龍槍の華姫
妖精と精霊の国の入り口に到着する。
遠くで戦闘を行っているのか大きな声が聞こえる。
「さぁ、どんな奴らがここまでやってきたんやろうなぁ」
「わかりませんが、ここの街に危害を加える方達でしたらお仕置きが必要なのですよ」
「お仕置き、お尻ペンペン」
そう言って、二人はやる気満々なのだ。
現在、プリシラのスキルの発動が出来ない為、この街が冒険者達に見えている状態になっている。
この街には、希少な妖精や精霊が数多く住む。
それを狙って来た者であれば、追い払う必要がある。
薫達は、戦闘を行っている場所へと向かう。
「はぁ、はぁ……あなた達、何攻撃を食らってるのよ! もう回復薬もないのよ!」
「イズル姫、無茶言わんで下さい! レイアドラゴン相手に攻撃を食らうなとか無理です!」
「そうです。隙を見て攻撃するのがやっとです!」
「妖精の国は目の前なのよ! あそこにさえ入れば少しは休憩出来る。だから皆踏ん張りなさい!」
「「「了解!」」」
そう言いながら、6人編成のパーティでレイアドラゴンと戦っているのだ。
すると薫は、見覚えのある3名の冒険者を発見する。
冒険者ギルドで、喧嘩を売ってきた3人組だった。
その真中で指示を出している少女は、和装でじんべいの下がスカート風になった物を着ていた。
淡い藍色の髪をツインテールにしていて、花びらのサークレットをつけている。
スラっとした体型なのに、無骨な装飾品のついた大きな槍を使っていた。
「テテス、魔法で援護して」
「了解。皆さん一旦引いてください。氷中級魔法ーー『アイスニードル』」
テテスは黒髪で、三つ編みにした髪の毛を垂らし、紺色の法衣を着ている。
目を瞑り、樫の杖を前に突き出し魔法を唱えた。
大気を凍りつかせて水分を氷の棘へと変える。
数は数十を越え、レイアドラゴンを中心に空中で漂う。
それが、レイアドラゴンに全方向から突き刺さる。
レイアドラゴンは咆哮を上げながら、翼を大きく広げ飛び立とうとする。
「バース、飛ばさないように上から叩きつけなさい」
「了解! 姫様」
ガタイのいいバースは、重装備を着ているのに、そんなことを微塵も感じさせない動きでレイアドラゴンの真上に飛び上がる。
どデカイハンマーで、レイアドラゴンの頭部を魔力強化最大で強打して叩き落す。
「ミーナ、今の内に回復を」
「はい、回復魔法ーー『範囲・HP小回復』、回復魔法ーー『範囲・体力中回復』」
猫耳フード付きの法衣を纏ったミーナは、集中して回復魔法を唱える。
3m範囲の魔法陣の中に全員が入り、回復に専念する。
「イズル姫、もう魔力が殆ど空です」
「すまん、姫様俺もだ」
「お疲れ、ミーナ、バース。あとは妾がなんとかする! 妾の魔力を喰らえ! そして、こいつを滅ぼせ! 『龍槍アクアドラゴン』!」
イズルの魔力を根刮ぎ喰った龍槍は、大気から水分を集め出す。
そこから、泉の水まで掻き集め水龍を具現化させる。
全長20mはあろうかという水龍は、天を登り一気にそこから急降下をしてレイアドラゴンを襲う。
凄まじい勢いで、水龍が一瞬にしてレイアドラゴンを飲み込む。
まるで、20m級の津波にでも飲み込まれたかのようにレイアドラゴンは水龍の中でもがき苦しむ。
「も、もう魔力が無い。妾の一撃で沈め!」
ぺたんとその場に崩れ、その場で叫びながら水龍を見る。
しかし、レイアドラゴンは翼を広げ水龍から脱出し宙へと飛び上がる。
大きく口を開け、咆哮を上げ上空からイズル達を見下ろす。
体力を少しでも回復して、イズル達を一掃するつもりなのだろう。
「くそ……。こいつに出会う前にキングオークと戦わなければ……」
舌打ちをし、悔しそうにするイズル。
「姫様、お逃げください! ここは俺が食い止めます! あと一発くらい『一つ目魔人の鉄槌』は打てますから……」
「デナンお前は馬鹿か! 妾は、これから最強になる者だぞ! 仲間を守れないコミュニティマスターなんて私は嫌だ!」
「でも、イズル姫が居なくなっては困るんですよ。デナン、お前だけにいい格好はさせねーぞ」
「リュード、お前怪我は大丈夫なのか?」
「こんなもん擦り傷だ。前やられたカオルの方が体に堪えたぜ! テテス、姫様達を頼むぜ」
「うん、わかった! あんた達も絶対帰って来てよ」
「こら! 妾の言う事を聞け! こんなの許さないからな!」
「さあ、行け!」
「うん!」
そう言って、イズルとミーナとバースを逃がそうとした時、テテスの目の前に2匹目のレイアドラゴンが現れる。
皆、絶望も雨が降ったかのような表情になる。
声も出ず、身動きも取れ無いのだ。
そして、先程まで対峙していたレイアドラゴンも地上に降りて、デナンとリュードの前に現れる。
デナンとリュードは、完全に身動きが取れない状態に陥る。
少しでも隙を見せれば、目の前の先程まで対峙していたレイアドラゴンに食い殺されるからだ。
新たに現れたレイアドラゴンは、一番弱っているミーナに目を付け、食らいつこうと首を横に向け前に出す。
口元からは、ダラダラとヨダレが滴り落ちる。
ミーナは、凍りつきなす術もない状態になっていた。
「止めろ! 妾の仲間に手を出すな!」
「イズル姫! 危ない!」
そう言ってリュードとデナンは、イズルの背後を守る。
弱っているレイアドラゴンの切り裂く攻撃をリュードとデナンは受け止める。
しかし、弱っていてもAランクの魔物。
強力な一撃にリュードの左腕とデナンの頬を持っていかれる。
遠くの地面に、ボトンと左腕が落ちる。
「くっっそがああああああああ!!!!!」
「リュードなんとかイズル姫を守れたな! ゲホ……」
ぼたぼたと血液が流れ落ちる。
リュードは片膝を突き、荒い息をしながら筋肉に力を入れ出血を止めようとする。
デナンは、頬を抉られ顔面が血だらけになっていた。
「な、何をしている! お前たち……。それ以上攻撃を喰らえば死んでしまうぞ!」
「なーに、このくらいじゃ死にませんよ……。俺らは【龍槍の華姫】の一員なんですから……」
「リュード何カッコつけてやがんだ……。まぁ、そうだな。これから最強のコミュニティになるんだから、イズル姫はこんなところで倒れてもらっちゃあ困るんですよ!」
リュードとデナンは、必死で笑顔を作る。
しかし、絶体絶命なのは変わらない。
寧ろ、致命傷を受けてしまっているこの状況では、いつ崩れてもおかしくないのだ。
「妾の仲間にこれ以上手を出すなぁ!!!」
残り少ない魔力を威圧へと変換させ、ミーナに向うレイアドラゴンにぶつける。
然し、それでもミーナを標的にするのを止めない。
まるで、イズルが苦しむのを楽しんでいるかのようだった。
口を一気に開け、1m程に広がる。
ノコギリ状になった歯は、どんな肉でも切り裂くことができる代物だ。
レイアドラゴンは今か今かと楽しそうに、恐怖に震えるミーナを目で楽しむ。
そして、ゆっくりと口を閉じて行く。
「誰か……助けて……」
イズルは消え入りそうな声で、そう呟くことしかできなかった。
「やっと、言ったか……その言葉任された」
「え?」
真っ白な白衣を靡かせ、イズルの横を通り過ぎる。
通り過ぎた瞬間、ズドンと鈍い音と共に、ミーナを喰らおうとしていたレイアドラゴンは1回転半回転しながら、気持ち悪い動きをして地面に落下する。
長い首の付け根が、曲がってはいけない方向に曲がり、ビクンビクンと痙攣をしている。
もう一匹のレイアドラゴンは、炎鬼に頭を地面に叩きつけられた後、10m級の氷塊によって押しつぶされ、光の粒子に変換される。
痙攣していたレイアドラゴンも動かなくなり、光の粒子へ変換される。
「すまん。冒険者のルールとかあるみたいやから、なかなか手出せんやった。大丈夫か?」
「冒険者の戦いのルール、横取り厳禁! 助けを求めない限り手出し駄目!」
フーリは、そう言って手を交差させバツマークを作る。
「フーリちゃんがそう言って、なかなか手出しが出来なかったのですよ」
申し訳なさそうにアリシアが言う。
「え、えっと、あなた達は?」
「「「か、カオルに、あ、アリシアじゃねーか!」」」
イズルの質問に、デナンとリュードとバースがハモって答えを言う。
若干、青ざめる3人。
レイアドラゴンと対峙していた時より嫌な汗を掻く。
その瞬間にイズルは、トーナメントでデナン達が負けた相手だと理解する。
力の入らない体を起こし、震える体を抑え頭を下げる。
目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
「私はイズル・フラグレア。【龍槍の華姫】のマスターだ。仲間と、この危機的状況を救って下さり有難うございます」
「ええよ。俺は薫や。本当は、こうなる前に手出したかったんやけど。まぁ、あの状況やったら、助けを求められんでも手出しとったけどな」
薫はそう言ってカラカラと笑う。
頭を下げているイズルの頭をくしゃくしゃと撫でる。
イズルは、頬を赤らめムスッとした表情をして薫を見る。
魔物の返り血や泥でイズルは汚れている。
所々、土や血で固まっているのだ。
他の皆もそうだった。
泥と血で格好が無茶苦茶だった。
そして、疲労困憊といった感じで、皆肩で息をしている。
「取り敢えず、二人の治療が先やな」
薫は、そう言ってデナンの頬の抉られた部分に手を向ける。
「え? いや、何する気だ?」
「ええから、じっとしとけ! 回復魔法――『皮膚再生』」
「「「「「「!!!!?」」」」」」
デナンの頬の抉られた部分は、真っ白な光に包まれながら再生していく。
ものの数秒で元通りになった。
イズル達は、何が起こってるかわけがわからなくなる。
デナンは、目をパリクリとしながら抉られ無くなったはずの頬を触る。
「ほい、次!」
「え? え?」
薫は、リュードの腕を拾い持ってくる。
リュードの腕を医療魔法の『殺菌』、『消毒』を使ってから引っ付ける。
「回復魔法――『完全治癒』」
「「「「「「……」」」」」」
ボワっと青白い光とともに、切り裂かれた腕は完全に元通りになった。
突っ込みどころ満載だが、疲れているせいかもう考えるのを皆放棄する。
「よし、これでまぁええか。あとは全員体洗って着替えたほうがええやろ」
「どうしますか? 冒険者キットを使いますか?」
「妖精の国の中に泉ある。そこで洗う方が安全」
「そうやな。悪い奴らやなさそうやし。悪さしたら俺がしめればええか」
薫の言葉に皆、苦笑いになる。
平然と、大神官と同じ魔法を使っている。
薫ももう隠す気はない。
だから、どんどん使って行く気満々なのだ。
薫は、そう言って全員が入る5mの魔法陣を展開させ、回復魔法ーー『範囲・体力大回復』と魔力欠乏症になっているイズル、デナン、バース、ミーナに魔力供給をする。
「妾の魔力保有量は、かなり多いはず……。カオルさんは、一体どれほどの魔力を持ってるのだ? それに……最上級回復魔法まで……」
「嘘……。上級回復魔法の範囲型に、最上級回復魔法使えるとかもう治療師として最高クラスよ。それに、4人に魔力を全回復させてぴんぴんしてるなんてありえないよ……。色々、指南してくれないかなぁ……。講習とかしてくれるなら受けたい……」
「ミーナよりすごーい。疲れが吹っ飛んだわ」
「当たり前でしょ! テテス、私は中級の範囲回復魔法がやっとのレベルよ! 太刀打ちとかってレベルじゃなくて、雲の上の存在よあんなの!」
「やばいとは思ってたがこりゃ本物だな……」
「ああ、楯突くとマジで危ない分類の人間だ。仲間ならいいが、敵になった時……。絶対に逃げないといけないレベルのランクだ」
そう言いながら、薫の実力を皆測るのであった。
その時、フーリはこそこそと、氷塊に潰れたレイアドラゴン下へと行って何かをアイテムボックスへと突っ込んでいた。
薫は、あとで聞くかなと思いながらイズル達を見る。
皆、体力も回復して動けるようになったので薫は妖精の国へと案内する。
体を洗う水場がある場所はわかっているのでそこへと向う。
「凄い……綺麗ね。妾はこのような綺麗な所は見たことがない……」
「幻想的ってこういうことを言うのね。テテス、あんたはこんなところ知ってる?」
「全然、まだまだ世界は広いって事だね」
「たしかに綺麗だが、腹の足しにはならないな。なぁ、デナン」
「リュード、お前ってやつは本当に……もうちょっとこう楽しむってことを知らねーのかよ」
「人それぞれだろ? リュードは昔っからこんなんじゃねーか」
皆が皆、好き勝手に感想を言い合うのだ。
すると、ぴょこんと草むらからピンクラビィが現れる。
「「「「「「ぴ、ピンクラビィだ!」」」」」」
六人全員がハモってピンクラビィを見る。
ピンクラビィは、その声にびくっとして草むらに戻る。
しかし、こちらを観察しているのか、草むらから耳のみが出ていてお尻隠さずなんとやら状態になっていた。
女性陣は、「可愛い」「愛くるしい」などと言いながら、ぴこぴこ動くピンクラビィの耳に魅了される。
男性陣は、「100万リラが歩いている」「妖精の国と言われる事はあるな……一匹捕まえてもいいよな」などと言うのだ。
男性陣には、金貨がたっぷり詰まった袋が歩いているように見えてしまう。
しかし、デナン達は薫の殺気に先ほどまでの考えを直ぐに捨てる。
手を出すと洒落にならないからだ。
その後は、泉で汚れを洗い流す。
最初に女性陣で、その後に男性陣といった感じで交代する。
皆、汚れを落とした後、アイテムボックスから着替えを出し、着替えてから薫と合流する。
「あれ? カオルさんの仲間は?」
「ああ、食材の調達で今別れとる」
「そうですか……」
イズルは、先程着ていた色違いの服装で髪の毛を下ろしていた。
戦闘中は凛々しい感じがしたが、こうやって普通に話していると普通の女の子にしか見えない。
「か、薫さん! 弟子にして下さい!」
そう言ってくるのはミーナだった。
猫耳フードを被った少女は、目を輝かせながら薫の手を持ち懇願する。
「あー、そういうのはやってないねん。今は、アリシアに教えるだけで精一杯や」
「う、羨ましいですよ! こ、講習だけでも開いてくれませんか? いくらでも払いますから! 仲間のお荷物にはなりたくないんです!」
フードの耳部分が、ぴょこぴょこ動いてるところを見るに、亜人なのだとすぐに分かる。
感情が物凄く出やすく、必死さは耳を見れば一目瞭然だった。
余りの必死さに、トルキアに戻ったら一回だけ講習をする事を約束すると、ミーナは飛び上がりながら喜ぶのであった。
そんなミーナをイズルは優しい表情で見守る。
薫は、イズルに小さな声で「仲間思いのええ奴らやな」と言うと真っ赤な顔で「う、うん」と言いながら頬をかく。
「おい、カオル。お前マジでヤバい奴だったんだな」
そう言いながら、リュードが近づいてくる。
「どういう意味で言っとるか知らんけど、普通やろ?」
「お前が普通なら俺らは論外まで行くわ! たく、でもありがとよ。その……ギルドで喧嘩売って悪かった。自分の小ささを実感したし、まだまだ強くならなくちゃいけねーのが分かった。それに、怪我まで治して貰って……」
「そうやな、治療代貰わんとあかんな」
「「あ……」」
イズルとリュードは青ざめる。
最上級回復魔法の相場が、大体500万リラから上を行く。
そして、上級回復魔法もエクリクスの治療師でないと扱える者は殆どいない。
額が膨れ上がる事は容易に理解できる。
下手すると、700万リラ以上の請求をされてもおかしくない。
リュードの怪我は腕の切断され、冒険者としての生命を絶たれていた。
エクリクスに行き、治療の予約を入れ、順番を待ってからやっと治療になる。
それまでの間、ずっと待っておかなければならない。
それをすっ飛ばして、薫は治療を行った。
普通なら、追加料金を取られてもおかしくない。
「か、カオル。そのなんだ……。金なんだが……。この前の闘技場でコミュニティの全財産の8割を溶かしてるんだが……」
「そうか。金の方が簡単に精算できる思うたんやけど、なんか厳しそうやから貸しでええよ」
「か、カオルさん、それは本当か!」
「その代わり、それ相応の事はして貰うで」
「それは構わねぇよ。700万リラなんて金額払えねーからな」
「妾の資産でも払える金額ではないからな……」
イズルとリュードは、ホッとしながらそう言う。
薫は勝手な思い込みで、金額を決められている事に気づきそれを訂正する。
「いや、別にそんなに取る気ないで。ポンっと治せる怪我なら、1万リラでも別に構わへんし。まぁ、それ以外なら法外な金額吹っかけるわ」
薫の言葉に、どう反応してよいかわからない2人。
最上級回復魔法での治療して、1万リラなど完全に価格破壊している。
「いや、せめて50万リラは取っとけ。カオルに群がる怪我人の山が容易に想像できる。それにそんな価格でやってたらエクリクスから目を付けられるぞ」
「ああ、もう付けられとるし。喧嘩も売られとるで。治療師ギルドは使えんからな。やから無免許や」
「あのエクリクスとやり合うとか……。カオルさん何者なの?」
薫は、カラカラと笑いながら「闇医者」と言うのであった。
2人は、ニュアンス的な感じはつかめたみたいだった。
闇は、裏で商売をするという事を示している。
医者と言うのは、治療師の俗語かなと思うのだ。
「まあ、此処で話しとってもあかんから広場まで行くで。食事もしてないように見えるしな。ああ、魔物は襲って来んように俺が威圧使っとくからのんびりしとき」
薫はサラッと凄い事を言っているが、慣れてきたのかツッコミを皆放棄する。
そのまま全員で広場へと向かうのであった。
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アリシアとフーリは食材集めに果実の実っている木々を巡っていた。
果実などが豊富に実っている為、それを少し分けてもらう。
「精霊さん、この果物を少し分けて欲しいのですよ」
アリシアは、笑顔で掌サイズの妖精に話しかける。
水の精霊だろうか、足はヒレで虹色の羽が生え、蝶々のように飛び回り手から水を出していた。
アリシアに気が付き、ジッとつぶらな瞳を向けて、にっこり笑う。
「可愛いのですよフーリちゃん」
「アリシアちゃん興奮しすぎ」
「此処は、楽園なのですよ」
「アリシアちゃんなら、此処に永住するって言いそう」
「出来るのならしたいですが、私は立派な治療師にならないといけません。ですから、癒しの別荘地にしたいのですよ!」
目を輝かせながらフーリを見る。
相変わらずのアリシアに、フーリは笑顔になるのであった。
ピンクラビィの鍋での攻撃に、完全に心が折れてしょんぼりしていたから心配していたのだ。
もう大丈夫のようだ。
「水の魔力、水の魔力、交換、交換」
そう言いながら、アリシアの周りをひらひらと飛ぶ水の精霊。
アリシアは、そっと手を出し指先に魔力を貯めて維持する。
それに飛びつく水の精霊。
アリシアの指先を両手で持ち、溢れてくる魔力をパクパク食べていく。
「なんか、可愛い」
「はい、すごく可愛いのですよ」
満腹になったのか、そっとアリシアの指から離れる。
「満腹、満腹、お礼、お礼」
そう言って、エスカを採って持ってくる。
重いのか、ちょっとふらふらとする水の精霊。
アリシアは、それを受け取りバスケットにしまう。
「この調子で、精霊さん達から食べ物を分けて貰いましょう」
「うん」
2人は、腕を高らかに上げて歩いていく。
色々な木の実や果実を魔力と交換しながら集める。
「アリシアちゃん凄い。全属性の魔力あるの?」
アリシアが魔力と交換する際に、全属性の精霊と魔力交換をしていた。
その属性にあった魔力を持っていないと、精霊は話すら聞かないと言われているからだ。
「はい、私と薫様は全属性の適性を持ってます」
「納得、あの時群がってた理由」
そう言いながら、フーリは二度頷く。
そして、バスケットに入りきらない量になったので、一旦帰ることにする。
しかし、その時丁度アリシアはカカオラの実を見つけた。
「フーリちゃん先に行ってて下さい。私は、カカオラの実をもらってから帰ります」
「うん、分かった」
フーリは、バスケットを頭に乗せひょいひょい歩いて行く。
「フーリちゃん凄いのです……。私も色々と訓練しないといけませんね」
そんなことを言いながら、アリシアはカカオラの木へと向かう。
カカオラの木の前まで来たが、精霊が居ない。
勝手に採ってはいけないと思い、アリシアは近くにいないかを探す。
すると、聞き覚えのある鳴き声が聞こえて来る。
アリシアは声の聞こえる方へ歩き出す。
「きゅ〜!」
「きゅっきゅー」
「大変、大変、助けて、助けて」
「早く、早く」
「きゅ〜、きゅっきゅ」
アリシアは、草むらからひょこりと顔を出すと精霊とピンクラビィ達が何やら騒いでいる。
一匹のピンクラビィがツタに絡まって鳴いている。
ジタバタしたせいか、棘のあるツタで体に怪我をしていた。
「た、大変なのですよ! い、今助けるのです」
そう言って、絡まっているピンクラビィの下へ向かう。
周りにいたピンクラビィは、アリシアにびっくりして草むらに隠れる。
精霊は、アリシア話しかける。
「助けて、助けて、早く、早く」
そう言って急かす。
アリシアは、ゆっくり優しくツタに絡まっているピンクラビィに手を伸ばす。
びくびくと震えるピンクラビィに笑顔向けて、「大丈夫です。た、助けるだけなのですよ」と言いながら下からゆっくりと持ち上げ、食い込むツタを丁寧に外していく。
長い時間このような状態だったのか、ぐったりとしてしまっている。
耳にツタの棘が刺さっていたのか、ほんのり血が付いていた。
「きゅ〜」
か細い声でアリシアの掌の上で鳴く。
この妖精の国のピンクラビィの大きさより見た目が一回り小さかった。
まだ子供なのかと思いながらアリシアは、回復魔法の『軽傷回復』、『体力中回復』を使う。
アリシアの温かい魔力に包まれ、ピンクラビィは怪我と体力は回復する。
「きゅ〜!」
「ふぅ……。これで大丈夫なのですよ」
そう言って、ピンクラビィをそっと地面に下ろす。
「きゅっきゅ?」
ピンクラビィは鳴きながら、アリシアをジッと見つめた後、ぴょんぴょんと跳ねて草むらに向かう。
仲間のピンクラビィが、ずっと此方を観察していた。
草むらから耳のみが出ている。
アリシアは、表情が綻んでしまう。
ぴょこぴょこ動く耳に完全心を奪われていた。
触りたいという気持ちをぐっと抑える。
まだ手の平の上に、先程のピンクラビィのほわほわ感が残っている。
それだけで満足しようと思い、アリシアは精霊に話しかける。
「精霊さん、カカオラの実を分けて欲しいのですよ」
「魔力、魔力、ちょうだい、ちょうだい」
そう言って、アリシア手の上に乗る。
きゃっきゃと踊る。
可愛いらしい精霊にアリシアは魔力を分け与える。
「ありがと、ありがと、持ってって、持ってって」
そう言いながら、カカオラの実を指差し精霊は言う。
アリシアは、人数分だけ収穫しポケットにしまう。
「ありがとうなのですよ」
そう言って、精霊に手を振ってアリシアは広場へと向かう。
ピンクラビィの乗っていた掌をじっと見つめながらであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
古城の中。
謁見の間で椅子に座るプリシラ。
膝の上に一匹のピンクラビィを抱えている。
「ああ、どうしたら撫でて貰えるでしょうか……。私の正体を明かして撫でて貰うのもよいですが……。ピンクラビィに姿を戻った方が良いのでしょうか……。どうしましょう?」
「きゅっきゅ〜!」
「え? このままの姿で撫でて貰うのも方が良い? どうでしょうか……。人の姿ですから撫でにくいかもしれません……」
「きゅ〜!」
「そんなことは無い? 貴方は良い子ですね。えいえい」
膝の上で頬をツンツンされ、ご満悦なピンクラビィ。
ひっくり返ってお腹を出して服従のポーズをする。
「ほ~ら、撫で撫で〜」
「きゅっきゅ〜〜〜」
心地好さそうな声を上げ、ころころ膝の上を転げる。
手の付け根を軽くこすりつけるとちょこちょこと動き回るのだ。
「きゅ〜!」
「え? 自信を持って、カオルさんにアピールをするんですか?」
「きゅっきゅ〜!!」
「そ、そのようなこと出来ません! は、破廉恥です! こ、これでも、プリンセスラビィですよ! そのような大胆な事なんて……。で、でも……いえ、やっぱり駄目です!」
「きゅ〜?」
「ちっちゃな事からコツコツと積み上げるのです。まだまだ時間はあります! あの子達がして貰った、撫で回しくらいはされたいです。いえ、絶対にして貰いましょう! 力を貸して下さいね。まずは、カオルさんを私の下へ連れてきて下さい。あとは、野となれ山となれです」
「きゅ!」
膝の上にピシッと丸まり、了解と言っているかのような行動をとる。
「そう言えば、先程まで助けてを求めてた子は大丈夫ですか?」
「きゅっきゅ」
「アリシアさんが助けてくれたんですね。あの子達の情報はかなり当てになりませんね……。良い遊び相手と言ってましたから」
「きゅ?」
「悪い人では無いのは明らかです。余り警戒はしないで上げましょう。悪い事を考えると、私達はそれに敏感に感づいてしまいますから仕方ないのかもしれません」
優しい笑顔で、ピンクラビィを見つめる。
手に頬ずりをして、ピンクラビィは満足して膝から降りる。
ぴょこぴょこ跳ねながら外へと行く。
「では、頼みましたよ。カオルさんをこっちに連れてきて下さいね~」
「きゅ~♪」
プリシラは、手を振りながらそのピンクラビィを見送る。
「さて、私はお薬を飲んでからお昼寝をしましょう。今は、別の方々と色々と話してるみたいですし」
そう言って、薫から貰った薬を1錠口に含み水で流し込む。
そのまま椅子に腰掛け、レバーを引くと椅子はパタンと倒れベッドに早変わりする。
コロンと寝っ転がり、大きな白色のローブを纏って眠る。
最高の笑顔で、薫に撫でられる夢を見ながらニマニマしてしまうのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜~~~~~~~~~
トルキアの未開の地へと繋がる南の門の前。
冒険者総勢30人を集めて、黒づくめの男は高笑いをしていた。
「ふっふっふ。お前達、今回は一儲けというレベルでは無い! ピンクラビィに、精霊が大量にいる事がもう分かっている! 地図も大金をはたいて買った。そして、お前達をかなりの金額で雇ってるんだ! 道具はこっちで持つ。大いに乱獲するんだ! 乱獲した奴らは全て俺が買う! あとは俺が闇市に流して終わりだ」
そう言いながら、満面の笑みを浮かべる。
「なんか気が引けてくるな……」
「仕方ないだろ。俺ら金が無いんだからよ」
「カオルに賭けとけばこんな依頼なんてしないのに……」
「うだうだ言っても仕方ないわ。しかし、よくこんな戦力集まったわね」
「そうだよな。Aランク8人、Bランク22人だろ?」
「有名どころも混ざってるね。これだけの人数が居れば、未開の地の探索が出来るよ。分け前でかなりもめるけど……。それに、あの男ドルクだと思う」
「え? まじかよ……。闇市を開催してるって噂だよな?」
「契約書に書いてあっただろ? この依頼は他人に喋ることは許されない」
「ああ、こう言う事してるから恨みだったりを買うんだろうな……。まぁ、今回の依頼は何もなく終わればいいな」
「そうだな。ちょっと胸糞悪そうだけどな」
そう言いながら黒づくめの男の話を聞く。
「1人取り分100万リラ。それからピンクラビィなどを一匹につき70万リラだ。悪く無いだろ。その代わり、仕事を放棄したらその時点で契約破棄だ。ここから、約5日で目的地に着く! 気合入れろ!!」
「「「「「「「おおおう!!!」」」」」」
やる気のある人間と、無い人間でかなり温度差が別れる。
内容を聞き、完全に私欲を肥やす為の依頼だったからだ。
しかし、依頼を失敗して冒険者としての信用が落ちる事は避けたいという思いもある。
やるせない気持ちで皆、未開の地へと足を踏み入れるのであった。
読んで下さった方、感想を書いて下さった方、Twitterの方でもからんでくれた方、有難うございます。
感想の方もちゃんと見させて頂いております。
次回も一週間以内の投稿を頑張りたいと思います。
ではー




