ、薫様の為ならこのような事などへっちゃらなのですよ!」

 

 

 そう言って、薫の腕に引っ付き頬を擦りつけてくる。

 最高の笑顔でアリシアは薫を見てくる。

 アリシアの笑顔に薫も癒やされる。

 そして、どう料理してやろうかとも思う。

 薫はそんなことを考えながら、頭を撫でる。

 アリシアは、直ぐに気持ちよさそうに喉を鳴らす。

 そのまま、頬を伝って顎の下を優しく撫でる。

 今にも「きゅっきゅー♪」と言いそうな表情になる。

 ピンクラビィと一緒のような気もするが、まぁ気にしない。

 薫は、そのままアリシアを連れてプリシラの下へと向かう。

 古城に着くと、アリシアはちょっと困った顔で薫を見る。

 

 

「薫様、私も行ってもよろしいのでしょうか?」

「ん? ああ、関係ないからええよ。むしろ、今までも来てよかったんやけどな」

「そ、そうなのですか? 薫様は、何か隠し事をしているのかと思ってました。プリシラさんの事でですけど……」

「ん? なんや? 気づいとったんか?」

「や、やはりそうだったのですね! 薫様は、ぷ、プリシラさんの事を……」

「好きとかやないから安心してええからな」

 

 

 アリシアの言葉に被せる形で勘違いを先に潰す。

 アリシアはそれを聞き、目を点にして首を傾げる。

 ちょっとアホの子になってますよ、アリシアさん。

 

 

「な、何を隠してるんですか?」

「それは、来てからのお楽しみや」

「お、お楽しみですか?」

「そうや、多分見たら歓喜するんやないかなぁ」

 

 

 そう言って、薫はアリシアを見つめる。

 若草色のワンピースと上に桜色のラシャコートを着ている。

 今日のアリシアの髪の毛は、サイドテールだった。

 ちゃっかり、ピンクラビィ柄のシュシュでまとめられている。

 数ヶ月間の間、髪の毛を切ってない為結構伸びていた。

 

 

「アリシア、髪の毛伸びたなぁ」

「か、薫様、急にどうしたのですか?」

 

 

 薫は、長くなったアリシアの髪の毛を触る。

 アリシアは、ちょっと恥ずかしそうな表情になり頬を染める。

 そして、こちらをチラチラと見るのである。

 

 

「薫様は、短い方が好きですか?」

「ん? どっちも好きやで。でも、アリシアの好きなようにすればええと思う。俺はどんな髪型でもアリシアやったら好きやからなぁ」

「そ、そうですか……。うぅ……は、恥ずかしいのですよぉ」

 

 

 そう言いながら、アリシアは自身の髪の毛に指を絡ませながら言う。

 薫は、そんなアリシアを見て笑う。

 可愛らしくもじもじするアリシア。

 そっとアリシアの手を取り、薫は古城の中へと向かうのであった。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 古城の謁見の間。

 プリシラは、ピンクラビィ布団で幸せそうな顔で眠っていた。

 肌寒い季節になっている為、プリシラ専用と化している。

 そんな、幸せそうな表情で寝ているプリシラを薫とアリシアは見つめる。

 

 

「う、羨ましいのですよ……」

「アリシアもしてもらえばええやん」

「き、きっと、たらいの嵐が降るのですよ」

「……ああ、なんとなく想像できるな」

「か、薫様、何笑ってるんですか! あれはすごく痛いのですよ!」

「痛いやろうなぁ。食らったことないけど」

「ぐぬにゅ……」

 

 

 アリシアは、薫の言葉に頬を膨らませ、ムスッとした表情になる。

 頬を突くのを薫は我慢しながら、プリシラを揺すって起こす。

 夢見心地で、全く起きる気配がない。

 どこかの誰かさんと一緒のようだ。

 名前は伏せさせてもらおう。

 

 

「起きないのです……。プリシラさんは目覚めがよわよわなのですよ。シャキッとしないとダメなのですよ」

「……」

 

 

 薫は、アリシアの言葉によくそのようなことが言えるなと思う。

 言葉には出してないが、その雰囲気を感じとったのかアリシアは慌てて弁明をしてくる。

 

 

「か、薫様、私はプリシラさんのように起きないことはないのですよ! ちょっと朝が弱いだけなのです。頑張ればシャキッと起きれるのですよ! ほ、本当なのですよ」

 

 

 必死なアリシア。

 両手をぱたぱたさせながら言う。

 薫は、笑顔のまま無言で二度頷く。

 それを見てアリシアは、プリシラのことを責めれなくなる。

 

 

「うぅ……。わ、わかってるのですよ。か、薫様が目覚めのキスで起こしてくれるのなら、私は一瞬で起きちゃいますよ?」

「ほーう、今言うたな? 絶対起きるんやな?」

「……はい。……多分……なのですよ」

 

 

 薫の言葉にそっと目をそらすアリシア。

 そして、追い詰められる。

 薫は、明日からそうやって起こすが、起きなければ即擽りの刑を執行すると言ってこの話を終わらせる。

 アリシアは、涙目で頷くことしか出来なかった。

 絶対に起きれない事を自身が一番よくわかっているようだ。

 薫は、プリシラを起こすために刑を執行する。

 今までで、一番効果のあった起こし方だ。

 

 

「アリシア、おもろいものが見れるからよう見とくんやで」

「ふぇ?」

 

 

 そうアリシアは言って首を傾げながら言う。

 薫は、プリシラの頭を撫で始める。

 するとにょきにょきと髪の毛の中に収納していたピンクラビィの耳が出てくる。

 

 

「!?」

 

 

 アリシアは、その光景にお目目を丸くしてじっと見つめる。

 ぴょんぴょん左右に動くピンクラビィの耳を目で追う。

 首元を撫でるとプリシラは「きゅ~♪」と言いながら、喉を鳴らす。

 そして、薫の手を取り頬ずりをしながらゆっくりと目を開ける。

 開けた瞬間、アリシアと目が合う。

 

 

「きゅ?」

「はわぁ……。ぷ、プリシラさん……」

 

 

 目を擦りながら状況を把握しようとするプリシラ。

 ピンクラビィの耳が出ている事に気づき若干青ざめる。

 アリシアの目が、キラキラと光輝きながらプリシラのピンクラビィの耳をロックオンしている。

 

 

「あ、アリシアさん。お、おはようございます……」

「ぴ……、ぴ……」

「え?」

「ピンクラビィちゃんだったのですねぇ! プリシラさんは!」

 

 

 そう言いながら、ビシッと指を前に突き出し言う。

 まるで難事件を解決したかのような表情でだ。

 かなり興奮気味で肩で息をしている。

 薫はそれを見て、口元を抑えながら笑いをこらえる。

 そんな薫をプリシラは見て助けを求める。

 涙目でかなり必死な表情である。

 

 

「凄いのです! ひ、人の姿をしたピンクラビィちゃんです! ぷ、プリシラさん、もひゅもひゅさせて下さい! わ、悪いようにはしないのですよ!」

 

 

 完全にロックオンされるプリシラ。

 寝起きも相まって、体が思うように動けない。

 今にも飛びつこうとするアリシアを薫はヒョイッと抱えて止める。

 

 

「はい、アリシア興奮を落ち着かせようなぁ」

「はぅううう。薫様! ずっとこのことを隠していたのですね」

「そうやで。なんで、そんなドヤ顔で言ってるかしらんけど。妖精の国なんやから、こういう事もあり得ると思うんやけどなぁ」

 

 

 アリシアを確保して貰って、もふもふされるのを回避出来たプリシラは、一安心といった感じだった。

 本気で青ざめていたから仕方がない。

 真顔で、お手々をわきわきさせているアリシアの姿を見て、命の危険を感じたのだろう。

 とりあえず、薫は興奮状態のアリシアに擽りの刑をして落ち着かせる。

 ぐったりしているが気にしない。

 落ち着かせるにはこれが最善の策だったしね。

 

 

「ぐしゅん……。もひゅもひゅしないと私の心は癒やされないのですよ……。それか、薫様にチュッチュハグハグのラブ甘な一時を過ごさないと、もう私は完全復活できないのです……」

 

 

 そう言いながら薫に抱えられ、ぷらーんとしているアリシア。

 完全に不貞腐れている。

 そして、私欲全開のアリシアの言葉に薫は苦笑いになる。

 

 

「姫様どうしたの?」

 

 

 そう言って近づいてくる鎧を着た者いた。

 見覚えのないその者に薫は警戒する。

 

 

「カオルさん、この子はあの子ですよ。ほら、初めてここに来た時に、カオルさん達をこちらに案内してくれた木の精霊のドリアードちゃんです」

 

 

 そう言われて、薫はその姿をよく見る。

 ジッと見つめて見るが殆ど面影がない。

 初めてあった時は、70cmくらいの大きさで目がくりくりで、愛らしい表情をしていた気がするのだが、今眼の前にいるのはどこからどう見ても普通の人間。

 マスコットキャラではなくなっていた。

 140cmの女の子。

 胸はでかい、アリシアよりもだ。

 アリシアがリンゴなら、このドリアードはグレープフルーツと言うべきか。

 金髪のロングヘアで、頭の上に花と葉っぱを編み込んだサークレットのようなものが付いている。

 腰に長剣をさし、ドレスアーマーを着込んで薫たちの前に立っているのだ。

 

 

「どうしたの?」

 

 

 可愛らしい表情のまま、薫とアリシアの顔を見てきょとんとしている。

 薫は、完全に誰これ状態でドリアードを見る。

 アリシアは目を輝かせながら、ちっちゃかったドリアードが、短期間でこんなに大きくなったのかと思いちょっと興奮気味になる。

 

 

「せ、成長期ですね!」

 

 

 アリシアは、ドリアードのあり得ない成長を見てそう言う。

 こんなの簡単ですと言わんばかりに、またしてもドヤ顔で決める。

 しかし、あっさりプリシラから不正解を言い渡され、アリシアはしょぼんとして薫の白衣をちょこんと持ち恥ずかしそうに引っ付く。

 

 

「成長期ではないですよ。この前のカオルさんの魔力を吸ってこうなったんです。この子も元々神格を持ってましたからね。自然にゆっくりと成長して50年くらいでここまで成長すると思ってましたけど、カオルさんの魔力を大量に浴びて、その殆どを吸収した結果神格が進化したのです」

「なるほどなぁ。俺の魔力が原因か」

「そういうことです。ちなみに精霊全てがこのように進化するわけではないんです。個体によって神格を持ってない者もいますし条件があります。この子は、魔力をある一定の量を自身で吸い上げる事でこのように進化します。私は、幸せエネルギーをいっぱい貰ってこのように進化しましたからね♪」

 

 

 いい笑顔でそう言うプリシラだが、幸せエネルギーを取ったと言うことは、それを取られた人は人生どん底まで落ちたのではないかと思う。

 幸せを運ぶが、不吉も運ぶ……。

 天使と悪魔の複合体かなと思うのであった。

 そして、薫は気になることを聞く。

 

 

「なぁ、プリシラ。ピンクラビィで他に神格持っとる奴っておるんか?」

「いますよ。ほら、アリシアさんに懐いてる子がそうですよ。あの子はスノーラビィですからちょっと特殊なんです」

「!?」

 

 

 アリシアは、目をパチクリさせながらプリシラの言葉に驚く。

 

 

「ぴ、ピンクラビィちゃんではないのですか?」

「いいえ、列記とした私達ピンクラビィの仲間ですよ。ただ、寒いところに生息するピンクラビィで正式には、ピンクラビィ族のスノーラビィ科といいます。そろそろ毛が生え変わると思うんですが……」

「し、白になるのですか?? ぴ、ピンクではなくなってしまうのですか?」

「はい、真っ白フワッフワになりますよ。冬だけですけどね。冬が終わるとまたピンク色に戻ります。あとは、スノーラビィは個体的に普通のピンクラビィとは少し体格がちっちゃいんですよねぇ」

「真っ白……。ふわっふわ……。凄いのですよぉ。それも冬以外はピンクラビィちゃんと一緒なのですか!?」

 

 

 アリシアは、感激しながらそわそわしだす。

 ピンクラビィに、そのような種族の違いがあるとは思いもしなかったらしい。

 ピンクラビィマスターにはまだ辿り着けてはないらしい。

 薫は、アリシアのそわそわする姿を見てくすりと笑う。

 

 

「はい、基本的には変わりませんよ。ちゃんと運を吸収しますし、付与をしますよ」

「あのピンクラビィちゃんは特殊なのですか! やはり、私に懐くだけのことはあるのですよ!」

「いや、それはないと思います。でも、ちゃんと優しく接してくれるのでしたら、何も言うことはありません。ここにいる皆もそうです。今回の事で、アリシアさんに感謝しています」

「「「きゅ〜♪」」」

 

 

 プリシラに寄り添っている大量のピンクラビィが一斉に鳴く。

 アリシアはそれを見て、でれぇっとした表情になる。

 感謝されてとても嬉しいようだ。

 それも、大好きなピンクラビィ達からとならば余計にだ。

 アリシアは、ピンクラビィの大群に恐る恐る手を伸ばす。

 プリシラのピンクラビィ布団の端に、ちょこんと手のひらを添える。



「こ、怖くないのですよ〜。私は害を及ぼす事はしないのですよ〜」



 片手は頭を守りながら、そう言うアリシアはちょっと面白い。

 下手すれば、今いる全てのピンクラビィからタライが召喚される。

 全て受けきると、流石のアリシアもメンタルと一緒に地面に沈む。

 それは阻止したいと言った感じなのだろうか。

 すると、一匹のピンクラビィが、片方の前足だけをアリシアの手のひらにちょこんと乗せ、ジッとアリシアを見つめる。

 くりくりしたお目目で、アリシアを見つめている状態が少しの間続く。



「あわわわ……。か、可愛しゅぎなのですよぉ! それに、この子は私にヒップアタックをしてきた子なのですよ♪」



 ピンクラビィからヒップアタックを食らうとは、どのような状態なのか薫はちょっと聴きたくなる。

 むしろ、そのような事になる経緯がわからないのであった。

 薫がそんな事を考えていたら、一匹がアリシアの手のひらに乗っかった。

 その後は、皆も安心したのかぴょんと乗り、そのままアリシアの肩などまでよじ登って行く。

 大量のピンクラビィは、全てアリシアに群がる。

 数が数なだけに、ピンクラビィ同士が3段重ねなどになりながら、アリシアに引っ付き感謝を表す。

 アリシアは、完全に蕩けて「えへへ、かおりゅしゃまぁ。楽園なのですよぉ〜」と言いながらこちらを向く。

 全身ピンクラビィに揉みくちゃにされるアリシア。

 本人が幸せならいいかなと思う。

 プリシラも、アリシアからのロックオン対象を外せて安堵の表情をしていた。

 しかし、アリシアの「それはそれ、これはこれなのですよ♪」の言葉にがくっと肩を落とす。

 逃げ切る事は不可能だったようだ。

 アリシアの天使のような笑顔で、死の宣告を受けるプリシラ。

 プリシラ、骨は拾ってやる。



「そう言えば、魔物はどないしたんや?」



 薫は、ここ3日間魔力を込めた威圧を使っていない。

 アリシアも使っている状態では無いのは分かるし、他の者が使ってる様子も無い。

 それをすれば、薫自身がその魔力を感知できるからだ。

 これをしていないと、魔物がこの妖精の国に入って来て冒険者達が襲われる。



「カオルさん、それは大丈夫ですよ。この周辺にはもう魔物は居ませんから」

「ん? どういう事や?」

「簡単に言えば、カオルさんが3日前に放った膨大な魔力で、魔物達が皆逃げてしまいました」

「そうなのですよ。全然見ないのです。だから、威圧を使わなくても全く問題無いのです」



 アリシアとプリシラはそのように言う。

 しかし、薫は逃げたと聞いて何処にという事がまず頭に出てくる。

 下手すると、トルキアに向かったかもしれない。

 あそこは、マリーが居るから大丈夫であろう。

 それ以外に向かったら厄介だなと思う。



「カオルさんカオルさん、心配そうな顔してますけど大丈夫ですよ。もう、魔物全て討伐されてます」

「は?」

「精霊さんを1人現地に行かせたのですが、たった1人の女性が竜巻を巻き起こして、一撃で魔物の大群を消し去ったらしいです」

「マリーさんなのですよ。ダメ人間ですが腐ってもSランクですね、薫様」

「……」

「名前は分かりませんが、条件解除は久しぶりよ。カオルさんありがとうって言ってたらしいです」



 薫は、その言葉を聞いて苦笑いになる。

 そして、相変わらずアリシアはマリーにちょっぴり厳しいようだ。

 薫は一安心といった感じで、先ずはプリシラの手術経過を見る。



「今の所は、問題ないな」

「はぁ、よかった。チョコを我慢した甲斐がありました。さぁ、カオルさん、ご褒美下さい死んじゃいます」



 そう言いながら、プリシラは薫にスッと頭を擦り付ける。

 撫で撫で早くーといった感じで、ピンクラビィの耳をぴょこぴょこさせる。



「はいはい」



 薫は、ちゃんと言いつけを守ったプリシラの頭を撫でる。

 気持ちよさそうに「きゅー♪」と鳴く。

 そんなプリシラを、ピンクラビィ達はジッと見つめる。

 若干空気が重い気がするのは気のせいだろうか。

 そして、アリシアも薫をジッと見つめる。

 撫でて欲しいと言わんばかりの目線に、薫はドッと疲れが出てくる。

 仕方無しに、全てのピンクラビィとアリシアも撫でた。

 結果、全ピンクラビィは骨抜き状態で、もっともっとと言わんばかりに薫に擦り寄ってくる。

 アリシアも、それに混じって「私も、な〜のですよ〜♪」と言いながらぴょんぴょん跳ねるのである。

 止めろよ!

 何混じってやってるんですかねぇ……。



「はぁ、あとは一ヶ月くらいは様子見なあかんのんやけど……。連れてくわけにも行かんしなぁ……」



 薫は、そう言って頭を掻く。

 ここにずっといる事は出来ない。

 冒険者達も居るし、特にドルクをこの場に止まらせたくないと思っているのもある。

 しかし、連れて行くと結界を張る事も出来ずにまた同じ事が起きる。

 この近くにある迷宮を目指して、冒険者達が来てしまうからだ。

 それによって、また良からぬ事を考えるアホが沸く事になる。

 それは避けたいと思う。

 薫は悩ましいと考えるのであった。



「何を悩まれてるのですか?」

「ああ、一ヶ月もここの滞在は出来へんなぁと思ってな。色々面でやけど」

「それでしたら、大丈夫です!」



 そう言って、プリシラは満面の笑みを薫に向ける。

 異常にぴょこぴょこしだす耳が怖い。

 そして、嫌な予感しかしない。

 アリシアは、相変わらず引っ付いて頬ずりをしている。

 可愛いが、今は放置で。



「私の完全固有スキルを使えば、何時でも何処でも私自身を転送出来るのです」

「な、なんですか!? そのとんでもスキルは??」



 プリシラの言った言葉にアリシアはびっくりする。

 アリシア自身もとんでもスキルなのだが、それ以上に有能なスキルの為、アリシアは羨ましいといった感じでプリシラを見る。



「まぁ、条件が面倒くさいというのもありますが、これさえあれば何時でも診察、もひゅもひゅの撫っで撫でが出来ますです」

「おう、後半どうでもええけど、出来るんやったらそれお願いしてもええか?」

「はい、喜んで! では、どの子でもいいので、ピンクラビィを選んでください。その子を起点に私の体を転送する事ができますから」

「逆も出来るって事やんな?」

「はい、そうでないとこの国が大変な事になりますから。あ、でも、もうドリアードちゃんが居るのでここを任せてもいいかもですけど」

「どういう事や?」

「この子の強さは、Aランクの方達と同じくらいの能力値まで上がってるみたいなんですよ。不思議ですよね。普通ならまだCランクくらいの強さしかないはずなんですが……」

「うん、皆まで言わなくてええわ。もう原因分かったから……」



 薫の魔力を大量に吸い取った為の副産物。

 最強の精霊騎士ドリアードちゃんの誕生である。

 アリシア、そんなジト目でこっちを見るな。

 次からは気をつけるから……。

 目で会話をしつつ、薫は頭が痛くなる。

 そうしているとプリシラは、一匹ののピンクラビィを手の上に乗っけて言う。



「どの子にします? 私はこの子がオススメです。触り心地、愛嬌共に群を抜いていますよ」

「きゅー!」



 手のひらで、お団子のように丸まってちょこんとこちらを見るピンクラビィ。

 実質、薫は全て同じに見えてしまう。



「そうやな、俺はそう言うの分からんからアリシアが決めてええで」

「え!?」



 薫の言葉に、プリシラはちょっと焦りだす。

 そして、周りのピンクラビィ達もだ。

 全員が一瞬、耳をピンッと立てて動揺する。

 おや? これは何か企んでますね。

 薫は、またどうしようもない事だろうなと思う。



「私が決めてもいいのですか?」

「ああ、一向に構わへんよ。なぁ、プリシラも構わんやんなぁ」

「……は、はい」



 薫は、意地の悪い表情でそう言ってプリシラを牽制する。

 先程、どの子でもいいと言っていた事から、ここに居るピンクラビィ達と共闘しているのかなと思う。

 差し詰め、転送して帰ってくるピンクラビィが毎回違って、順番に撫でてもらうとしていた事だろうとあたりを付ける。

 プリシラは、薫の表情を見て全てバレてると思うのである。

 表情は笑顔だが、プリシラはだらだらと汗を大量に掻く。

 内心本気で焦ってるんだろうなと思える。

 ピンクラビィ達も、いきなりアリシアに媚びを売り始める。

 アリシアは、幸せそうな表情でピンクラビィ達を撫でる。



「薫様、決めました」

「どの子にするんや?」

「スノーラビィちゃんにします。あの子が一番初めに懐いてくれたからです。私は、あの子と一緒に冒険したいのですよ」

「ほんじゃ、決まりやな」



 薫は、アリシアを抱えてプリシラに言う。

 完全にしてやったりな表情でだ。



「じゃあ、プリシラあとは頼むで」

「……あい」



 耳が萎れて、元気のない返事をする。

 ピンクラビィ達はプリシラをジッと見つめる。

 何か会話を飛ばしているのだろう。

 かなり、肩身の狭いお姫様になっている。

 ピンクラビィ達の視線が痛いのか、薫に助けを求めてくる。

 薫は、なんの事だかわからないと言った感じでいい笑顔だけを返す。

 八方塞がりなプリシラは、この後お腹が痛くなるのであった。

 ドリアードは、どうしたの? といった感じでこちらを見ていた。

 薫は、ドリアードに「この国任せたで。あとプリシラもついでに頼むわ」と言って頭をポンポンとして古城を後にした。

 そして、アリシアは終始この企みを全く気づく事はなかった。

 アリシアが、こんな大人にならないように、ちゃんと教育しようと薫は思うのであった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 広場にやってくると、イズル達とドルクが連れてきた30人の冒険者達は話し合いをしていた。

 これからどうするかを決めていたのだろう。

 まとまった話をイズルから聞く為に、薫とアリシアはイズル達の輪に入る。

 冒険者たちは、完全に薫を見て低姿勢で丁寧口調になっていた。

 薫が本気で怖いといった感じが、ひしひしと伝わってくる。

 あのような刑を喰らえば、誰でもそうなってしまう。

 ご機嫌を損ねないように、最善の注意を払っているのだ。



「カオルさん丁度いいところに」

「なんか決まったんか?」

「はい、魔物がここ数日見ないので、今の内にこの未開の地を出る計画を進めてたんだけど」

「ああ、もうこの一帯の魔物はおらんで。俺のせいで、トルキアに突っ走ってったみたいやけど、マリーが全部片付けたようやから安全らしいで」



 薫の言葉に、冒険者達は皆口を開けあんぐりとした表情になる。

 Aランク6人とBランク24人で編成された冒険者達が、あれ程慎重に進んで攻略していた魔物達をたった1人、それも1匹、2匹ではなく、大群を殲滅させるなどほとんど聞いた事がない。

 いや、聞いた事はあるが、見た事がないと言ったほうが正しい。

 Sランクの能力条件解除は、街が危険な時、もしくはそれに準ずる事の時以外解除されない。

 レアケースが今、いやもう終わっているがそれが執行された。

 皆、到底たどり着けない高みの力を夢見て、マリーの雄姿を思い浮かべて興奮気味になる。

 トルキアで雇われた冒険者なだけにマリーは人気が高い。

 そして、皆その光景をこの目で見れなかった事を悔やむのであった。



「まぁ、そんなこんなで帰ろうと思えば帰れると思うんやけど。イズル達はどないするつもりなんや?」

「はい、先にここを出てから体制を整えて、もう一度この未開の地へ挑もうと思います」

「そうか、まぁ、魔物がおらんからかなり楽やと思うで」

「ええ、むしろ、私達が戻ってきても、もう先を越されてるかもしれませんけどね……」

「それはしゃあないやろ。別にここだけやないんやろ?」

「そうですけど、後は海を渡ったりしての作業がありますからね。その時に襲われれば、確実に死んでしまいますからね」

「冒険者も大変やなぁ」

「いや、カオルさんも冒険者じゃないですか……」

「俺は、なんちゃってやしなぁ。なぁ、アリシア」

「はい、冒険という名の旅行なのですよ」

「あなた達は、本当にどんな神経でこの大陸を冒険して歩いているのかわからないですね……」

「旅行かな。もしくは新婚旅行やないかなぁ? 今のところは」

「か、薫様、は、はずかしいのですよぉ」



 アリシアは、薫の言葉に顔を真っ赤にさせながら恥ずかしそうにする。

 イズル達は、若干呆れ気味に薫達を見る。

 そうしていると、フーリがこちらにやってくる。

 火の精霊とスノーラビィを連れてである。



「薫様、アリシアちゃん、おかえり」

「ただいま、フーリ、留守番ご苦労様」

「ただいまなのですよ。フーリちゃん」



 そう言いながら薫はフーリに近づく。

 そのままフーリの頭を撫でる。

 嬉しそうに「えへへ」と言いながらフーリは笑顔で返す。

 アリシアはちょっと羨ましそうな表情をする。

 薫は、そんなアリシアにも頭を撫でる。

 満足そうにこちらを見ながら、アリシアも喉を鳴らしながら喜ぶのであった。

 薫はそのままアリシアとフーリを脇に抱えてイズルと話をする。

 途中で、またアリシアの撫でて下さい! かまって下さい! という光線が出ると話が進まないからである。



「どないするんや? 一旦戻るんなら俺も行くけど?」

「そうですね。今回は私達だけで戻ろうと思います。魔物もいないのであれば怖いものはないですよ。私もAランクですからね。そこら辺の、魔物になんて負けたりしませんよ」

「いつ出るや?」

「そうですね。今日中には出れたらいいかなって思ってます」

「分かった。こっちも明日にはなんとか出れると思うからな。あとドルクはこっちで処理するから置いてってええで」

「あ、これ、かなり怖いことになりそうですね……」

「なんや? そんな事になるわけないやん。ちょっと今までの悪事の精算をして貰うだけやからなぁ」

「カオルさんの行動を今まで見てきての感想ですけど、かなり過激なことになりそうな気がして……」

「気のせいやろ。そこまで悪魔やないで」

「そうならいいのですが。多分どん底まで落としそうな気がしてなりません」



 そう言いながらイズルは、薫から目を逸らす。

 失礼な事を言ってくれるじゃないですか。

 大丈夫、人生を終わらせるくらいで留めておくつもりですよ?

 それ以上は、勝手に本人が落ちていくだろうと思うし。

 その後は、イズル達と話を詰めてイズル達は夕方に立つことになった。

 薫とアリシアとフーリは、一旦イズル達と別れてコテージに戻る。

 こちらもこの後どうするかを話し合う。



「さて、俺らはどないするかなぁ」

「何かすることあるの?」

「うーん、もうないな。強いて言うなら、この妖精の国の強化でもしてから出てもええし」

「か、薫様、また良からぬことを企んでいますよね……。これ以上は、め! なのですよ!」

「いや、ほら、なんかあった時にドリアードだけやと心細いやん?」



 薫の言葉ももっともだが、ドリアードだけでもAランクの力を現在持っている。

 一人で大体の冒険者は倒せそうだ。

 むしろ、殆ど心配いらないくらいの強さを持っている。

 しかし、ちょっと心配症な薫は、全属性の精霊を一人ずつ強化しようかなと思っている。

 普通の冒険者では、倒すことが出来ない最強集団を作る気満々なのである。

 それも、それぞれ完全に特化した精霊たちのAランク化となれば、小国家が傾くのではないかと思われるレベルだ。

 フーリは、薫の計画に賛成派らしい。

 火属性の精霊を薫に向けて、目を輝かせながら「んー! この子も!」と言いながら見つめてくる。

 とりあえず、話し合いでは最低限の精霊強化をすることで話は終わった。

 神格を持っているかもプリシラに聞かないといけないのもある。

 そして、一応明日この妖精の国を発つことにした。

 話も終わり、すっかり夕方になっていた。

 薫達は、イズル達と冒険者達を見送った。



「急に寂しくなってしまったのですよ……」

「そうやなぁ」

「うん。ちょっと寂しい」



 そう言いながら3人は、コテージに戻っていく。

 ドルクは、ドリアード隊にまかせてある。

 魔拘束具もしっかりと付けてあるし、完全に縛り上げている為動くことすら出来ないと思う。



「きゅー!」

「どうしたのですか?」

「きゅっきゅー!」

「ピンクラビィマスターのアリシアなら、このピンクラビィ語がわかるんやないか?」

「!? が、頑張ってみるのですよ」



 薫は冗談で言ったのだが、アリシアはなんとやる気満々で意気込む。

 アリシアは、ピンクラビィの目の前にちょこんと座り鳴き声をよく聞いていく。

 何やら必死というわけでもないが、何かを伝えたいといった感じで鳴いているようだ。

 アリシアのそんな姿を、薫はフーリと一緒に見ている。

 少しして、アリシアはわかりましたと言わんばかりに、アイテムボックスからクッキーを取り出しピンクラビィの目の前に持っていく。



「お、お腹が空いていたのですよね?」

「きゅ?」



 ピンクラビィ語がわからないので、とりあえず餌付けというビスタ島で染み付いた行動をとってしまう。

 ピンクラビィは、一瞬首をかしげた後にクッキーを両手で抱えながらかりかりと食べていく。

 美味しいのか耳をぴょこぴょこさせながら、必死に食べる。



「薫様! ピンクラビィ語をマスターしたのですよ!」



 ちょっと得意げな表情で薫を見るアリシア。



「いや、絶対嘘やん! さっき首かしげとったやん!」

「アリシアちゃん、嘘ダメ!」



 二人のツッコミにしょぼんとするアリシア。

 さすがに押し通せなくて、直ぐにごめんなさいするアリシアはちょっと可愛かった。



「うぅ……わからないのです。ピンクラビィ語がわかりたいのですよぉ!」



 そう言いながらアリシアは、薫に抱きつきながら言うが、さすがに薫もこれにはお手上げ状態だ。

 そんな事をしていると、ドリアードがコテージにやってきた。

 可愛らしい表情なのだが、これでAランクの冒険者と同等なのだから怖い。

 下手にちょっかいを出すと、そこら辺の冒険者なら首が飛ぶだろう。



「プリシラ様からお使いなの」

「ん? なんか届けにでも来たんか?」

「ピンクラビィの通訳なの」

「「「ああ、なるほど」」」



 3人は、納得と言った表情で言葉がシンクロする。

 先ほどのピンクラビィの言っていたことを通訳してもらう。



「一緒に旅ができるのが嬉しいって言ってるの。プリシラ様から話を聞いたそうなの」

「ほ、本当なのですか?! わ、私も嬉しいのですよ。えへへ」



 そう言いながらアリシアは、ピンクラビィを手のひらに乗せて頬ずりをしながら嬉しさを伝える。

 ピンクラビィも「きゅーっきゅー」と鳴きながらアリシアに頬ずりを仕返す。

 ほんわかした雰囲気が流れる。



「それで、さっきカオルさん達が話してた内容はもうプリシラ様に伝わってるの」

「物凄い筒抜けでちょっと怖いな……」

「きゅっきゅー」

「それほどでもって言ってるの」

「……」



 薫の言葉に即返しをしてくるプリシラ。

 ちょっと憎たらしい表情が目に浮かぶ。

 明日きっちりと締めなければと薫は思うのである。

 そのまま、薫は精霊の強化が出来そうな者を聞いていくとフーリの胸の上に乗っている火の精霊も神格持ちのようだ。

 それと、後は水の精霊のみらしい。

 この妖精の国には、プリシラを含めて5つの神格持ちがいる。

 その内、薫の魔力を使って進化出来る者は、火の精霊と水の精霊。

 アリシアに懐いているピンクラビィは、運を吸収しないと神格は進化しないらしい。

 残念だ。

 アリシアは、それを聞いてしょんぼりしてしまった。

 さすがに、そこら辺にいる人の運を勝手に吸収してしまったら、あまりにも可愛そうだからだ。

 薫はどうしようかなと思うが一つおもしろいことを思いつく。

 これは、明日実行するかなと思うのであった。

 その後は、晩御飯をドリアードも誘って一緒に食べて、そのままコテージでゆっくりと眠ることにした。

 体はもう大丈夫だが、一応念のためといった感じだ。

 薫は明日が楽しみだなと思うのであった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 早朝、薫は清々しい気分で目覚める。

 相変わらず、アリシアは気持ちよさそうな顔でピンクラビィと一緒に眠っている。

 フーリはうん、なんだろうな。

 最近、火の精霊と仲良くなりすぎて、コテージまで連れ込んで一緒に眠っている。

 相性の良い属性を持っているというのもあるだろう。

 だが、なぜ胸に挟まれているのかはわからない。

 けしからん。

 薫は、先にコテージから出る。

 水辺に行き、顔を洗う。

 すると目の前に水の精霊が現れる。



「おはよー、おはよー」

「ああ、おはよう。ちょっとこの泉使わせてもらっとるで」

「いいよー、いいよー。あさごはん、ちょうだい」



 そう言いながら、薫に両手を出して催促してくる。

 手のひらに乗るくらいの大きさの水の精霊。

 羽を生やし、ぱたぱたさせながらふわふわと飛ぶ。

 薫は、自身の魔力を食べさせると笑顔で飛び回る。



「可愛いと思うてしもうたわぁ……。アリシアに毒されたかもしれへん」



 薫はそう言いながら、泉を後にする。

 コテージに帰ると、フーリが目覚めた。

 目を擦りながらむくりと立ち上がり、顔を洗いに行く。

 ちゃっかり、全く同じ動作をしながら火の精霊も目を擦る。

 ちょっとおもしろいなと思いながらそんな2人を見送る。



「さて、アリシアを起こさなアカンな」



 そう言って、とりあえず揺する。

 起きない。

 まぁ、わかっていたことだ。

 そういえば、昨日キスしたら起きるって言ってたことを思い出し。

 薫は、寝ているアリシアにキスをする。

 起きない。

 これも想定内。

 仕方ないので、薫はアリシアの鼻をつまんだままキスをする。

 いや、これは口を塞ぐと言った方が正しい。



「んっ……」

「……」

「んっ……?」

「……」

「んっ、んぅ……!!?」



 呼吸が出来ずに手がぱたぱた動き出すアリシア。

 多分、溺れている夢でも見ているのか、必死に犬かきをしている。



「ぷはぁ……! お、溺れてしまうのです! ってあれ? んっ、かお……しゃ……んっ」「おはよ、アリシア」

「……お、おはようございます。あ、朝から凄まじい事をするのですね」



 そう言いながら、とろんとした表情で薫に抱きつく。

 薫は、ちゃんと起きたからオッケイっと思いながら、アリシアに顔を洗ってくるように言う。

 フーリと交代でコテージから出て行くアリシア。

 フーリはすれ違いの時に、ちょっとびっくりした表情になる。

 アリシアが、ちゃんとぱっちりと目を開けてとことこと歩いているからだ。

 擽りの刑などを受けて起きても、若干まだ眠いのか船を漕ぐ状態でいつも歩いているからだ。



「薫様、どんな魔法使ったの?」

「昨日アリシアが言った起こし方しただけやで」

「今度からそれがいいかも。私もする」

「いや、フーリはやっちゃアカン気がするわ……」

「え?」



 ちょっとわからないといった感じで首を傾げる。

 むしろ、フーリはそこら辺は疎いようだ。

 今までこうやって共に行動しているが、アリシアの下ネタの言葉にまったくのクエッションマークを出しながら首を傾げている。

 まぁ、好きな人ができれば、その内わかるかなと思いながら薫は今のところ言葉を濁すのであった。

 アリシアも少しして帰ってきて、まだお眠なピンクラビィを頭の上に乗っけてプリシラの下へ行く。

 皆、準備万端の状態でだ。

 プリシラのいる古城の謁見の間へ行くと、何故か体育座りをしてしょげているプリシラがいる。

 昨日のあの会話の後、ピンクラビィ達にかなり絞られたのかちょっと半泣き状態でいる。

 ピンクラビィ達はきっちりと列を作り、無言の圧力と言ってもいいだろう。

 そんな視線をずっと浴びせ続ける。

 薫達の姿を見つけた瞬間、プリシラは神様にでも会ったかのような表情ですがりつく。

 へにょりとさせた耳は、もうお姫様の威厳の欠片も見当たらない。

 ちょっとくせ毛ができている。



「たしゅけてください。お腹痛いんです……。あの視線は耐えれませんよ」



 そう言いながら、ぴょんっと薫の足に引っ付く。

 ちょっとうっとうしいと思ったのは内緒。

 アリシアは、そんなプリシラを慰めるかのように撫でくりまわしている。

 どんどん萎れていく耳。

 どっちに行って地獄のようです。

 薫は、とりあえずピンクラビィ達を落ち着かせる為、一匹ずつ撫でる。

 でないと、プリシラの胃に穴が開く。

 もう一度手術などしたくないし、予防できるのならさっさとしておこうという感じだった。

 数分後には、皆満足したかのように、くたぁ~っとしてその場で服従のポーズをとり始める。

 薫はピンクラビィ達に伝わるかわからないが、一応言うことだけ言う。



「ええか? プリシラをこれ以上突くんわやめてくれへんかなぁ。でないと、また病気になるからな。そうなったら、この国が危なくなるんやからちゃんと言うことを聞くように」

「「「きゅー!」」」



 四十以上のピンクラビィが一斉に鳴く。

 わかっているのだろうか?



「まぁ、ちゃんとしとったら、またここに来た時撫でたるから。もしも、プリシラに病気が出るようやったら撫でるのなしな」

「「「?! きゅーっきゅー!」」」



 一瞬で撫でるのなしの言葉に反応するピンクラビィ達。

 これは通じたのだろうかと薫は思う。

 しらんけど。

 薫は、プリシラの方を向くとアリシアの撫でくりまわしで、ぐったりしていた。

 精も根も尽き果てたかのような表情に薫は一瞬吹きそうになった。

 ものの数分でここまで体力を消費するなどありえないと言ってもいい。

 アリシア、恐ろしい子。

 慌てて、アリシアから引き剥がす。



「薫様、やはり耳としっぽは格別なのですよ! プリンセスラビィというのはここまでもふゅもっふゅなのですね」



 手をわきわきさせながらアリシアは言う。

 これは、アリシアに苦手意識を持ってしまっても仕方ないかと思う。

 殆ど時間が経ってないのにこの状態だ。

 真っ白く燃え尽きる寸前であった。

 薫は、回復手段として、二、三回撫でるとパァーッと表情が回復するのであった。

 何これ怖い。

 自分の手がここまで万能だとは知らなかった。

 その後は、薫はアリシアを抱えて話をしていく。

 まずは、アリシアと一緒に旅をするピンクラビィにプリシラが完全固有スキルの条件を付与する。



「いいですか? これから、私と情報供給として種を授けます」

「きゅっ」

「はい、では行きますよ。完全固有スキルーー『限定転移リミットワープ』」



 ピンクラビィの足元に魔法陣が出現して包み込む。

 そのまま、ガラスが割れるかのように砕け散り、それが全てピンクラビィの体に入っていく。



「はい、これで終了です。」

「なんや? 早いな。条件とかで面倒くさいとか言っとったのに」

「普通は面倒ですよ。でも、ここの国にいるピンクラビィは、殆ど条件をクリアしてますから。あとは、私のスキルを受け入れてくれれば契約完了です」

「まぁ、これで終わりやな。次は精霊の方やな。これらの条件は?」



 薫がそう言ってプリシラに聞く。

 するとプリシラは、個々に属する魔力を10万程分け与える事で神格が進化すると言ってきた。

 プリシラは、「カオルさんでしか出来ない荒業ですからね」と苦笑いを浮かべていた。

 それもそうだろう。

 10万のMPなどぽんと出せる者など簡単にはいない。

 そして、もう一つの条件として魔法属性Aランク以上の魔力でなければいけないということも言ってきた。

 薫は、全属性オールSなので全てに当てはまっているから問題ない。

 妖精の国でも、Aランク級の魔力の濃いところがある。

 しかし、それを吸収しても精霊達は、極わずかしか体内に吸収できない。

 だから、神格の進化に50年ほどかかると言われている。

 プリシラが説明していると、ふわふわとこちらに飛んでくる水の精霊がいる。

 薫の周りを楽しそうに飛ぶ。



「あさは、ありがと、ありがと」



 そう言って飛び回る。



「もしかして、これが神格持ちか?」

「そうですよ。私が伝達してたので来てもらいました」



 光り輝きながら飛ぶ水の妖精。

 なんとも綺麗で目を奪われてしまう。

 ちょこんと薫の肩に止まる。

 くすくすと笑いながら薫を見てくる。

 アリシアは、薫に抱えられその光景を横目で見ている。

 とてもうらやましそうな表情でだ。

 これは今はスルーで行く。

 仕方ないよね。



「じゃあ、さっそくですがお願いしてもよろしいですか?」

「ああ、構わへんよ」



 そう言って、片手で水の妖精を手のひらに乗せ、手の上で水の妖精に魔力を凝縮して流し込んでいく。

 すると、青く光り輝きながら卵のような物に包まってしまった。



「はい、これで大丈夫です。一時間くらいで、ウンディーネとしてこの国に爆誕して活躍してくれると思いますよ♪」



 ちょっと楽しそうにそういうプリシラ。

 そのまま薫は、火の精霊にも同じようにする。

 フーリは目を輝かせながら真っ赤に光り輝く火の精霊を見つめる。



「どうします? ウンディーネとサラマンダーの新たな体に生まれ変わった姿を見ていきますか?」

「見たい! 薫様いい?」

「ああ、かまわへんよ。アリシアええか?」

「私も見たいので大丈夫なのですよ」



 そう言って、3人はそれまでゆっくりとお茶をしながら待つことにした。

 クッキーなどを広げて、ピンクラビィ達と一緒に食べる。

 一時間などあっという間に過ぎた。

 卵に亀裂が入っていく。

 そして、ぱりんと割れて中からドリアードと同じ背丈の女の子が出てきた。

 二人共、背中に妖精の羽を携えている。

 ウンディーネは、青い水のようなロングヘア。

 胸はアリシアと同じくらいで、水の羽衣を体に纏っている。

 癒し系といっていいのか、おっとりした子に見える。

 サラマンダーは、真っ赤なミディアムヘア。

 ボブカットで若干前下りのような感じの髪型だ。

 そして、アホ毛が一本ぴよんとなっている。

 胸は、どちらかというとあまりない。

 だからか? フーリの胸にやたらちょっかいをかけていたのか?

 ビキニアーマーのような物を装着している。

 腰には、艶やかな朱色の布を巻きニーソックスを履いている。

 むちっとした太ももは、健康的に見える。

 2人は、目を開け辺りをきょろきょろしだす。

 そして、自身の格好が変わっていてちょっと挙動不審になるのである。

 2人共、自身の体をぺたぺたと触っていた。

 少しして、ウンディーネはとことこと薫の前にやってくる。



「カオルさん、助けてくれてありがとうございます。お礼いってなかったので」

「ん? かまへんからそんなん」

「えへへ、あと、魔力とっても美味しかったよ。ありがと」



 そう言って、無邪気な笑顔を薫に向ける。

 なんとも愛くるしい表情なのだろうか。

 この場にロリコンがいたら、真っ先に抱きつき警察に連れて行かれただろう。

 そのくらいの可愛さがあった。

 アリシアも脇に抱えられながらだが、ウンディーネの可愛さにやられてしまっている。

 薫とアリシアがそんなことをしていると、サラマンダーにフーリは近づき、興奮気味にぎゅっと抱きしめながら言う。




「薫様、この子をお家で飼う!」

「は? その子はペットじゃあらへんから! ほら、ちょっと離しなさい」

「やー! ピンクラビィも一緒ならこの子も一緒」

「大きさ違いすぎるやろ! こんな子連れてたら悪目立ちするやろが」

「私が、守る!!」

「そんな問題やあらへんからな! ちょっと、アリシアさん? 何私は知らないのですよ的な表情をしてるんですかねぇ。おかしいやろ!」

「か、薫様、私に振られても困るのですよ! まさか、フーリちゃんがここまでの精霊さん好きとは知らなかったのですよ!」



 ちょっと暴走気味なフーリは、絶対に連れて行くと聞かない。

 ここに来て、ずっと一緒にいただけに可愛くてしかたないらしい。

 いや、妹と思っているのかもしれない。



「サラマンダーちゃん。わ、私のことお姉ちゃんって言ってもいいよ」

「フーリおねえちゃん?」

「可愛い、ぎゅ!」

「わぁ!」



 もう離したりなんてしないといった感じで、大切に守るようにするフーリ。

 母性本能を完全に鷲掴みにされたのだろうか。

 そして、なんともアリシアとあまり変わらないこの可愛い物好き。

 主に、精霊の子? に対してなのかはまだ分からないが、新たな一面が見れてちょっと面白いが、今はそんなこと言ってる場合ではない。

 プリシラは、薫の焦る姿を見てちょっと笑っている。

 薫は、こっちにもお仕置きが必要だと思う。



「フーリおねえちゃん」

「ど、どうしたの、サラマンダーちゃん」

「私は、この国を守るの。だから、一緒にはいけない」

「……」

「いつでも遊びに来て。あとお外の話を聞かせてくれると嬉しいな」

「サラマンダーちゃんがそう言うなら……。仕方ない」



 そう言って、フーリはしょぼんとしながら肩を落とす。

 そんなフーリにサラマンダーは、ぎゅーっと引っ付いてくる。



「絶対に遊びに来てね。待ってるからね」

「うん、絶対来る。約束だよ」

「約束。嘘ついたら嫌だよ」

「絶対に嘘つかない! ついたら殺してもいいよ」

「わかった」



 そうして、2人は抱き合いながら別れを言い合う。

 その後、サラマンダーはウンディーネに引っ付き頭を撫でて貰いながらフーリに手を振るのである。

 ウンディーネもまた、いいお姉さんになりそうだなと薫は思う。

 途中で口を挟まず、最後にしっかりと受け止めていた。

 フーリも半泣きで手を振る。

 薫は、フーリの頭に手を置いて優しく撫でる。

 全てが終わったところで、薫はプリシラに伝えることだけ伝えて古城を後にするのであった。

 薫たちが去った後、プリシラはサラマンダーとウンディーネを抱きしめ言う。



「これから、冒険者さん達が沢山この近くに来ると思います。万が一、この国に迷い込んでしまって何かあってはいけません。私は、あなた達よりも弱いです。ですが、どうか力を貸してくれますか?」

「はい、プリシラ様。カオルさん達以外は敵とみなします」

「もちろんです。プリシラ様には、ずっと守っていただきましたからその恩をちゃんと返させて頂きますね」

「ありがとう。あと、あなた達もカオルさん達に会いたいと思ったらいつでも言ってね。カオルさん達には言ってませんが、『限定転移リミットワープ』は、かなり特殊であなた達も送ることが出来ますからね」

「「え?」」

「うふふ、私がただで終わると思ってましたか? 最後の奥の手はとっておくのです。だから、サラマンダーちゃんは会いたい時に転移させることが出来ますので。あ、今すぐとかはダメですからね」



 そう言って、プリシラは唇に人差し指を置いてにっこり笑顔を浮かべる。

 してやったりな表情でだった。

 ウンディーネとサラマンダーは、そんなプリシラを見てくすくすと笑うのであった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 古城を出て、薫達はそのままトルキアを目指す。

 途中、ドルクをドリアードから受け取り、ロープを括りつけて引きずりながら歩く。

 口を塞いでいるため、声は聞こえない。

 死ぬような怪我はしないだろう。



「ああ、そうやった。アリシア、スノーラビィを貸してくれへんかなぁ」

「へ? どうするのですか?」

「まぁ、神格の進化のための運でも貰おうかと思うてなぁ」

「!? うー、うー!」



 薫の言葉に、ドルクは必死に何か言おうとするが口を塞いでいる為、全く聞こえることはない。

 アリシアは、頭に乗っかるスノーラビィをそっと手に取り薫に渡す。

 薫は、そのままドルクの前に持って行き言う。



「ほら、運吸収してしもうてええで。散々悪事を働いたんや。今までの強運も全部吸いとったれ」

「きゅ?」



 スノーラビィは、いいの? と言った感じで首を傾げる。

 薫はいい笑顔でGOサインを出すと、スノーラビィの体が青白く光り輝きドルクから全ての運を根こそぎ取ってしまった。

 お腹いっぱいと言わんばかりにコロンとまるまる。

 その状態のまま、薫はアリシアの頭に乗っける。

 ドルクは、涙を流しながら呻く。

 これから、最悪の人生を歩まなければいけない。

 その前に、罪人の館行きは確定している。

 もう人生が詰んでいる状態でどうしようもない。

 フーリは、ほんの少し聞こえるドルクのうめき声にイラッとしたのか金的で沈める。

 サラマンダーとの別れを、変な声で邪魔され気分を害したからとのちに語ってくれた。

 白目を剥き、泡を吹くドルクはトルキアに着くまで起きることはなかった。


読んで下さった方、ブックマークしてくださった方、感想を書いて下さった方、Twitterの方でもからんでくれた方、本当に有難うございます。

質問の方たくさん書いて頂き有り難うございます。

参考にさせて頂きます。

あと、総合累計ランキングも250位代に食い込みました。

皆様の御蔭でございます。

これからも頑張っていくのでよろしくお願いします。

次回も一週間以内の投稿を頑張りたいと思います。

ではー

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