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薫の制裁!

 真っ白な背景から暗闇が広がっていく。

 プリシラは麻酔で眠りに落ちそうな時、ピンクラビィから通信が入った。



「きゅっきゅー! きゅっ!」

「え? た、大変です! 精霊さんとピンクラビィ達が……。か、カオルさんに知らせないと! って、きゅー! う、動けないですー!」



 プリシラは焦り、心臓がドクンと勢い良く打ち始める。

 全く動くことが出来ず途方にくれる。



「きゅきゅっきゅー!」

「え? これからどうすればいいかって? そ、そうですね……。まずは、アリシアさん達にこの事を伝えてください。あの方でしたら、今の状況をどうにか出来るかもしれません。私は、この治療が終わったら直ぐにカオルさんに伝えます。ですから、皆さんで持ち堪えて下さい」

「きゅー!」



 ピンクラビィが元気に鳴いた後、通信が途絶える。

 精神の間でプリシラは、耳をぴょこぴょこさせながらこの妖精の国全域にいるピンクラビィ達にこの事を飛ばし始める。

 精霊達にも妖精の国の入り口には、絶対に近づいてはいけないと精霊同士で情報を飛ばすように指示を出す。



「ふぅ……。私にできるのはここまでです……。ああ、私のせいでもあるんですよね……。私が早く治していれば、このような事態は防げたかもしれません」



 ちょっと頭を垂れ耳が萎れてくる。

 自身の欲望に負け、このような事を招いた。

 薫からも言われた。

 危険にさらしているという事も。

 このような事態が起こるわけがないと思っていた。

 薫が居れば怖いものなどないと。

 しかし、最悪なタイミングでの冒険者達の襲来。

 欲望に負けて、好き勝手したツケが回ってきたと思うほかなかった。

 涙の流れないこの精神の間で、プリシラは祈ることしか出来なかった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 妖精の国の入り口近くの泉。



「う、鬱陶しいのですよ! うぅ……。人質のせいで広範囲の攻撃ができないのです」



 そう言いながら、体をくねらせ避けながらのカウンター攻撃を繰り出す。

 しかし5人の冒険者、それもAランク3人とBランク2人の連携により、カウンターを防がれてしまう。

 眉を八の字にしながら困った表情をし、アリシアはどこか隙がないかを洞察しながら行動する。

 しかし、状況が悪くなる一方であった。

 ドルクの言葉で、どうにでもなれといった感じの冒険者達がアリシアに向かってくる。

 アリシアは、その者達に威圧を放ちながら少しでも制限をかける。



「こ、この人数は無理なのですよ! ってぇりゃああああ」



 そう言いながら、自身の周りに雪時雨の属性効果を使い数十もの氷柱を自身の体の周りに展開し、簡単に近づけないようにする。

 正気の冒険者は、これ以上近づけないと思い一旦距離を取る。

 しかし、ドルクの支配下にある5人は、なんの躊躇もなくそれに突っ込んでくる。

 腕や足に何本も刺さり、血が出るも目が血走ったまま、何事もなかったかのように襲いかかて来る。

 そんな冒険者達にアリシアは一瞬恐怖する。



「ち、治療をしないとこのままでは死んでしまいます!」



 アリシアはそう叫ぶが、その冒険者達は回復魔法を使うことはなかった。



「はっはっはっは、そいつらはもう俺の支配下にある。回復などしなくても死ぬまで動けるんだ。だから、何も心配はいらないさ。それに、契約書にちょっとした小細工をしてなぁ。これが終わって俺に恨みを持つ者もいるだろうが……。記憶削除も入っている。金だけ増えてるが、なぜ増えてるかまではわからないだろうよ」



 ドルクはそう言いながら、その光景を楽しんでいるかのように笑いながら言う。

 人を物や消耗品としか思っていない。

 アリシアは怒りを覚える。

 しかし、それをぶつけようにも、ドルクのいる一番奥へは今のままでは行けそうにない。

 アリシアは、焦る気持ちを抑えながら必死に冒険者の攻撃を避ける。



「おら、お前ら! さっさと魔拘束具をあの小娘に着けろ。ちんたらしてるんじゃない!」



 そう言いながらドルクは檄を飛ばす。

 一向に捕まらないアリシアに若干イラつくのである。



「くそ、やはり奴隷化したせいで弱体化してるな……。他の者達の見せしめではあるが、Aランク3人は誤算だった」



 そう、小言のようにつぶやく。

 顎に手を当てながらである。



「あっ……」



 アリシアは、攻撃を躱して地面に足をついた瞬間ぬかるみに足を取られる。

 ぐらりと一瞬躱す反応が遅くなる。

 そしてアリシアは足を止め、冒険者の剣撃を雪時雨で何とか受け止める。



「よし! 今だ! 小娘が足を止めたぞ! 魔拘束具を着けろ」



 ドルクがそう叫ぶと、Bランクの3人の冒険者がアリシアに跳びかかり、体の一部に拘束具をつけようとする。

 アリシアは焦り、躱そうとするが躱すことは不可能であった。



「よっしゃ! 終わりだ!」



 冒険者はアリシアの腕につけようとした瞬間、目の前に紅蓮の炎を纏った鬼の傀儡と水龍がアリシアを守る。

 冒険者達は、攻撃を繰り出した方を見る。



「アリシアちゃん、連れて来たよ!」



 フーリは、指先から魔糸を伸ばして炎鬼を操りながら言う。

 物凄く心配そうにアリシアを見る。



「大丈夫か? アリシアさん」

「酷い……。この人数でアリシアちゃん一人を襲うなんて……。回復は任せて下さい!」

「冒険者の風上にも置けない……。死ぬ覚悟はできてるの?」



 イズル、ミーナ、テテスがそう言いながら武器を構えて威圧を飛ばす。

 イズルの威圧で、更に行動制限を受けるBランク冒険者。

 冷や汗を流しながらイズルを見る。



「嬢ちゃん、よくこの人数を一人で止めてたな……。さすが、カオルの嫁さんってところか」

「あの男に対してこの嫁の強さ……。恐ろしすぎるぜ」

「さすがってレベルだな。しかし、あいつらも運が悪いな。アリシアはこういうのが大っ嫌いだからなぁ」



 デナン、リュード、バースは武器を肩に担いでいい顔で言う。

 久々に、このようなアホ共の相手が出来るといった感じだ。

 それに、高レベルの冒険者の集まりで自分たちがどこまでやれるかも試せる。



「やばいぞ……。あれ、【龍槍の華姫】のメンバーじゃないか!」

「なんで、アリシア達といるんだ! 聞いてないぞ!」

「カオルだけでもヤバイのに、こいつらもいるのかよ! に、逃げたいけど……ドルクの野郎のせいで八方ふさがりだ! くっそ、なんでこんな依頼を受けちまったんだよ。あの時の俺をしばきたい」



 そう言いながらBランクの冒険者は愚痴るのである。

 最悪な状況だという事にはかわりない。

 だが、勝てなくはない。

 この人数ならば、ちゃんとチームワークを発揮し、一人一人に対応すればなんとかなる。

 しかし、Aランクの冒険者は、なぜか青ざめる者がいる。

 Bランクの冒険者は、どうしたのだろうといった感じでその者達を見る。



「み、ミズチ一族だ……と」

「聞いてないわよ……。あれに手を出すってことは、あの女の敵になるって事よね」

「あれに狙われて生きて帰った冒険者はいないだろ……。いや、証拠さえなければ……」



 そう言いながらフーリが操る炎鬼を見る。

 Aランクの冒険者は、直ぐにそれがミズチ一族の固有スキルの傀儡であることを理解し、関わりたくないと思うのだ。



「ん? おお、フーリじゃないか。何だお前そんなに綺麗だったのか」



 ドルクはそう言いながらフーリを見る。

 上から下まで舐めるように視姦しながら言う。

 フーリは、嫌な表情をしながらドルクを睨む。



「私は、お前が嫌い!」

「なんだ? 怖い顔するな。フーリ、また俺に捕まって売られたいのか? まぁ、あの時は、汚くて顔も傷だらけだったからなぁ。性欲すらわかなかったよ。あんなの買う奴はちょっと狂った性癖のやつだろうな。はっはっはっは」



 フーリは、ドルクの言葉に怒りを露わにする。

 しかし、目の前に冒険者達が立ちふさがる。

 炎鬼を操りなんとか凌ぐが、まったくもってドルクに近づく事など出来なかった。

 一撃でもいい。

 あの気持ちの悪い表情を恐怖のどん底に叩き落したいと思う。



「フーリさん、相手の口車に乗ってはいけません! 妾達と連携してあいつのところまで向かうのが最善の策です!」

「今は抑えて! でないとあいつの思う壺です」

「あとで、たっぷりと制裁していいから! でないとこっちがやられる!」



 イズル、ミーナ、テテスの言葉にフーリは直ぐに冷静な判断をして戻る。

 ドルクは舌打ちをしながら、引っ掛からなかったかと思いながら次の手を考える。

 怒りに任せて突っ込んできたところを取り押さえ、人質にでもしようと思っていたがイズル達によって簡単に止まってちょっと面倒だと思う。



「てぇえええりゃああああああ!」

「おらおらあああああ!」

「力比べでは負けねええええ!」



 そう言いながら、デナン、リュード、バースが冒険者達を止めて一瞬でなぎ払う。

 さすがと言うべきか、近接型で高火力なだけはある。

 デナン達の攻撃で吹っ飛んで行くBランクの冒険者。



「少しでも数が減ればこっちも行動が出来るってもんだ!」

「連携なら任せとけ! 俺らの連携は年季がはいってるからな! そこら辺の即席では破れないぜ!」

「はっはっはっは、どうだ! って、おいヤバイぞ! Aランクの血走った奴らが来やがった!」



 そう言いながら、デナン達はなんとかAランク冒険者達を止める。

 しかし、かなり押される。

 表情はやせ我慢としか言えない余裕の笑みを浮かべ、イズル達に心配をかけないようにする。

 デナン達は、額から汗が吹き出しながらAランク冒険者と武器と武器を撃ち合っていく。

 一撃一撃が重く、魔力をどんどん持っていかれる。

 一つのランク違いでも天と地の差のあるこの世界で、Bランクのデナン達は必死に押し返そうとする。



「いくら【龍槍の華姫】といえど、これだけの人数を相手にするのは酷だろうな……。お前らも、この地で果ててしまえばなんの問題もない。いっその事、俺の下に入れてやってもいいぞ? ああ、使えそうにないCランクの女達は闇市行きだがな。今回の計画はいい収穫ができそうだ。フーリもまた俺の手に落ちれば、今度は500万リラはするだろうからなぁ」



 アリシアはドルクの言葉によって激怒する。

 今まで制限していたとでも言わんばかりに開放する。

 溢れ出るアリシアの魔力に冒険者達は、一瞬で距離を取り始める。



「あなたですか……。フーリちゃんに酷いことしたのは……。あなたのせいでフーリちゃんはお姉さんに会えずに寂しい思いをしたんですよ!」

「何だ小娘? それがどうした。こんなレアな種族。それも絶対に手に入らないミズチ一族だぞ? 価値のある者は、裏の市場では高価な取引材料だからな。そのおかげで俺も一躍有名な闇商人として世に知れ渡った。そして、俺の固有スキルの力と相まって捕まることはない。なんせ、俺の事を皆覚えてないのだからな。フーリ、またお前を闇市に流してやるよ。その前にその体を弄んでからだがなぁ……」



 そう言いながら、気持ちの悪い笑みを浮かべるドルク。

 はっきり言って胸糞悪いとしか言えない。

 アリシアは、この男を地に落として二度と悪いことが出来ないようにしてやると思い行動に出る。

 瞬間的な高速移動でドルクの背後に回る。

 そして、一撃で沈めれる強化で薙ぎ払おうとする。

 しかし、その攻撃は途中で中断する。



「ん? どうした? 精霊を盾にしたら何も出来ないか?」

「っ……!」



 ドルクは、水の精霊に魔拘束具を着けた状態のままアリシアの剣撃のラインに出す。

 苦虫を噛み潰したような表情になるアリシア。

 卑怯というのはこういうことを言うのだろう。

 手も足も出せない。

 出せば精霊にあたってしまう。

 ドルクは勝ち誇った顔でアリシアを見る。



「小娘、お前もいいな。いや、俺に歯向かったんだ。壊れる寸前まで弄んでから市場に出してやるよ。たしか、旦那がいるんだったよな? そいつの前で犯しまくってやる。お前を人質にすれば手も足も出せないだろうからなぁ。それにかなり強いんだろ? そいつも奴隷にして一生俺の下でこき使ってやるよ」

「下衆にも程が有るのですよ! 絶対に貴方の思い通りにはさせないのです!」



 そう言いながらアリシアは一旦ドルクと距離を取る。

 思考を走らせ、どうすれば一番いいかを模索する。

 しかし、状況は悪くなる一方でもある。

 イズル達も戦闘に参加しているが、数の多さは向こうが上。

 それに、もう3人のAランクの冒険者がイズルを完全に止めて思うように動けていない。

 相手も必死なのだというのがよく分かる。

 ドルクの奴隷スキルのせいもあり、言う事を聞かないといけない。

 アリシアは、薫の帰還を願うばかりなのである。

 自分ではこの状況を打破する事ができそうにない。

 力量はあるのに戦い方がお粗末で、人質の妖精や精霊を気遣うあまり本来の力が出せないでいる。

 もう、時間を稼ぐことでしか対応できないのであった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 薫は、『解析』を掛け、麻酔の効きを見る。

 そして、医療魔法――『経食道心エコー・ベクトル1』で心臓の細かい部分まで映し出す。

 これを使い、心臓まで辿り着いたら作業を行う。

 そして準備が整ったところで、薫は消毒液を塗りプリシラの足の付け根にある大腿動脈に専用の針を刺す。

 スルッと針がプリシラの体内に入っていく。

 構造は似ているが、妖精の血管は内側が脆く、少しでも擦ると穴が開いてしまう。

 慎重に進めないといけない点ではかなり難しい手術になる。

 針を大腿動脈に差し込んだら、その中にガイドワイヤー(細く柔らかい針金)を入れる。

 ガイドワイヤーに沿うように挿入シース(菅)を血管内に入れ、穴を広げる。

 三方活栓をはめて、造影剤などを入れる準備をする。

 この状態で、カテーテルを入れる準備ができる。

 薫は、一気に集中する。

 心臓の脈打つスピードを正確に把握しながら、どのタイミングで進めていくかを見極める。

 今回の手術はカテーテル閉鎖手術だ。

 ダニエラの時とは違って心臓の卵円孔の閉鎖手術。

 妖精の体は、人間の血管よりも遥かに脆い分魔力の通りがよい。

 薫の『医学の心得』の特性が発動し、そのような情報が流れこんでくる。

 体内に、このような異物を入れることなど今までなかったから、そのような事は解明されていない。

 薫は、アリシアにもこの事をよく教えなければと思う。

 人と種族の違う者の構造は、また一から覚えないといけない。

 覚えることが多くて大変だなと思いながら薫は進めていく。

 血管の中に、直径2mmの針金のような物を通し、心臓まで持って行き穴を塞ぐ手術。

 お腹を開いて行う手術と違い、血があまり出ない。

 そして、患者の負担も少ないのだ。

 薫は、カテーテルという器具を挿入する。

 三方活栓から『医療魔法ーー造影剤・ベクトル1』を入れ、『医療魔法ーーX線透視・ベクトル1』を使い、ステータス画面に透視画像を拡大した物を映し、血管の形や走行を確認しながら、カテーテルを血管に入れる。



「これまた凄い面倒な血管やなぁ……。動脈硬化の末期以上に脆いとか。まぁ、魔力の流れで強化をしてるみたいやけど……。今はそれが止まっとるからなぁ」



 薫は、そう小言を言いながらステータス画面に映るプリシラの血管の流れを見る。

 入り組み、そして細い。

 これでもかと言わんばかりに難易度が跳ね上がっている。

 血管の壁を少しでも削ると即アウトのオワタ式血管。

 薫の目つきが鋭さを増す。

 瞬き一つせず、安全かつ最短距離の道を探す。

 年間800件前後の手術回数をこなし、全てにおいて実績を出し続けた。

 技術に溺れることなく全ては、患者のために使い続ける。

 常人では見つけることの出来なかった病にも気付き、いち早く処置をこなすという化け物。

 経験と勘がものをいう世界。

 現代医学の進歩もあり、だんだんそれも解消してきているが、まだその領域に辿り着ける者は少ない。

 世界でも指折りの医者とも言われるレベル。

 それに入る薫は、全ての神経を集中させゆっくりと正確にカテーテルを進めていく。

 ダニエラの時よりもやはり時間はかかった。

 繊細な動きを要求されるこのカテーテル手術。

 薫は、疲労感とともに集中は上がっていく。

 自身に魔法をかけることすらしない。

 その分気が散って集中が途切れてしまう。



「よし、なんとか辿り着いたわぁ……。これからやな」



 ほんの少し安堵する。

 額に汗を掻き、それを手術の補助効果でスッと拭かれる

 心臓の右心房の手前に到着すると、カテーテルを使って心臓の各部位の圧測定、採血をする。

 そのまま、肺/体血流比を計算し、閉鎖の適応を決定する。

 肺/体血流比は、全身の体に行く血液量の何倍肺へ血流があるかを肺体血流比といって、正常ならば1となる。

 これが、1.5倍から上になると肺への負担が高く手術しないといけない。



「こっちは、ちょっと高いくらいか……。でも、このまま放っておくわけにもイカンから丁度良かったわ」



 プリシラの肺/体血流比は、1.3倍と出ていた。

 これ以上倍率が上がれば、心房中隔欠損症になる恐れがある。

 人の体と違う妖精の体。

 見つけたこの症状は、放っておけば確実にこの穴から血栓が流れて、脳に詰まって脳梗塞、不整脈などの原因になる。

 薫は頭痛の原因での手術で、他の病気を未然に防げると思いほっとする。

 むしろ、薬で治していたらこれは発見が遅れていただろうなと思う。

 そのまま薫は、アンプラッツァー閉鎖栓といって二枚の笠とそれを結ぶ筒が一体となったものを大きさの違うものを数個ほど準備する。

 ニチノールと呼ばれる特殊な金属(形状記憶合金)の細いワイヤーを、メッシュ状にした閉鎖栓。

 伸縮性があり伸ばすと細い棒状になり、カテーテル内に収容することが出来る。

 それをカテーテル内に収納して、卵円孔の部分まで持って行きこの閉鎖栓で穴にはめて閉鎖するための器具。

 まずは、薫は先端に風船がついた専用のバルーンカテーテルを挿入し、風船が卵円孔までくるように進める。

 そこまで来たら、風船を膨らまして卵円孔をふさぎ、その時の風船の大きさを測定して、使うアンプラッツァー閉鎖栓の大きさを決める。



「大きさは……13mmやなぁ」



 薫は、アンプラッツァー閉鎖栓を運ぶ専用のカテーテルを挿入し、先端が左心房にくるまで進める。

 デリバリーケーブル(細い金属のワイヤー)の先端に選んだ先ほど選んだ規格のアンプラッツァー閉鎖栓を取り付け、カテーテルに挿入していく。

 閉鎖栓が左心房まで進んだら、左心房側のアンプラッツァー閉鎖栓のメッシュの笠を広げ、次に中隔壁をはさみながら右心房側のアンプラッツァー閉鎖栓のメッシュの笠を広げる。

 薫は、操作中に食道エコーで観察しながちゃんと噛み合うかを観察しながら行う。


「よし、ぴったりやな。これで大丈夫やな……」



 そう言って薫は、心臓に『解析』を掛けて異常のないことを確認する。

 結果は、異常なしとでた。

 薫は、安心してそのまま作業を進める。

 カテーテルの回収をして、挿入シースを取り外す。

 そして、麻酔を止めて覚醒させに入るのであった。

 麻酔深度を調整する。

 メパッチを外す。

 覚醒時に中等度以上の疼痛が予測されるときがある。

 薫は、覚醒前に鎮痛薬を投与する。

 人工呼吸の酸素を100%として、補助呼吸または調整呼吸をさせる。

 プリシラが自発呼吸をしだしたら、薫は呼びかけるのであった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 真っ暗な精神の間でプリシラは浮遊する。

 大量の情報が頭のなかに入ってくる。

 ピンクラビィや精霊が捕まって、拘束具を着けられ麻の袋にどんどん入れて行かれる。



「うわあああん。どうしたら良いのですか! アリシアさん達ももう疲労困憊です……。きゅーっきゅー! 私はどうしたらいいのですかぁあああああ」



 頭を抱えコロコロ転げるプリシラ。

 その時だった。

 薫の声が聞こえる。



「か、カオルさん? ど、どこですか??」



 そう言いながら、光が差し込む方へと足を運ぶ。

 プリシラの体が光りに包まれる。



「プリシラ? 大丈夫か?」



 そう言いながら薫はプリシラを見る。

 トロンとした目で薫を見つめ返す。

 するとプリシラは、涙を流しながらか細い声でごめんなさいと言うのであった。

 薫は、どうしたのかわからずプリシラの頭を優しく撫でる。



「どないしたんや? どこか痛いんか?」

「違います……。カオルさん……早くしないと……アリシアさん達が」



 プリシラの言葉を聞き薫の目付きが一瞬で変わる。

 プリシラが見たこともない薫の姿に圧倒される。

 薫はプリシラを抱きかかえて手術室を出る。

 そっとプリシラをベッドに寝かせる。



「そこで安静にしとくんやで」

「は、はい」



 薫の笑顔も目が笑っていないことに、プリシラは本気で怒っていることを理解する。

 絶対に怒らせてはならない人物という事がはっきりとわかる。

 纏うオーラが普通の人間とは規格外で禍々しい。

 金色のオーラが滲み出てくる。

 しかし、優しく恐怖を感じるようなオーラではない。

 大切なものを守ろうとする意思の塊と言ったら良いだろうか。



「ちょっと、阿呆共を片付けて来るからな。」



 そう言いながら、もう一度安心させるように頭を撫でる。

 優しく、心が蕩けてしまいそうな感覚に陥る。

 プリシラは、「無理をなさらないで下さい」と言い薫を見送る。

 古城で一人になったプリシラは、胸に手を当て祈る



「どうか、皆さんを……って、え?」

「姫様、姫様!」

「え? えっと? どなたですか??」



 プリシラの目の前に見覚えのない者が一人立つ。

 首を傾げながら戸惑いの表情を浮かべるプリシラ。



「こ、これもカオルさんの影響? でも、これなら……。貴方の力を貸して貰えませんか?」

「はい、喜んで!」



 そんな事を言いながら、ちょっと笑ってしまうプリシラなのであった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 妖精の国の入り口の泉。



「くそおおおおお、離しやがれええええ」

「うおおおおお、って、この拘束具取れやしねぇえええええ」

「てめーら、ぜってー後悔させてやるからな!」



 そう言いながら、剣を向けられるデナン、リュード、バース。

 腕には、魔拘束具がはめられて身動きがとれない状況になっている。



「うるさい、静かにしておけ。ドルクに今目をつけられれば、人質材料にされてここで首を跳ねなければならないだろ」



 そう小声で言って、デナン達を落ち着かせようとする冒険者。

 ちょっとは話が分かりそうな奴だとデナンは思う。



「あん? テメーらみたいな奴らにくれてやる首なんかねーよ」

「ちょっとリュード落ち着け。イズル姫ももうヤバい。あれは完全に魔力が枯渇寸前だ」

「隙を見計らって、どうにかするしかねーだろ。まだ十五人は動ける奴らがいるんだ」



 そう言って、デナンとバースはリュードを落ち着かせる。

 もう、完全にイズル達の方が崩壊している。

 なんとかイズルは、ミーナとテテスを守りながら冒険者と戦い続けている。

 戦闘が始まって一時間半は軽く立っている。

 魔力を使いすぎて捕まるのも時間の問題だった。

 フーリは、アリシアと共になんとかこの戦闘を潜りぬけている。

 デナンは流石と思う。

 伊達にミズチ一族ではないと。

 しかし、逆転するのはもう不可能に近い。

 フーリも限界を超えての戦いをしていた。

 アリシアからの魔力供給で、なんとか耐えていると言っても過言ではない。



「もう少しだ。どんどん追い詰めていけ! 魔力もそろそろ底をつくだろう。どれだけ強かろうと限界というものがあるんだよ」



 ドルクは楽しげに岩に座ってイズル達を見る。

 デナン達を人質にしてもよいが、それでは楽しくない。

 完全に魔力を枯渇させてから、絶望を味あわせてやろうと思うっていた。

 イズル達のメンバーで高く売れそうなのはデナン、リュード、バースそしてイズル。

 殆ど、即戦力の奴隷として闇市に売り出せる。

 それも【龍槍の華姫】としてのワンセット品としてだ。

 残りのミーナ、テテスはそこら辺の奴隷の館へ売るしかない。

 Cランクの冒険者など腐るほどいるから仕方がない。



「さっさと、小娘とフーリを枯渇させろ! たく、どれだけ魔力を持ってやがるんだあの小娘は」



 全くもってアリシアは、フーリに何度も魔力を分け与えても枯渇するといった状況にもならない。

 保有魔力が異常ということはよく分かる。

 そして、だんだんアリシアに興味を持ち始める。

 ここまで戦闘でAランクの冒険者と戦って魔力切れを起こさない。

 Aランクの冒険者は、この戦闘だけで5日分のMP回復アイテムを使用している。

 それすら上回る魔力となると売るには惜しいと思ってしまう。

 自身の妾にするのもいいかと思う。

 スタイルも顔も良いのだから十分楽しめる。

 そんなことを考えていたらイズルの方で決着がつく。



「くそ! ミーナ!」

「直ぐに助け……って、きゃ!」



 ミーナが捕らえられ、拘束具を腕にはめられる。

 続けて、ミーナに意識が行ってしまいイズル、テテスも同じように拘束具が着けれられる。



「わ、妾は……また、守れないのか……」

「イズル様、しっかりしてくだ……って、きゃああああ」

「手間取らせやがって……。このクソアマ!」



 そう言って、冒険者はテテスを押し倒し馬乗りになる。

 魔拘束具の着けられたテテスはもうただの一般人でしかない。

 魔法も使えず強化も出来ない。



「よくも俺の顔に魔法を叩き込んでくれたな!」

「やめろ! このクズ」

「へっへっへ。言ってろよ。戦利品としてたっぷり可愛がってやる」

「っ!?」



 テテスの表情が曇る。

 汚らわしい手で、テテスの体をさわろうとした瞬間。



「てりゃああああ」

「ぐぼぉわああああああ」



 アリシアが思いっきり馬乗りになっている冒険者を蹴り飛ばす。

 4,5回転した後に、大木に頭を突っ込んだままぴくりとも動かなくなる。



「大丈夫なのですか? テテスさん」

「アリシアちゃん、ありがと。もう大丈夫」



 テテスはそう言って笑顔を作る。

 体は震えていた。

 すごく怖かったのだろうと思う。

 アリシアは、直ぐにフーリの下へ戻ろうとした時。



「よっしゃ、ミズチ一族を捕らえたぞ!」



 その声が聞こえた。

 心臓の脈打つのが早くなる。

 自身がこちらに来たせいで、一気に形勢が逆転してしまった。

 フーリは拘束具を着けられ、地面に倒れたまま足蹴にされる。



「フーリちゃん!」



 アリシアは、必死にフーリの下まで行き、雪時雨を構えるがもうアリシアが手出しすることは出来なかった。



「おっと、動くんじゃない! アリシアちゃんには悪いが、こいつは盾になってもらう」

「卑怯です!」

「これも立派な戦術だ。それに、これ以上はこっちも戦えない。アイテムがもう底をつくからな」



 そう言って、冒険者はフーリに剣を突きつけアリシアにそういう。

 皆、泥だらけになりながらもここまでやってきた。

 しかし、冒険者を撃退することは叶わなかった。

 アリシアは、選択を迫られる。

 心臓がけたたましく鼓動をうつ。

 選択を誤ると死人が出る。

 それは、選べない。



「それじゃあ、アリシアちゃんも魔拘束具を着けさせてもらう。いいな」

「……」



 拒否することは出来ずに、アリシアも魔拘束具をつける。

 魔力を流すと全てその拘束具に吸収される。

 ただの女の子となってしまえば、もうこの状況を変えることはできない。

 しかし、一人でどうにか出来るものではない。

 おとなしく従うことしか出来ない。

 自身の不甲斐なさに嫌気が差す。

 そんなことを思っていたら、目の前にこの計画を実行した男が立っていた。

 魔力を使えない分、威圧を直に受ける。

 気分が悪くなり、膝をつく。



「ふはははは、この魔拘束具を着けさえすれば、Aランクだろうがそれ以上だろうが只の人間でしかないな」



 気持ちの悪い表情で笑うドルク。

 アリシアは、ドルクを睨みつける。

 それが、癇に障ったのかドルクがアリシアの横腹を蹴りそのまま2mほど転がる。



「お、おい、今は生身の人間だぞ。少しでも強化してれば死んじまう」

「なーに、これくらいではしなないさ。それに反抗的な態度はちゃんと調教してやらんとな」



 そう言いながら、アリシアの下まで行き地面に倒れたアリシアの頭を踏みつける。

 踏まれてもまったく睨む目でドルクを見続ける。



「ふはははは、いいぞ! その表情がいつまで出来るかな。とりあえず奴隷まで落として俺の為に働いてもらおうではないか。売るのは惜しいからな。妾として扱ってやる。一生俺のために腰をふる……」



 ドルクは、最後まで言葉を発することなく後方へと吹き飛んでいった。

 イズル達を捕らえていた冒険者7人が一塊になってぶっ飛んできてドルクを巻き込んで大木にぶつかる。



「な、何が起こったんだ?」



 ドルクは、目を白黒させながら状況を把握しようとするが、まったくもって脳ついていかない。

 人が7人もまとめて飛んでくるなどありえない。

 魔力強化でなんとか凌いだが、ダメージがかなりでかい。

 そして、フーリの頭に足を置いていた者は目が点になっていた。

 目の前に化け物が立っている。

 声を上げることすら出来ない。

 闘技場で見せた威圧などのレベルではない。

 今目の前で立っているだけで、それ以上のものが冒険者たちを襲う。

 そして、気絶してもその威圧によって目を覚まさせる。

 体がおかしくなったのかと思う。

 そのまま、フーリの頭に足を置いていた冒険者は、薫の手によって地面に頭が突き刺さった状態で直立した。



「か、薫様……」

「薫様」



 アリシアとフーリは、涙を流しながら薫のことを呼ぶ。

 ここまでよく耐え凌いだなと言いながら薫は2人を抱える。

 2人は、薫の胸で泣きじゃくる。

 薫は、2人に『完全治癒エクスキュア』を掛けてからその場を離れる。



「すぐに終わらせるからそこで待っとけよ」



 そう言って、薫は青筋を立て睨みつけた状態で周りの冒険者に一言言う。



「一歩でも動いたら殺すぞ。ええか?」



 皆、両手を上げ無言で頷く。

 顔面蒼白とはこの表情のことを言うのだろう。

 Bランクの冒険者は数十回という回数、気絶してはまた回復を繰り返す。

 生き地獄となっている状態から逃げることすら出来ない。

 薫は、ドルクの前まで行く。

 声のトーンが2つほど下がり、ドスをきかせてドルクに言う。



「俺の大切な仲間に手を出してくれてどうも……。その落とし前きっちり払って貰おうか」



 薫の異常な魔力が人では測れないレベルまで膨れ上がる。

 ドルクは、冒険者達が言っていたことを思い出す。

 闘技場でSランクのマリーを下した男ということを。

 しかし、大抵のSランクは制限を設けている。

 実質、冒険をする時の戦闘力はAランクまで制限される。

 この大陸で一人を除く。

 ミズチ一族の族長は、その制限を帝国から限定解除してもらっている。

 依頼中なら、Sランクの技量を出してでも任務を遂行するようになっていると聞く。

 それ以外にSランクが野放しになっているなど聞いたことがない。

 いや、現に目の前にその怪物がいる。

 明らかにAランクの戦闘力ではない。

 国を滅ぼすとはよく言ったなと思う。

 この大陸にこのレベルの者があと十数人いるとするならば、帝国も手綱を握りたくもなるだろうと思う。

 抑止力として国防の為であればこの力はほしい。



「ひぃいいいいい」

「逃がすわけないやろ……」



 逃げようとするドルクの首根っこを掴み、薫は地面に叩きつける。

 ズドンと凄まじい音とともに、20m級のクレーターが出来上がる。

 ドルクは、白目を向きながらなんとか意識を保つ。

 完全に防御に魔力を振った。

 しかし、そんなもので防げる威力ではなかった。

 脳震盪で目の前が歪む



「こ、こんなところで死ぬ訳にはいかない! 固有スキルーー『血界奴隷』。その男に魔拘束具をつけろ! 死ぬ気で行け!」



 冒険者全員がドルクのスキルによって奴隷化し薫に襲いかかる。

 威圧の効力はなく、薫に次々と魔拘束具がつけられる。



「薫様!」



 アリシアは、その光景に叫ばずにはいられなくなった。

 いくら薫でも、魔力を封じられれば只の生身の人になってしまう。



「ふはは、ごほっごほっごほ。い、いくらSランクでも魔拘束具を着けられればただの人よ!!!」



 そう言いながらドルクは高らかに笑う。

 薫の魔力が着けられた瞬間無くなっていた。



「形勢逆転だ。ごほっごほ。お、お前にはさっき俺に食らわせた以上の攻撃を食らってもらうぞ!!! いや、死ぬほど傷めつけてやる!!! その澄ました顔でいつまでいられるかな!!! お前の仲間も全員の首を跳ねてやる!!! 女はお前の前で犯し尽くしてやるわああああ!!!!」

「や、やめて下さい!!!」



 アリシアは、そう言って叫び薫の下へ行こうとする。

 しかし、フーリがアリシアの肩をそっと持ち笑顔で言う。



「アリシアちゃん。大丈夫」

「え? ど、どういうことですか?」



 そう言った瞬間、パリンパリンっと何かが砕け散る音がする。

 アリシアは音がした方をよく見ると、そこには薫についていた魔拘束具が薫の魔力によって吸収できずに砕け散っていく。

 ドルクは、先程まで言いたい放題言っていただけに、青ざめていく。

 言ってはならない事というものがある。



「ほう、で? 俺の仲間をどないするって? あ゛ん?」

「……」



 言葉がでない。

 足がすくむ。

 ドルクは、勝利を確信してあのような事を言っていた。

 こんな事になるなど考えもしなかった。

 すべての計画が崩れる。

 もう、奥の手などない。

 魔拘束具で縛ってしまえば勝ちと思っていた。

 野放しのSランクがいるなど聞いていない。

 これが夢であって欲しかった。



「死ぬ覚悟は出来とるか?」

「そ、それだけは……。って、ぐぼぉ」



 薫の蹴りがドルクの横腹にめり込み、そのまま10m程転がる。



「これ、アリシアの分な」



 気絶して泡を吹くドルク。

 その瞬間、奴隷化していた者達は正気を取り戻す。



「あれ? 俺ら、なんでこんな森にいるんだ? っていうか体が痛いいいいい!」

「ぐわぁああああ、節々があああああ」

「この痛み……骨折してるぅうううう」



 そう言いながら、冒険者たちがその場で倒れてぴくぴくしだす。

 30人の冒険者は、一斉に叫ぶのであった。

 そして、薫を見た瞬間青ざめそして後退りする。

 そう、全員が全員全く同じ動きをする。



「か、カオルがなんでこんなところに……。っていうか、めっちゃ怒ってらっしゃいませんかねぇ」

「お、俺ら何かしたか? いや、してないよな!」

「そりゃそうよ! あんなの見た後に、カオルに逆らおうなんて思わないわよ……。でも怒ってるね」



 皆、一塊になり体を寄せあって怯える。

 なぜ、自分たちがこのような場所にいるのかさえわからないでいる。

 それに、なぜ薫がマジギレしているかすらも覚えていない。



「どうなっとるんや? まぁ、張本人に聞けばええか」



 薫は、そう言って冒険者から離れるが、威圧はそのままの状態なだけに全員呼吸を何とかしているといった感じである。

 泡を吹きながら横たわるドルクに薫は魔拘束具を取り着ける。

 そして、強化なしの腹パンで叩き起こす。



「ごほっごほごほ、あ、あれ? ここは……ってひぃいいいいいい!?」

「よお、目覚したか。一個聞きたいことあるんやけど直ぐ答えるか? 直ぐ死ぬか選べや」

「直ぐに答えさせていただきます!」



 最大限の謝罪とばかりに土下座をして、薫の癇にさわらないようにするドルク。

 冒険者達は、ドルクを見て哀れだと思う。

 薫があそこまでするという事は、それなりの事をしたということになる。

 一体何をしたのかと思う冒険者たち。

 しかし、ドルクの放った言葉によって自分たちも関係者ということがわかった途端、死ぬほど後悔するはめになる。



「なるほどな、お前の契約が気絶したことによって一回固有スキルの能力が切れたんか」

「は、はい。ですから、皆今までのことを覚えてないんです。はい」



 物凄く腰が低くなるドルク。

 今、強化で薫の攻撃を喰らえば即死、もしくは跡形も残らない。

 それだけは阻止しなければならない。

 ここを凌いでしまえば後はどうにでもなる。

 そんな事を考えていたら、薫は全てお見通しだと言わんばかりに一言耳元で言う。

 その後は、真っ白な灰のようにドルクは燃え尽きた。

 二度とこの大陸で平然と歩くことは出来なくなったと言っていい一言を薫から言われた。



「さて……冒険者諸君。お前らも同罪や。どう落とし前付けて貰おうか」

「「「何でも言う事聞くので、許してください! お願いします! 薫様!!!」」」



 そう言って、冒険者達全員が綺麗なジャンピング土下座をかましていく。

 シンクロ率100%と言っても過言ではない綺麗な動きであった。

 イズル達は、その光景に吹き出した。

 まぁ、こんなに綺麗に揃うなんてないからね。



「アリシア、フーリ。どないする? 皆で決めてもええよ。それともこの場で俺が一人ずつに、4,5時間ばかり骨砕いて治すの制裁してもええし」



 薫の笑顔が悪魔としか言えない。

 そして、完全に目が笑ってない。

 残酷な刑の確定が決まっている事に、冒険者達はアリシアとフーリに慈悲をと言わんばかりに見つめる。

 アリシアとフーリは何やら話し合っている。

 そこにイズル、ミーナ、テテスも加わる。

 楽しそうだと言わんばかりに、デナン、リュード、バースが参加する。

 皆で、「あいつは、俺らが人質にならないように止めてくれた」や「あの男、私を犯そうとしたからカオルさん行きで」など、様々な言葉が飛び交う。

 その言葉の中に、名前が入っていた者は、その場で泡を吹いて倒れるのであった。

 その後は、刑を逃れられる者とそうでない者の選別が、天使のようなアリシアのスマイル付きで選ばれた。

 順番に肩を叩かれて行き、叩かれなかった者は薫の刑が執行される。

 叩かれた者は、ガッツポーズをしながら涙を流し喜んでいた。

 叩かれなかった者は、その場で崩れ落ちた。

 仕方ないよね。

 覚えてなくてもしてはいけないことをしたのだから。

 フーリとイズル達は、その間に捕まっていた精霊や妖精たちを開放する。

 しかし、魔拘束具が外れないでいた。



「どうしましょうか……。このままだと……」

「カオルさんにまかせましょう」

「妾達では外せんからな」



 イズル、ミーナ、テテスはそう言いながら、拘束具のついた妖精と精霊達を薫の下へと連れて行く。

 薫は直ぐに拘束具を壊していく。

 開放された妖精と精霊達は、薫にぺたりと纏わりついて感謝を表す。

 薫の手がわきわきしだしたところで、フーリが慌てて妖精と精霊達を薫から離していく。

 そのままはたき落とされそうだったからだ。

 その中に、フーリといつも遊んでいた火の精霊もいた。

 開放され安堵したのか、フーリの谷間にちょこんと着地して、そのまま寝っ転がる。

 バースはその光景を見て、うらやまけしからんと言うのであった。



 その後は、冒険者全員に魔拘束具を着けて妖精の国に連行した。

 ドルクも同じで薫の一言が効いたのか、窶れてしまってもう計画を進めるどころではなくなっていた。

 薫は途中アリシアから、ドルクがフーリを闇市に流した張本人だということを聞いて、フーリにドルクをサンドバックにするかと笑顔で聞くと、フーリはそこまでしなくてもいいと言ってドルクに最大火力の腹パン一発で精算するといった。

 そして、拘束具を外されたドルクは、フーリの最大火力の腹パンを受けて3日ほど起きなかった。

 冒険者達も30人中13人が、薫の骨砕きの刑を受け心も体もボロボロになっていた。

 薫の過剰回復も相まって最悪の刑と化していた。

 悲鳴は、本当に4,5時間ほど続き、他の冒険者もその悲鳴を聞いて、絶対に薫の仲間には手を出さないと神や親に誓うのであった。


読んで下さった方、ブックマークしてくださった方、感想を書いて下さった方、Twitterの方でもからんでくれた方、本当に有難うございます。

感想の方もちゃんと見させて頂いております。

そして、総合累計ランキングも260位代になりました。

皆様の御蔭でございます。

こんなに行くなんて感無量でございます。

これからも頑張っていくのでよろしくお願いします。

次回も一週間以内の投稿を頑張りたいと思います。

ではー

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